魂を満たす物語   作:よヨ余

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対敵

「おいおいマジかよ…!」

 

 私はついそのような言葉を吐いてしまう。でも仕方がないだろう。まさか私の顔と瓜二つの脳無がここにいるとは思っていなかったのだから。

 その上、化け物のような形をしていない。肌色は黒色だが、それ以外は私と同じだった。

 

 実をいうと、私を基にした脳無がいること自体は予想がついていた。

 ただ、まさかここでそのカードを切ってくるとは思わなかったのだ。私がここに来たのはホークスに呼ばれたから。敵がそのことを知っていないとここまで都合よくコレをぶつけることはできないだろう。

 

 それを認識すると、一つの結論が出てくる。

 

(ホークス、連合に潜入しているな。そして、今までよりも一段以上強い脳無。性能テストか?やっぱりオールフォーワンがいなくとも脳無の製造は可能か)

 

 私は結論を出し、目の前の敵に集中することにした。

 

 弧月を生成し、南部式自動拳銃を生成した。そして、一応髪型を神野以前の長い髪に変える。私が全霊の技術を以て相手取るときの合図の一つだ。

 体育祭の爆豪戦や神野でやった時のように虚無でコスチュームを創り出したときもそのような合図となっている。まあ、私のくだらないこだわりだ。

 

 私の脳無も同じように生成したようだ。

 

 私の脳無は施設時代の私を模している。恐らく、施設の外へと出される直前に血液などを取られて脳無化に利用されたのだろう。それだったら私の過去の姿をしていることも説明がつく。

 

 それが本当ならあの私は今の私よりも弱いだろう。お師匠との稽古やゲンセイさんの朧心命流の知識もなく、扱うことも出来ないからだ。その大きな差によって楽に倒すことができるはずだった。

 

 問題は脳無化しているということ。脳無化により人間よりも生物的強者の位置にいる。呼吸の必要がないのはもちろんのこと、膂力も桁違いだ。私の場合虚無で強化するのだが、その必要がないというだけでその強さがよくわかるだろう。

 

 また、先ほどまでは上位脳無と判断していたが、最上位脳無にカテゴライズされるだろう。間近で見ればわかる。明らかに強者の部類だ。そして、遠目とはいえ私が実力を見誤ったということ。それほど実力を隠すのが上手い。もしかしたらエンデヴァーが戦っている脳無よりも強いかも?

 少なくとも技術に関しては比べるまでもないだろう。

 

 脳無化しているので、虚無の操作も多少覚束なくとも問題ない。黒色なので再生は持っているだろう。その再生で虚無の暴走は多少黙らせることもできるはずだ。

 

 と思ったら、やはりそうだった。むしろそれに加えて(ブースト)まで重ねがけしている。

 虚無循環、虚無纏い、強。神野の私のセットアップと同等だ。これでお母様にすら並んだか?

 

 心の中で舌打ちをする。このせいで多少は無理をする必要が出てきたからだ。

 

「私の顔と一緒……」

 

「――ッ」

 

 さっきの脳無よりも流暢に喋りやがって。これでエンデヴァーが戦っている脳無よりも強いことはほぼ確実じゃないか。私が担当でよかった。もし私がいなかったらここら一帯は灰燼と化していただろう。神野の再来になってしまう。

 

「あなた、だれ?」

 

「昔の私ってこんな喋り方だったけか?今と全然ちげぇ。お師匠の影響は思ったよりも大きいんだな。オイ私。抵抗しないなら楽に殺ってやる。どうする?」

 

 実をいうと喋り方は未だ探し中なのだが、まあいい。

 

 私は脳無の質問を無視してそう問いかけた。だが、絶対にこれは通らないだろう。

 

「命令だから…それは聞けないな」

 

「人形が」

 

 私が悪態を吐いたその瞬間、脳無が肉薄して私に刃を向ける。その直前にコブラを放っている。それは虚無で大きく強化されているので私の肉体を貫くほどの力を持っている。避けても弾道は私を捉えるので相殺する以外に方法はない。

 

 私は虚無で耐久力を上げたシールドでコブラを弾く。同時に弧月で剣を受け止めた。

 

 私の銃を持った方の片手が自由になり、相手は多少自由が利かない。もちろん撃つ以外に私がとる行動はない。

 

 私は呪壊弾を放ち、脳無を穿とうとした。

 

 が、脳無は急に私の前から姿を消す。瞬時に背後に回っていたのでテレポーターだろう。

 

 だが、それは読んでいる。先程の呪壊弾は相手を動かすための物だったからだ。

 

 スイッチボックスのマーカーが光る。

 その直後、脳無の肉体をブレードが切り裂き、貫いた。

 

 スイッチボックスはマーカー間の瞬間移動以外にも、今のように罠として扱うこともできるのだ。今回はその罠によって脳無に手傷を負わせた。

 

 しかしながら、やはりそれは大した効果を示さない。再生によって傷は治ってしまった。これが人間相手なら再生による体力の消耗で長期戦を持ち込むことができるのだが、脳無相手には意味をなさない。体力という概念が存在しないからだ。

 

 つまり、一撃で生命を絶つ必要がある。終末崩縮消滅波を使えば確実だが、それを使うほどではないだろう。周囲の被害も大きすぎるため望ましくない。神野とは状況が違うのだ。

 

 こいつはお母様と違い、ある程度の損傷があれば絶命する。喋れるので情報を得るために生け捕りにするのが望ましいと思われるかもしれないが、過去の私のことは私が一番よく知っている。私は命令を他の何よりも優先するため、口を割ることは絶対にないだろう。

 

 神滅弾なら殺せるな。ただ光速に遠く及ばないほどの速度なので隙を作らなければ命中しないだろう。そもそも虚無で相殺することも可能なのでなおさらだ。

 

 倒し方は固まったが、どうやってそこまで持っていくかだな。

 

「スイッチボックス…」

 

「この使い方は施設で散々やったろう。今更驚くほどのことでもない」

 

 意外と話は通じるようだ。通じる、といっても意志疎通ができる程度でこちらの要請を聞いてくれるほど聞き分けはよくないが。

 

「で、なんで私がいるんだ?ここで切るカードにしちゃタイミングがおかしいだろ」

 

「知らない…私もいつの間にかここにいた」

 

 眠っていたのか…?脳無は培養液のようなもので保管されているようだったしな。ベストジーニストが神野で任務を行っていた時に緑谷たちが見たらしい。情報共有は済んでいる。

 

 だが、正直言って今ここにいることは問題ではない。どちらかと言うと問題はその先だ。

 

 惜しみなく私と言う存在を投入する気概。それはつまり、私の脳無が量産されているという可能性があるということ。由々しき事態だ。この個体の強さを考えると私以外に対処できるものはいないだろう。

 

 エンデヴァーは火力を満たしているが、スピードや技術が足りない。

 ホークスはスピードと技術を満たしているが、火力が足りない。

 

 トップ2でさえこの評価を下されるのだ。他のヒーローではどうにもできないだろう。相澤先生なら抹消で個性を無力化できるが、脳無化している以上膂力が常人のそれではない。やはり無理だろう。

 

「私がここにいてよかったな…いや、私がここに来たから直前で投入を決断したのか?」

 

 となると、もしかしたら今の私の情報を収集して次の脳無に活かすつもりかもしれない。リアルタイムで脳無に干渉できる人間がいるな。

 施設時代にはオールフォーワン以外にも職員が複数いた。その統括者のような者はかなりオールフォーワンに近しい者だと記憶している。そいつか?

 

 だが顔と名前がわからん。そいつの表の顔があるかも知らんし……情報がないな。手詰まりだ。

 

 仕方がない。情報もしゃべらなければ推測もできない。倒すほかないか。

 

「「旋空弧月」」

 

 同時。

 

 同時に放たれた同威力の旋空が相殺される。

 

 不毛だな。

 

 脳無化による生物的強化、強、虚無循環、虚無纏い。これが脳無の強化内容だ。

 

 対して私は強、虚無循環、虚無纏い。それだけ見れば私が押し負けるのだが、私には施設以降の技術の蓄積がある。それによって私も十分に有利に立ち回ることができる。

 脳無にはそれがないのだが、生物的強化で補っているのだ。そのおかげで私以上に立ち回ることができている。

 

 少し無茶をしよう。体が軋んでしまうが、早く片を付けたい。それに、戦闘が長引いて敵に情報を与えるわけにはいかない。

 

(ブースト)二重(ダブル)

 

 単純計算で二倍。これで私は優位に立ったはずだった。

 

「こんな感じ…?」

 

 …忘れてた。私って天才に分類される人間だった。だったら脳無もそうだと認識すべきだったな。

 

 脳無が二重(ダブル)を使用したことで私の優位が失われる。三重(トリプル)四重(クアドラ)などにして更なる強化を狙うこともできないことはないが、こいつはそれすら軽々と行うことができるだろう。その上、脳無化しているので身体の影響も乏しい。私が不利になるだけだ。

 

「チッ…」

 

 私は弧月と南部式自動拳銃を消去し、スコーピオンを模した剣を創り出した。両手にそれぞれ一本ずつ持つ。二刀流だ。

 

「どうして最も得意な戦い方をやめたの?」

 

「タイマンにおいてこっちのほうが得意だから」

 

 まあ別に多対一でも全然戦えるけど、と言う言葉は飲み込んだ。言ってやる必要はないからだ。

 

 私は刹那にも満たない時間で脳無に肉薄する。

 剣を振るい、首を取ろうとするが、弧月を間に置かれて弾かれる。

 

 その際に、私の剣が砕けた。

 

「脆……」

 

「そういう剣だからな」

 

 直後、剣の砕けた部分が光沢し、脳無に向かって伸びる。

 

「ッ!」

 

 寸前で避けられるが、その弾丸はバイパーだ。だからそれは避けた場所に向かって方向を変える。

 

 そして脳無の首を貫いた。

 

 それも決定打にはならない。神滅弾ではないから当然だろう。

 バイパーに神滅弾の効果を付与しても、バイパー本来の威力の低さによって大した意味をなさない。最低でもアステロイドでなければ意味がないだろう。

 

 バイパーを剣にできた理由。それは銃弾と剣の構成にある。

 

 銃弾にはそれぞれ、リソースがある。

 

 威力、弾速、射程。この三つが弾丸を構成している。私は使う時々でその分配を行っているのだ。

 例えば今脳無を貫いた弾丸は、射程を切り詰めて威力と弾速に費やしていた。距離の関係で射程が必要ないからだ。

 

 対して、剣には弾速と射程は必要ない。それはまあ、考えなくともわかるだろう。

 

 剣の構成は、威力だけでなく、硬質化と言うものがある。

 硬質化があることで、剣の形を保つことができるのだ。そして弾丸に比べて威力に振ることのできるリソースが多い。だから剣の方が威力は高いのだ。

 

 今回私がやったのは、弾丸に硬質化を付けただけだ。

 

 ただ、すぐに壊れたことから分かるように、硬質化の配分はかなり少ない。その分威力に振っている。

 それでダメージを与えられればよし。与えられなくても弾丸で局所的にダメージを与える。そして弾丸として消費することで失われた剣の部分はすぐに補填することで隙らしい隙も無い。

 

 ちなみに、バイパーにしたときには硬質化を解除している。砕けて別れたとしても、私は弾速と射程の配分を変えることができるため、このような離れ業ができるのだ。

 

 この技が真似されることはない。私でも1週間は習得に費やしたからだ。少なくとも今回の戦闘で習得することはない。

 

(ギアを上げるか)

 

 私はバイパーを振り回す速度を上げた。弧月で対応する脳無だが、やはり追撃の弾丸には対応が遅れる。効果覿面だ。

 

 だが、これでも私なのだ。対応ぐらいはすぐに採ってくる。

 

「砕けることがトリガーなら、砕かなければいい」

 

 そう言った脳無は剣を避けることに注力しだした。弧月を消すという徹底ぶりだ。

 

 ――そう思っているのなら、浅はかだと言う他ないだろう。

 

「甘ぇよ」

 

 トリガーは、砕けることではなく、硬質化を解くこと。その上、射程と弾速にリソースを割くことだ。あくまでも能動的なもの、受動的なものではない。

 

 だからもう一度バイパーが襲う。弧月を消していたことで余計に避けることが難しくなる。

 

 被弾も増加し、脳無の体を循環していた虚無が漏れ出てきた。黒い煙がそうだ。もくもくと出てきている。

 

 これで苦悶の表情を浮かべていたなら楽できるというものだが、そんなものはおくびにも出さない。流石に求めすぎか。

 

 そう自分の高望みが意味をなさなかったことに落胆しつつ、私はバイパーで斬りかかり続けた。もちろん避けられるが、もちろん弾丸は当たる。

 

「うーん…厳しい…」

 

「さっさとくたばってくれると助かる」

 

「それは…できないなぁ」

 

 千日手に近くなってきた。隙も作れない。短期決戦を望みたいんだがな。

 

 すると、エンデヴァーの方で動きがあった。あっちの脳無が新しく下位脳無を生み出したのだ。恐らく格納していたのだろう。

 神之怒(メギド)で無力化を試みようとするが、どうやらその必要はないようだ。ホークスが動いてくれた。ホークスなら複数体が相手でも下位程度問題ない。任せよう。

 

「――ッ!ヤッバ…」

 

 ホークスの方は問題ないが、エンデヴァーの方に問題ができた。脳無によってエンデヴァーが重傷を負ったのだ。存外あの脳無は戦闘面での頭がよく回るらしい。

 

 そして最初のあいつの言葉。目的は強者との戦闘。最悪私に向かってくる恐れもあった。その場合出し惜しみをしていると被害がよりひどくなる。なんとかエンデヴァーが復帰するといいが…。

 

 いや、問題ないようだ。負傷は激しく、戦える身体とは思えないほどのものだが、彼なら気力で何とかするだろう。信じよう。

 

 私は、己の役割に殉じよう。

 

「場所を変えよう…ここじゃ私が不利だ」

 

「私としては乗りたくないが、いいぜ。私としても膠着状態は望ましくない」

 

 そう言って私たちは空へと飛翔した。翼を広げて空中戦へと移行する。

 

 ホークスの翼を見ていてよかった。このおかげで空中機動力が上昇。戦いやすくなった。

 

 エンデヴァーも空中戦に再度移行している。下位脳無を倒したホークスも加勢したので直に倒せるだろう。

 

 となれば、後は私か。

 

星の杖(オルガノン)

 

「ウソだろやっべ……!」

 

 空中に変えたのはこれが目的か。脳無になった以上建物被害など考えそうにもないんだがな。こいつがわからん。

 

 杖刀を下に立て、そう述べたその瞬間に私は動体視力を底上げすべく目に虚無を集中させた。

 

 奴を中心として円状にブレードが回る。その速度は常人が視認できる範囲を超えており、私でさえも虚無で強化しなければ見ることができないほどだ。

 

「にしても速いな…!戦い方確立させすぎだろ昔の私ぃ…!」

 

 私は昔の私に思わず悪態を吐いた。

 

 周りに人がいなくてよかったと心の底から思う。もし周囲に人がいる状態で星の杖を使われていたら守るのはとても難しい。少なくとも私が被弾しなければ守ることはできない。肉壁が前提の保護になってしまう。

 

「ッ鉛弾(レッドバレット)!」

 

 私はブレードに鉛弾を当てる。実に100㎏の重りが各ブレードに生成され、ブレードの速度は著しく低下した。

 

「甘い…」

 

 だがその重りはブレードによってそれぞれ切り裂かれる。およそ半分以上、切った割合は疎らだが合計して……54%ほどか。かなり軽減されたな。

 

「こっちとしちゃ、他の奴らがこの脅威を認識してくれりゃいんだよ。私としても避けやすくなってありがたいしな」

 

 一応、速度は低下している。それこそ並のプロヒーローでも視認はギリギリできるだろう。避ける、となったら話は大きく変わってくるが。

 録画機器でも描写できるほどには低下しているはず。ヘリコプターが飛んでいて撮っているから情報として活用してもらうか。前情報があろうと対策できるようなものでもないが。

 

「星の杖となっちゃ…バイパーも意味ないな。弾丸飛ばした瞬間から切られる」

 

 だが、神滅弾なら。

 

 マッハ15をも上回る初速を誇る神滅弾なら。星の杖が反応するよりも速く脳無を貫くことができる。

 

 私は弧月を取り出し、南部式自動拳銃を取り出す。最初の戦闘スタイルだ。やはりコレが最もバランスがいい。

 

 キューブや拳銃で弾丸を出し、そいつを切らせ続けることで油断を誘おう。

 

 1分かけて同じことを続ける。脳無にも退屈が見えてきている。もう少しすれば隙らしい隙が現れるだろう。

 

 そして、その時は来た。

 

「神滅弾」

 

 南部式自動拳銃から神をも滅ぼす弾丸が発砲される。

 

 マッハ15を超える速度で一直線に脳無に向かったその弾丸は――

 

 

 ――脳無が首を右に傾けるだけで、無慈悲にもその威を示さなかった。

 

 

「な…!」

 

 信じられない光景に瞠目する私に、私は何でもないかのように答えた。

 

「例え未来の私だとしても、私のことは私が一番よくわかっている。意味のないことをするときは、本命から意識を外したいとき。そして、私の状態から死まで一撃で持っていくだけの力を持つものは、私が知る限り終末崩縮消滅波だけ」

 

 ならなんで神滅弾を避けることができた。

 

 それを言葉にする前に、奴の言葉は続く。

 

「治崎廻…知っているだろう。お前が神滅弾で倒した相手だからな。その情報は私にも共有されている」

 

「……トガとトゥワイス」

 

「そうだ…カメラに映るように高性能なカメラを創るのはとても苦労したとあの人は言っていた」

 

「いいのかよ、裏に人間がいることを私に伝えて」

 

「別に構わない。だって――」

 

 

 ――お前はもう死ぬから。

 

 

 その言葉は、私の魂に直接響いた。

 

 直後、私の腹部に斬撃の衝撃が響く。側面、正面、背面すべてにだ。

 

 それはつまり、私の体が両断されたということ。

 

 命の灯が消えるまでの短い時間で奴の宣言が聞こえた。

 

「お前の敗北だ」

 

 ――お前は、偽物だ。

 

 その言葉も、私の魂に直接響いた。

 

 敗北。それは私にとって理解しがたく、許容しがたい。

 そして、本気で今の言葉を言っている奴のことが、ひどく。

 

「滑稽」

 

「?」

 

 奴が疑問で表情を満たしている最中、私の姿が光の粒子となって消え失せた。

 

「え…」

 

 そして、脳無の背後に出現した私が弧月を振るう。

 

万華繚乱(ばんかりょうらん)

 

 この技は、私が作り出した私だけの技。神野の夜からずっと構想していた理想であり、現実的な技だ。その難度は想像を絶するが、あの夜から3か月もあったのだ。形にするのは容易い。

 少なくとも、朧心命流の極技に比べれば何倍も簡単だろう。

 

 幾百、幾千、そして万。

 

 神滅弾の権能が込められた弧月が、脳無を切り裂いた。弧月は神滅弾を込めたことで虹色に光り輝いている。

 

 脳無の肉体は未だ斬られたことを認識しておらず、肉体に斬られた後は見られない。だが、確実に命は摘まれているため能力を使うことができない。

 

 話をするにはうってつけだ。

 

「な…に……!?」

 

 なぜ。

 

 そんな言葉にならない言葉が聞こえた。

 

 命の灯が消えかけているこいつに、私は言葉を投げかけることにした。

 

「並列存在」

 

 瞠目。

 

 それもそうだろう。並列存在は施設以前では使ってもいなかったし、構想してもいなかったし、使ったのは雄英の文化祭。知っている方が可笑しかった。

 

「私のことは私が一番よく知っている。私が私の策を見破ることくらい心得ているさ。流石に、神滅弾が完全に避けられるとは思わなかったがな。ここに関しては私の対応が光ったな。最初から並列存在で戦っていてよかった」

 

「つまり…最初から全力じゃなかった…?」

 

「強さとしてはそうなる。だが、私は全力で私を殺しに行ったよ」

 

 私の言葉を聞いて、私は勝ち目など最初からなかったのだと気づく。

 

 物事を俯瞰して冷静になったのだろう。消えゆくまでの短い時間を有効に活用するために言葉を紡ぎ出す。

 

「結局…私は偽物だったんだ」

 

「なんだ、本物になりたかったのか?」

 

 私の疑問に答えることはなく、脳無は一人でに語る。

 

「神野の夜の、『夜月』。感銘を受けたよ。絶望に溺れた者を、私という希望を見せることで救ける」

 

 私の宣誓の話か。

 

 言葉の終わり方からまだ続きがありそうだったので、口は噤んだままにしておく。

 

「けれど、例えば敵連合はどうなの。奴らは根っからの敵じゃない。ただ外れてしまった者たちだ。そいつらも、絶望したことで今の状態になっている。私は脳無で、感情の欠片もないものだけど、哀れだと思うのは当然だろう。だって私は、お前()なんだから」

 

 ああ、こいつは。

 

 施設時代の私でも、この心は持っていたのか。記憶が戻った今でも忘れていた。脳無化したとしても風化するものではないらしい。

 

 そして、私はこの脳無の疑問に対する答えを知っている。

 

「そいつが本当に希望を知らないなら、私が希望になってやる。でも、敵連合の連中は希望を知っているだろう。自らの目的に対する希望。自らを確立させる希望。自らの居場所があるという希望。私が施しを与えるのは、本当にすべてが無い者のみだ。私がするのは、この世にはこんなものもあるんだよと示すだけ。そこからは、勝手に助かってもらうさ」

 

 私は残酷にもそう答えた。聞く人によっては本当に残酷だ。特に、神野の夜での言葉だけを聞いて希望を持った者にとってはそうだろう。期待していた助けが、自分次第になっているかつ、自分がその対象に入っていない可能性が高いからだ。

 

「…残酷だね」

 

 そうかもな、とは言わなかった。

 

「私がしたいのは、私がいなくても成立する社会にすること。そのために私は同年代の能力を育成している。そして私がすべきことは、お前たちを根絶やしにすること。特に、死柄木は急激に成長しそうだしな」

 

「……私に言っていいの?」

 

「イイさ。もう死んでるから裏の人間に伝えることはできないだろうし、そもそもやるつもりもないだろう」

 

 図星だったのか、脳無は黙った。

 

 その後も話すかと思っていたが、意外と今の状況に順応するのが早いようだ。斬られたことを認識する兆しが見えた。次が、最後の言葉だろう。

 

「……さようなら。本物()

 

「ああ、さようなら。偽物()

 

 脳無の肉体が急激に霧散する。血液すら刻まれ、粒子となって天空に舞った。

 

 今この瞬間、脳無()は消滅したのだ。

 

「エンデヴァーの方も片付いたね…蒼炎が見えたから荼毘がいるんだろうけど、反応がなくなったな。逃げた…泥ワープか。やっぱり有用な個性は持っているか。脳無にしてるのか、オールフォーワンが死柄木とかに付与したのか……」

 

 それは、私が考えても明確にならないことだ。思考を放棄するわけではないが、本腰を入れて考える必要はない。

 

 ミルコがいることには疑問を覚えたが、恐らく遊撃のように跳んできたのだと予測を付ける。

 

 見れば、ホークスは羽根を消費しすぎてしまっているようだ。左目を負傷したエンデヴァーの方に比べれば軽傷だが、ヒーロー活動に影響が出る。魂に多少干渉して無理やりにでも生やすか。私が福岡を見ることになるのは避けたい。

 ただでさえ今は壊理不足なのだ。これ以上時間が経てばどうなることやら。わかったものではない。

 

 強二重と循環、纏いを解く。急激に体が鉛のように重たくなった。多少無理をした弊害だろう。まあ、3分もすれば元に戻る。

 

「とりあえず、二人の方に行こ……」

 

 私は疲れた体に鞭を打って飛翔し始めた。





 万華繚乱。
 リムルの虚崩朧(こほうろう)千変万華(せんぺんばんか)の下位互換です。リムルでさえ神智核(マナス)たるシエル大先生の全面バックアップがなければ使うことができない技なので下位互換になるのも当然ですね。

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