魂を満たす物語   作:羽衣 月

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エキシビションⅠ

 エキシビションのステージは多くの要素でいっぱいだ。USJのようだと言えば伝わるだろうか。

 

 中心部には巨大モールがあり、それを囲むように住宅地がある。ちょうど期末試験でゲンセイとシズが戦った場に似ている。

 

 周りには、森林や工業地帯、都心のようにビルが立ち並ぶところもあれば、シズが神野で戦ったときのような荒廃地もある。

 

 エキシビションが始まり、シズは目を開いた。

 

「4チーム……10人が3つと11人が1つか」

 

 シズは視認できる魂を見てそう判断する。個体識別もできるのだが、敢えてそれはしなかった。育成が目標であるのもそうだが、それはそれとして楽しみたいからだ。

 

 瀬呂も言っていたが、正しく戦闘狂であった。神野でも異常な笑みを浮かべていたことからもそれがよくわかる。

 

「分身か、私が単独で殲滅するか…」

 

 シズは思考する。学校の意図を考えると分身ではなく単体で殲滅して差を見せつけるほうがいいと思える。

 ただ、それではあまり楽しむことができないし、育成もできない。シズとしてはあまり前向きに考えることはできなかった。

 

「分身にしよ。10分くらいしたら回収……いや、大体半壊したら回収するか」

 

 シズは方針を決めた。大体2体くらいを各チームに派遣し、半壊させることにしたのだ。

 

 だが、その間何もしないというのも味気ない。なので、部屋の中心部にある巨大モールの屋上で色々しようと画策し、そこに向かって移動を始めることにした。

 

「じゃ、私たち。皆を半壊させてきてね」

 

 シズは分身たちの了承の声を背に、移動を始めた。

 

 

 

 

 

 場所は変わってチーム1。

 

 チーム1の構成は『麗日、切島、障子、瀬呂、葉隠、爆豪、小大、庄田、柳、鱗』の10人。索敵の障子に正面戦闘の爆豪と切島。あとの者たちはサポートと特殊戦闘に特化している。特に小大、庄田、柳のコンビは面白い。第5試合でもA組に防戦を強いたほどだ。

 

 爆豪率いるチーム1は、ビル群を歩いていた。福岡を模したもので、脳無との戦闘がおこった跡が見える。所々のビルは壊れ、瓦礫は片付けられていなかった。シズが帰るときの福岡の状況と同じだ。

 

「ここ、多分福岡だよな……」

 

「そやね…」

 

 そういうのは切島。それにお茶子が返答をしていた。二人とも死穢八斎會での出来事を経験したからか、戸惑いや恐怖は少なかった。あるのは、自分がいないところでこのような惨事が起こっていたという事実に対するやるせなさだ。

 

 だが、他の人間が恐怖に染まっているわけではない。一欠片もないわけではないが、これから起こるであろう戦闘に向けて思考を続けていた。

 

「でも、瓦礫があることで僕たちのコンボがやりやすい。今も小大さんが瓦礫を縮小して集めてくれている」

 

「ん」

 

 小大は庄田の言葉を受けて掌を広げた。その上には4つほどの瓦礫の欠片がある。小大の個性『サイズ』で縮小したのだ。解除すれば1mほどの大きさになる。その行動の後も、もう一つ瓦礫を縮小させて集めた。

 

「確か柳さんの個性って人一人分まで動かせるんだよね?そしたら、私が無重力にして軽くするよ!」

 

 第5試合の時は敵同士であったためこのような会話もなかった。しかし、麗日は一度見た時から自分と相性がいいと考えていたのだ。

 それは柳の方も同じだったようで、歩きながら練習を始めた。少しでも感覚を慣らしておくためだろう。

 

「どっから来てもぜってぇ止めるぜ…!試合じゃいいとこなしだったし、インターンから成長したとこ見せるんだ……!」

 

「気張ってんなぁー切島」

 

「腕!見えるか?」

 

「……中心のモールの上に一人いる。本体かどうか区別はつけられないが今のところ何も行動を起こしていないな。周囲も探っているが特に異常はない」

 

「モールの方目ぇ離すなよ。あと、周囲は耳で探れ。どうせ見えるようなバカはやらねぇよ」

 

「へえ、嬉しいこと言ってくれんじゃん」

 

 爆豪が障子と言葉を交わしていると、ふいに後ろからその声が聞こえた。

 

「ッ!」

 

 爆豪は即座に振り向き、爆破を起こす。

 

 その爆破は後ろに飛びのくことで避けられるが、爆豪は直撃には期待していなかった。自分を含めた全員から距離を取らせるのが目的だ。

 

「切島ァ!」

 

「おう!」

 

 爆破の煙幕でシルエットしか見えないが、彼にとってはそれで十分。硬化しながら特攻を始めた。

 

 爆豪はシルエットを注視する。分身体で来た以上、どんな権能が与えられているのか不明なためだ。

 

 分身体は、本体から権能を与えられる。それは、弧月なのか、バイパーなのか、イーグレットなのか、カタストロフなのか、さまざまあるが、基本的に2個までしか与えられない。そうでもしなければ本体に比べ著しく練度が落ちるからだ。言ってしまえば、本体と同じように多くの権能を与えればむしろ無能になる。

 それを克服したのが並列存在。分身体と併用したときは本体性能の8割ほどになってしまうが、権能の数は本体と同等だ。

 

 爆豪が懸念したのは、並列存在であるとき。そして、与えられている権能が弧月である時だ。

 

 ――それは的中する。

 

「瀬呂ッ!切島寄せろ!」

 

 瀬呂は爆豪の言葉に半ば反射的に行動を起こした。テープで切島を引き寄せる。

 

 その刹那。シズの弧月が八度空を裂いた。

 

 八重桜――八華閃による剣の軌跡だと、誰もが理解する。

 B組も、作戦タイムの時にシズの技については詳しく聞いていた。その中でも八華閃は要警戒対象に入っていたのだ。

 

「よくわかったね!流石は私の弟子」

 

「誰が弟子だ死ね!」

 

「アッハハ!ひっどぉ」

 

 八華閃によって煙幕が早く晴れた。その中から出てきたのは、やはりシズ。

 

「アイヤー、ウソだろ?どこいたんだよ…!」

 

「恐らくスイッチボックスだ。俺の目にも耳にも反応がなかった。開始地点から転移してきたのだろう」

 

「それこそウソだろ……?俺たちゃほぼ対角線上から開始してきたんだぞ…?」

 

「シズならできてもおかしくないよ。それに、こっちの索敵を掻い潜って近づくことも朝飯前のはず」

 

 鱗の発言に麗日は無慈悲な真実をぶつける。だが、悲観はしていない。前からこれほどの実力の持ち主だと理解していたからだ。ただ、目の前で見せつけられて動揺してしまったのだ。

 

「いやはや、先に爆豪を倒しとけば楽だと思ったんだけど、流石にそう簡単にはいかないか」

 

「最初からできるわけねぇと思ってたくせによぉ…」

 

「バレた?」

 

 ヘラりと笑う。

 

 シズのおちょくりに爆豪は青筋を立てる。ビキビキと音が聞こえてくるほどだ。

 

 だが、心はあくまでも冷静に。独断専行をしてチームの輪を乱し、壊滅に追い込むことはしなかった。もし爆豪が短絡的な行動を犯していたら、シズは容赦なく壊滅にまで追い込んでいただろう。シズは爆豪に大きく期待を寄せている分、一定以上その期待を裏切ると徹底的に叩きのめしに来る。好奇心が強くなり、一度だけその心で模擬戦をやってもらうように言ったとき、ぶっ殺された方がましに思えるほどの暴力を受けたことを爆豪はよく覚えている。あれは本当にやばかった。そのおかげか耐性を得ることはできたし、自身の実力もめきめきと上昇したのだが、もうあれは一度も経験したくないと断言することが出来る。

 

「煽っても乗ってこないね……流石私の弟子…」

 

 今度はもう一人のシズが現れて言う。爆豪を弟子と言うのはどちらも一緒だったが、その話し方は対照的だった。片やハキハキと喋り、片やボソボソ喋る。同じシズの顔をしていても、雰囲気で別人のように見えてしまう。シズの技術によるものだった。

 

「テメェも弟子って言うのかよ…」

 

 爆豪は半ば呆れたようにそういった。

 

「心操と物間はいないね!なら話しても大丈夫だ。さ、始めよっか!」

 

 弧月を持ったシズがそう言う。もう片方のシズは飛び上がり、弾丸を展開した。

 

「アステロイド…」

 

 足元に迫ったアステロイドが、鱗、小大、庄田、麗日に襲い掛かる。

 

 彼らは後方にジャンプすることで回避を行った。だが、それに目聡い障子が疑問を覚える。

 そして、彼はすぐにその正体を掴んだ。

 

「ハウンドだ!」

 

 その言葉の直後、弾丸が曲線を描く。そして、再度彼らの足元に向かって伸びた。

 

 瀬呂が、障子が。それぞれを引き寄せることで助け出す。だが、鱗だけは左足にハウンドが被弾してしまい負傷してしまった。そのハウンドは威力にリソースが振られていたため骨に罅が入る。このエキシビションにおいて歩くことはできなくなっただろう。

 

「すまない…!」

 

「アイヤー、オレのせいだ。悪ぃ…!」

 

 障子は助けが遅れたことに、鱗は回避ができなかったことに謝罪した。負傷して歩けなくなった鱗は障子が抱えて移動するようだ。鱗の個性では自身の鱗を飛ばすこともできるため戦闘における不都合はない。むしろ障子が鱗を背に抱えれば障子に遠距離攻撃が搭載されたことになるのだ。

 怪我の功名と言えば聞こえはいいが、もし障子に攻撃が回り、障子が落とされれば索敵要因を失っただけでなく、遠距離攻撃をも失うことになる。

 

「ハウンドの方はそっちでやっとけ!弧月は俺が殺る!」

 

 爆豪が弧月のシズに肉薄しながらそう言い捨てた。至近距離の爆破を当てることでシズを吹き飛ばし、距離を取る。

 

 切島は爆豪の援護をしようとしたが、近接においては肉壁になることしかできないと判断し、それならば遠距離のほうで壁となったほうがいいと考えたのだ。

 

「切島!」

 

 瀬呂が切島を呼んだ。そして耳を寄せ、作戦を口にする。

 

「敵の前で作戦会議…余裕?」

 

 だがそれを見逃すシズではない。分身とはいえこの程度の判断はつけられるのだ。ハウンドが二人に迫る。

 

 切島は硬化で瀬呂を守ろうとしたが、その必要はないようだった。

 

 鱗が自身の鱗を飛ばすことでハウンドを減少させた。そして、小大が解除したことで大きくなった瓦礫を柳が動かすことですべてのハウンドを撃ち落としたのだ。

 

「瀬呂!なんか策あるんだろ!?こっちで援護するからやってくれ!」

 

「すまん!頼む!」

 

 瀬呂は切島を連れて仕込みを行っている間、鱗と障子がハウンドシズと相対する。麗日、小大、柳、庄田はその援護だ。

 葉隠はいざという時の奇襲。また、作戦が軒並み失敗した時に、他のチームに情報を共有するための潜伏要員だ。

 

「麗日!柳!頼めるか?」

 

 瀬呂は援護に徹する二人に作戦を伝える。それはとても単純明快で、かつあのシズに対しては大きな効果が見込めるものだった。

 

 もちろん、やらない理由はない。

 

 麗日が切島に触れ、無重力状態にした。そして軽量化した切島を柳の個性『ポルターガイスト』で操作する。そして庄田が切島の足を両手で押し込んだ。

 

「よし、準備オッケーだ!」

 

「分かった!」

 

 瀬呂の言葉に障子が返した。

 

「準備はいいけど、敵の前でそれを言うのは愚策じゃない…?」

 

「警戒しても意味ねぇからいいんだよ!」

 

 瀬呂の言葉で柳が作戦を決行した。小大との瓦礫でのコンボに切島を加える。

 

 切島は瓦礫と同じようにシズに向かって特攻する。そして安無嶺過武瑠を発動した。

 

「ツインインパクト…解放(ファイア)!」

 

 庄田の個性『ツインインパクト』が火を噴いた。彼の個性は一度行った打撃を数倍の威力にして好きなタイミングで発動できるというものだ。その個性で、移動している切島に衝撃を与え、加速を促したのだ。切島は安無嶺過武瑠で己を強化しているため、その衝撃を意に介すことはなかった。

 

 瞬間的に加速した切島がシズに突貫した。シズは障子によって行動を阻害されていたため、直撃。そしてそのままビルにつっこんだ。

 

「……」

 

 沈黙。爆豪を除くチーム1に緊張が走った。

 

『お見事』

 

 その言葉は魂に直接響いた。

 

 切島がビルから飛び降りた直後、煙幕が晴れる。

 

 そこには、光の粒子になって散っているシズの姿が。切島の攻撃によって分身体が活動限界を迎えたのだ。

 

 シズは光の粒子として大気に交じり、完全に消失した。

 

「――よ」

 

 喜びもつかの間、全員のすぐそばに何かが飛来した。

 

 飛来したものは地面に激しく激突して大きな煙幕を出したが、煙幕はすぐに晴れる。

 

 煙幕を晴らしたのは大きな爆破だった。つまり、何かの正体は爆豪だ。

 

「って…」

 

「爆豪!?大丈夫か!」

 

「誰の心配してんだカス!」

 

 飛び起きた爆豪が瀬呂にそう言い放った。

 

「あれー!ハウンドの方やられてんじゃーん!やっぱりみんなやるね!」

 

 弧月を持ったシズが羽を広げてそう言った。負傷が見られるが、戦闘不能になるほどではないようだ。

 

「って、誰も倒してないの?いくらハウンドしか与えられていないとはいえちょっと残念だなー」

 

 シズは弧月を片手で肩に担いでそう言う。そして、瞬間移動を思わせるほどの速度で障子に近づいた。

 

「なっ……」

 

「地天轟雷」

 

 シズが片手で無造作に放った地天轟雷が障子の脳天に当たるかと思われた。

 

 障子に抱えられていた鱗が前に出る。そして負傷していない右足で障子を後ろに蹴飛ばし、身を挺してかばったのだ。

 もちろん、鱗が地天轟雷を避けられるはずがない。彼の脳天に弧月が直撃し、気絶した。

 

 鱗が粒子となって消え失せる。どうやらシズの分身と同じように消え失せるようだ。

 

「クッ……鱗!」

 

 障子が悔恨の念を込めて叫んだ。しかし、叫んでも鱗は戻ってこない。

 本番なら死んでいた。それも自分のミスで死なせてしまったという事実が障子を蝕む。

 

 しかし、障子はとても冷静な人間だ。自身が犯してしまったのなら、それを償う。自分が役に立つことで鱗の犠牲を無駄にしないことを決意した。

 

「麗日、柳、庄田!もう一度だ!」

 

 切島がそう声を張り上げた。先程のハウンドシズを倒したセットアップを行おうとしたのだ。

 

「ハハッ!あいつを倒したやつか!来い!」

 

「対応させるかよ!」

 

 爆豪とシズも先程のセットアップは少しだけ目にしていた。だから爆豪はそれに活路を見出したし、戦闘狂であるシズはそれに楽しみを見出した。

 

 爆豪が肉薄し、爆破を仕掛ける。シズは爆破を切り裂き、爆豪を蹴り落とした。

 

「A-Pショット!!」

 

「っぶね…!」

 

 受け身を取った爆豪は体勢を立て直すこともなく技を放つ。その密度はシズの分身体を貫くほどの火力を誇っているため、いくらシズと言えども回避を強要される。

 

「ツインインパクト、解放!」

 

 切島が先ほどと同じように特攻を仕掛けた。それは先ほどよりも速い速度でシズに迫り、同じようにビルにたたきつけようとする。

 

 だが、相手を忘れていないだろうか。

 

 分身体とはいえ、シズなのだ。一度見た攻撃が何度も通用するほど甘い相手ではない。

 

 切島がぶつかる直前。シズは弧月を両手で持って上段に構えた。

 

 己の全身全霊を込め、渾身の一撃を与えるために、両の手に虚無を集める。それを裏付けるように、シズの両手は黒く光沢していた。

 

 そして、つぶやく。

 

「一刀入魂」

 

 振り下ろす。

 

 切島は頭の前で腕をクロスしていた。つまり、正面から攻撃が来ても自然とガードできるようになっていたのだ。

 

 だというのに、結果は。

 

 切島が崩れ落ちる。麗日の個性の効果も解除されており、重力に従って落ちて行った。

 

 そして、地面に激突した後に、光の粒子となって消え失せる。

 

 シズはそれを見下ろし、切島がいた場所に降り立つ。

 

 ――そして、瞬時に背後に手を伸ばし、向かってくる鉄パイプを受け止めた。

 

「切島のような威勢のいい人間は、周囲の人間の士気を上げる。そういった存在は現場においてとても貴重だ」

 

 その声は抑揚を失っており、先ほどまでの陽気な雰囲気は失われていた。

 

 背後を振り向く。そこには、鉄パイプが浮かんでいた。

 

「だからこそ、そいつが落ちたら周りの人間は少なからず動揺する」

 

 頭を後方に持っていき、助走をつける。

 

「漏れてたよ。害意」

 

 そして、葉隠のおでこに向かって頭を振り下ろした。

 

 鈍い音が鳴り、鉄パイプが落ちる。そして透明な粒子となって葉隠が消失した。

 

 鱗の脱落から、流れるように2人が脱落する。

 

 そして、シズは一度手にした流れを手放すことはない。

 

 テレポーターで瀬呂の背後に移動する。

 

「お前は厄介だから、先にやっとく」

 

「マジかよー…」

 

 瀬呂の表情には諦観の念がこもっていた。

 

 だからと言って思考放棄をするわけではない。爆豪から託されていた手榴弾を一つ、シズに向けて放り投げた。

 

 弧月が振り下ろされるのと同時に、手榴弾が音を鳴らす。瀬呂がいたところに花火が散った。

 

 そして煙幕の中、一筋の何かが飛来する。

 

「っぐ……!?」

 

 弧月だ。

 

 それは庄田の顎に当たり、彼は気絶してしまった。後方にいるからと油断してしまったのだろう。また、鱗からの怒涛の脱落に動揺してしまったのだろう。本来の彼なら避けられた攻撃だったはずだった。

 

「うん、やっぱり厄介だった」

 

 煙幕の中からシズが出てくる。その体には爆破による裂傷が大きく残っており、崩れかけている。もう戦闘を続けることは不可能だと結論付ける。

 

 爆豪が動いた。

 

「……容赦ねー」

 

「たりめーだ。テメェは分身だとしても油断できねぇ」

 

 爆豪が手負いのシズに爆破を叩き込んだ。シズが吹き飛ぶことはなかったが、これで戦闘不能は確実になった。光の粒子となりつつあり、弧月も消失している。生成しようとはしているが、どろどろとしており形が定まっていない。

 

「流石は、私の弟子」

 

 そう言って、弧月のシズは消失した。

 

「だから弟子じゃ…――」

 

「爆豪!」

 

 爆豪が否定の言葉を紡ごうとすると、障子が焦った声を上げて爆豪を引き寄せた。

 

 その後、爆豪のいたところに一筋の光が残る。

 

 それは地面にとても小さな穴をあけていた。

 

 障子は中央のモールに視線を向けて言う。

 

「狙撃……!」

 

 爆豪は自身に起こったことを正しく理解した。

 

 弧月のシズを倒したことによる精神の緩み、そこを突かれたのだと。

 そして、この狙撃の精度。爆豪は中央のシズが本体だと看破する。それは正しい。

 

 障子がこの狙撃を看破できた理由。それはとても簡単だ。ただ、中央のシズから目を離さなかっただけ。複製腕のリソースがそこに使われていたために、先ほどのシズの肉薄の対処が遅れてしまったが、結果的にはそれでよかったのかもしれない。

 尤も、それは結果論だし、障子からすればそのせいで流れがあちらに流れてしまったと悲観しているのだが。

 

 兎にも角にも、これでチーム1は半壊。切島、瀬呂、葉隠、庄田、鱗を失った。特に切島と瀬呂を失ってしまったのが痛い。

 

「クソがッ!!」

 

 爆豪は、チームが半壊したという事実と、障子がいなければ自分もやられていたという事実に悪態を吐いた。

 

 

 

 

 

 時間は戻って、チーム2。

 

 チーム2の構成は『口田、上鳴、常闇、轟、八百万、泡瀬、回原、黒色、角取、鉄哲』の10人。索敵要員は口田のみだが、黒色も機動力を応用してそれを補助することが出来る。

 

 八百万率いるチーム2は、森林を歩いていた。

 

 轟の炎や上鳴の放電など、火災を招く個性が多いが、このエキシビションでは手段を選ぶ必要がないことを知らされている。よって大した問題にはならない。二人もみんなに被害が加わるような個性は使わないだろうし、いざとなったら八百万で消火することも可能だった。一応、簡易的な消火器具と絶縁体シートは携帯している。

 

「森林……爆豪さんが言っていたスパイダーを警戒する必要がありますわね…」

 

「だが、俺のダークシャドウや黒色の個性が役立てやすい。それに、いざとなったらギャップに出向けばいい」

 

 八百万と常闇は森林に足を踏み入れた時にそんな会話をしている。

 

「鉄哲、お前今度は絶対周り壊すなよ」

 

「おうよ!準備はできてるぜ!」

 

「壊すなよ!?」

 

 鉄哲と回原がそんなやり取りをしている。緊張感に欠けているが、ベストコンディションを保っている。彼らなりのコミュニケーションだろう。

 

「体育祭思い出すぜ…確か電撃効かなかったし、そもそもここじゃ当たる気しねー…」

 

「上鳴、それについてなんだが…」

 

 轟と上鳴が作戦を詰めている。二人ができるコンボがあるのだ。

 

「口田さん、夜月さんの姿は?」

 

「まだいないみたい。虫さんたちに頼んでいるけどいないっぽいね。もうちょっと範囲を広げ――」

 

 その直後、口田の首にスコーピオンが伸びた。

 

「――ッ!?」

 

 口田は為す術もなく気絶する。光の粒子となって消えた。

 

「敵の前でおしゃべりとは…お粗末だね」

 

 鋭い眼光でそう呟くのは、スコーピオンを両手に手にしたシズ。

 

「カメレオン…!」

 

 八百万はなぜシズが口田の索敵を掻い潜って姿を現すことができたのかを知っていた。

 

 カメレオン。シズの姿を周りの背景に溶け込ませる技だ。シズはそれを使って八百万や耳郎を驚かしたことがあったのだ。日常で使う分には可愛いいたずら程度で済むのだが、戦闘に使われると恐ろしい。

 

「クソッ!」

 

 回原が近接戦を仕掛ける。それに鉄哲と常闇が援護に入ろうとした。

 

 だが、次いで聞こえる声によってその動きが中断されてしまう。

 

付与(アサイン)

 

「うおっ!?」

 

 まず鉄哲に異変が訪れる。体が地面に固定されてしまったのだ。それはとても強力な引き寄せで、自身の力ではとても動かすことが出来ない。

 

 八百万が鉄パイプを鉄哲の近くに投げる。すると、その鉄パイプも同じように地面にくっついた。

 

「磁力…!轟さん、炎熱を!」

 

「ああ。――ッ!?」

 

 磁力は高温環境においてその効果を及ぼさない。そのことを知識として知っていた八百万が轟に指示を出し、轟がその指示に殉じようとするが、それを止める存在が現れた。

 

 ダークシャドウだ。

 

「っは!?」

 

 泡瀬が戸惑いの声を上げる。それもそうだろう。味方である常闇のダークシャドウが、最重要主力である轟に牙を剥いたのだから。

 

「常闇…!?」

 

「ダークシャドウ!鎮まれ…!鎮まれ!!」

 

 常闇にも原因が不明のようだ。ここの暗さはダークシャドウが暴走するほどではない。だというのに味方を攻撃するという暴挙に出る。明らかな異常だった。

 

 そして、その答えは空から降ってくる。

 

「今は黒影(ダークシャドウ)じゃない。そうだね……虚無影(ニヒリスティックシャドウ)とでも言えばいいかな。ま、名前なんてどうでもいい」

 

 シズは木の上に乗っていた。

 

「丸腰……カタストロフでも出すのか?」

 

 今、回原が戦っているシズとは違う。武器を手にしていないので、カタストロフの類を出すと轟は推測した。

 

「いえ、恐らく違います。付与という言葉からも、恐らく後方支援を主として行動するでしょう。戦闘能力は比較的低いはずです。ですが残っていると最も厄介。私と角取さん、泡瀬さん、鉄哲さん、黒色さんで対応し、確実に叩きます」

 

 八百万は火炎放射器を創造しながらそういった。そして鉄哲に向けて放つ。

 

「っしゃー!助かったぜ八百万!」

 

 鉄哲は体の自由を取り戻した。

 多少草木に燃え移った火も、轟の氷結で消火する。

 

「常闇さんは虚無で過剰強化されていますが、光を与えれば鎮まるはず…。そのあとは虚無の効果でダークシャドウが強化されるはずです!」

 

「分かった!」

 

 轟はもう一度炎熱を放とうとするが、また止められてしまった。

 

「ちょいちょい、虚無影はこっちの戦力なの。そう簡単にやらせてたまるものですか」

 

「バイパーかよ!」

 

 回原と戦っていたシズが、剣身を砕いてバイパーとして放つ。AB組の全員が福岡での戦闘を見ていたので、この戦闘形態も知っている。

 

 そのバイパーが轟を襲い、行動を阻害したのだ。

 

 だが、あのシズは判断ミスを犯してしまった。轟を妨害したとしてももう一人光を放つことのできる存在がいることを失念していたのだ。

 

「チョイと手加減……80万ボルト!!」

 

 常闇が絶縁体シートを纏ったのを確認した上鳴が放電を行った。それも、戦闘不能にならないように己の許容を超えないようにだ。

 

「助かった!」

 

「常闇!スイッチできるか!?」

 

 常闇の救助が終わると、そろそろ限界が見え始めてきた回原が助けを求める。

 

「無論だ。俺たちの新たな技…虚無の剣(ニヒリスティックソード)を見せてやる……!」

 

「虚無の剣…!?」

 

 常闇の発言に黒色がソワソワし始めた。

 

 常闇は深淵暗躯と同じようにダークシャドウを纏った。深淵暗躯と違うのは腕の部分が剣のようになっていることだろうか。

 

 そして、シズの言葉を技名に使っている。暴走を抑えている最中に聞いていたのだが、気に入ったのだろう。

 

「アッハ!いいね!見せてみなよ!」

 

 シズはその言葉とともにギアを一段階上げた。

 

「クッ…これ以上の進化を……!?」

 

「アハハハ!この程度?もっともっと楽しませてよ!」

 

「瀬呂も言ってたけど、マジで戦闘狂じゃん…!怖ぇ……!」

 

 シズの狂気的な笑みは見る人に恐怖を呼び覚ます。

 

 シズが戦闘中に見せる笑み…というより、シズが見せる笑みの大体は、敵を倒すときに向ける狩人の笑みだ。それも狩りを楽しむときにする笑みなので、恐怖が前面に現れるのも無理はない。

 

 また、シズが狩りの時に手を抜くことはない。常闇が苦戦を強いられるのも無理はなかった。

 

 シズのバイパーが常闇にのみ向いているのが好都合だ。もしこれが全体に向かっていたらその対処で手いっぱいになっていただろう。

 

「回原!お前常闇のサポート回れるか?」

 

「ちょっと休憩したら元気出たぜ…!行ける!」

 

 回原はその言葉の後に常闇のサポートに回った。常闇と対角線上に位置し、常にシズを挟むように動く。

 

「助かる!」

 

「イイってことよ!」

 

 これで常闇の負担が軽減した。バイパーは回原にも向くようになったが、ギリギリ対応できる範囲だ。

 

「上鳴!さっき言ってたやつやるぞ!」

 

「おう!」

 

 轟はシズを囲むように炎熱の壁を作る。今シズがいる場所はギャップで、周りに木々はない。火が燃え広がる可能性は著しく低かった。

 

 轟は徐々にサークルを小さくする。

 

 徐々に、徐々に。それは常闇たちをも苦しめるほど小さくなった。小さくなればなるほど密度が上がる。それはつまり、温度が上昇するということでもあった。

 

「今だ!」

 

 轟が号令と同時にシズに向かって炎を飛ばす。それと同時に3人が動いた。回原と常闇は、絶縁体シートを纏った状態で炎獄を脱出。絶縁体シートには耐火性、耐熱性もあったのだ。

 

 上鳴は、轟が放った炎に向かって放電した。

 

 炎には通電性がある。それも、温度が上昇するほど通電性は上がるのだ。

 轟たちが利用したのはそれだった。シズを無効化するには、上鳴の電撃が最も手っ取り早い。本体には耐性があるだろうが、分身体にはそれらがないことを知っていたのだ。だから、これはよく効く。

 

「ぐあっ…」

 

 シズが苦悶の声を上げた。

 

 一方、上鳴は体育祭を経てのことを思い出していた。

 

「耳郎から聞いた…!断続的に叩き込んだら危なかったってよぉ…!」

 

 上鳴は耳郎との会話を思い出していた。いつの日かの雑談でしていたなんてことない会話だ。

 

 シズに電撃が叩き込まれる時々に、シズの体が跳ねる。筋肉が刺激され、動くことが出来なかった。

 

 シズは、魂とはいえ基本的には神経と筋肉で動いている。

 

 だから、電撃はよく効く。

 

 

 ――だから、この言葉は正しく絶望となる。

 

 

「付与」

 

 

 直後、電撃を受けるシズの体がカクリと落ちた。そして、ブリキの人形が動くように軋んだ音を奏で始めた。

 

「あ…?」

 

 轟たちは状況の判断が遅れてしまった。

 

 その間にも、シズは飛び上がることで電撃から脱出する。

 

「何…!?」

 

 シズは空中で意識を取り戻した。

 

「あ?…ああ、あっちの私の仕業か」

 

 そして、付与のシズの隣に着地した。

 

「ねえ、なんで誰も倒せてないんだ?」

 

「いやーごめんごめん!楽しくなっちゃって」

 

「はあ…ま、いいや。こっちは全員倒したから」

 

 その言葉は、轟たちを驚愕で染め上げるのに十分だった。

 

「ウソだろ…?」

 

「倒したときにヤオモモもそんな表情をしていたよ。なんでだろって思ってたけど、そういえば言ってなかったね。分身体だろうと、身体能力と虚無の技術は変わってないんだよ。だから、油断している5人を倒すくらいは訳なかったかな」

 

 ここで、轟たちは自分たちの作戦のミスを悟った。前提から間違っていたのだと悟った。

 

 だが、それにかまけている暇はあるのだろうか。

 

 否。

 

 ――上鳴が後ろ向きに倒れることで、その事実が否応なしにたたきつけられる。

 

「ッ上鳴!!」

 

 上鳴は光の粒子となって消えることで答えた。

 

「なんで…あいつらは何も!」

 

「落ち着け、轟。…中央のほうから光が伸びていた。目を凝らしてそこを注視したが、夜月が狙撃銃を構えていたのが見えた」

 

「狙撃か…!」

 

 轟は状況を正しく把握した。

 

「さて、本体の狙撃含めて半壊どころじゃなくなったんだけど……どうする?続ける?」

 

「ああ…終わらせてやるよ」

 

 そう言って轟は自身の左を全力で解放した。体育祭の緑谷、シズ戦で使った技だ。

 

「あちゃー…私たち、力押しには無力なんだよね…」

 

「まあいいだろ。あまり持って行っても本体が悲しむ」

 

 二人のシズはそう軽口を交わし、轟の技に飲み込まれた。

 

 木々が消失し、あたりには3人だけが残る。

 

 シズたちが消失するまでの言葉を聞き、手加減をされていたことに気付かされる。察してはいたが、あまりにも余裕な物言いだった。

 

「……くそ」

 

 轟の言葉だけが、大気に交じって消えた。

 




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