魂を満たす物語   作:よヨ余

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 羽衣 月 → よヨ余

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エキシビションⅡ

 場所は変わってチーム3。

 

 チーム3のメンバーは『青山、蛙吹、飯田、尾白、砂藤、小森、塩崎、取蔭、吹出、凡戸』の10人。チーム1、2に対してとりわけ戦闘力に長けた人材はいないが、小森の『キノコ』による広域制圧攻撃がある。その上、尾白や砂藤、飯田による近接戦闘も粒がそろっているし、青山や塩崎のような遠距離持ちもいる。バランスはいいと言えた。

 

 

 ――だからこそ、見る人が見ればこの光景を信じることはできないだろう。例え自分自身の目で見たとしてもだ。

 

 

 飯田率いるチーム3が向かったのは、神野を模している荒廃地。

 

 そこには、もうすでに半壊したチーム3がいた。残った者も、シズ1体を中心として倒れ伏している。

 

「お前らも不運だったな。これは負けイベだ」

 

 このシズは、分身体ではなく、並列存在だった。つまり、シズ本体の8割ほどの力を持つ存在だ。

 

「クッ…」

 

 倒れ伏した飯田が呻く。もうすでにレシプロターボは使用していた。まだ10分たっていないのだが、シズの虚無を注ぎ込まれたことでマフラーが耐え切れず、エンストを起こしてしまったのだ。飯田のレシプロでギリギリ保っていた均衡が、たったそれだけで崩れ去った。

 

 魔風(テンペスト)によって尾白、砂藤、吹出、凡戸が消え去った。

 

 白閃滅炎覇(ホワイトフレア)によって、小森の個性が無力化。それに動揺した小森が腹部を蹴られ、気絶。この時点で半壊した。

 

 塩崎がツルで捕獲しようと行動するが、同じく白閃滅炎覇によって無力化。顎部を蹴られることで気絶し、消失した。

 

 荒廃地から離れたところで索敵のために単独行動をしていた取蔭は、この事態を他のチームに報告するために移動しようとしたが、中央の本体によって狙撃される。トランシーバーは飯田が持っていたため、このような行動を採らざるを得なかったのだ。

 

 だが、本体がそれを許さなかったことで、チーム3の惨状が他のチームに伝わらない。取蔭も気絶してしまったことで残りは3人になってしまった。

 

「並列存在…やっぱり強いわね……」

 

「褒めても何も出ないぞ」

 

 蛙吹はシズの攻撃に対処する暇もなく、首に弧月をたたきつけられて気絶した。

 

「フロッピー!」

 

 飯田が叫んだ。

 

「悪いな委員長(ヒーロー)。私は今、敵なんでね」

 

「おのれ敵め…!ここで俺を倒しても、他のヒーローたちがお前を倒すぞ!」

 

「いつも思うけど、設定乗りすぎだろ」

 

 シズは蛙吹と同じようにして飯田を気絶させた。

 

 これで残るは、青山だ。

 

「さて青山。私はな、お前と話がしたかったんだよ」

 

 シズはそう言って、倒れ伏している青山のすぐ横に座り込んだ。

 

「話…?」

 

 青山からしたら、疑問もいいところだ。

 

 そもそも、青山とシズに接点はない。体育祭の騎馬戦にてチームを組んだが、それくらいだ。その時もあまりしゃべることはなかった。

 

「お前さ、神野までなんか元気なかったよな。なんで?」

 

「え…?」

 

 シズのこの疑問は、神野を経て、皆とお話をしてから生まれたものだ。

 あまり気にしていなかったが、青山の魂は今のホークスのようになっていた。つまり、ひどい罪悪感や劣等感で染まっていたのだ。

 

 シズはそれがひどく気になった。この魂をした人間がどんな末路をたどるのか知っていたから。青山がどうなってしまうのか、それがひどく怖かった。

 

 尤も、それは青山の魂が変わってから「そう言えばそうだったな」と認識したものだったが。あとになって最悪の状況にならなくてよかったと心から思ったのだ。

 

「もう大丈夫なのか?」

 

「あ……」

 

 青山は怖かった。神野でのシズの姿を見て、自分はこんなにも輝くことはできないと気づき、恐怖した。

 自分という人間の狭量さに嫌気がさしたのだ。

 

 だからこそ、シズからの疑問は青山の心を刺した。シズはそれを自覚していないが。

 

「……うん、もう…大丈夫」

 

「…そっか」

 

 その言葉の後、シズは青山の頭に静電気を浴びせることで痛み無く気絶させた。

 

 青山が光の粒子となって消え失せる中、シズはぽつりと言葉を零した。

 

「嘘つけ……」

 

 チーム3 全滅

 

 

 

 

 場所は変わってチーム4。

 

 チーム4の構成は『芦戸、耳郎、緑谷、峰田、鎌切、拳藤、宍田、円場、骨抜、物間、心操』の11人。

 かなり粒ぞろいのチームだ。不安要素は先ほど個性が暴走していた緑谷だろうか。あとは遠距離持ちが乏しいことだろうか。耳郎の音波攻撃や芦戸の酸くらいしかない。

 

 チーム4は工業地帯を歩いていた。ちょうど先ほどまで行っていた模擬戦と同じような作りだ。

 

「響香!どう?聞こえる?」

 

「流石にまだだよ…あと、シズだったら索敵はあまり参考にしないほうがいいと思う。音消して歩くとか朝飯前だし、そもそも瞬間移動とかで一気に近づけるし」

 

「宍田、お前はどうだ?」

 

「拳藤氏…私の鼻にも反応がありませんな」

 

 索敵要員は耳郎と宍田だ。障子や取蔭のように視覚での索敵はないが、その分嗅覚や聴覚などの空間認識の類が優れている。

 

 耳郎は芦戸に、宍田は拳藤に言われて感覚を研ぎ澄ますが、反応はなかった。

 

「いや、鼻は意味ないよ。シズって普段はいい匂いするんだけど、日常生活以外だと自分の匂い消してるし」

 

「え~…ガチ過ぎない…?」

 

 耳郎の言葉に拳藤は引いた。そもそも自分の匂いは自分ではわからないものだ。だというのにそれを消せるというシズの暴挙に引いたのだ。

 

「私の鼻でも難しいですかな」

 

「うん、宍田君の鼻は確かにすごいけど、難しいと思う。前に麻薬探知犬に夜月さんの匂いを覚えさせて放ってみたんだけど、それでも見つからなかったし」

 

「…それだと、確かに難しそうですな」

 

 索敵に関しては無駄だという結論に落ち着いた。だから、シズの奇襲を警戒し始める。

 ただその中でも作戦会議は続ける。

 

「オレのエアプリズンは効くと思うか?」

 

「秒で破られるね。弧月使うまでもなく、殴られておしまいだと思う。そもそも捉えられることはないと思うけど」

 

「となると、やっぱり正面戦闘?勝てる気しないけど…」

 

 拳藤がげんなりと言葉を発した。

 

「ううん、多分本体じゃなくて分身が来ると思うから勝ち目は十分にあると思うよ。搦め手が来たらあまり戦えないと思うけど、その時は撤退戦に移行しよう」

 

「流石緑谷!作戦とかは任せるぜ!」

 

 緑谷も爆豪と同じようにシズに稽古をつけてもらっている。シズは緑谷の個性の秘密を知っているためだ。前までは『緑谷の個性はオールマイトに譲渡されたもの』だということしか知っていなかったが、神野を経てオールマイトから緑谷の個性が『ワンフォーオール』だという名前であることを知らされ、それが代々受け継がれてきた義勇の心を持つ個性であることを知ったのだ。

 そして、緑谷には使命があることも知っている。だから、シズは緑谷の稽古をつけてもらうようにオールマイトから頼まれていたのだ。シズはそれを承諾し、部屋で稽古をつけるようになったのだ。

 

 その都合もあって、緑谷はシズの個性について詳しくなっていた。

 作戦などを緑谷に丸投げした峰田はそのような背景を知らなかったが、適材適所と言うことで緑谷に任せることにしたのだ。

 

「まずは夜月さんの動き方次第だね、僕たちのチームは拳藤さんや宍田君を筆頭に近距離戦闘に特化しているからそこで勝負しよう。峰田君や円場くんの個性は足止め程度にしかならないかもしれないけど戦闘においてその数秒の足止めはとてもありがたいから積極的に――」

 

「――それ、長くなる?」

 

 緑谷は背後から聞こえた言葉に振り向いた。その声はチームメイトの誰のものでもなかったからだ。

 

「――ッ!エアフォース!」

 

 緑谷はその場でデコピンをすることで空気砲をシズにぶつけようとする。

 

「ああ、そんなのあったね」

 

 だがシズは上半身を逸らすという最小限の動きでそれを逃れた。

 

 シズがいたのは隊列の中心。つまり、シズの後方にいる人間からすればいつの間にかシズが現れたことになるのだ。しかも、シズの声が聞こえるまで警戒すらさせてもらえなかった。気づきすらしなかったためだ。

 

「ぬぅん!!」

 

 宍田がビーストを発動して腕を薙ぎ払う。それの邪魔にならないように周囲にいるチーム4は後方に跳んだ。

 

「アハハ、やっぱり力強いね」

 

 シズは手持ちシールドを生成し、宍田の腕を受け止めてからそう言った。

 

「レイガスト……」

 

「レイ…?何それ」

 

「シールドモードとブレードモードを切り替えられる剣だよ。あと、固有の機能として――」

 

「悠長じゃない?」

 

 拳藤の疑問に緑谷が答えようとしているとき、宍田の腕を流したシズが緑谷に斬りかかった。その時のレイガストにはエンジンを吹かしたような痕跡が見られていた。それで加速したのだろうとチーム4は見当をつける。

 

 緑谷は不意打ちの攻撃に一度動きが止まってしまった。

 

「危ねぇぞ!」

 

 だが、ここで緑谷を鎌切が助けた。シズのレイガストを自身の『刃鋭』で受け止め、そのあとは緑谷の助力を借りてシズを吹き飛ばした。

 

「ごめんありがとう!……今みたいに噴出させることで急加速することもできる。『スラスター』って名前だったはず」

 

「なるほど…攻防一体なわけだ。厄介だな」

 

 心操が素直な感想を述べた。その後、一度後方へと下がる。宍田も心操についていった。

 

「ふーん…でも、バイパーみたいに複数に向いているわけではないんだね。じゃあ、案外何とかなりそうだ」

 

 物間が冷静にそういった。普段のA組あおりをしている彼の姿を見ているととても想像が難しい。

 

「なるほど、じゃあ援軍を送ろうか」

 

「ッ!!」

 

 物間の後ろからシズの声が聞こえた。物間は振り向くも、間に合わない。

 

「双大拳!!」

 

「チッ…聖覇崩拳」

 

 だが、ここで物間を助けたのが拳藤だ。彼女は徒手空拳に優れている。そしてこの分身が同じ土俵で戦った以上、与えられたのは恐らく徒手空拳の技術だと彼女は判断した。

 

「こっちは私が中心になる!誰かカバー来て!」

 

「分かった!」

 

 レイガストではシールドで酸を防がれるため効果が薄いと判断した芦戸が拳藤の方に走り寄った。

 

「オイオイ、こっちは共闘したいんだよ。分断させてたまるかっての」

 

 シズは拳藤の腹部を蹴りつけ、芦戸の方に飛ばした。芦戸は拳藤を受け止めきることが出来ず、配管に衝突してしまう。

 

「うおっ」

 

 そこで、素手のシズの体が前方に傾いた。拳藤達に追い打ちを叩き込むために近づこうとした瞬間の出来事だったため、シズでも対応が間に合わなかった。

 

「骨抜か」

 

 シズは骨抜を一番に倒そうと思い、鷲爪虎脚を放った。だが踏ん張りがきかないため速度か手数のどちらかを犠牲にする必要があった。

 シズは手数を犠牲にすることにする。放たれた鷲爪は一つのみだったが、それは十分な威力と速度を以て骨抜にせまる。

 

「エアプリズン!」

 

 円場が骨抜に技を放った。エアプリズン。彼の必殺技で、対象を捕らえることを目的とした技だ。それは空気を凝縮したものであるため、力の込め具合によっては強固な防護壁になるのだ。円場はそれを利用した。

 

 鷲爪が空気の牢獄に当たる。牢獄はそれで砕け、骨抜に鷲爪が当たってしまうが、大した痛手にはならない程に威力が落ちていた。

 

「サンキュー」

 

「おう!」

 

 骨抜の感謝に返答している間に、いつの間にか柔化した地面から脱出していたシズが円場に迫る。

 

「ッエアフォース!」

 

 緑谷がそれをカバーするためにエアフォースを放った。彼の位置からでは蹴りが間に合わないと判断してのことだろう。

 

 シズは、それを待っていた。

 

 エアフォースがきれいに流され、円場の側頭部に当たる。そして、よろけた円場の側頭部に追い打ちをかけるように容赦の欠片もない蹴りを叩き込んだ。

 

「エアフォースはとても優秀な技だ。緑谷のような近距離主体にとっては便利な遠距離攻撃手段になっていることだろう」

 

 円場は意識を手放し、光の粒子となりつつあった。

 

「だが、一定以上の技術と目を持った人間からしたらそれは単なる利用可能な武器でしかない。お前のソレは、現実的な現象であって、他の者でも再現可能なものだからだ」

 

 円場は完全に粒子と化し、消えた。

 

「だから、こうなる」

 

 戦闘が始まって僅か20秒で、チーム4から脱落者が出た。

 

「な…!クッ…」

 

 緑谷は自身の攻撃が脱落の一助になったことを悔やむ。

 

 だが、シズを相手にしてそのような暇はあるのだろうか。

 

 シズが骨抜の眼前に即座に移動する。

 

「動き出しが鈍い。後方に甘んじるな」

 

 そして、顎から骨抜を蹴り上げた。骨抜は為す術なく気絶する。

 

「骨抜くんッ!」

 

「他人の心配をしている暇があるのか?」

 

 緑谷が背後に移動したシズに対応するために振り返る。

 

「双大拳!!」

 

 だが、ここで拳藤が緑谷のカバーに入った。

 

 シズは吹き飛ばされ、配管に衝突する。

 

「ごめん、ぶっ飛ばされた…状況は!?」

 

「円場くんと骨抜くんがダウン!」

 

 拳藤はその現実に顔をしかめた。

 

「そっか…二人が。緑谷、こっちの夜月は二人で――」

 

「――スラスター」

 

 言葉を聞き、自分たちに迫ってくると判断した二人は後方に跳ぶことでそれを避けた。

 

 シズがレイガストをスラスターを発動した状態で投げたのだ。

 

「ねえ、なんで援軍としてそっちがくるの?確か荒廃地帯担当だったよね?」

 

「並列存在が向かったからいらねぇだろ。お前のペアの奴はサボってたから変わった」

 

「えー…」

 

 拳藤と緑谷を退避させたシズが拳のシズに近づく。完全に連携の構えだ。

 

「遠距離できたっけ?」

 

「できなくはねぇけどお前に守ってもらうほどではないな」

 

「えー、じゃあ連携しなくていいじゃん」

 

「それなー。各個撃破する?」

 

「それでいいんじゃないかな」

 

 二人のシズはそんな間伸びた会話をする。それは、見る人が見れば在りし日のシズとナガンの会話に似ていた。このような気のおく必要のない砕けた関係。それがシズとナガンの関係性だったのだ。

 チーム4はこのようなシズを見たことがなかったため、少しだけ戸惑ってしまった。

 

「シズお姉ちゃんが…二人!?」

 

「壊理!」

 

 ()()()()()()()()()()に、シズは喜びの声を上げた。

 

 直後、カクリとレイガストを持ったシズが意識を失った。気絶したわけではなく、意識の自由を失った感覚だ。

 それを可能とするのは心操の個性に他ならない。

 

 直後、ボコッと鈍い音が聞こえる。拳のシズがレイガストのシズを殴ったのだ。

 

「感想は?」

 

「並列存在でも無理だね。本体なら余裕でしょ」

 

 チーム4は、今の現象が理解できなかった。

 

 心操が壊理の声を真似てシズを反応させ、洗脳させた後に総攻撃をするという作戦は最も効果があると踏んでいたため、それは作戦の一つとして考えていた。

 それは最も効果を及ぼす範囲で使用する必要があった。一度しか効かないだろうからだ。

 

 ならば、なぜ今なのか。

 

「洗脳…って程高尚なものではないけど、行動誘導くらいなら私でもできる。皆もスパイダー知ってるでしょ」

 

 そこで、緑谷はミスを悟った。爆豪が要警戒を促したスパイダーは、壁に刺して罠や足場として活用するものだった。だが、体育祭で爆豪に使ったスパイダーは、シズの思いのままに操ることのできるものだったのだ。それで爆豪を一時的にとはいえ行動阻害した以上、それを使った同士討ちや個性の無駄撃ちを警戒するべきだったのだ。

 

「止まってていいの?」

 

 拳のシズがスパイダーを使って心操を引っ張り出す。

 

「心操くん!」

 

 心操は捕縛布を用いてシズを拘束しようと繰り出したが、簡単に避けられてしまった。

 

「やっぱり強くなったね」

 

「くそ」

 

 心操は悔しがり、頭突きをくらって気絶した。

 

「スラスター」

 

 心操が脱落しても、時間は待ってくれない。シズはもっと待ってくれやしなかった。

 

 スラスターで峰田に斬りかかる。だが、それを止めたのが鎌切だった。

 

「レイガストは俺が相手する!」

 

「ウチ手伝う!三奈も来て!」

 

「うぇっ!?でも酸は…」

 

「多分大丈夫だから!お願い!」

 

 芦戸は耳郎の言葉に半信半疑だったが、素直についていくことにしたようだ。

 

「三奈に来られると厄介だね」

 

 レイガストのシズは芦戸が敵に回ったことに嫌気がさしたようだ。相性の問題だろう。

 

 シズのレイガストは物質性を持たせることでその硬度を上昇させている。シールドと違い、物質性を持たせているということは、芦戸の酸で溶かすことが出来るということだ。ちなみにエスクードでも同じことになる。

 

 芦戸も酸をかけたことでそれを知ったようだ。それからは意気揚々とレイガストの相手をしだした。

 

「うわー、ホントに厄介」

 

「助けいるか?」

 

「こっちを忘れられると…困るんだけど!?」

 

 よそ見をしたシズに拳藤が掌底を打った。だが、それはシズの掌で簡単に止められてしまう。

 

「忘れてねぇよ?」

 

 そして腹部に蹴りを叩き込む。拳藤はギリギリでガードしたが、内部に響くような衝撃に顔を歪ませた。

 虚無ではない。また、期末試験でゲンセイが行ったような闘気を体に直接流し込むような真似でもない。シズの技術が、体の内部にまで及ぶものであったというだけだ。

 

 彼女はほんの少しだけ戦線離脱することになる。

 

 吹き飛ばされた拳藤と入れ替わるように緑谷が相手をしだした。

 

「どれだけ成長したのか見せてくれよ」

 

「言われなくても!」

 

 緑谷はオールマイトから授かった個性を使い、シズにぶつかる。その中には、先ほどまで暴走状態にあった謎の黒い鞭のようなものも使えていた。

 

「あれ?使えるんだ?」

 

 シズはそう言ったが、アドレナリンが出ていて極限状態に近くなったからだと推測する。普段の稽古のときでは使えないだろう。しばらくは様子見が必要だと判断した。

 

 しばらくは緑谷の相手をしていた。それにも少しだけ飽きてきたころ、変化が訪れる。

 

 宍田と峰田が攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

「うおぉおおぉお!!」

 

 峰田が声を上げながらこちらに近づいてくる。

 

「お前が突撃はセンスないだろ」

 

 だが、もちろん峰田では天地がひっくり返っても勝つことはできない。起死回生の一手を打つ暇もなくシズに蹴り上げられて気絶する。

 

 しかしそれでは終わらない。峰田も考えなしに突撃したわけではないのだ。

 

 シズは足を下ろし、宍田の対応に移ろうとした。鷲爪虎脚を放とうとしたのだ。

 

 足が上がらないことに気付く。

 

「マジか。気づかなかった」

 

 シズの左足がもぎもぎで固定されている。いくらシズと言えども峰田のもぎもぎを外すことはできない。

 

 ――なら、とる行動は一つだけだろう。

 

 シズは左足をちぎり、上空に跳躍した。

 

「なっ……」

 

「群像走乱」

 

 シズは気弾を放った。シズが虚空に拳を放つたびにそれは形を保って宍田と緑谷に襲い掛かる。

 数が多すぎる。とても二人が避けられるようなものではなかった。

 

「緑谷氏!!」

 

 ここで宍田が動いた。緑谷の方へと近づき、彼を自身の体の下へと潜り込ませる。

 そして自身は傘のように体を広げ、緑谷の上方を完全に覆った。

 

「宍田君ッ!」

 

「私よりも緑谷氏が残ったほうが最善……私では夜月氏に及びません…!……あとは任せます」

 

 宍田はそう言って群像走乱を受けた。何発も何発も、それは1発で気絶にまで持っていくほどの威力を誇っていたが、彼は耐えきったのだ。気絶すると消滅してしまうので、根性で気絶を免れ、緑谷を守り切った。

 

「すげぇな……これ耐えきったのかよ」

 

 技を放ったシズの目から見ても、宍田の耐久は異次元の域に達していたようだ。

 

 そのおかげで、シズの動きが瞬間だけとはいえ止まった。

 

 ――これを見逃さない人間がいる。

 

 A組に執着を見せ、B組と言う己の所属するクラスを心から愛しているこの男は、憎きA組の些細な隙すら見逃さない。

 

 その男の名前は、物間寧人といった。

 

 物間がシズの足を払う。再生能力がない分身のシズは片足の状態のままであるため、抵抗なく地面に崩れ落ちた。

 

 物間はそれでは終わらない。シズを気絶する手段は持ち合わせていないが、シズの頭を地面に押し付けることで動きを阻害した。

 

「戦闘の最中に動きを止めるなんて余裕なんじゃな~い??」

 

 物間はA組に対応するときの煽り口調でそう言った。

 

 物間の煽り口調が出てきたのは、余裕ができたからだろう。

 

 物間の個性は『コピー』。触れた対象の個性を5分間コピーする個性だ。ストックは3つまでで、同時発動はできない。ただし使い方によってはコンボのようなことも可能で、可能性の塊と言えるだろう。本人の器用さもそれを補強している。

 コピーにも制限はある。例えば、ファットガムの『脂肪吸着』のように体質や体形などの前提条件まではコピーすることはできない。仮にファットガムの個性をコピーしても効果はあまりない。脂肪を付ければ話は別だが。

 

 シズの個性は、その例に入らない。だから物間はこのような行動をとったのだ。

 

 そしてシズの個性に切り替えた。

 

 ――直後、彼は地面に蹲った。

 

「ぐううぅうぅぅっっ!!?」

 

 悶絶し、シズから手を放す。自分の頭を抱えて苦しみ始めた。口からは泡が吹き始め、呼吸も満足にできていない。

 

「物間っ!?」

 

 戻ってきた拳藤が腕をかばいながらシズたちの様子をうかがっていた。まだ戦闘は可能ではないが、根性でこちらに戻ってきたのだろう。

 

「私の個性は『魂』。人間の中に存在する魂を知覚することに加え、大気中に満ちているエネルギーを使うことで様々な事象を引き起こす個性だ」

 

 シズの口から出てきたのは、皆がよく知っているシズの個性のことだった。

 

「何を…」

 

「大気に存在するエネルギーの正体は過去に亡くなった人間の魂が分解したものだ。その亡くなった人間の中には志半ばで亡くなってしまった者もいれば、絶望に塗れた状態で亡くなった者も居る。そして、()()()()()()()()()()()()()()。この意味が分かるか?」

 

「……?」

 

 緑谷と拳藤はピンと来ていないようだった。

 

 シズはそんな二人を置いて自分一人だけで語る。

 

「――エネルギーには、その人の念が残っているんだ。だから、常にその怨嗟の声が聞こえてくる。そしてさっきも同じことを言ったが、()()()()()()()()()()()()()()

 

「まさか……」

 

 察しのいい緑谷が事実におびえた。

 

「私の個性を使うということは、常にその暴威に晒されるということだ。私でさえ、お母様の助力があってはじめて多少マシになった程度だからな」

 

 ここまで言えば拳藤にも理解できたようだ。彼女は頭はいいし、ちゃんと思考も回るのだが、シズの常識はずれさに慣れていないため、理解が遅かった。

 

 シズの発言にウソはない。シズの母親に個性の潜在能力を引き出してもらってすぐにこれが発覚し、向こう2週間ほどは困難な事態に陥ってしまった。幸い母親と父親の迅速な対処があって廃人になることはなかったが、もし1週間でも遅れてしまったらその人生を歩むことになっただろう。

 

 物間は今、視界を埋め尽くすエネルギーと、四方八方から聞こえてくる怨嗟の声に満たされていることだろう。物間の体に流れる情報はそれらで埋め尽くされている。ゆえに行動を起こすことはできない。たとえそれが脊髄反射であってもだ。

 

 肉体を動かすためには、運動神経を通り、運動器官へと信号を送る必要がある。

 そこに至るまでの道も、そこのゴールである運動器官でさえも、情報で埋め尽くされているのだ。その状態で、どうして人は動けようか。

 

 物間の姿を見れば、その答えは簡単にわかる。

 

『相澤先生。物間送らせるんですぐに抹消かけてあげてください。そしたら治まります』

 

 シズの本体はそれを俯瞰して見ていたため、状況がすぐにわかった。そして必要な処置を行うために相澤に一報を入れる。相澤の了承の声を聞いてシズはすぐに行動に移した。

 

 物間の首を掴んで持ち上げ、背中を床にたたきつけることで意識を奪った。物間は抵抗一つせず、粒子と化す。

 

「あっちも終わったみたいだし、そろそろだな」

 

「終わった…?」

 

「中央で待ってるぜ」

 

 そう言ったシズは粒子と化して消えた。

 

 見届けた二人は、すぐにレイガストと戦っていた方へと向かう。

 

 そこには、鎌切と耳郎がいた。

 

「芦戸さんは…?」

 

「…シズがレイガストをスラスターでプロペラみたいに使って気絶させちゃった。そのあとは消えたよ」

 

 耳郎は視界に入れた光景が信じられないように淡々と答えた。

 

 緑谷は周囲を見渡す。先程までは自分を入れて11人がここに存在していたのに、シズの分身の手によって半数以上がいなくなってしまったのだ。

 

 そう。分身だ。このチーム4に本体は介入していない。

 

「取り合えず他のチームに連絡を入れよう」

 

 失った仲間のことを悼む暇はない。

 

 残りの時間は半分以上残っている。

 

 だが、着実に終わりへと近づいている。

 

 緑谷はトランシーバーの電源を入れ、他のチームに連絡を取り始めた。

 




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