魂を満たす物語   作:よヨ余

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エキシビションⅢ

「チーム3が全滅…!?」

 

 緑谷はトランシーバーを使って他のチームと連絡を取っていた。

 一番最初に爆豪率いるチーム1が、その次に轟のチーム2がトランシーバーの電源を入れた。緑谷のチーム4は最後だった。

 

 そこで定期連絡の時間を待っていると、チーム3からの連絡がなかった。それを不思議に思った全員が、索敵組を使って荒廃地に個性を使った。荒廃地は壁がほとんどなく見晴らしが極めていいので判断にさほど時間はかからなかった。

 障子と耳郎の二人が同じように判断を下したため、信用できる情報だろう。

 

 緑谷たちはチーム3をあきらめた。一縷の望みにかけることはシズを相手取る上で意味がないという結論に全員が至っているからだ。

 

「本体がいるのはここのモールの上だ。もう中に移動したかもしれないけどな」

 

 合流してすぐに爆豪がそう言った。

 今現在はモールの入り口前にいる。12人全員が集まり、情報共有を済ませていた。

 

『あ、そうだ。モールの中に入ったら多分市街地に出ると思うからよろしくね』

 

 どこからかシズの電子音声が聞こえてくる。今の状況を把握しているのは間違いなかった。

 

 だというのに、今攻撃を仕掛けることはない。

 

「クソ舐めプが!」

 

「ま、まあ、傲慢な敵って言ってたし…」

 

「クソが!」

 

 普段は緑谷に悪態を吐く爆豪だが、今回はそれに気を回す余裕もなかったのか緑谷に暴言を吐くことはなかった。矛先はシズに向いている。

 

「入るぞ」

 

「仕切んな半分野郎!」

 

 轟が扉を開けた。爆豪は文句を言っているが、あれはまあ、そういう生き物だ。

 

 そして、連合チームは扉をくぐった。

 

 見えたのは、シズの言葉の通り市街地。ゲンセイとシズが期末試験で戦ったあの場所に似ている。

 

「ホントに市街地になってるね……」

 

「夜月のことだしなんか意味あるのかもな」

 

 シズの言葉通りに市街地になってることを認識すると、連合チームは少しだけ引いた。明らかにモールの大きさよりも大きくなっていたからだ。

 

「…多分市街地演習だ。俺たちはあまりそれやってねぇからな」

 

 そう冷静に呟くのは爆豪。彼は一度シズのこのような所業を見たことがあるので順応も早かった。

 

「ここだと何を警戒すればいいんだ?」

 

 B組の拳藤が爆豪に聞いた。爆豪が一番シズに詳しいと判断したためだ。一度暴言を吐かれることを覚悟しての言葉だったが、爆豪は意外にも冷静に答えた。戦闘においてはとてもまじめなのだ。

 あと、シズを相手にするうえでそのような暇はないというのもある。

 

「全部」

 

 拳藤が聞いた質問に端的に答える爆豪。とても乱暴で配慮の欠片もない言葉だが、その言葉は真実を正しく表していた。

 

『そうだ。さっきまでは傲慢な敵だったけど、次は私の脳無を模して戦うからそのつもりでね』

 

 また声が聞こえる。補足情報だった。

 

「福岡のか」

 

「わざわざやるってことは……やっぱり施設時代の時に取られてるって考えてるんだね」

 

 緑谷が言った、取られているという言葉が指すのは、脳無化させるための遺伝子情報などだ。そして、緑谷ひいては公安などの機関の推測は正しいだろう。詳しい数は不明だが、シズは多くとも10体ほどだと思っている。

 

 今回シズが脳無を模して戦うのは、来るべき日のための演習だ。つまり、脳無と相対したときに生き残ることが出来るのかというもの。

 

 ちなみにシズの予想では誰もシズの脳無を相手にすることが出来ない。エンデヴァーでさえも不可能だと思っている。

 

 ただ、それは時間稼ぎができないということではない。

 

 前提として、シズを模した脳無では終末崩縮消滅波などと言った絶対的な破壊行為は不可能だ。その理由として、虚無への適性がある。

 

 脳無化すると言っても、他人の要素が主体となって構成されるだろう。シズの要素は、個性や性格などの内面のみ、つまり魂に関することだ。

 肉体はその限りではない。だから、主体となる材料が虚無に高い適性を持っていないと終末崩縮消滅波はおろか、重力崩壊やカタストロフすら出すことはできない。

 

 ちなみに、その虚無への適性ラインはとても高く、シズの適性の10分の1があって初めてカタストロフを放つことが出来る。

 

 そこだけを聞くと低く聞こえるかもしれないが、一般的な人間が10000分の1だ。虚無への適性は肉体や実力的に強い人間ほど高くなる傾向があるが、雄英生やエンデヴァーでさえ100分の1に満たない。

 

 福岡の脳無の素体でさえ、50分の1だった。脳無化して生物的に強化されてもこの評価。もしチャート順位トップ10が脳無にされれば5分の1くらいにはなるかもしれないが、逆に言えばそれほどのことをしなければならないのだ。

 

 だから、シズはこのような演習を組んでいる。

 それは教師陣も同様で、今回のエキシビションのvをみて協議する予定なのだ。恐らくシズは多くのプロヒーローの事務所をめぐり、シズの脳無の対策を練るためにあちこちを駆り出されることだろう。

 

 シズの言葉は、そんな意図を持っているのだ。

 

『ああ、ちなみに――』

 

「――こっちは本気だから」

 

 シズが爆豪のすぐ後ろに転移してそう言った。

 

 爆豪は少しの油断もしていなかったので、何の苦もなく迎撃する。爆破を繰り出してシズの分身体を破壊した。

 

 それに歓声を上げる暇もなく、爆豪は前を警戒する。得も言えぬほどの悪寒が走ったからだ。

 

「ッ前!!」

 

 爆豪の言葉で後ろに傾いていた注目が前に戻る。

 そして、そこで見たのは、弓を構え、矢を放つシズの姿だった。

 

 それは音速を超える速度で飛来する。

 

 そして、小大の意識を奪った。

 

「唯!!」

 

 拳藤が悲鳴を上げる。その隙にもシズは拳藤に肉薄した。

 

「クッ…」

 

「おせぇ」

 

 拳藤の側頭部に、シズの足が吸い込まれるように向かう。

 

 拳藤に命中して気絶する――前に、轟の氷結が救い出した。

 

「ごめん!」

 

 拳藤が謝罪する。が、そんな暇はない。

 

 拳藤への攻撃が失敗したシズは舌打ちし、標的を変えた。

 その対象は、耳郎響香。

 

「――!」

 

 耳郎が振り向く暇もなく、いつの間にか生成された弧月が耳郎の首に届いた。

 

 今度は救出の手も間に合わない。耳郎は気絶し、光の粒子となって消えた。

 

 動揺するチームに、シズは容赦なく攻撃を仕掛けた。

 

「メテオラ」

 

 グラスホッパーで上空に跳び、メテオラで空襲を仕掛ける。

 

「チッ!!」

 

 爆豪と轟がそれぞれの能力で攻撃を散らす。メテオラはすべて効果を及ぼさなかった。

 

「バイパー」

 

 バイパーとともにシズが下に飛来する。バイパーが地面に当たる直前に軌道を変え、全体へと牙を剥くように、シズも攻撃を仕掛ける。

 

「旋空弧月」

 

 シズを中心として同心円状に旋空が放たれる。ただ、普通の旋空は大勢が見慣れたものであるため、簡単に避けられる。足元に放たれたという事も相まって、避けやすくなっていた。

 

 ただ、今の旋空は厄介だ。バイパーというシズがリアルタイムで弾道を設定する弾丸の追撃を空中で行うように強制される。特に、近接攻撃に乏しい柳や麗日が苦しくなる。

 

 もちろん、シズがそれを見逃すはずがない。

 

 対処に苦しむ二人を見て、シズはどちらが脅威となりうるかを考えた。

 

 麗日はガンヘッドマーシャルアーツという格闘術で対人の近接術に対応している。

 

 柳は人も動かすことが出来るので、パッと見では厄介に感じる。だが、それはシズが上空から空襲をした時に多大な効果を発揮する。そして、シズは今後それをすることはあまりない。

 

 麗日が厄介だと結論付けた。

 

「グラスホッパー」

 

 麗日の後方にグラスホッパーが出現する。それは麗日の背中に当たり、彼女の体を跳ねさせる。

 その先には、シズが待ち構えている。

 

「させるかよ!」

 

 そこでカバーに入ったのは回原。

 彼は空中で旋回することで体を翻し、バイパーを避けていたのだ。そして、そのままの勢いでシズに突貫。麗日の危機を救おうとした。

 

 とてもいい動きだ。彼ができる最大限を行い、自分の能力を十分に活用してシズに挑んでいる。

 

 惜しむらくは、バイパーを避けたことをシズに認識されている、という事を考えなかったこと。

 

「回原一本釣り」

 

 シズはそう言った後、回原の顎を蹴り上げる。回原はされるがままに空を仰ぎ、粒子化した。

 

 そして、麗日を守る者はもういない。

 

 蹴り上げた足を下ろし、その足を軸として回し蹴りをする。それは吸い込まれるように麗日の胴に入る。

 だが気絶までには至らない。シズは一度回転し、今度は畳みかけるように腕を突き出した。貫手だ。

 それは人体の急所である鳩尾にキレイに入り、麗日の呼吸が止まる。だが彼女はそれを認識する間もなく気絶した。

 

 この一連の動きで、残りメンバーの3分の1が消滅した。

 

 だが、これは節目でも何でもない。シズにとって、そして連合チームにとっても流れゆくエキシビションのワンシーンだ。

 

 だから、そのまま時間は動き出す。

 

 シズは地面に手を置いた。突き出すように地面に手を当て、今にも何かが起こりますよと示すように行動した。

 

 当然、大勢はその地面を警戒する。エスクードか、スイッチボックスか、グラスホッパーか、あるいは他の何かか。

 

 多くのことを警戒し、その比重は人によって様々だったが、共通しているのは地面かそれに近しいところを警戒しているということ。

 

 だが、この男だけは違った。

 

 インターンを経て、大空を翔るようになったこの男だけは、別の場所に警戒が向く。

 

 それは――

 

「上だっ!!」

 

 常闇の言葉で上空に警戒を移す。もちろん、地面に手を置いているシズから警戒を外すことはない。

 

 上空から落ちて行く物体は、家だった。一戸建ての木造建築であり、かなりの重量を誇る。

 重力に従ってそれは落ちて行き、地面に衝突した。

 

 メテオラをたたきつけた以上の煙幕があたりを襲う。

 

 その影響をもろに受けるのは、連合チームのみだ。シズは魂を感知して個体ごとの居場所を探ることが出来るので今この現場はシズに有利な場所へと移り変わった。

 

 爆豪がそれを許すはずがない。

 

 すぐさま爆破を叩き込み、煙幕を晴らした。爆豪も同じように地面に手を置いてから爆破したので、常闇のダークシャドウの邪魔にはならないようになっている。

 

 煙幕が晴れ、全員の姿形がよく見えるようになった。

 

「ダークシャドウ!」

 

 常闇がダークシャドウを使って飛び、ダークシャドウの片腕を大きくする。

 

 そして、シズを殴りつけた。

 

「うおっ!?」

 

 シズはここで初めてギョッとする。自身の体を吹き飛ばされるなど、考えもしなかったからだ。

 

 家を5つほど貫通し、初めて動きを止める。弧月で受け止めたとはいえ、かなりのダメージを受けてしまった。

 

(……こいつなら)

 

 シズは、一つ気になることが出来た。

 

「畳みかけろ!」

 

 拳藤の言葉を皮切りに、緑谷、轟、鎌切が突貫する。

 

 シズは、動いていない。

 それにいぶかしむ間もなく、シズは指を鳴らした。

 

 それに呼応して空模様が変わった。とはいっても、雨が降ったわけではない。太陽が沈んで暗くなり、その上厚い雲が空を満たしただけだ。

 

 これは、ダークシャドウが最大限の力を発揮するに等しい。

 

「ぬッ!ダークシャドウ!!」

 

「轟くん!かっちゃん!明かりを!!」

 

「命令すんなカス!」

 

 二人が暴走するダークシャドウを鎮めようと行動するが、それをシズが許さない。

 

「おいおい、実験中なんだ。邪魔しないでくれよ」

 

 シズはそう言って二人を吹き飛ばした。二人は何とかガードをしたが、大きく吹き飛ばされてしまう。しばらくは戦闘に参加することが出来ないだろう。

 

 シズはその勢いのままダークシャドウの潜在能力を発揮させるように動く。

 バイパーを使って電灯をすべて破壊する。もちろん、多少の光は必要なので残すが、ダークシャドウが意に介すほどの明かりはなくした。

 

 そして、ダークシャドウに虚無を流し込んだ。ただ、それは暴走させるための虚無ではない。むしろ、暴れるダークシャドウを安静にするための虚無だ。

 

「ッ!……何が狙いだ?」

 

 不審に思った常闇が、シズに問いかける。

 

「さっきも言ったろ?実験だよ」

 

 シズは、ダークシャドウに可能性を感じた。先程のダークシャドウの殴打を受ける直前、悪寒を感じたのだ。シズがそれを感じることはめったになく、異常事態だと言えた。

 

 だからこそ、可能性を感じたのだ。シズの脳無を倒すだけの可能性を見出した。

 

 まずは最大限を知り、潜在能力含めて測る。その後に評価を下し、部屋での訓練で可能性を高めようとしているのだ。

 

「舞台は整えた。さあ、()ろうぜ」

 

 シズは自身の手を曲げ、挑発する。この先の戦いを楽しもうとしているのは見ていて分かる。

 

 シズの虚無の力を借りて常闇がダークシャドウの支配権を奪い返す。これで常闇はダークシャドウの力を十全に扱うことが出来るようになった。

 

「虚無暗躯 光神(バルドル)!!」

 

 ダークシャドウがビル一つ分くらいの大きさとなり、掌でシズをたたきつけようとする。

 

 もちろんシズが黙ってやられるわけではない。威力を実験するだけなら受けてもいいのだが、脳無が抵抗したときのことを考えたのだ。

 

 恐らく脳無が扱えるであろう最大限の力を開放する。

 

(ブースト) 五重(クインティ)

 

 シズの右腕が黒く光沢する。

 

「せ――っの!!」

 

 シズはそう言って自分に活を入れながらダークシャドウの掌を殴りつけた。

 

 一時的に力は拮抗し、ギリギリという幻聴が聞こえる。

 

 ただ、それはあくまでも一時的なもの。すぐにそれは崩れ去った。

 

 ――シズの体が吹き飛ぶことで、それは幕切れする。

 

「アッハハ!マジか!」

 

 シズは心底楽しそうに吼えた。それにはおぞましいまでの笑みが零れており、シズの心情を如実に表している。

 

(五重だとダメかー。多分六重(セクスタ)でもダメかな。七重(セプタ)以上ならいけそうだけど、それ使うのは重力崩壊を使えるくらいの虚無適性が必要だし。大丈夫そう。ただ……)

 

 シズは実験の結論を出す。常闇はシズを殺すだけの力を秘めている。しかし、その挙動は単調気味でシズの脳無であろうと対処は容易。実践として相手取るには力不足だと言えた。

 

「実験終わりっ!」

 

 シズは全員に聞こえるようにそう言って左手の指で音を鳴らす。すると先ほど夜になったように、昼へと時間が変わる。雲も晴れた。

 

 ダークシャドウの体が小さくなり、常闇の体も地面に落ちようとしていた。ダークシャドウは力を短い時間で使いすぎたのか、あまり自由に体を動かすことはできていないようだ。そのせいで、常闇は自由落下していた。

 

 シズがこれを見逃す理由がない。

 

「さっきのやつの訓練、付き合うよ」

 

「……感謝する」

 

 シズは常闇とそう短く声を交わし、地面へとたたきつけた。

 

 その衝撃で常闇は意識を飛ばし、消える。

 

 ――シズは、その直後に顔をしかめた。

 

 常闇をたたきつけた瞬間に、シズの足を掴む存在が現れたのだ。

 

 その者の名は、障子目蔵と言った。

 

 常闇を助けることはできなかったが、シズの行動を阻害することに成功する。

 

 シズは複製された腕を切断しようとする。ここは仮想に近しいところであるため、ここでの負傷、損失の類はすべて元に戻る。それゆえの行動だった。

 

「そのまま掴んでろ!」

 

 その行動に移る前に、鎌切が肉薄する。緑谷のエアフォース、そして柳、拳藤による投石も同時に襲ってきていた。

 

「ちっ……」

 

 シズは舌打ちし、鎌切の刃を防ぐ。エアフォースと投石はバイパーですべて撃ち落とした。

 

 ――頭上から音が聞こえる。まるで、榴弾を思わせる音だ。

 

「せ――っのぉ!!」

 

 爆豪勝己が、頭上からハウザーインパクトを叩き込んだのだ。

 

 シズの意識は爆豪までは向かず、その一撃をもろに受けた。

 

 障子が手を離すタイミング、そして鎌切が離脱するタイミングは完璧。仲間を傷つけることなく爆豪の最大打点をぶつけることが出来た。

 

 ――爆豪の手が掴まれる。

 

「チッ!!」

 

 爆豪はそのまま投げ飛ばされた。その行先は、障子。

 

「なっ!」

 

 障子は間一髪で爆豪を受け止めた。ただ、危機は続く。

 

「エスクード」

 

 シズのエスクードによって一台の自動車が障子たちに襲い掛かった。エスクードを出したときの押し出しによって飛ばされたのだ。

 

 それは爆豪の爆破によって意味をなさない。

 

 が、出したエスクードと移動させた自動車は一つではない。

 

「――レイ子!!」

 

 拳藤が叫び、柳と自動車の間に割り込んだ。

 

 巨大化した手で受け止めたとはいえ、向かってくる自動車を受け止めると相応の衝撃が入る。拳藤は車を横に流したが、衝撃に顔をしかめて動きを少しだけ鈍らせた。

 

「止まると死ぬぞ」

 

 シズは鎌切と戻ってきた轟と相対しながらそう言う。その右手には弧月が、そして、左手にはイーグレットがあった。

 

 二発、イーグレットから放たれる。

 

 それは拳藤と柳のこめかみを正確に直撃し、二人は倒れた。

 スコープを覗かず、相手の位置すら視認しない一撃だった。

 

「てめぇ!」

 

 激昂した鎌切の猛攻がシズを襲う。しかし、得意の剣術で戦うシズにとっては児戯にも等しい。たいしてシズの行動リソースを奪うことはできなかった。

 

 そこで、轟が行動する。

 

 氷結で生成した剣をシズの足元めがけて振るう。シズの足を奪うためだ。

 

 それはシズの足まで伸び、あと数ミリで……

 

 ――足にスコーピオンを生成されることで届かない。

 

「っクソ!」

 

 轟がらしくもなくそう言い捨てた。

 

「狙いはいい。ただ、安直過ぎたな」

 

 シズはそう言い捨て、轟に足を伸ばす。

 

 轟に足が直撃する前に、緑谷が黒い鞭でその足を掴んだ。

 

「させない!」

 

 緑谷がシズの体勢を崩そうと力を強める。

 

「私に、力で勝負を挑む気か?」

 

 抑揚もなく聞こえるその声に、一同は青ざめた。

 

 サッカーボールを蹴るように足を振るう。

 

 その衝撃で緑谷の体がシズの方に引き寄せられた。すでに黒い鞭は解除しているが、遅かった。

 

 緑谷が引き寄せられてシズのもとに来るまでの短い時間で、シズは鎌切の腕を掴んでから体をひねる。

 

「もう脳無としてでなく、シズとして戦おう」

 

 そう言って、鎌切を緑谷にたたきつけた。

 

「ガァ……!」

 

 二人はうめき声をあげ、意識を奪われる。

 

「赫灼熱拳……!」

 

「カタストロフ」

 

 極限まで溜めた二人の拳が、同時に衝突した。シズは拳にカタストロフのエネルギーを纏って攻撃した。

 

「グッ……」

 

 轟が地面に二度ぶつかりながら吹き飛ぶ。地面に転がり、2秒してからようやく体勢を整えた。

 

 轟が体勢を整えて初めて視認したのは、刀を上段に構えるシズの姿。

 

「地天轟ら――」

 

「オクトブロー!!」

 

 刀を振るおうとするシズを、障子が殴りつけることで止める。シズはシールドで防御を試みたが、それをすべて砕かれてシズに打撃が命中した。

 

「強っ」

 

 シズも思わず嘆息する。まさか障子がこれほどのパワーを持っているとは思っていなかったからだ。

 

「前までは活躍できなかったからな……!これくらいは……!」

 

 障子はこの先に待ち受ける自分の運命を受け入れるようにそう言う。

 

「活躍してないってことはないと思うけどね」

 

 シズはそう言って障子に地天轟雷を叩き込んだ。障子がそれに耐えきれるはずもなく、崩れ落ちる。

 

「障子!」

 

 轟はそう言いながら氷結を出した。ただ、虚無によってそれはシズに届かない。

 

「あま……」

 

 甘い。

 そう言おうとした直後、シズの腿を氷結が貫く。

 

「おお」

 

「涼しい顔しやがって……!」

 

 轟は悪態を吐き、自身に迫る弧月を受け止めた。

 

 もちろん耐えきれるはずもなく、消失する。

 

「あと、一人」

 

 そう言ってシズは振り返る。そこには、待ち構えてたかのように爆豪が立っていた。

 

「待ってたんだ」

 

「アホ言え。介入するより勝率が高ぇだけだ」

 

 少しおちょくったシズに爆豪はそっけない言葉を浴びせる。

 

「リベンジマッチだ」

 

「勝てるといいね」

 

 爆豪とのタイマン勝負が始まった。シズと爆豪が戦うのは部屋で何回もやっているが、こうも実戦に近しい戦いは体育祭以来なのではないだろうか。

 

 あの時のシズは『教える』という事に比重を傾けていた。

 

 だが、今は違う。

 

 今は、ただ。全霊を以て。

 

「ねじ伏せてやる……!」

 

「そりゃこっちのセリフだ!」

 

 体育祭と同じ言葉を爆豪に浴びせる。爆豪も、同じ言葉をこちらに浴びせた。

 

 シズはグラスホッパーで跳躍し、爆豪も爆破で跳躍する。

 

 空中戦で数度、爆破と弧月を打ち合う。

 

 やっぱり反射神経バケモンだな。誰かがいるのならまだしも、タイマンだと強いな。さっきの分身との戦闘でも結構いい動きしてたし。

 

 シズは爆豪をそう分析する。日々の訓練で爆豪のことはある程度知っているつもりだったが、こうして実践をすることで見えてくるものもあるようだ。

 今度からは少し実戦も混ぜていこうか、とシズは思いながら爆豪を追い詰める。爆豪の動きも、徐々に精彩を欠いてきた。

 

「疲れてきた?」

 

 爆豪は答えない。いいや、答えられない。

 

 それだけの余裕がないのだ。

 

(クッソ!油断はしてねぇ。甘く見てるわけでもねぇ。ただ、こんな!こんな遠いのかよ!!)

 

 爆豪はそう自分の中で悪態を吐く。それは、自分の情けなさに対する怒りだった。

 

 神野事件の引き金になった。

 仮免に落ちた。

 何も為せていない。

 

 それが爆豪の心を確実に蝕む。

 

 そして、それはシズに看破される。

 

「迷いがあるのか?」

 

 爆豪は、その言葉に少しだけ戸惑った。

 

(晴らしてもいいが、私がすべきではない……うん、爆豪が自分で乗り越えるべきものだ。そのためには……)

 

 一度、叩き落す。

 

「頭冷やせ」

 

 シズはその言葉を皮切りに、本気を出した。

 

 中途半端な実力は出さない。それは、爆豪への冒涜になると考えたからだ。

 

 シズが自分で編み出した『万華繚乱』で、爆豪の意識を刈り取る。

 

「ク……ソ…がぁ………」

 

 爆豪は呪詛を吐いて消失する。

 

 シズも、一息ついた。

 

 そして、部屋を出る。

 

 

 

 

 

「お疲れ。Vはいつでも見れるようにしてある。それ見て自分で省みろ」

 

「はーい」

 

 シズは相澤の言葉に間伸びた返事をする。それを聞いた相澤はギロリとシズをにらんだ。少しだけシズはビクリとする。

 

 AB連合は、自分たちの情けなさを嘆いていた。

 

「どうだった」

 

 相澤はシズにそう問いかけた。

 

「常闇のダークシャドウ全解放は大丈夫でしょう。ただ、私の脳無を一人で相手取ることはできません。あくまでも、決定力があると言うだけ。私が対処するほうがいいでしょうね」

 

「……そうか」

 

 相澤はわかっていたとばかりにそう言う。

 

「プロヒーローだろうと厳しいでしょうね。脳無は虚無の適性の関係でカタストロフ以上の技を出すことはできないのでそう言った理不尽さはありませんが、そもそもの膂力と技術が違うので……」

 

 シズの言葉を聞き、相澤はブラドキングとともに協議し、教師全体と意見を共有することにしたようだ。

 

 とはいっても、結論は変わらないだろう。

 シズが脳無を相手にする。その結論は変わらない。シズもそのつもりだ。

 

 少し長くなったエキシビションだったが、シズの勝利と言う形で幕を閉じた。




 遅くなりました……頭が回りませんでした……。

 誤字や矛盾などあったら報告よろしくです!

 あと今回みたいに展開を考える頭が回らなくなったとき用の作品として『少年は愛したい』を投稿しています。原作は『かぐや様は告らせたい』です。
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