魂を満たす物語   作:よヨ余

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殲滅作戦

 3月下旬。

 

 シズは、和歌山県群訝市上空に位置していた。

 

 シズがここにいる理由を説明するには、少しだけ時間を巻き戻す必要がある。

 

 

 

 

 

 

 和歌山県群訝市、群訝山荘前。

 

 ここには、私たちインターン生を含めて日本中のヒーローが集まってると言ってもよかった。

 

 ただ、エンデヴァーやミルコなどの有力ヒーローの姿は見えない。こことは別の場所で作戦を執り行っているからだ。

 

「シズ、ツクヨミ、チャージズマ!少しいいかしら?」

 

「私はすでに話を聞いています。構いませんよ」

 

「えっ!?何?なんなの!?」

 

 ミッドナイト先生の言葉に、私と上鳴はそれぞれ特徴的な反応をする。

 私は前もってホークスから話を聞いていたので、理解は早い。ただ、このインターンの目的すらよくわかっていない上鳴からすれば動揺もいいところなのだろう。普段以上に慌てふためいていた。

 

 円滑に話を進めるために、教えてやろう。

 

「今日のインターンは、敵連合の一網打尽が目的だ。別れている爆豪たちも、エンデヴァーを筆頭とした投入陣の後方支援に努めている。こっちのチームはエッジショットとホークスが中心だな」

 

「ホークス!いるのか!?」

 

 常闇がホークスの単語に反応した。彼からすればインターンで成長を見てくれなかったことに少なからず不満を抱いているのだろう。ホークスにはちゃんと常闇の面倒を見るように言ったんだけどな。

 

「ああ、元々敵陣に潜入していたんだ。その情報によって、こうも精密な作戦を練ることが出来たんだ」

 

 上鳴と常闇はホークスの仕事ぶりに瞠目した。一人で敵陣に潜入して情報を集めるという所業の難しさを、感覚的にとはいえ理解しているからだろう。

 

 ミッドナイト先生の話を遮ってしまったため、口の前に指でバッテンを作る。先生にバトンタッチした。

 

「シズが言ったように、私たちは今から敵――敵連合および敵連合に取り込まれた異能解放軍を一網打尽にするために突入します。インターン生には後方支援を主としてもらうけれど、一部のヒーローには初動での個性行使をお願いしたいの」

 

「それが…俺達……?」

 

 上鳴の言葉に、ミッドナイト先生はコクリと頷いた。

 

「…やってくれるかしら」

 

 常闇と上鳴は、互いの顔をちらりと見てミッドナイト先生に向き直る。

 

「「やります!」」

 

 ミッドナイト先生は二人の頼もしい発言に顔をほころばせ、B組の方に向かった。骨抜と小森に協力を要請するようだ。

 

 私は、今日が晴天且つ、今は光を遮るものがないことを確認し、常闇にプレゼントを渡すことにした。

 

「常闇、これ持っとけ」

 

「これは…?」

 

「ダークシャドウ用の虚無だ。もし光や火を使うような奴がいて、人命救助を優先しなければならないときに使え。戦闘用にカスタマイズしてない」

 

「…感謝する」

 

「アリガトナ!!」

 

 常闇とダークシャドウが私のプレゼントに感謝を述べた。

 

 「コレ美味インダ」とダークシャドウが言っている。どうやら虚無は美味しいらしい。

 そう言えば、食べたことはなかったな。纏ったことも循環させたこともあるのに食べたことはなかった。

 

 少しだけ興味が出てきたので、パクリと食べてみる。ポップコーン一粒くらいの大きさだ。

 

「うえっマズッ。これ本当においしいの?」

 

「ウマイゼ!」

 

 ダークシャドウがサムズアップして答える。

 

「食べんなよ……」

 

「いや、だって気になっちゃったから…」

 

 ニッコニコのダークシャドウが何だか愛おしくなってきた。なでなでしてあげよう。

 

「ナ、ナンダヨ!」

 

「照れんなって」

 

 私の手を払うように腕を動かすダークシャドウをいなし、私はなでなでを続ける。

 

「取り込み中すまない」

 

「エッジショット」

 

「助ケテクレ!」

 

 ダークシャドウは私から逃げるようにエッジショットの背中に隠れる。少しだけ残念だ。

 

「もう出陣ですか?」

 

「ああ、頼めるか?」

 

「了解です。展開が完了したら通信しますね」

 

「よろしく頼む」

 

 話がとんとん拍子で進む私たちは、上鳴と常闇を置いてけぼりにしていた。

 

「え、もしかして俺達もすぐにか?」

 

「違う違う。私は先陣を切るから準備しとくんだよ。でも、二人の出番はもうちょっとで来るから、心構えはしっかりね」

 

「……何か不安になってきた」

 

「アハハ、大丈夫だよ。私がいるからさ」

 

「おお…まあ確かに」

 

 本当はこれで安心するのは本意ではないのだが、今は事態が事態だ。作戦の成否にかかわる可能性があるため、少しでも不安要素は排除しておきたい。

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

「おう、気を付けてな!」

 

「武運を祈る」

 

 私は二人の声援を背にして飛翔した。

 

 

 

 

 とまあ、これがシズがここにいる理由だ。

 

 上空数百メートルに位置する。本来なら数千メートルに位置して誰も干渉できない場所から殲滅を開始すべきなのだが、バイパーなどの弾速の関係からこの高さになった。

 

 神之怒(メギド)ならば数千メートルでも問題ないくらいの速さを誇るのだが、解放戦線のメンバーの多くが山荘内にいることと、突入するヒーローへのフレンドリーファイアを危惧して使うことはない。

 最大限までに演算能力を開放した上、周りの植物や大気、微生物などの魂に干渉して演算能力を借りれば何の問題もなく実行できるのだが、それでは作戦後の環境に問題が生じてしまう。魂に干渉しすぎると生物を殺してしまうのだ。

 

「やあやあシズちゃん!調子はどうだい?」

 

「マジェスティックですか。快調ですよ。そちらの準備は終わったのでしょうか?」

 

「そうそう。それを伝えに来ようと思ってね。こっちはもういつでも行けるよ!そっちはどうかな?」

 

「了解しました。私も準備が整ったので問題ありません。今すぐにでも始められますよ」

 

 上空のシズに近づいて会話してきたのはマジェスティック。彼はプロヒーローであり、ギャングオルカやリューキュウ、シシドなどとトップ10争いを繰り広げるほどの有力ヒーローだ。

 彼は個性「マホウ」でリングを生成する。それによって多くの人を運ぶことができ、救助に関しては彼はトップレベルだと言っていいだろう。

 ちなみに、八百万と取蔭のインターン先ヒーローである。

 

 シズはそんな彼に現在の状況を伝える。

 確認だけなら無線で事足りるのだが、実際に目にして確認することで見えるものもある。仮に緊張の類で作戦に支障が出ると判断された場合、根本の作戦から見直す必要がある。だからこそ、マジェスティックは自分の個性を用いてシズに近づいたのだ。

 とはいっても、すでに4つほどの作戦が考えられていたため問題は特になかったのだが。

 

「こちらマジェスティック。シズの準備が整った」

 

『こちらエッジショット。了解した』

 

 エッジショットのその言葉は、作戦開始に等しかった。

 

 ヒーローたちが一斉に山荘に向かって駆ける。その中には協力を要請されたツクヨミにチャージズマ、シーメイジ、マッドマンの姿もあった。

 

 シズは駆けるヒーローたちに紛れるチャージズマとツクヨミを見る。彼らの隣にはミッドナイトがおり、狼狽えるチャージズマに活を入れていた。

 

(まあ、チャージズマなら大丈夫でしょ。あいつは強いし、優しいから)

 

 シズは少しだけ不安に思ったが、普段の彼の特性を思い出してその不安を解消する。赤の他人はともかく、シズは知り合いを死なせることは万に一つもないし、そもそもシズを除いたインターン生は初動のみの個性行使。そもそもの危険度が違った。

 

 と、そこまで思考したところでセメントスが山荘を破壊することで()()()。山荘はセメントで作られているため彼の独壇場となっていたのだ。

 

「作戦を開始します」

 

 シズはそう言ってあらかじめ生成していた弾丸を雨のように降らせる。山荘内でも入り口に近いところに位置していた構成員たちは何が起こったのかもわからないままに気絶。その直後にスパイダーによってヒーローの陣営へと投げ飛ばされた。

 ただ、やはりそうではない者も居る。

 

「やっぱり解放戦線の人たちは一般兵でも強いか。バイパーくらいじゃ散らされちゃう」

 

 前提として、バイパーは中距離以内で真価を発揮する。間違っても数百メートル上空から放つようなものではないのだ。

 シズが使うからこそ、そこまでの射程を誇ることが出来るのだが、やはりその速度はある程度の強者にとっては見切ることなど児戯にも等しくなってしまう。

 

 今も、幹部級の者が電撃によって弾丸を撃ち落としながらヒーローたちへと広域攻撃を仕掛けた。

 

 しかし。

 

 その電撃が、たった一人の人間のもとへと収束し、せっかくの広域制圧攻撃が無に帰した。その一人に電撃が効果を及ぼさなかったからだ。

 

「さっすがチャージズマ」

 

 シズはそう独り言ちる。不安はなかったはずだが、やはりこうして肉眼で確認すると安堵が出て来るのだ。

 

 チャージズマが敵幹部を無力化したことを皮切りに、ヒーローサイドの士気が上がる。電撃系個性という強者の象徴を、学生が無力化したという事でプロが奮い立った。

 また、シーメイジやマッドマンも同い年が活躍したことで「次は自分が」と奮起している。彼らの個性で広域制圧し、こちらもまた活躍していた。

 

 ツクヨミは少しだけ活躍の仕方が違う。彼の個性は夜以外は広域制圧に向いていないので、暗いところでの戦闘だ。その上、隠し通路の一本道というダークシャドウが今最も活躍できる場所での活躍だった。

 

「今のところは順調……」

 

 シズは、シンリンカムイやシーメイジたちによって動きを止めた敵に集中して弾丸を浴びせることで、敵の頭数を確実に減らすように動いた。

 また、一般兵との戦闘で不利状況に陥ってしまったヒーローを弾丸で援護する。

 

「……奥から強い奴らが出てきた。隊長格……いや、班長格ってとこかな?」

 

 シズはその新たな戦力に対応するためにイーグレットを生成する。より速く、確実な援護方法で援護幅を広げた。その範囲もだ。

 

 それによって他のヒーローの負担は少なくなったが、代償は大きい。

 

(…鼻血が出てきた。これ以上負荷をかけると脳の血管が焼き切れるな)

 

 仮に血管が焼き切れても、再生を即座に回せばいい上、数秒程度なら死ぬことがないので特段問題ないのだが、未だ敵の全貌が出てきていない現在ではいつ状況がひっくり返るかどうかわかったものではないため、無理はすべきではない。

 

 シズは鼻血を拭って何事もなかったかのようにふるまう。そして、不測の事態に備えることにリソースを割き始めた。

 

「こちらシズ。座標軸の把握及び演算を終了しました。これより、神之怒(メギド)を開始します」

 

『『『了解!!』』』

 

 山荘から十分な敵が出てきたことと、外にいるヒーローの多くが中に入ったこと。チャージズマを筆頭とした学生陣が後退を始めたことを契機とし、作戦の開始を伝達した。

 

 シズは、自身の演算能力をフルに活用し、この場にいるヒーローと敵の座標位置を把握していた。弾丸類や狙撃に加えてこの作業を続けていたため、鼻血が出て来るほどの負荷がかかっていたのだ。特に、座標の把握はコンマ単位で変わってくるため常に意識を張り巡らせる必要がある。徐々に虚無を脳に流すことで把握範囲を拡大させ、今ようやく準備が整ったのだ。

 

 その後、シズを中心として直径2㎝程の水球が漂い始める。

 

 十分な数に達した後、それはその真価を発揮する。

 

「神之怒」

 

 神の怒り。

 

 その名にふさわしい暴力が、群訝山荘を満たした。

 

 終末崩縮消滅波のような圧倒的な暴力とは違う、機械的に敵を倒すための暴力。

 

 神之怒によって、外の敵の半数以上が気絶。そのまた半分が戦闘困難までに追い込まれた。

 

 作戦が成功したことに安堵していると、ツクヨミが飛翔しているのが見える。

 

「ツクヨミ……?」

 

 その表情は、何かを案じているような、そんな必死な表情だった。

 

 シズは嫌な予感がしてツクヨミの視線の方角を見る。

 

 そこには、蒼炎が燃えた後が見える。考えるまでもなく、荼毘によるものだと結論付けた。

 

(恐らくホークス…ツクヨミもホークスも荼毘相手に有利を取れるわけではない……外も落ち着いたし、蒼炎に気付いたものも、助けに行けるものも居ない)

 

『ツクヨミ』

 

『シズ……!?』

 

『すぐに向かう。15秒時間を稼げ』

 

『ッ了解!』

 

 シズはツクヨミに魂経由で連絡を入れ、己の仕事の跡継ぎを迅速に行った。

 

 とはいっても、分身体を複数生成して弾丸と神之怒、イーグレットの権能を与えるだけだ。そして、捕獲が済んだまたは意識が無くなった敵を後方に転送し、輸送班に委ねた。

 

 そして、シズは転移する。

 

 

 

 

 

 

「殺しやがったな……よくも、トゥワイスを殺したな!!」

 

「それが…仲間を殺された奴の表情(かお)か!?」

 

 場所は変わり、時間は神之怒が開始された直後に巻き戻る。

 

 そこには、ホークスと、そのホークスを踏みつけている荼毘の姿が見える。

 そして、そのすぐ近くには多くの血を流しすぎてしまったせいで倒れ伏すトゥワイスの姿が。誰の目から見ても、死んでいた。

 ホークスは、荼毘の炎によって羽根が全焼。ここまで焼かれていると剛翼の個性因子も爛れている可能性があった。彼の剛翼は数日で生えそろうが、ここまで傷ついているとそれすらも怪しい。彼は、ヒーロー生命を燃やしているのだ。

 荼毘は、自身の炎でその身を燃やしている。彼の体からは焦げ臭いような臭いがすることからそれがよくわかる。また、ホークスの言葉は、荼毘の溢れんばかりの狂気的な笑顔から来るものだった。

 

「何て言い草だ、ひどい!涙腺が焼けて泣けねぇんだよ俺ァよ!トゥワイスがいりゃ俺の夢はより確実に叶ってたんだ!悲しいに決まってる!すげぇ悲しいよ!」

 

「グアッ…!連合の…素性を調べた……!お前と、死柄木だけだ、何も出なかった人間は!お前は…誰だ……!」

 

 その問いは、荼毘にとって答える必要のないものだ。だが、彼は気まぐれかなんなのか、それは本人以外に測れるようなものではないが、答えた。

 

「ypfptplo ypius」

 

「……!!?」

 

 瞠目。それは絶対にありえない名前で、それでいて大きな危険をはらんでいたから。別ベクトルとは言え、死柄木やトゥワイスに匹敵するほどの。

 

「死柄木やトゥワイスよりも、お前は俺をマークしなきゃいけなかったんだ。連合も、死柄木もハナからどうでもいい。一人の人間のたった一つの信念で世界は変えられる。この世界に本物の英雄なんていやしねぇ。偽物は殺す…そうさ俺は、ステインの意思を全うする者だ!!」

 

 ステイン。敵連合が集まった原因。そして、ここまで敵連合が大きくなった節目となった存在。

 

「じゃあなホークス。お前の生死も、俺にはどうでもいい!!」

 

 そう言って、荼毘はホークスを死に追いやる炎を放とうとした。

 

 それがホークスを焼く――その直前。一人のヒーローが助けにやってきた。

 

「ホークス!」

 

 ツクヨミだ。

 

 荼毘が炎を放つ直前に、ホークスを開放するために荼毘に威嚇攻撃を仕掛ける。威嚇なのでもちろん荼毘に攻撃は当たらない。しかし、荼毘とホークスの距離を離すことには成功した。

 あとはホークスを連れて撤退するだけだが、荼毘とツクヨミの相性は最悪。シズから与えられた虚無を使えば逃げ切れないこともないかもしれないが、この狭い一本道では博打になる。安易な行動はとれなかった。

 

「フミカゲマズイよ……」

 

「言うな!」

 

「ホークスの背中が…ない…!翼が、燃えて……!」

 

 ホークスにツクヨミの外套をかぶせたダークシャドウが彼の痛ましい現実にいち早く気付く。ツクヨミも同じように理解していたようで、その言葉を聞かせないようにダークシャドウの言葉を止めた。

 しかし、ダークシャドウにとってはホークスは大事な人なのだ。師匠と言うのもそうだが、何よりも鳥仲間として親近感を抱いていた。

 そのホークスが、大怪我を負っているのだ。そして、それを間近に見てしまった。言うなというのは、ダークシャドウにとって酷だろう。

 

「お前は雄英の……だせぇな。おい、見ろよガキ。そいつが殺した。仲間を守ろうと走る足を、後ろからグサッと」

 

 荼毘は、学生という精神的に未熟な傾向が強いツクヨミの精神を揺さぶるために舌戦を仕掛ける。

 ツクヨミはその術中にはまる。流石に警戒を怠ることはしなかったが、それでも思考はその事実で埋め尽くされていた。

 愛する師が、殺人を行ったのだ。それも、ナンバー2という皆の憧れが。到底信じられることではなかった。

 しかし、倒れ伏すトゥワイスと、ここには自分たち以外に誰もいないという事実により、それが真実だと認めざるを得なかった。

 

 荼毘の言葉は続く。

 

「……で?何しに来た?助けに来た、何を助けに来た?お前が健気に夢見るプロってやつらは、俺達よりもよっぽど薄汚ぇぞ」

 

 荼毘の言葉で、ツクヨミは揺れる。見ることが出来なかったヒーローの闇を、垣間見たような錯覚を覚えたからだ。

 

 同時に、もしかしたらシズはこんな思いをしたのかもしれないと思った。

 もちろん、境遇も、状況も、意識も。シズとは違う。自分がわかるような浅いものではなかった。

 しかし、それに触れたような錯覚を覚え、おぞましく思ったのだ。

 

「とこ…闇……くん」

 

 しかし、そんな彼の意識を正しく治すのは、己が師であるホークスだった。

 彼の言葉を聞いて、彼は胸の内から込みあがる何かを明確に感じ取った。それは、他ならない自分の本音だった。

 

(俺は、信じている)

 

 だからこそ、この言葉が出る。

 

「俺は、ただ師を案じただけだ…!」

 

「思考停止」

 

 ツクヨミの言葉を聞き、荼毘は言葉による誘導が意味がないと判断し、実力行使に出た。彼にとっては、焼き鳥が一匹増える程度の認識だったのだ。

 

 その灼熱の蒼炎は、ツクヨミとホークスを燃やす。

 

 ――ことはなく、直前で消え去った。

 

「ハハッ。ようやく来たな」

 

「こんにちは、おねむりくん…だったかな?」

 

 シズが、助けに来たのだ。

 

 シズは荼毘の方を向いたまま、ツクヨミに命令する。

 

「行け。救護エリアでこれ飲ませろ」

 

了解(ラジャー)!」

 

 シズはツクヨミにゲル状の物体を持たせる。シズが剛翼の魂を見たところ、かなり爛れていることで使い物にならなくなる恐れがあったため、応急処置を行うのだ。この作戦が終了した後に改めて治すつもりだった。

 シズはあまり人を治すことはしないのだが、一人でここまで頑張ったホークスには、治癒を受け取るだけの権利があると考えたのだ。

 

 ツクヨミたちが後方に撤退したことを確認したシズは、荼毘の確保に動こうとする。

 

 その前に、確認すべきことがあった。

 

「さて、君はおねむりくんで合ってるよね?」

 

「ハハッ、知ってんのか。ああ、そうだったな、オールフォーワンの施設に居たってんなら俺となにかしらのつながりもあんのか。神野ん時の質問もこれが理由かよ」

 

「…」

 

 シズは、それが正解であって不正解であるがために黙った。確かに疑問を覚えた理由はそれなのだが、今見ると何故だかソレは不正解であるような錯覚を覚えるのだ。

 確かに荼毘はおねむりくんなのだが、その爛れきった魂の輝きは――

 

(まさか……!)

 

 シズが答えにたどり着いたと同時に、荼毘が動いた。

 

「こっちも質問しようか。こういった戦争において、簡単に状況を覆すには何をすればいいと思う?」

 

 シズは、その質問の意図がわからなかった。

 しかし、何故だか体中に寒気が走っていた。第六感が、最悪の状況になることを予測したのだ。

 

 それは的中する。

 

「答えはな――敵の最高戦力を仲間にすることだよ」

 

 そして、荼毘は懐から出したスイッチを押す。

 

 

 ―――そして、シズの意識はカクリと落ちた。

 

 

 荼毘は己の行動が正しく作用したことを確認し、安堵のため息を吐く。

 

「氏子さんが言ってた通りなんだな。信じてなかったが、案外嘘つかねえもんだな」

 

 荼毘は、およそ数週間前の出来事を思い出す。

 

 

 

 

 

 荼毘は、氏子――通称、ドクター――の脳無の泥ワープによって転送されていた。

 

「おい。何のようだ?」

 

 荼毘は事前情報がない転送に苛立ち、ドクターに問う。面白くない答えだったら燃やしてやるつもりでいた。

 

「ホッホッホ。そうカッカするでない。最悪の事態の備えとして、おぬしに託したいものがあってのう」

 

「託したいもの?」

 

 荼毘は予想がつかなかった要件に眉間にしわを寄せる。

 

「これじゃ」

 

 そう言って、ドクターは一つのスイッチを荼毘に投げた。荼毘はそれを完璧にキャッチし、全体像を見回してみる。なんの変哲もない普通のスイッチだった。

 

「なんだコレ」

 

「これはのぅ。ヒーロー側の最大戦力を一時的に言いなりにできるスイッチじゃよ」

 

「はあ?」

 

 荼毘はまたもや眉間にしわを寄せる。個人名が出ていないことで抽象的な答えだったからだ。

 

 しかし、幸いにも荼毘には心当たりがあった。

 

「最大戦力…夜月か?」

 

「ホッホ!そうじゃそうじゃ!彼女は以前わしたちの支配下にあったからの。こういった不測の事態に備えて色々仕込んでいたのじゃよ。そのスイッチを押せば、押した人間の命令を聞かせることが可能じゃ。その時シズの意識はなくての、一種の洗脳みたいなものじゃ」

 

 荼毘はその説明でドクターが託したものに予測がついたが、何故自分なのか、という疑問が出てきた。

 ただ、それはどうでもいい。というより、解消する優先度は低い。

 問題は、本当にこれが効くのかというものだ。シズの目の前だろうと、そうじゃなかろうと、押したけど効きませんでしたじゃ意味がない。シズを前提として動くのも不確実だからだ。

 

「保証はあるのか?」

 

「流石、鋭いのう!恐らくシズは神野以降公安の調査を受けているはずじゃが、このシステムに干渉された痕跡はない。なぜなら、それはシズの魂に直接干渉したものだからじゃ!」

 

「あ?それだと自分で気づけんだろ。自分の体だぞ?」

 

「ホッホ。オールフォーワンはシズの個性をある程度使いこなしていたからの。10年隠すくらいは朝飯前なのじゃよ」

 

 シズが神野で予測したように、オールフォーワンはシズに返した記憶の年代のサバを読んでいた。事実、オールフォーワンがシズの魂を使いこなすまでの2日間の記憶は、未だにシズに戻ってきていない。ドクターが言っている仕込みも、その二日間で行ったものだ。

 

「……ハッ。まあ、あまり期待しないでおくぜ」

 

「それが良い。あやつは個性抜きでも化け物じゃからのう。何が起こるのかわかったものではないわい。命令の数も1~2個が限界じゃろうし」

 

 荼毘はその言葉を聞き、再び転送された。

 

 

 

 

 

「さて…」

 

 荼毘は回想を終え、シズへ命令を下す。

 ドクター曰く、命令の数の制限はせいぜいが2個。そのうちの一つは軽いものにしなければならないので、実質的には1.2個くらいだった。

 

 数が制限されているという事は、恐らく時間も制限されているだろうと思い、荼毘は命令を急いだ。

 

 

「――トゥワイスを蘇生しろ」

 

 

 それは、今までの作戦が無に帰すような、悍ましいまでの命令だった。

 

 しかし、シズにそれを拒絶するような権限はない。肉体の所有権を奪われており、正しく操り人形だからだ。

 

「……」

 

 シズはトゥワイスの血液情報などを解析し、虚無を用いて血液を創造する。抉られて使い物にならなくなった肉片も、虚無によって補填した。

 これでトゥワイスの肉体が完全に戻る。後は精神だ。

 

 トゥワイスが一度死んだことで大気中にトゥワイスの魂が滞留している。その魂をかき集め、復元するだけで済んだ。復元した魂を丁寧に心臓に挿入する。

 

 

 ――トゥワイスの瞳が、開いた。

 

 

「あ……?」

 

 トゥワイスは、今の状況があまり理解できていないようだ。当然だ。先程までは本当に死んでいたのだから。

 

「あっ!?ホークス!」

 

「落ち着けトゥワイス。あいつはいなくなったぜ」

 

「荼毘!いないってどういうことだよ!?いるにきまってるぜ!!」

 

 いつも通りの支離滅裂な言動を見て、荼毘はシズの所業に感服すると同時に、得も言われない恐怖を抱いた。

 

(魂は確か大気に満ちてるんだよな?何百年も前に死んだ奴らの魂も。その中からトゥワイスのものだけを抽出したのか?そうでなけりゃこうも生前のトゥワイスは再現できねぇだろ)

 

 荼毘はシズが行った所業を正しく理解した。そして、正しく理解してしまったがゆえに、シズの底知れなさを垣間見てしまったのだ。

 

(しかも、これが学生…)

 

 そう、シズはまだ成人もしていないのだ。プロヒーローをも優に凌駕する活躍でその事実が隠れかけてしまうが、年齢としては16と半年ほど。まだ全盛期にもなっていないのだ。

 

 そこまで思考して、荼毘はシズの体が小刻みに震えていることに気付く。

 

「ハハッ、本当にバケモンだな!」

 

 シズが今の支配状況を打破しようともがいている。

 

 ちなみに、今のシズは意識を失っている。気絶と同じような状況だ。

 つまり、シズは無意識下で己の危機を理解し、己ができる行動を採ろうとしているという事。

 

 もし、トゥワイスの近くでシズが復活したら、トゥワイスと荼毘は即座に気絶させられ、せっかくの蘇生も意味をなさなくなってしまう。

 

 だから、そうなる前に簡単な命令を下す。

 

「最初に居た場所に戻れ」

 

 シズは未だ意識を取り戻していなかったため、素直に命令に従って飛翔してしまった。ゆらゆらと覚束ない飛翔だ。

 

「トゥワイス。お前は夜月の足止めをしろ。できるな?」

 

「ああ……今度こそ!俺はみんなの役に立つんだ!」

 

「ああ、暴れて来い。皆が、今度こそ待ってるぜ」

 

「ああ……ああ!!」

 

 今。ここに。

 

 ――悪夢が、姿を現す。

 

 

哀れな死の行進(サッドマンズデスパレード)!!」

 

 




 誤字、矛盾などあったら報告よろしくです!

 荼毘の文字化けもどきは、もう一つの作品で割と頻繁に使う暗号と一緒です。感想などで答え合わせなどするのでわかった方はぜひ…。
 まあ、言葉の内容自体は簡単ですけどね。
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