魂を満たす物語   作:よヨ余

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シズVSトゥワイス

哀れな死の行進(サッドマンズデスパレード)!!」

 

 敵連合最大戦力の一角、トゥワイスの必殺技が顕現する。それは瞬く間に山荘を満たす。

 

「仁くん……!?」

 

「トゥワイス…!?お前、死んだんじゃ……!」

 

 それに驚いた表情を見せるのは、先ほどトゥワイスの分身から本体の事情をある程度聞いていたトガとコンプレス。彼から直々に「もう増やせない」と聞いていたがために、もう死んでしまったのだとあたりを付けていたのだ。それが、今覆された。

 

「夜月に蘇生してもらったんだ!生きれるのは一時的らしいけどな!!」

 

「荼毘が操ったからな!」

 

「一時的とは言え味方になったんだぜ!」

 

「今はもう敵だぜ!」

 

「何言ってんだ味方さ!」

 

「はあ!?敵に決まってんだろ!」

 

「オイオイ、それは大事なのか?」

 

「そうさ、俺達は――」

 

「――俺たちの魂は、連合の皆の幸せのために!!」

 

「う、うるっせーー!」

 

 トゥワイスのやかましい声にコンプレスはツッコミを入れる。

 

「仁くん、死んじゃうの?」

 

 トガだけは、トゥワイスの一番初めの言葉を反芻した。そして、その真偽を彼に問うたのだ。

 

 トゥワイスは動きを止め、トガに向き直る。サッドマンズデスパレードは一時的に動きを止めていた。

 

「ああ、そうさ。そもそも、俺は一度死んだ。今こうして生きていることが奇跡なんだよ。虚無ってやつで延命されているだけで、すぐに霧散して消える。せいぜいが2~30分――って、荼毘が言ってたぜ!!」

 

 自分が死ぬというのに、明るく気丈に振舞ってトガを元気づけるトゥワイス。トガにとってはトゥワイスは兄のようで友達のようだった。言うまでもなく、「好き」の対象なのだ。

 だからこそ、トゥワイスの気持ちがよくわかる。トガも連合のことは好きだ。それは、トゥワイスにとっても同じこと。特にトゥワイスはその気が強かった。

 

 彼が殿となって状況を打破する。

 

 悪く言えば、囮となることを、正しく把握してしまった。

 

 それに物申そうとした直後、地面から大きな手が出て来る。それは周りの地面を崩しながら姿を現す。

 

 ギガントマキアだった。

 

 すでに地下でスピナーを自分の背に乗せたマキアは、トガやコンプレス、荼毘を背に乗せる。荼毘を乗せて行くときには、彼の推薦もあってスケプティックも乗せて行った。

 そして、トゥワイスの本体も乗せて行こうと手を伸ばす。

 

「やめろマキア!俺はもうじき死ぬ。今お前が死柄木の所に連れて行っても犬死するだけだ。だから!俺がヒーローをかく乱してやる。お前は俺を置いて先に行け!!」

 

 それを、トゥワイスが止めた。

 

 トガはその言葉と、その言葉に隠された彼の本気の思いを感じ取り、自分が言おうとした言葉を恥じた。

 

 彼は、マグネが治崎によって殺されたときも、「自分が連れてきたせいだ」と自責の念に駆られていた。

 義爛が異能解放軍に捕らえられた時は、いの一番に助けに向かおうと進言した。

 

 彼は、自分が大好きな敵連合のために必死なのだ。そして、ようやく自分の出番が来たと奮起しているのだ。

 

「仁くん……」

 

 トガは、彼の覚悟を決して無下にしてはならないと悟った。気づかいに長けたコンプレスや、自分の目的以外に興味がない荼毘とは違う。自分の好きなようにやってきた彼女が、初めて人のために慮ったのだ。

 それが、好きな人にしてやれる最善の道だと信じて。

 

「――ありがとう」

 

「……へへっ」

 

 トゥワイス――分倍河原 仁――は、歓喜していた。

 

 己が身が、敵連合(みんな)のためになると。生かされた命が、敵連合(みんな)のためになると。

 そして、妹のような少女に、またもや感謝されたことを。

 

「――愛してるぜ」

 

 そして、マキアは走り出す。他ならぬ主のために。

 

 その背を見届け、トゥワイスは独りぼっちだ。

 

 そう、()()()()独りぼっちだ。

 

「ハッハハハハ!!行くぜヒーロー!!」

 

 

 

「「「「「俺達が相手だ!!」」」」」

 

 

 

 威勢よく張り上げるその声に、ヒーローたちは――

 

 ――その場から消え失せることで答えた。

 

「「「「「………」」」」」

 

 トゥワイスたちは、忽然と瞬間移動したヒーローたちを見て、たった一つだけ思う。

 

 

 

「「「「「なんでぇ!?」」」」」

 

 

 

 

 

 数分前。

 

 シズは意識を取り戻した。オールフォーワンの仕込みの効果が切れたのだ。

 

「あ……?」

 

 だが、それは状況を把握しているという事とイコールではない。シズが始めに行ったのは状況把握だった。

 

「外典…ギガントマキア…」

 

 そして、それを見る。

 

「トゥワイス……!?」

 

 それは、シズの記憶の中では確実に死んでいたトゥワイスだった。魂も辺りに滞留していたことを記憶しているので間違いはない。

 しかし、現にトゥワイスは生きている。

 ならば、何かしらのイレギュラーがあったという事。

 

(あの時、トゥワイスは確実に死んでいた。蘇生…それも完全な死を否定するだけの蘇生……)

 

 シズはそこまで考え、それが実行可能なのは自分を置いて他にいないと判断する。つまり、自分が蘇生したという事だった。

 しかし、シズにそんな記憶はない。

 

(荼毘がスイッチを押したところから記憶がない。その時に意識を奪われて操られたとみるべきだが……あいつにそんなことはできない。なら……)

 

 シズがトゥワイスを蘇生させるに至った経緯を推測する。その答えはすぐに出た。シズ本人だけでは答え合わせなど出来ようもないが、その必要はない上に、推測した答えは正答だという確固たる自信もあった。

 

(オールフォーワン……やっぱり記憶の時間のサバを読んでたか。全部返したわけではないと思ったが…流石に『魂』は一度奪われて使い方を知られたか。こうなると『魂』の複製もされていると考えるべき……いや、それはないか。せめて正のエネルギーと負のエネルギーくらいだろう。虚無は再現不可能だ。しかし魂の干渉は完璧だろうな。精神までには影響を及ぼさないだろうが)

 

 シズは少しだけ長考したが、そんな暇はないことを思い出す。

 

 少なくとも、トゥワイスの相手はシズがしなければならない上、他にも外典やギガントマキアなどの要警戒対象が跋扈しているのだ。一秒たりとも時間を無駄にできない。

 

(警戒順位は上から順にトゥワイス、マキア、そして外典。外典は最悪私が片手間で相手取れるから問題ない。本体でなくとも、分身体が二体いれば確実に勝利を持ってこれるだろう。……ただ、ギガントマキアとトゥワイスを一度に相手取るのは確実とは言えない。そして、ここにいるヒーローは広域制圧に乏しい)

 

 もう少しだけ考えることがあった。

 

(トゥワイスは虚無への適性が比較的低いのか。なら2~30分もすればやがて肉体が崩れていくな。ならば、後はマキアの目的―――いや待て、そもそもなんでマキアは動いている?)

 

 殲滅作戦前の情報として、マキアは動かないという前提だった。それは、マキアが死柄木の命令でのみ行動するからだ。ホークスからの情報であるため信憑性は高い。シズも同じ見解だった。

 

 ならば、答えは一つだけだった。

 

(死柄木が起きた…蛇空は何をしている?何が起こっている?)

 

 シズはそこまで思考し、登録した座標を通して蛇空の景色を見る。

 

 

 ――一つの場所を中心として崩壊した蛇空市の姿。

 

 

 死柄木の崩壊の影響だった。たった一回地面に触れただけで、この惨状が起こってしまったのだ。

 

(なるほど、死柄木は本当の意味でオールフォーワンになったのだな。もしかしたら曖昧かもしれないが)

 

 シズは知る由もないことだが、正しいのは後者だ。死柄木はまだ不完全な状態であり、定着率で言えば70%ちょいだった。間違ってもオールフォーワンと同一とは言えないだろう。

 個性としてのオールフォーワンはすでに所有しているのだが。

 

(なら、恐らくマキアの目的は「死柄木の所に移動すること」。――まずいな)

 

 マキアの目的は正しい。すこしだけ補足するのなら、「敵連合のメンバーを連れて死柄木の所に移動すること」であるというだけ。移動するという点では変わらなかった。

 

 シズが危惧しているのは、ギガントマキアは市街地などを無視して駆けることが出来るという事。市街地を考慮するほどマキアに余裕がない事。

 そして――市街地には多くの一般市民がいるということ。

 

 この作戦は奇襲作戦だ。そのため、情報が漏れ出ることがない様に一般市民たちには情報がいきわたっていない。

 とはいえ違和感は感じているだろう。普段は周りを見渡せば確実にいるヒーローが今日はいないのだから。しかし、こうも大規模な作戦を執り行っているとは想像もつかないはずだ。

 

 つまり、避難をするという意識が芽生えようもないという事。

 

「全体通信。超大型敵――ギガントマキア――が群訝山荘から蛇空病院まで最短距離で縦断します。その間にある市街地を踏み荒らすことと同義です。よって、現存している群訝山荘担当のヒーローから巨人に対抗しうる精鋭を除き、各地に転送し、各地で避難誘導を執り行ってもらいます。緊急を要するので、拒否権は与えません。自身が転送された場合、速やかに任務を執り行ってください」

 

『待て。そうなるとここにいる解放戦線の者どもはどうなる。分倍河原も行動を起こしているのだぞ』

 

 シズが通信をすると、同じ通信でエッジショットが言及する。彼は今、最前線で四ツ橋力也――リ・デストロ――と正面戦闘を行っているのだが、この通信は魂を介した思考共有なので戦闘しながらの通信が可能だった。

 

「私がすべてを相手取ります。問題はありません。すでに逃げてしまった敵までは保証できませんが、現在戦闘中の敵は一匹たりとも逃さないと約束しましょう」

 

『……できるのだな?』

 

「そもそも、私が本気を出したら味方がいないほうが強い」

 

『……こちらとしては複雑だが、了解した。準備ができ次第開始してくれ』

 

「了解」

 

 本来なら学生に全てを一任するというのはプロとしてのプライドを著しく傷つけることに等しい。これがオールマイトのような平和の象徴ならば「そういうものだ」と納得しようはあるのだが、学生となるといくらシズでも厳しいはずだ。

 しかし、エッジショットの目的は名声ではなくて市民の安寧。それはここにいるほとんどのヒーローがそうだ。だからこうも簡単に了承した。

 

 また、それに該当しない一部のヒーローも、エッジショットが了承を出したことで他のヒーローたちは表立って不満をいう事が憚られる。そもそもシズの実力を知っているから否定のしようがないというのが実情だが。

 

(ミッドナイト先生)

 

『個別通信?何かしら?』

 

 シズはキーマンであるミッドナイトに作戦を伝えることにした。それと同時並行で群訝山荘にいるヒーローたちの座標を整理する。タイムラグなく転送を行うための行動だ。

 

(マキアはエキシビションの時の常闇の光神(バルドル)くらいの力がなければ対抗できません。Mt.レディでもせいぜいが速度を遅らせるくらいでしょう。流石の私も雲を動かして闇を確保してあげるだけの余裕がないので、眠らせてください)

 

『……ええ、分かったわ。そうなると、私の足となるヒーローが欲しいわね』

 

(今シンリンカムイに交渉し、了承をもらいました。彼が今あなたの場所に向かっています。そして、失敗してしまったらヤオモモ…失礼、クリエティに麻酔薬の要請を願います)

 

『それは…』

 

(ええ、法律違反ですね。ですが、今は人命が優先です。また、少なくとも蛇空にたどり着くときにまでは弱体化させなければなりません。クリエティも間違った使い方はしないでしょう……それとも、あの子たちが学生であることを気にしていますか?それなら問題ありません。少なくともここにいる以上、私が死んでも死なせませんよ)

 

『……あなたも生きなさい。壊理ちゃんが悲しんでしまうでしょう』

 

(ハハッ。ごもっともですね――では)

 

『ええ、こっちは任せなさい』

 

 通信を切る。これで、マキアの対策もある程度は済んだ。後はヒーローを信じるだけだ。

 

(麻酔薬すらも飲ませられなかったら終末崩縮消滅波で殺すしかないか…だが、下にはヒーローがいるだろうから上半身だけを消し飛ばすことになる。そうなると神滅弾の方が安心か)

 

 そこまで思考し、そしてここにいるヒーローたちのすべての座標の認識が完了する。

 

「転送します」

 

 そして、群訝山荘からヒーローが消えた。

 

 トゥワイスの驚愕の声が大きく響く。他の者も驚いているのだが、トゥワイスは増えているのでそれがとても目立った。

 

「後衛から群訝山荘付近に転送されたヒーローたちに連絡。これより、群訝山荘にいる敵を『部屋』に隔離。その後、敵たちを殺害して部屋から気絶させた状態で排出します。すぐに捕縛してください。トゥワイスのみ、部屋から出すことはありません」

 

 殺害、という言葉に多くのヒーローは戸惑ったが、自身の行動が明確に決まっている上、実際に命が奪われることはないことを知って行動に移すこと自体は早かった。

 

 そしてシズは部屋を創り出す。

 

 本来、部屋はドアを作ってから創るものだ。

 

 ドアを作って仮想空間を構築し、ある程度の部屋の輪郭を創り出す。

 間違っても、今回みたいに「輪郭から創ってドアを作らない」なんてことをすべき術ではないのだ。

 すこぶるエネルギー効率が悪い上、部屋の耐久力が落ちるのだ。より具体的に言うと、普通の創り方では終末崩縮消滅波にすら耐えることが出来るのだが、今回の創り方ではカタストロフ程度の威力で多少歪んでしまうほど脆い。

 

 とはいっても、「それはシズが放つ攻撃に弱い」という事であって、敵が壊せる程度の矮小なものではないのだから問題はないのだが。閉じ込める、という点に関して言えばこちらの創り方の方が都合がいいのだ。

 問題になるとすれば、トゥワイスの増殖スピードが速すぎるせいで質量が増し、許容限界量を超すことだった。その場合、敵の生死を考慮することなく重力崩壊で殺す。

 ヒーローたちには伝えない。いずれ表に出るだろうが、作戦中に気苦労を与える必要などないからだ。

 

 覚悟はすでに済んでいる。およそ1万人の命を奪う覚悟など、とっくに済んでいる。

 

(ただ、そうなることはないといいな)

 

 シズはそう願い、部屋を創り終えたことを確認してから実行する。

 

神之怒(メギド)

 

 すべての制限が取り払われたシズの力が、その威を示す。

 

 

 

 

 

 

 そして、トゥワイスを筆頭とした解放戦線の構成員たちの様子は。

 

 己が身に降りかかった厄災に慌てる者。

 状況把握に努める者。

 すべてに絶望し、その身を投げ出す者。

 

 様々だった。

 

「お、おい!なんだよこれ!!」

 

「上から……?なんなんだよこの水玉!!」

 

「怯むな!リ・デストロだけは何としても御守り――グギャ」

 

「何が…何が起きている……!?」

 

「終わりだ!もう終わりだ―――!!」

 

「アハハハ……そうだ。帰ったらケーキを食べよう…そうさ、今日は解放記念日なのだ!!」

 

「お、おい!意識をしっかり保て!まだ解放は続いているぞ!」

 

「ギャ――!オレの、オデの腕が――!!」

 

「ああ……みんな死んでいく…みんな……!グバァ”」

 

 混沌と化していた。

 

 すでに半分以上の構成員が死んだ。もちろん、本当に命を奪われたわけではない。あくまでも何も知らない構成員たちからすれば死んでしまったというだけだ。

 光の粒子となって消えているため、違和感を持つべきではあるのだが、今のように動転している状態ではそれは難しかった。

 一部の強者は、今の状況を把握しつつあるが。

 

「ストレス70%――負荷塊!!」

 

 この場からの撤退を誘導され、そして壁に行きついたリ・デストロがその不可視の壁に向かって攻撃を放った。

 部屋が響く。この周囲で地震が起きたかのような錯覚を覚えた。

 

(四ツ橋力也…個性は『ストレス』だったか。私の(ブースト)の下位互換……と思っていたけど、まさか部屋を揺らすほどだとは。大体三重(トリプル)くらいか?70%でこれだから100%だったら四重(クアドラ)まで行くかもな)

 

 シズはこの部屋における警戒順位を更新し、未だ状況がつかめていないトゥワイスを一時的に放置してリ・デストロのもとへと向かう。もちろん神之怒による殲滅は途切れさせない。

 

「こんにちは、リ・デストロさん。一応聞くけど、降伏する気はあるかな?その気があるのなら今すぐに殲滅を停止させるけど?」

 

「これはこれは、解放の象徴殿。本当ならばあなたを旗として解放を為したかったのだが、貴方の行動からそれは不可能になってしまったな。――であれば、答えは一つであろうよ」

 

 解放の象徴。

 リ・デストロ率いる解放軍は神野でのシズを見てそれを期待したのだ。施設という個性社会の闇の権化を体験したシズならばこの役を全うしてくれると思っていたのだ。

 まあ、シズはあの施設のことは自分を成長させてくれた場所という認識なのだが。

 

「なるほど、確かにそうだ」

 

 シズはそう言って神之怒をリ・デストロに発射する。しかし、それは彼の分厚いストレスの塊によって貫通しない。せいぜいが鎧一つを貫通する程度の低火力である神之怒の弱点が如実に出てしまった。

 

「随分と硬い……あれか、緑谷が言ってたマスキュラーって奴みたいだな」

 

 シズは少ない手応えに戦ったことのない相手を思い出す。林間合宿で緑谷が戦った相手だ。シズはその話を聞いて自分でも勝つのは難しかったかもしれないと考えた。

 もちろん、あくまでも林間合宿時のシズがだ。今のシズでは負ける方が難しい。あの時のシズは虚無の制御が甘すぎたため膂力も緑谷を下回っていた。マスキュラーは緑谷の全力でも倒すことが出来なかったようなのでシズでも有効打を与えることはできなかっただろう。

 

 しかし、それは真正面から打撃で戦う選択をした場合だ。

 

「こういう相手は、内部衝撃にかぎる」

 

 そしてシズは虚空拳を放つ。それは四ツ橋の体を蝕んで戦闘不能にまで追い込んでいく。

 

「グウッ!!?」

 

「私のお兄様でさえ耐えられなかった攻撃だ。お前ごときが耐えられるわけないだろう」

 

 そう言ってシズは四ツ橋の鳩尾に聖覇崩拳を叩き込む。虚無によってストレスの負荷がほつれていたので四ツ橋にそれを耐えるだけの力がない。彼は崩れ落ち、粒子と化した。

 

「リ・デストロ―――ッ!!」

 

 事態に気付いた外典が急襲を仕掛ける。氷龍による物量でシズを押しつぶさんとした。

 

「轟の半分…ね。他のプロたちならともかく、私からすれば有象無象となんら変わりない」

 

 シズは白閃滅炎覇(ホワイトフレア)で氷龍を溶かす。虚無によって強化されたそれは外典の個性によって絶対零度にまで冷やされた氷を即座に蒸発させる。

 それによって一時的に攻撃、また防御手段を失った外典をシズは蹴りつけた。鳩尾に綺麗に入ったことで外典は吹き飛び、部屋の境界線にぶつかって消失した。

 

「外典様ァ!!」

 

「そんな…リ・デストロと外典様でも勝てないなんて……」

 

 構成員たちは自分たちの代表者たちが為す術もなく消失してしまったことに絶望する。先程も言及したが、自分たちに待ち受けているのは「死」であると認識しているのだ。狂乱状態に陥るのも無理はない。

 

 シズは一時的に動きを停止する。部屋の外で由々しき事態が起こってしまったからだ。

 

(ミッドナイト先生……無理をし過ぎです。貴方は壊理の遊び相手になってくれているのだから、生きてくれなきゃ困ります。まあ、それだけじゃありませんけど……)

 

 あらかじめ部屋の外に分身体を派遣していたので、何とかミッドナイトを医療エリアに転移させることに成功する。負傷したミッドナイトを背後から急襲しようとしていた敵を倒すことはしなかった。分身体のスペックも、本体の行動容量から優れたものではないからだ。

 

 停止したのは一瞬だ。後は、構成員と二倍で増えているトゥワイスを対処するだけ。

 

「―――次」

 

「ひいっ!!」

 

「やめてくれ!降伏する、降伏するから!!」

 

「安心しろ、殺しはしないさ」

 

 構成員たちの命乞いにもシズは耳一つ貸さずに淡々と敵たちを手にかける。

 その感触はたとえ仮想だとしても気持ちのいいものではない。

 

(やはり慣れないな。可能不可能で言えば可能ではあるのだが、やはり進んでやりたいものではない。しかし、この後トゥワイスの対処をするためには全員排出させる必要があるんだよなぁ…)

 

 シズがそう思考している間、変化が起きる。

 

 トゥワイスが本格的に動き出したのだ。

 

「―――チッ!」

 

 シズはらしくもなく大きく舌打ちし、増殖するトゥワイスに意識を向ける。神之怒だけではトゥワイスの増殖に追い付くことが出来なかったようだ。

 

 トゥワイスを除くすべての構成員を排除するために、シズは飛翔する。

 

 ()()が、シズに攻撃を仕掛けてきた。

 

 その数――

 

「増やしやがって……ってオイ待て、多くないか?」

 

 ――優に50を超える。

 

「「「リ・デストロ!!」」」

 

「「「任せたまえ」」」

 

 同じく増やされた四ツ橋を氷龍に乗せ、四ツ橋は攻撃を放つ。外典もそれを援護するように氷龍を仕掛けてきた。

 

(トゥワイスが個性で増やせるのは一種類につき二つまでのはず……いや、ああ違うな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。二倍で増やされた奴らは個性も同じように使えるようだし……ああやっぱり、死柄木もたくさんいるしな。荼毘とコンプレスとともに最優先で排除してるけど、これだと負担が大きすぎるな。カタストロフ出したいけど…部屋が壊れるのはよろしくない)

 

 シズは、部屋を用いてあることをしようとしていた。それは、コンマ単位の集中の淀みでさえ世界を滅ぼしてしまうほどの凶暴さを誇る。だから、部屋という隔離空間に限定させることでリスクを最小限にする必要があるのだ。そのために、神之怒や弾丸の類だけでトゥワイスの増殖を凌ぐ必要があった。

 

(後…2分)

 

 シズは己の目的が達成可能になる時間を算出し、そして自分の演算キャパシティを参照して己の行動を決める。

 

(四ツ橋は脅威になりえない。私が空にいる以上、外典の助力なしでは私に攻撃する術を持たないから……先に外典をやる)

 

 シズが神之怒を外典に集中させることで彼を消滅させ、氷龍を崩壊させる。足場を失った四ツ橋は重力に従って落ちて行き、地面に激突することで消失した。

 

 トゥワイスは焦っていた。

 

 正直な話、無限増殖を続ける自分に敵はないと思っていた。 ヒーローの大半を相手取っても、ある程度増えた自分なら負けることはないと。

 ホークスに敗北したのは、増殖を始める瞬間だったからだ。もし数秒でも猶予が与えられていたらホークスなど敵ではなかった。

 

 しかし、現在の状況はすこぶる悪い。

 

 ただの学生であるシズに一方的に蹂躙されている。

 

 ならば他のヒーローをと思ったが、どうやらすでに撤退を決め込んでいるようだった。先程いなくなったときから何となく推測していたが、シズによって瞬間移動されていると確信を持った。直感ではあるが。

 

 だからこそ焦る。ヒーローたちをせめて足止めだけでもするという命題に殉じていたのにそれが達成できないであろうからだ。

 

(それだけは…それだけはダメだ!今度こそみんなの役に立つんだろ!?トゥワイス!!)

 

 トゥワイスは己を鼓舞する。その精神は自動的に追い込まれていた。肉体は虚無によって徐々に追い込まれている。

 

(……俺の魂は、皆の幸せのために……!八斎會のときと同じだ…プルスケイオス(さらに混沌へ)だぜ!!)

 

 人間は、追い詰められた際に新たな能力が開花するときがある。

 

 それは、死に向かう時の覚醒なのか、それとも火事場の馬鹿力なのか。

 どちらにせよ、個性が新たな方向性に進化したり、また個性が成長することがあるのだ。

 

 トゥワイスは、前者だった。

 

「どうせなら好き勝手やってやる!!俺は俺の思うがままに!!」

 

 二倍で増やした外典と四ツ橋を泥の不定形にして合成する。それはトゥワイスの思い通りに動き、狂気的な珍獣(キメラ)が誕生した。

 

 だが、

 

「遅い」

 

 トゥワイスは、遅かったのだ。

 

 

 ―――白き虚無の終焉(ニヒリスティックエンド)

 

 

 シズの計画が形を成す。白き虚無がその姿を現した。

 

 部屋に隔離してからずっと続けていたことが、今その暴威を振るったのだ。

 

 シズは、虚無を部屋の中に滞留させていた。その体積は徐々に大きくなり、ついには部屋を満たすほどにまで成長したのだ。安定させていた虚無は、感知できるできないに関わらずその存在を感知させない。あのオールフォーワンでさえ、虚無の把握に極限まで集中しなければ感知できないほどだ。

 

「なんだ…これ……」

 

 トゥワイスは己の身に降りかかる厄災を理解できなかった。いや、それは少し正しくない。何の予兆もなく現れた絶対的な暴力を見て、理解を拒んだのだ。

 

白き虚無の世界(ニヒリスティックワールド)で、虚無を部屋に満たしたんだ。その後に虚無を解放することで攻撃する。今、お前の魂はすべて私に把握されているんだ」

 

 トゥワイスの言葉に返すのはシズ。もうすでにトゥワイスの殺害は決定したので少しばかり会話の時間を取ろうと思ったのだ。

 

「何か言い遺すことは?」

 

 そう問うが、トゥワイスは会話を続ける意思がなかったらしい。一言だけ吐き捨て、シズが続ける言葉を暗示的に拒絶した。

 

「……死ね、クソヒーロー……あの世で呪いかけといてやる」

 

 トゥワイスはすでに連合には言葉を残した。死柄木には残していないが、己の行動はトガやスピナーから伝えられるだろう。彼にとってはそれで十分だった。

 だから、出るのはヒーローへの恨み言。

 

 そして、トゥワイスは消失する。光の粒子にもならず、本当に消失した。その魂ごとだ。

 

「……ホークスの考えに賛同してしまうな」

 

 ホークスは、トゥワイスのことをいい人だと評した。

 

 トゥワイスの暖かい魂に触れた時、シズもそれを感じ取ってしまったのだ。トゥワイスと関わったわけではないが、それでもシズはトゥワイスの人となりを理解した、理解してしまったのだ。

 

 犯罪者であるとはいえ、それはシズも同じこと。殺人という罪を犯したのは同じだった。

 

 だからだろうか。シズは完全に敵視することが出来なかった。

 

(ただ外れてしまった者たち……か)

 

 シズは、福岡でのシズの脳無の言葉を思い出していた。あの言葉は、トゥワイスなどを指していたのかもしれないと。

 ならばこそ、シズの考えは変わらない。

 

「あいつには、希望があったろう」

 

 感慨にふけっている暇はない。もうすでに20分ほどの時間を消費してしまっているのだ。構成員や増殖するトゥワイスを神之怒で殲滅するのに時間がかかってしまった。特にトゥワイスのみを残して他を殲滅するのに必要な座標位置に時間がかかってしまったのだ。

 

「報告。殲滅完了。トゥワイス――分倍河原――の死を確認しました。四ツ橋を筆頭とした構成員の捕縛は完了しましたね?」

 

『……ああ、完了したよ』

 

 シズは少しだけどもった返答に疑問を覚え、今の状況を確認する。

 

 聞けば、蛇空で目覚めた死柄木は逃走したようだ。それも、おおよそ12体のニア・ハイエンドを連れて。シズのハイエンドは12体のうちの8体だったようで、これでも3体は処分したようだ。

 シズは修行の成果があったと思考したが、ギガントマキアを筆頭とした連合がもたらした被害を確認して顔をしかめる。トゥワイスなど、シズの戦績としては半分勝利と言っていいものだったが、作戦全体としてみれば敗北、失敗だったからだ。

 

「……私の能力が足りず、申し訳ありません」

 

『いや、違うさ。私たちが不甲斐なかったんだ。すまない』

 

 双方が謝罪するが、それが時間の無駄だと気づき、後処理に動く。

 AB組は誰も死んでいないらしい。ただ、マジェスティックなどがギガントマキアを足止めするために特攻、殉職してしまったようだ。

 サンイーターやファットガムなどのシズの知り合いもそれに参加したが、何とか生きながらえたらしい。

 

 ギガントマキアの縦断では、死者こそ出たものの、ヒーローたちの迅速な対応で少なく済んだようだ。もちろん、失った命の数が少ないから良いというわけでは断じてないが。

 

 シズはホークスの個性因子を治癒し、後は病院に任せた。シズの仕事はそれで終わる。ホークスの治癒で演算キャパシティを使い切ってしまったために糸が切れたかのように気絶したのだ。

 

 

 殲滅作戦は、ヒーローの敗北で幕を閉じた。

 

 




 誤字、矛盾などあったら報告よろしくです!

 トゥワイスの遺言これで正しかったのか確信が持てねぇ……!
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