魂を満たす物語   作:よヨ余

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殲滅作戦――その後――

 人生において、人は少なからず大事な人がいる。

 

 それは、自分なのか、家族なのか、友人なのか、そのどれにも当てはまらないのか。

 

 それは人によって定かではないが、私にもそのような人はいる。もちろんお師匠や壊理、お母様たちもそうだが、施設時代で兄貴分のような人がいたのだ。

 

 その人は、施設時代で最も強く、最も正義感にあふれる人だった。

 

 そうだな、相澤先生に似ているかもしれないな。

 かなり合理的な思考で、基本的には手段を選ばない。自分が大事にするものを守るために手段を選ぶことはなかった。善悪はともかくとして、己の芯を貫く格好いい人だった。

 

 それが例え、自分自身だとしても。

 

 施設時代の私は、何も完璧だったわけではない。

 訓練と称された上位脳無との戦闘では何度か死にかけたし、死刑囚たちとの戦闘も、あの蹂躙に至るまではかなりの苦戦を強いられていた。実はあの蹂躙は、死刑囚と戦闘して3回目くらいだったのだ。

 

 何度も何度も助けられた。

 

 訓練もしてくれていたのだ。今のシズがA組に行うように。

 

 彼の戦闘スタイルは独特だった。

 

 あの時の私のスタイルは弧月1本だった。あるいは、レイガストや弧月をもう1本持つことで二刀流をするかもしれないくらいだった。

 

 一方、彼の戦闘スタイルは、一本の海軍太刀型軍刀に、一丁の南部式大型自動拳銃を携えた戦闘スタイル。それも、それが全力の戦闘スタイルというわけではない。本来の彼の戦闘スタイルは、軍刀1本で戦うスタイルだったからだ。

 

 彼の個性は『断罪』。とは言っても、名前がその個性の全容を示さない。私の『魂』のように。

 

 彼の個性は、破界弾(リムーブ)解呪弾(ディスペル)呪壊弾(ネクロシス)消滅弾(イレーザー)、そして神滅弾(ジャッジメント)

 それらの権能を、銃弾および軍刀に宿らせる力だった。

 それに加え、彼はその個性を十分に扱うことが出来るように、オールフォーワンから個性を与えられていた。『解読者(ヨミトクモノ)』と言った。

 

 それによって、彼は施設で最強の力を得る。死にかけるという危機は一度も起こらなかったうえ、前述したように私の面倒を見る余裕すらあった。

 

 私と彼だけが、施設で泣かなかった。

 

 他の者は何の遠慮もなく涙を流して大きな声を上げるので、次々と処分されていく。流石に泣いた瞬間に処分されるようなことはなかったが、泣いている上に成績が優れない者がいなくなった。大体1週間に1人くらいのペースだったかな。

 

 彼は、感情を表に出さない私を見て気になったのだろう。私によく構ってきた。その低くて格好いい声を私に向けた。

 

 私に剣を教えた。銃も教えてくれた。彼の戦闘スタイルを私に伝授した。

 

 彼の服装は特注で作られていた。彼は最強だったので贔屓されていたのだ。

 

 軍服だった。私は、彼のその姿を見て軍服に強いあこがれを持った。

 もしかしたら、私のコスチュームが軍服なのはそこから来ているのかもしれない。その時には彼のことを覚えていなかったのだが、深層心理で直感的に判断していたのだろう。

 

 私よりもヒーローに向いている人だった。殺人を犯したのは施設の人間に共通する特徴だが、その事実があっても向いていると思った。何故ならば、彼は正義感にあふれる人だから。

 

 

 ―――だから、私をかばって死んだ。

 

 

 死んだというのは確実ではないのだ。処分されたから、私はその行方が分からない。99%の確証がある推測はあるが、私は1%であってほしいと切に願っている。

 

 

 彼の名は、『近藤 達也』と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、作戦の一日後に目覚めた。

 

 目を覚ましてから、いろいろなことが起こっていた。

 

 死柄木は逃走に成功したらしい。蛇空で動けるヒーローや警察が追跡を開始したものの、その足取りを掴むことはできなかったようだ。恐らくかくれんぼを始める気だろう。そして、機が来た時に急襲するのだろうと予測がついた。脳無も大勢いるようだしな。

 

 目覚めた後に行動を起こす。

 

 ギガントマキアが縦断した被害地へと分身体を複数派遣した。それによってある程度の落ち着きは見られるようになったが、それでも完全ではない。

 

 次に、サポート科に要請を受けていた。なんでも、私の虚無を研究したいんだとか。以前まで正負のエネルギーを研究材料として提供していたのだが、それはもうほとんど済んでしまったようだ。

 主に発目が主導したらしい。ある日には校長先生すらヘルプに回ったのだと。

 

 弧月もバイパーの類も提供していたのだが、それらすらもすべてのようだ。発目の知的好奇心には辟易すると同時に感服する。私の『魂』一つでこんなにも深くまで研究することが出来るようだ。

 ……しかも、研究にとどまらずに発明にまで着手しているらしい。弧月に関しては本物の84%を再現できている。もう2年もすれば100%にまでたどり着けるだろう。私も負けていられないな。

 

 そして日は一つだけまたぐ。

 

 せわしなく動いた。

 

 自分のために使う時間はなかった。ニュースを見る暇すらない。

 

 蛇空の方面に居た轟、爆豪、緑谷のお見舞いに行った。

 

 爆豪は腹部を貫かれていたらしい。何とか一命をとりとめたようだが、致命傷だったのではないだろうか。その上で私の脳無に痛手を加えたらしいし……対抗戦の時よりも成長しているのだろう。インターンを経た時の圧縮撃ちが功を奏したのではないだろうか。

 

 轟は、荼毘に焼かれたらしい。

 

 荼毘――本名「轟 燈矢」――が轟を焼いた。

 彼はギガントマキアに乗って蛇空に行く途中で一つの大きな行動を採ったようだ。それが、ナンバー1ヒーロー「エンデヴァー」のスキャンダル。正確に言えば、個性婚についての事。燈矢は己が荼毘となった家族的背景を語った。それも、放送をジャックした上での告白で、その事実が大々的に民衆の目に、そして耳に存在を示した。

 

 彼のオールマイトを超えるというコンプレックス解消のための行動が、彼の首を締め切ったのだ。

 

 私の懸念は間違っていなかった。神野の時の既視感も、轟と同一のものだったからだと遅まきながらに気付く。決しておねむりくんだったからではないと。爛れた魂とはいえ、気付けなかった自分に嫌気がさした。

 

 緑谷は、一度個性を奪われかけたものの、何とかそれは阻止したらしい。きっと、歴代のワンフォーオールの方々が行動を起こしたのだろう。もしかしたら、オールフォーワンで個性を奪うには意志力のようなものが必要なのではないだろうか。それがプラスの感情だろうと、マイナス感情だろうと、それは問わないのだろう。

 

 轟以外は、まだ目覚めていない。爆豪は恐らくすぐに目覚めるだろう。一度顔を出したがそんな気がした。

 

 緑谷は、まだ少し時間がかかるだろう。恐らく精神世界で歴代と話しているか。オールマイトが緑谷のことを見ていた。

 

 ケガ人三人は置いておいて、私はすべきことがあった。

 

「皆、ケガはないのか」

 

 そう、A組の安否確認だ。

 

 皆の顔は優れたものではなかった。

 

 それもそうだろう。ギガントマキアの縦断を止めるために行動したマジェスティックなどは殉職してしまったのだ。他にも大勢のヒーローと一般市民の命が奪われた。私たちが守るべき存在を、私たちの前で奪われたのだ。優れた顔をする方が難しい。

 

「うん……シズは?」

 

 響香が私のことを心配してくれている。ホークスの治癒をしてから気絶してしまったのでその心配も無理はないだろう。

 

「演算能力のキャパの問題で一時的にオーバーヒートしただけだから。もう休めたから問題ないね、今日だって発目に虚無の供給をやってきたところさ」

 

 私は少しだけ言葉の調子を上げながら言った。皆を安心させるためだ。少しへたくそだったからその効果は乏しいと思われるが。

 

「それよりもヤオモモ。私の要望に応えてくれたんだね。任せてよかった、よくやったよ。……切島が達成したんだったか、よくやった。ありがとう」

 

「ええ……ですが……」

 

「……」

 

 私が二人を褒めるも、二人の顔は芳しくない。むしろ、自分にはもっと何か出来たのではないかという少しの後悔が見えた。それは二人にとどまらないが。

 

「やりきれない顔をするのも結構だが、お前たちはよくやってくれたよ。むしろ私の方がやらかしてしまったしな。私の尻拭いをしてくれてありがとう」

 

「……」

 

 ううむ、これは何を言っても駄目だな。私の言葉だろうと、誰の言葉だろうと変わらない。私のクラスメイトは思った以上に意固地だったようだ。

 

 自分のできることをやったのだから、ある程度は得意げな顔をしたっていいだろうに。まあ、これをバネにして成長するのならいいだろう。

 

「それより…夜月はもう見たのか?」

 

「見たって何をだ?轟と爆豪たちならさっき見てきたけど……」

 

「いや、そうじゃなくて……」

 

「切島さん!!」

 

 切島がどもる途中で、ヤオモモがその言葉を止める。それも、これ以上の言葉は絶対に許さないという気迫があっての言葉であり、ある種の威圧感があった。

 

 見れば、ここにいるA組の半分くらいが切島に否定的な目を向けている。

 

 私がそれを疑問に思い、切島に真意を訪ねようとしたが、他の来訪者によってそれは成されなかった。

 

『シズいます?』

 

 それは、荼毘に喉をやられたことで機械音声でしゃべるようになったホークスだった。とはいってもこれから一生機械音声というわけではない。あくまでも一時的にそうなっているだけだ。数日もすれば喋れるようになるだろう。

 

 私は彼の個性は治したのだが、彼の体は治さなかった。彼に理由を問われたが、私は「一人で無茶をした罰」と言って彼を無理やりに納得させた。

 

「ホークス、どうした?」

 

『少しだけ聞きたいことがあってね、少しだけ時間良いかな?』

 

「分かった、すぐに行く」

 

 どうやらベストジーニストもいるようだ。トップ3の内2人がいるとは、どんな話をするのだろうか。

 

 私がホークスの方に移動するとき、皆が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているのを認識したので疑問に思った。疑問は解消しておくタイプなので聞いておく。さっきの切島のやつは皆が聞いてほしくなさそうだったのでやめておいた。

 

「どうした?みんな」

 

「いや…ホークスとすっげぇ対等に話してるから…」

 

「知り合いっていうのは聞いていたけど……」

 

「ああ、そういう事。まあ、福岡で死線をくぐったわけだし、ホークスの人柄もあってこれくらいの話し方にはなるさ」

 

 私はそう言って部屋をでる。そして、ホークスとベストジーニストと話す。

 

「要件は?」

 

『君に聞かないといけないことと、いろいろ頼みたいことがあってね』

 

 機械音声のホークスが主導なって話をするようだ。

 

『――分倍河原を、殺したかい?』

 

「ああ、殺した」

 

 ホークスの言葉に私は即答する。この話は本題でないことはわかりきっている。この話はきっとホークスの個人的な話なのだろう。

 

『…そっか………ごめん、俺が殺るべきだったのに』

 

「そんなことはない。そもそも、私が荼毘に操られたせいだろう。お前が自分の仕事を全うしていたのに私がそれを妨害した。責められることはあれ、謝られることはないな」

 

 私は淡々と事実を口にする。私からすれば、自分の失敗を自分で取り返しただけだ。

 それでも、ホークスの仕事を無駄にしたという事実は変わらない。あの時の私はみんなの足を引っ張っていた。

 

 私が謝るべきだ。

 

「こちらこそすまない。貴方の動きを無駄にした。皆の足を引っ張った。トゥワイスの蘇生がなければギガントマキアは山荘で抑え込めていた。……あれほどの被害が出ることもなかった。申し訳ない」

 

 頭を下げる。

 

『ううん、そもそもこの作戦をする以前で捕らえられていれば、というたらればも出てくる。君のせいではない』

 

「まったくもってその通りだ。我々がふがいないせいで、多くの学生に協力要請をする羽目になっていた」

 

 二人の大人は私を丸め込むように動く。何を言っても反論してくるだろうという確信があった。

 

「……ずるいですね」

 

『大人だからね』

 

 不満を表すために少しだけふくれっ面にしてみたが、あまり効果がないようだ。お師匠だったら勝率100%だったのに。

 

「……分かりましたー受け入れますー。それで、他は何?頼みたいことっていうのは……」

 

 少しだけ間延びて話すことで不満は表した。一種の当てつけだ。

 

『ああ、そうそう。頼みたいことっていうのはね、少しだけ馬車馬のように働いてほしいと思って』

 

「言い方が悪すぎるが、まあ言いたいことは分かった。何をすればいい?」

 

『これから雄英高校や士傑高校を筆頭として各地に点在するヒーロー科の高校が避難地として扱われる。君にはそこで住宅地などを作ってほしくて』

 

「……そういうのはセメントス先生とかパワーローダー先生とかの仕事では?動けないのか?」

 

『違う違う。やってほしいのはエクトプラズムさんみたいな人力だよ。分身体とかを各地に派遣して力仕事して。身体能力とかは本体と変わらないんでしょ?』

 

「ああ、そうだな……わかった、分身体を派遣させよう。今は何も権能を与えなければ300体は作れるから、十分足りるだろう」

 

 本体は動かなくても問題ないな。他のこともできるし、少しだけ休憩しても問題ないかもしれない。

 

 一応聞いておくか。

 

「他には?」

 

『そうだね……来るべき日のためにプロたちを鍛えてくれるかな?作戦前みたいにさ』

 

「分かった。それは本体と並列存在で何とかなるな」

 

『うん、そしたら今すぐ行ける?Mt.レディとシンリンカムイの所にさ』

 

「今すぐか?」

 

『うん、今すぐ』

 

 私はホークスの言葉に疑問を覚えた。小さな違和感。

 ホークスは普段、私にある程度の配慮をしてくれている。だというのに、今の彼にはそれが見えない……いや、見える?

 

 この判断が正しいのなら何に配慮している?私の何に?

 肉体じゃない。もしそうだったら「今すぐ」なんて言葉は使わない。

 私のコミュニケーション能力を高めるため?いや、それもないだろう。私でもある程度は話せる。少なくともヒーローとしての会話は普通にできるし、そもそもホークスが心配することじゃない。

 

 ならなんだ?

 

 ……分からない、情報が足りない。

 

 ……まあいい、特に重要ではないだろうし、少なくともプロの訓練の方が大事だろう。

 

「まあ、分かった。行ってくる」

 

『うん、いってらっしゃい』

 

 そうして、私は転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 シズが転移してから、ホークスはベストジーニストと話していた。

 

「よかったのか?」

 

 ジーニストが問う。ホークスの行動が正しいとはわかっていても、この行動の反動を予想してしまったからだ。

 

『いいんです。彼女に伝えると、絶対に全てを投げ出して行動する。ならば、少しでも有効活用しませんと』

 

「……すぐに気づくぞ」

 

『ええ、多分今日の夜にでも気付くんじゃないですかね、さっきも俺の言葉を訝しんでいましたし。でも、それでいいんです』

 

 ホークスは自分に降りかかるであろう厄災を想像し、身震いはするものの達観した様子で言った。

 

 ひとえに、この先を見据えているからだ。

 

 シズは、現存するヒーローの最高戦力。実力自体はエンデヴァーさえも超える。周囲の被害に目をつむれば、終末崩縮消滅波などでエンデヴァーを超えるほどの火力も誇るのだ。

 だからこそ、彼女を教師役としてプロ全体のレベルを底上げするのが、最も効果的で賢いシズの使い方だ。

 シズは教えることにおいても無類の才能を持っていた。言葉にして教えるのではなく、魂を通じて感覚的に教えることが出来るのだ。人によってはその感覚を言語化できるので、将来的に感覚派しか成長しないという事態は避けることが出来る。利用しない手はなかった。

 

 ただ、シズも人だ。大事なものはあるし、それを間接的にとはいえ蔑ろにされると感情が荒ぶる。

 

 ホークスはそれを正しく理解していた。その観点に関しては、A組や壊理をも抜いて一番に理解しているのだ。

 

 だから、自分に降りかかるであろう厄災を想像できた。

 

 決してそれを受け入れているわけではないが。嫌々ではあるのだが。

 

 それでシズの気分がマシになるのならいい。そういう考えだった。

 

「……そうか」

 

『ええ、そうなんです。それよりも、問題はエンデヴァーさんについてですよ。荼毘のせいで滅茶苦茶ですからね』

 

「ああ、そうだな……」

 

 そうして、二人はエンデヴァー達のもとへと赴く。

 

 

 

 

 

 A組の一部は、一時的に寮に戻ることを許された。

 

 一部と言っても、それは退院ていない者を除いたのみ。ほとんどが寮にいる。

 

 響香は荼毘に耳を焼かれたようだが、もうすでに退院したようだ。

 

 上鳴は、マキアを止める際に、その上に乗っていた連合の連中を上空からの電撃で鎮めようとしたのだが、コンプレスの瓦礫攻撃で顔に傷がついたらしい。ただ、こちらも何とか退院は叶ったようだ。

 

 今ここにいるのは、轟、緑谷、爆豪、を除いた全員。

 

 私も、たった今プロたちの訓練から帰ってきたところだ。

 

「ただいまー」

 

 返答する言葉はなかった。あるのは小さい音声だけ。何を言っているのか認識はできなかった。

 

 しかし、私がその言葉を口にすると、皆がギョッとしたように感じた。まだみんなの姿は目視していないので魂を見ただけだが、確かにそう感じた。何かトラブルでもあったのだろうか。

 

 すると、急に音声が消える。テレビがついていたのだろう。皆でテレビを見ていたのだろう。誰も言葉を発していなかったからわかった。何かを見ていて、私が帰ってきた瞬間に見るのをやめた。

 

 何かある。そう判断するのには十分だ。

 

 切島のあの話、そしてホークスの違和感。訓練中も、それが私の心の中を埋めていた。

 

 なんなんだろうと、気になった。

 

 私はリビングへと行く。珍しいことに、全員が揃っていた。爆豪がいないから、という理由があるかもしれないが。

 

「ただいま、皆」

 

「お、う。お帰り!」

 

「…お帰りなさい」

 

「……うん、ただいま」

 

 上鳴の反応で、私は踏み込むことに決めた。

 

「皆、私に話すことがあるだろう」

 

 突然のこの言葉に皆はどもる。言葉を発するわけではない。触れたくないことに触れられたというちょっとした拒絶反応だ。

 

 そして、私はそれを見て確信する。それは私に関係することだと。

 

 三奈の手にあったリモコンを奪い取り、テレビをつける。ちょうど、ニュースをやっていた。

 

 

 

 踏み込んでよかったと思った。

 

 

 

 それを見て蘇るのは、淡い過去の記憶。

 

 ピンクとダークブルーの髪。彼女の個性柄、髪を扱うものだったから長めに伸ばしていた。私は彼女の髪を手入れするのが好きだった。その髪に憧れて、私も髪を長くした。

 

 見た目に反して可愛らしい人だった。好きなものも、かわいいものとキレイなものである。あの人の部屋に人形の類が多かった。大半は私がクレーンゲームで取った景品だ。よくねだられた。

 

 私よりも1㎝だけ高い身長。ほとんど同じ目線で話すことが多かったが、私は彼女に甘えたいという欲求があったので意識的に頭を下にしていた。彼女にそれがバレた時はこれでもかとネタにされ、私は少しだけ自分の部屋にこもった。恥ずかしかったから。

 「一緒に風呂入ろうぜ!」という言葉で、すぐに引きこもりは終わったが。

 

 一緒にお風呂に入るときは毎回、彼女と私の圧倒的格差(胸の大きさ)に絶望したっけ。そこだけは謎に成長しなかったな。遺伝かな、お母様も小さかったし。

 「ないわけじゃないから!」と強がっていたけれど。

 

 訓練ではほとんど勝つことが出来なかった。施設時代の経験が軒並み無くなっていたというのも、虚無が使えていなかったから今よりも何十倍も弱いというのもあったけれど、今やっても怪しいんじゃないかな。

 彼女は戦い方が上手だ。あの人は、私の師匠であるために自分を高めることに集中していたから。いいお師匠であろうとしていたから。

 

 その代わりに、私生活では私に頼りきりだったけど。

 

 それは彼女が風邪を引いたときに顕著に現れて、すっごいあまあまだった。とてもかわいくて、何枚も何枚も写真に収めたっけな。

 

 あの人のヒーロー活動を見てみたかった。見るなと言われていた。

 私はそれが不満だったけれど、添い寝で許した。キスまでねだったけど、それは許してくれなかった。残念。

 

 

 

 そうして、片方は思い出に浸っていた。とても温かく、和やかな思考だ。

 

 

 もう片方は、冷徹に、冷静に事実を認識していた。ニュースの報道内容を伝える音声だ。

 

 

 

 

 

『二日前。タルタロスが襲撃され、多くのダツゴクが――』

 

 

 撤回する。冷静ではなかったかもしれない。音声の認識はとびとびだ。主要な情報は認識できていたが。

 

 

『そのダツゴクたちは周囲に被害をまき散らし――』

 

 

 もう一つ、とある言葉を思い出していた。

 

 

 オールフォーワンの言葉だった。

 

 

 

『彼女はね―――タルタロスに収監されているよ!』

 

 

 

 お師匠は、タルタロスにいる。

 

 

 ああ、なんだ。

 

 

 だから皆、少しだけ挙動不審だったのか。

 

 

 私にこの情報を見せないために。

 

 

 私に余計なことを考えさせないように。

 

 

 私の行動を予測した上で、その行動を拒絶したがゆえに。

 

 

 そっか。

 

 

 ごめんね。

 

 

 私は、君たちの思い通りには動かない。動けない。

 

 

 

 

 

 みんなの顔が、こわばる。見られてしまったと、そう思ったのが手に取るように分かった。

 

 何をそんなに不安がる必要がある?私は今、すこぶる冷静だ。それに、私よりも轟や緑谷を心配すべきだろう。爆豪だって入院中だ。

 

「シズ……」

 

 響香の不安がる声が聞こえる。いつもの私はそんな彼女に一つくらいは言葉を返すのだが、その代わりに手紙を差し出した。伝言だ。

 

「え…」

 

 壊理に対する伝言を押し付ける。

 

 

 私がやっておくべき行動が尽きてしまった。

 

 

 

 私に、動く理由が出来てしまった。

 

 

 

 私が立ち上がる。皆も、即座に動けるように行動を変えた。

 

(遅いよ、みんな)

 

 私がそう思うのと同時に、私の足はすでに4歩動いた。それによって、A組のみんなの4分の3を通り過ぎる。この時点で、私を止めれる存在は激減した。

 

 玄関口に向かう途中で、私の足は奪われ、体勢を崩す。

 

(ヤオモモ)

 

 私は犯人を推測する。

 

 しかし、それは私を転ばせるに至らない。あくまでも少しだけよろけた程度だ。

 それでも褒めるべきものなのだが。超合金でも使っていたのかな。

 

 ヤオモモのよろけによる私の速度の鈍化で、飯田のレシプロが追い付きかける。規則に厳しい彼が、寮内を全力疾走する。彼がそれほど思ってくれていることがよく伝わってきた。

 

 あと一歩。そんなところで。

 

 私が玄関口から外に出て、跳躍する。飯田でも、追い付くことが叶わなくなった。

 

「夜月くん!!」

 

「シズ!!」

 

「夜月!!」

 

 みんなの声が次々に聞こえる。走りながら。絶対に追い付けないとわかっているだろうに。

 

 

 私はそんな皆を振り切って、夜に消えた。

 

 




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