魂を満たす物語   作:よヨ余

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ダツゴク狩り/銃弾

 私がタルタロスのニュースを見て、雄英を出た後。

 

 私はホークスに呼ばれて、旧公安に赴いていた。

 

 腹立たしい。私は今すぐにでも各地を巡りまわりたいのに。あの人の魂の軌跡をたどりたいのに。

 

 立場が、ヒーローが、それを許してくれない。

 

 私も、それが正しいことはよくわかっている。今の私が勝手な行動をすることの方が間違っているのだと。今、雄英を出ているこの状況の方が間違っているのだと。

 

 理論ではわかっているのだ。だが、私の中で荒ぶる感情が、今すぐにでも飛び出すように私に命令を下している。

 深層心理で蠢く葛藤を落ち着かせるのに多大なリソースを使わされる。こんな思いをするのは死穢八斎會へ突入するまでの期間以来だろうか。

 

 気持ちが悪い感覚だ。言語化しがたい。形容しがたい。この世の吐瀉物をすべて煮込み、それを吸収させた雑巾を食してもこのような感覚にはならない、そう言語化しても足りないことは、よくわかる。

 

 だから、私はホークスに対して怒っていた。

 

「何のつもりだ?」

 

 私は彼の胸倉をつかみ、壁に押し付ける。ここにいるのは私たちに加えて、ベストジーニスト、エッジショット、マウントレディ、シンリンカムイなどの有力ヒーローたち。エンデヴァーはまだいない。記者会見を行っていたようで、それだけ回復はしているのだが、今は少しだけ遅れているようだ。退院手続きがまだ終わっていないらしい。

 

 この中で比較的場数を踏んでいないマウントレディは私とホークスの修羅場に少しだけ狼狽している。私が知ったことではないが。

 

「私は、こんなことをしている場合ではない。何のために呼んだ」

 

 冷静に、だが冷淡に。それを意識して言葉を発したつもりだったが、どうやら怒りは抑えることが出来なかったらしい。少しだけ虚無が漏れ出る。未熟だな、顔向けができない。

 

 だが仕方ないことだ。そういう気持ちもある。

 

 感情的な思考と論理的な思考とでないまぜになる。嗚呼本当に気持ちが悪い。

 

「落ち着け。君がそんな思考では、為せることも為せない。それは君もわかっているだろう」

 

 ホークスの真剣な言葉で、私は冷や水を浴びせられたかのような気分になる。彼の言葉は正しいからだ。今、正しいのは彼だ。というよりも、私が間違っている。

 

 そうだ。わかっている。彼の言うとおりだ。

 

「……っ」

 

 私はギリッと歯を食いしばみ、己の心情を表したままにホークスから手を離した。彼は自分の力で立っていたので地面にへたり落ちることはなかった。

 

「……悪かった」

 

 謝罪する。その後、ホークスの掌が私の頭に置かれた。私は子供ではないんだが。

 

 だが、今の私には抵抗するだけの気力がないのでされるがまま。頭を撫でられたら速攻でマウントレディのもとに避難していたが、そんなことにはならなくてよかった。

 

「今日集まってもらったのは、これからのことについて話をするためです」

 

 ホークスが本題を話す。私が議論を停滞させてしまった。エンデヴァーはもうすでに話を通しているので問題ないようだ。というよりも、すでにトップ3はチームアップしているようで、その中での話の共有は済んでいるとのこと。

 つまるところ、私とチーム・ラーカーズ(マウントレディとシンリンカムイとエッジショットのチームアップ名)のために開かれた会合というわけだ。

 

「この後、俺達はダツゴクたちの捕縛、脳無の無力化、そしてオールフォーワンや死柄木などの打倒に移ります。しかし、オールフォーワン達は見つからないでしょう。脳無たちすら怪しい。各地で今も暴れているダツゴクの捕縛が俺たちの主な仕事になります」

 

「……この人数でか?」

 

 ホークスの言葉にエッジショットは物申す。エンデヴァーを入れても7人だ。流石に少数過ぎる。

 

「いえ、ミルコなどの有力ヒーローはいます。しかし、ヨロイムシャのように辞職するヒーローが後を絶たない。ヒーローが足りなくなる上、俺達は隠す必要のある秘密をこれから共有します」

 

「……」

 

 その秘密が共有された後にヒーローをやめられると、そのヒーローから情報が漏れる可能性がある。そういう事だろう。

 

 そして、隠す必要のある秘密。私はそれが緑谷のことだと推測した。

 

 それは正しかった。

 

「現在、雄英高校ヒーロー科1年A組に在籍している緑谷出久、ヒーロー名『デク』についてです。彼の個性はオールマイトから譲渡された特別な力で、それはオールフォーワンとシナジーがあるようです。実際、譲渡の初代はオールフォーワンの弟さんだそうですし。オールフォーワンも、その個性『ワンフォーオール』に固執しているようです」

 

「だから、私たちは緑谷を利用して、それを奪いたがるオールフォーワンをおびき寄せると?」

 

 私の言葉を聞き、ラーカーズの皆も事態を理解したらしい。

 

 とはいえ、やることは変わらない。今の話は、オールフォーワンが来る可能性が高まると言う事実に過ぎないからだ。

 

「でも、それをしなくてもシズちゃんならオールフォーワンの居場所もわかるんじゃないんですか?その魂ってやつで」

 

「それが出来たらよかったんですが、残念ながら無理です。施設時代、私はオールフォーワンに一時的に個性を奪われ、虚無を除いた魂の操作をマスターされた疑惑があります。それが正しいのなら、あいつは自分の魂が私の探知に反応しないようにする程度は簡単にできる。一度発見したら、マーカーを付けてまた逃げられても追い詰めることはできますけど、ファーストコンタクトは難しいです」

 

 私は冷静に事実を述べた。会議を続けていると少しずつ頭がクリアになってくる。断じて焦りが消えたわけではないが。

 

「そうか…なら、デクを頼るしか方法がないのか……」

 

「そもそも、緑谷は了承しているのですか?」

 

「ええ、オールマイトとともに動くようです」

 

 オールマイトが動くとは。しかし、こう言っては何だが彼だけでは不安だな。

 

「……なら私も一緒に動く。私なら緑谷についていけるし、何なら引っ張っていける。あいつのワンフォーオールをすべて引き出すことも不可能ではないはずだ」

 

「うん、俺もそれが良いと思っている。学生に頼るのはプロとして、そして大人として恥ずかしい限りだけど、頼めるかな?」

 

「……ああ」

 

 私が為すべきことが増えた。緑谷出久の護衛だ。それが、私に課せられた最も重要な任務。

 

 ただ、だけれども。

 

 

 私の頭の中は、たった一つで埋め尽くされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……でっけー敵」

 

 4月。私とデクはヒーローアカデミアを去った。

 

 私たちは、各地に点在しているダツゴクを狩ることに全力を尽くしている。

 

 ただ、主に緑谷にそれは一任している。私がしているのは彼の訓練と、状態清潔化(クリーンウォッシュ)などで補助するくらいだ。特に、訓練に関しては力を入れている。彼のワンフォーオールの完成が勝利に近づくからだ。

 ちなみに、部屋は使っていない。彼の体力には全く配慮していないが、それでいいのだ。常に全力で戦うことが義務付けられるのだから体力の消費には強くならなければならない。あと、ぶっ倒れたらその分休憩できる。

 彼はダツゴク狩りが始まってから満足な休息を取っていない。それも、自分から進んでそうしているのだ。休む暇があれば人助けする、はっきり言って狂っていた。

 

 もしかしたら私の状態清潔化を過信しているのだろうか。あくまでも排泄や気分の乱れなど、生理的なことにしか作用しないのだけれど。それを説明しても、彼の行動は変わっていない。

 

 彼を支えることが私の任務なのに、それがあまり遂行できていないように感じた。

 

「そうだな、被害も大きい。敵は頼むぞ、私は周囲の安全を確保する。一般の民がいた場合はとりあえず部屋に隔離しておこう」

 

「お願い」

 

 そう言って緑谷は跳躍する。私もそれに続いて飛翔した。

 

 どうやら敵は巨大化する個性のようだ。ただ、マウントレディのようにそのまま巨大化するわけではなく、リューキュウのように変身して巨大化するタイプらしい。

 

 見たところ……そうだな、人化ではあるが鱗のようなもので補強している。水のようなものを操っているから魚類の個性かもしれない。

 

 少し硬そうだ。緑谷の膂力であれば数枚程度なら十分に貫けるが、どうやら鱗の補強は早めのようだ。かなり難しい戦いを強いられるだろう。

 

 とはいえ、苦戦はせずに勝利できるだろうが。あいつ頭いいからな。

 

「さて、私は周囲の安全を……って、ほとんどいないな」

 

 私は自分のすべきことをしようかと思ったが、どうやらほとんど仕事がないらしい。民間の人はすでに逃げた後だった。

 

 ――いや、残念なことに私の仕事はあったようだ。

 

 一人の敵が民間人を狙っている。小物だ。

 

「おい」

 

「なっ!お、お前は!?」

 

 私が敵のもとにスイッチボックスで転移し、敵を倒す際に必ず投げかける言葉を言う。

 

「オールフォーワンから何か指令を得ているか?」

 

「くそっ!!」

 

 敵は私の質問に答えることはなく、持っていた刃物で私を刺そうとする。

 

 倒すべきか悩んだが、戦闘の際の姿勢、立ち振る舞い、そして刃物の突き立て方から強者特有のものではない。正しく弱者で、オールフォーワンが指令を与えるほどの者ではないと判断できた。

 

 倒しても問題ないな。

 

 私は刃物をよけ、手刀で気絶させる。敵は為す術なく崩れ落ち、その意識を手放した。

 

「流石にこんなに早く刺客を送るようなことはないか」

 

 私はオールフォーワンの動き方を推測する。

 

 今、民衆はヒーローへの不信感でいっぱいだ。ひとえに私がギガントマキアを逃さざるを得ない状況にしてしまったことが原因だが、そんなことは民衆にとって知ったことではないのだろう。

 自分たち市民を助ける、守ることで収入を得て、名声を得るヒーローが自分たちを守ることが出来ない事を責め立てた。もちろんそれ以外にも、未だ応援してくれている人は多くいる。ヒーローたちも、それはわかっていた。

 しかし、ヒーローも人間だ。その責め苦には耐えがたい何かがある。特に、無法地帯となってしまった日本の環境ではそれが顕著に感じられた。

 むしろ、この環境の中でヒーローを続けられる人の方が珍しい。

 

 民間の人も敵になりうる。それも、ヒーローの精神を蝕むような敵だ。

 

 オールフォーワンが好きそうなやり方だ。じっくりと、時間をかけて苦しめていく、嫌がらせをしていく。

 だからと言って油断できるようなものではないため、刺客には常に警戒するが。

 

 轟音が響く。

 

 見れば、緑谷が巨大敵を倒したところだった。その敵は発動型だったようで、その大きさがみるみる小さくなっていく。

 黒鞭で捕縛し、抵抗できないようにしている。対処としては完璧だと言っていいだろう。先程の轟音も、緑谷の拳が鱗を貫いた音のようだ。建築物に無駄な損害を与えていなかった。

 

「早かったな」

 

「この敵は動きが単調だったから。情報も持っていなかった」

 

 緑谷は淡々と言う。普段の彼の優しく穏やかな雰囲気は鳴りを潜め、そこには真剣だがどこか恐ろしい剣幕を放っていた。使命感に駆られ、自分ができることをやろうとしている。

 そして、ワンフォーオールを開放していくにつれて、そのできることの範囲が増えてしまっている。これが彼の雰囲気を刺々しくしている大きな原因だろう。

 ワンフォーオールを継承してきた歴代の個性を開放する緑谷。すでに四代目(危機感知)五代目(黒鞭)六代目(煙幕)七代目(浮遊)を開放しており、無個性である八代目(オールマイト)と初代は個性を持っていないので、残りは二代目と三代目。ただ、特に二代目の個性はかなりの難点を持つようで、まずは三代目を開放することに集中するようだ。

 六代目はまだ完璧にマスターしたわけではないので、要訓練だとのこと。

 

 そこまで分析できているのなら十分だろうな。

 

「分かった。私もさっき小物を捕縛してきたから、警察に突き出して投獄してもらいに行ってくる。お前はあっちの方に行ってくれ。傑物学園の人がいた。もしかしたらダツゴクがいるかもしれない」

 

「分かった、行ってくる」

 

 緑谷は私が指さした方向に跳躍する。

 

 すると、何かに気付いたのか速度を上げた。

 私も気になったので感知の精度を上げてみると、今捕縛した敵とは明らかに雰囲気が違う敵が跳躍していた。

 あいつには見覚えがある、確か「血狂い」の異名を持ったマスキュラーだ。緑谷が林間合宿の襲撃の時に戦ったと言っていたな。ワンフォーオールの100%を耐えるほど強い増強型の個性を持つ厄介な相手だ。

 今の緑谷で完封できたのなら、ワンフォーオールを十分に有効活用できると判断していいだろう。そしたら六代目の補強と三代目の習得に訓練の方向性を切ってもいいな。

 

 私はそう判断しながら敵を警察署の前に置いておいた。分身体も置いたので、警察への説明も十分だろう。

 

 緑谷はともかく、傑物の人が心配だ。真堂さん、だったか。彼がマスキュラーによって大きな痛手を負っている。少し急いでおこう。思ったよりも距離が遠い。

 

 と、思って私が到着したときには、すでに緑谷はマスキュラーに勝利し、捕縛した後だった。

 

「マスキュラーも情報は持ってなかった」

 

「そうか、何分で片を付けた?」

 

「2~3分くらい……」

 

「ふん…まあ、及第点か」

 

 私は顎に指を当て、緑谷の言葉を吟味する。まあ、三代目を開放していない状態でこれなら十分だろう。私を基準にして物を考えるのもよくないしな。

 

 欲を言うのなら1分を切るか同じくらいに倒してもらいたいものだったが。

 

 まあいいだろう。ある程度の時間は確保されている。訓練も十分にできるだろう。

 

「じゃあ、マスキュラーを警察に突き出してからこっちに戻ってきてくれ。そしたらいったん休憩を取ろう。お腹空いた」

 

「……分かった」

 

 納得していないな。なんなら食べながらパトロールしたいとか考えてそうだ。だが、今は私の言葉に納得してもらおう。

 

 緑谷が跳躍したのを確認し、私は傑物の人たちのもとへと向かった。

 

 どうやら、傑物の人たちは未だ避難していなかった人に避難してもらうように説得をしていたようだ。その時にマスキュラーに襲撃を受けてしまったのだと。

 

 その市民は、武装した市民だった。

 

 このような市民は多い。ヒーローの信用が失墜した今、自分の身は自分で守るという思想が多くなってきたのだ。ただし、訓練の類を受けていない市民が武装したとしても、勝てる可能性は高くない上にそもそも被害が広がる可能性が高い。現に、そういった戦闘痕は多かった。

 

 私は仮面をつけてから傑物の方と話しに行く。私が外に出ていることはなるべく知られないほうがいいからだ。

 

「こちらの方の怪我の具合はどうですか?」

 

「え、えっと……?」

 

 突然の私の来訪に戸惑う傑物の方。確か、真堂さんとよく一緒にいた人だったかな、名前は覚えてないや。

 見れば、この二人以外の傑物の方もすぐに到着するようだ。ケガをしてしまった真堂さんの搬送自体は彼らに任せても問題ないだろう。

 

 とは言っても、私がある程度は治療するつもりでいるのだが。ヒーローが足りない今、ケガなどで離脱させることは望ましくない。

 

 それに、彼の命をはって戦う姿に武装した市民の人は感銘を受けたようだ。すすんで彼を治療しようとしていた。意識が変わったのだろう。その点を見ても、彼を評価し、それに見合った対価を与えるべきだと考えたのだ。

 

「…骨が何本かイッてますね。治療しますが、半日程度は安静にしてください」

 

「え…え……?」

 

 事態が飲み込めない彼女の前で私は治療を行う。すると、彼の骨は見る間に元通りになった。

 

「これである程度は元通りですね。しかし、今のような無茶をすればまたすぐに折れます。自己犠牲も結構ですが、自分の命の保証を以て行動するように彼に言い聞かせといてください」

 

 未だ戸惑っている彼女たちを置いて、私は飛翔する。そして、一足先に戻っていた緑谷のもとに向かっていた。

 

 すると、そこにはパトロールのために準備し、周りを警戒している緑谷の姿が。私がさっき言った内容は忘れてしまったようだ。

 

「休めと言ったはずだが?」

 

 私は少しだけ非難するように言う。彼は肩を震わせ、こちらを恐る恐る見た。

 

「…でも」

 

「でもじゃない、休め。お前がぶっ倒れたら誰がオールフォーワンを倒す?皆を助けたいのなら、まず自分を助けろ」

 

 そもそも、必ずしも緑谷がオールフォーワンを倒すべきだというわけではないのだが。誰を頼ってもいいし、もっと言うのなら放棄してもいい。それは、まだ未成年である緑谷がもつ特権だろう。

 だというのに、彼は己が使命を全うしようとしている。私にはそれがまぶしく映り、私はその覚悟を無下にするようなことはできない。

 

 仕方がない、付き合ってやろう。

 

 ソレはソレとして休め。

 

「……分かった」

 

「それでいい。A組の皆に顔向けできなくなるからな」

 

 ただ、私は心配しないというわけではない。緑谷を心配する人は多いし、それは私も同じ。本当なら、緑谷にはフカフカのベッドで安眠を取ってもらいたい。こんな治外法権の土地で敵の襲撃を警戒しながら取る睡眠はしてほしくない。それも私の本音だった。

 

 緑谷は仮眠をとることにしたようだ。こうも意固地だと説得するのにも一苦労。手刀などで強制的に気絶させることはできなくはないのだが、自分から睡眠をとってもらわないとあまり意味はないだろう。

 

 緑谷は壊理に似ている。むしろ、壊理よりもひどいかもしれない。

 

 自棄を孕み過ぎている。自分等どうなってもいい、自分よりも他の人が助かってほしい。

 

 そういった優先順位は揺るぎないものになっており、それを覆すことはできない。

 

 ……彼は恐らくつぶれてしまうだろう。私と違って民意を無視することが出来ないから。民の言葉に耳を傾けてしまうから。ヒーローであろうとするから。

 

 今の彼を支えることが出来るのは……

 

 少なくとも、私には無理だ。少なくとも、今の私には。

 

 緑谷に賛同し、またその緑谷を利用しようとしている私には、彼を支えることはできない。せいぜいが共に行動するくらいだ。

 

 ヒーローが辛い時、誰がヒーローを助けられるのだろう。

 

 私はきっと、この答えを知っている。

 

 だが、知っていてもどうにもならないことはある。

 

 眠る緑谷を見て、私は思案する。

 A組の皆は、今何をしているのだろう。

 きっと、皆のことだからじっとはしていないんだろうな。何かしらの行動はとっていると考えてもいい。私が無理やり動いたことで私の行動はみんなに予測されているはずだ。

 そして、置手紙だけを置いて雄英を出て行った緑谷もある程度は推測されているはずだ。

 

 今、世間に流れている情報は「トップ3のチームアップ」という情報。

 実際の正しい情報は「トップ3に、オールマイト、デク、シズのチームアップ」という情報だ。

 

 A組の皆も与えられている情報は一般の方と相違ない。

 

 だが、皆は私たちのことを他の人よりも良く知っている。特に、爆豪は緑谷出久という存在を良く知っている。

 与えられたウソの情報など即座に看破し、正しい情報を導き出せるだろう。

 ただ、行動するには時間が足りない。今のA組は周囲のパトロールくらいしか許されていないはず。もちろん、不用意な情報を与えないためだ。それでみんなを巻き込むことは望ましくない。

 きっと、緑谷も同じように思っているのだろう。

 

 だが、今の彼を救うものは、きっと……

 

「――だめ、だ……!」

 

 緑谷の言葉で思考を急停止する。

 

「みん…な……、ダメ、だ…きちゃ…ダメなんだ……!」

 

 彼は、拒絶している。

 

「これは……僕の…たたか………」

 

 ああ、そうか。

 

 こいつは、皆が傷つくのが怖いんだ。自分ができることをできないで、皆が傷つくことが怖いんだ。

 

 だから、自分が背負う。

 

 蛇空で、爆豪が緑谷をかばって刺されたと聞いた。

 

 事実はともかく、緑谷の失態が招いた出来事。それは、緑谷の心を著しく削ったのだろう。

 

 だから、今回決壊した。

 

「緑谷……」

 

 今は、A組の増援を望めない。A組という心の安寧の場を設けることが出来ない。

 

 だから、せめて今だけは…私がともに歩もう。

 

 

 

 

 

 

 

 数日が過ぎた。

 

 私たちは、未だにダツゴク狩りに勤しんでいる。ダツゴクだけではなく、チンピラレベルの敵を捕縛したりもしたな。

 しかし、連合メンバーや脳無、オールフォーワンの姿は確認できていない。目撃情報はもちろん、その足取りすら掴むことが出来ていなかった。

 

 時間だけが、刻一刻と過ぎている。

 

 今、私たちが急ぐのは時間がないからだ。

 

 蛇空での死柄木 弔はまだ未完成だった。オールフォーワンの定着率が完全ではなかった。

 時間をかければ、それを完全にすることなど造作もない。オールフォーワンがいるとなれば尚更だった。

 

 だからこその、今の緑谷を囮とした捜査。

 

 …結果は芳しくない。

 

 私は今、緑谷と少しだけ別行動をとっている。今の天気は雨で、そういった天気では市民の気が立つ。

 

「……マズイな」

 

 今、私の目の前で一般の女性が複数の男性に襲われている。敵だと誤認されているようだ。

 

「や、やめて!!私はただ…怖くて……!!」

 

「そうやって騙して襲うつもりだろ!!」

 

「お前の手はお見通しだ!!」

 

 私は、テレポーターを使ってすぐに彼らの間に立つ。もちろん、仮面を着けた状態でだ。今、私が外にいることは一応機密だからな。

 

「落ち着きなさい」

 

「落ち着いてください…!」

 

 おや、どうやら緑谷も居たようだ。速いな。

 

 身振りで緑谷に説得を任せる。私は女性の方を見よう。

 

「どうしましたか、こんな雨の夜に」

 

 私は傘を創造して女性にかけながら言う。

 

「…避難が遅れたの。こっちは、まだそんなに被害が進んでなくて…家にこもってればそのうち落ち着くと思って。でも、あちこちで被害が出るようになって…怖くって…!避難所に行かなきゃって、飛び出して……!」

 

 また涙が出てきたようだ。それを拭うために両手を使うので傘が落ちる。私はそれが落ちる前に手に取った。

 

「ごめんなさい…どうすればいいのか、分からなくて……!」

 

「……ひとまず、避難所に行きましょう?怖いのはみんな一緒です、であれば、少しでも同じ境遇の人のもとに行きましょう」

 

「……もとに、戻るのかしら」

 

「…戻します」

 

「え……?」

 

 私は仮面を外しながら言った。戻す、という言葉に説得力を持たせるためだ。シズの名は、実力がある者という認識で広まりつつあるから。

 

「シズ…!?」

 

「……秘密ですよ、これでも抜け出してるんです」

 

「……ええ、分かったわ」

 

 私が悪戯がばれてしまった子供のような表情をすると、女性も少しだけ表情を崩して言った。

 

 オールマイトの車が来る。緑谷が呼んだのだろう。

 

「それでは、私はこれで。お気を付けください」

 

 そう言って、私は飛翔した。

 

 

 

 さっきオールマイトがお弁当を持ってきてくれていたらしい。緑谷が私に手渡してくれた。トンカツが入っていておいしい。

 

 女性を救ってからも、数時間ほど動いた。捕らえたダツゴクはいないが、チンピラは何人か捕らえた。

 

『まるで超常黎明期さ』

 

「…五代目さんか」

 

 緑谷は歴代の方と会話している。私は歴代の方を目視はできるのだが、ワンフォーオールとのアクセスが悪いせいかとびとびだ。まあ、気にすることでもない。

 

 緑谷と各地を飛び回り、また数刻が過ぎる。

 

「緑谷、定期連絡」

 

「うん」

 

 端末は隠密の観点から緑谷のみが持っている。まあ、私は心配されるようなものではないのでいらないというのもあるのだが。

 

 そして、緑谷が端末を操作し、耳に当てた瞬間――

 

 

 

 ――紫色の一閃が、夜に輝いた。

 

 

 

 ………嗚呼!

 

 

 

 それは、弾丸だった。その中には音声機器が入っており、そこから撃った人の声が聞こえる。

 

 

 

『緑色の少年』

 

 

 

 その声は、低く、格好いい声だった。その声は、私の鼓膜を揺らし、私の思考を奪っていく。

 

 

 

『君を連れて行く』

 

 

 

 緑谷も、事態を正しく認識した。

 

 だが、私にとって、緑谷出久は邪魔でしかない。

 

 

「緑谷」

 

 

 私は、ひどく抑揚がない声で言う。

 

 緑谷は、私の豹変に戸惑った。

 

 

「来るな。邪魔をするな」

 

 

 緑谷を、部屋に隔離した。

 

 

「これは、私がやらなきゃだめだ」

 

 

 そして、イーグレットを取り出した。

 

 

「夜月さ…」

 

 

「お師匠……」

 

 

 緑谷は私の言葉ですべてを理解したらしい。

 

 

「お師匠……なんで……」

 

 

 ずっと、聞きたかったことがあった。

 

 

 ずっと、聞きたかったんだ。

 

 

(どうして、貴方はいなくなってしまったの?)

 

 

 今日は、答えてくれるだろうか。

 

 




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