タツヤは以前と全く同じ姿をしていた。
しかし、内包されている気配は全く以て違う。おぞましく、タツヤではない何か。気配だけを見れば別人だと断定していたことだろう。
確かに私の魂を扱うことが出来るはずだ。オールフォーワンと違い、脳無化することで生物的強者となっているので虚無を扱うこともできるかもしれない。
いや、かもしれないではないな。確実に扱うことが出来る。私が知っているタツヤはそういう人だ。
「私の力には慣れた?」
「随分と難しいな」
(ウソつき)
私はわかっているぞという意思を込めて薄目でじっと見るが、たいして気にしてくれなかった。彼らしい。
それを懐かしむのも結構だが、彼相手にそのような心意気では死んでしまう。いくら私が不死に近しい状態になったとはいえタツヤには関係ないだろう。
私は髪型を神野以前の長い髪に変容させ、虚無のセットアップを整える。循環、纏い、そして
「任務を遂行しよう」
タツヤが動く。
瞬間、彼の姿が消えてしまったかのような錯覚を覚える。実際に消えたのではなく、私の認識速度を超えて移動しただけだ。
とはいえ、それは速度のみの問題ではない。彼の
だから私は視界での認識を諦め、魂での認識に集中する。
(……右、左――半歩遅れて後ろ、続けて後ろ)
振り向き、弧月を振るう。
(避けて…下から上に突き。同時に腿に銃弾)
そして、背中を銃弾が貫通する。
「チッ…」
戦い方がより上手になっている。当たり前だが強くなっている。
私は正面にいるタツヤを見て思考する。何故銃弾が背中から直撃したのか不思議に思ったからだ。
しかし、受けた衝撃の大きさを考えることでその答えは意外にも簡単に出てきた。
(バイパーか…やっぱり私の力は使えてるんだな。しかも、コレ虚無を媒体としたバイパーだし。てことはオールフォーワンに虚無の力が伝わってる?でもそうだったらオールフォーワンは勝負を決めに来てるはず、適性が足りない?)
自問し、それはないと断定する。
オールフォーワンの虚無適性は私の10分の1を想定していた。それも、それは最低限の適性度であり、現実には7分の1くらいだろう。つまり、
そして、オールフォーワンがすでに所有している個性をかけ合わせれば準重力崩壊くらいの破壊力は出すことが出来るはず。
それをして日本を崩壊させないという事は、虚無を使えないという事。
(タツヤは、オールフォーワンに虚無を教えていない?)
タツヤはオールフォーワンの手先だ。それは間違いない。脳無化させたのもオールフォーワン、あるいはドクターだろうし、任務を与えて私を殺すように言ったのも彼のはず。
つまり、タツヤにとってオールフォーワンは命令を聞くべき相手のはずだ。その上、自分から意見を出すのもタツヤなら十分に許されるはず。オールフォーワンは周囲の意見を簡単に切り捨てるような人間ではないし、そもそもタツヤの言葉は十分に信用に足りる。
ならば、タツヤはオールフォーワンに虚無の使い方を教えていないという事になる。
(……交渉の余地があるか?)
そう思ったが、タツヤは攻撃の手を緩めない。むしろだんだん苛烈になっているとすら言えており、会話するだけの隙すら見つけることもできなかった。交渉はあきらめた方がいいだろう。
「交渉の余地はないぞ」
「ナチュラルに心読むのやめてくんない?」
「何故読めると思う?」
「
「まあな」
私は読心は使えない。魂を見ることでそれに近い芸当をすることはできるのだが、タツヤ程の実力者となるとそれすら使うことが出来ない。特にタツヤは私の『魂』を扱うことが出来るため、彼自身の魂を自在に操ることが可能だ。私にその心の一端すら読ませることはしないだろう。
それに、オールフォーワン陣営についていることがよくわかった。オールフォーワンに虚無の詳細を教えない程度には自由意識を許されているようだが、だからと言ってオールフォーワンを裏切るような行為を働くことはないだろう。
勝ち筋の一つは失われてしまったが、問題ないはずだ。
どの道、ここで倒せばいい。
タツヤは脳無化したことによって多少の自由意思がなくなった状態だとみていい。つまり、オールフォーワンに従っていること自体は彼の本意ではないはずだ。虚無を教えていないことからも十分にそれが断定できる。
なら、殺すことが彼にとっての供養になるだろう。
「――行くよ」
「来い」
弧月を胸の前に横向きに構え、私はタツヤの動きを凝視する。
彼の構え、姿勢の類には一切の隙が無い。私がどんなに崩しに行ったところで決して崩れない牙城だ。真正面から突破するしかないだろう。
真正面から突破できるかどうかがわからないまま、その方法を採る他ないのは苦しいものだ。
隙も見つからないままに、私はタツヤに肉薄する。
そして弧月を叩き込んでみるが、タツヤは簡単に受け止めてしまった。一応音速は超えてるんだけどな。
脳無化したことによってタツヤの身体能力は理解の範疇を超えてしまった。もともと理解の範疇を超えていた技術に土台となる身体能力が加わると鬼に金棒だな。
「
私の体を小さくする。大体130㎝位だ。
グラスホッパーをタツヤの周囲を取り囲むように生成し、私はそれを踏む。すると私の体は反射し、そしてグラスホッパーにぶつかる。そしてまた反射する。
これを繰り返すことでタツヤを翻弄しようと考えたが、どうやら効果はあまりないらしい。
「偶然性に委ねたものだったらいい線いってたかもしれないな」
「ウソつき。反射神経でゴリ押すくせに」
私はタツヤにベーッと舌を出して抗議した。
同時に小さくした体を元に戻し、次の行動に出る。
「メテオラ」
メテオラを地面に叩き込み、煙幕を出す。そしてカメレオンを起動することでタツヤの視界から消えた。
――軍刀が私の体を捉える。
「チッ!」
間一髪で弧月で受け止めることに成功したが、体勢がよくない。銃弾を一発だけ浴びてしまった。
消滅弾だったから何とかなったものの、もしこれが
とはいえ、消滅弾にはかなりのエネルギーを込められていた。それによって私のエネルギーもかなり削られた。
消滅弾は、込めたエネルギーに対応したエネルギーを奪う。エネルギーを込めれば込めるほど多くのエネルギーを消滅させることが出来るのだ。
苦しい展開だ。タツヤは私よりも銃の扱いが上手い。遠距離のスナイプなら私の方に軍配が上がるのだが、このような近距離での銃撃戦においてはタツヤの方に軍配が上がるのだ。
私も何度か弾丸を放って状況の改善を試みているのだが、解読者によって私の狙いが読まれている。何度撃っても当たる気配は見えなかった。
こういう状況に陥ったら、剣や銃以外で崩しを入れるのが定石だと考えている。
そのためディザスターで体勢を崩そうと考えて何度か行動を起こしているのだが、そのタイミングで
魔法での崩しも、剣も銃も通用しない。
ならば、弧月と銃の戦闘スタイルから変える必要があった。
バイパーでの二刀流に切り替えるとしよう。
「ほう…」
タツヤは私の構えを見て一考する。
そのような暇を与えるほど私は愚鈍ではない。
肉薄した際に二撃、砕けたバイパーを放つとともに地天轟雷を仕掛けた。
地天轟雷を見切り後退するタツヤ。タツヤを追うようにバイパーを操作するが、タツヤはそれを無視して私に肉薄した。
「ッ!?」
何とか身に迫る軍刀をバイパーで受け止めるが、嫌な展開だ。
「どうした?何を驚いている」
(……そりゃ驚くでしょ)
タツヤが思考を読むことが出来ることは承知の上での行動だった。それでも手数で押し切れば活路は見いだせると考えていた。
そう思っての行動すらも看破し、たったの一手で私の隙を突いて状況を有利に進める。まさに神業。
その上、私は思考を読まれまいとノイズをかけながら行動していたのだ。本命に大穴、ブラフ、そして戦いに関係のないことまで思考しながら行動していた。並列思考ができる私だから採れる対策だった。
しかし、タツヤにとってそんなことは関係なかったようだ。私が誤魔化していた本命の弾道を読み切って最善の選択を採ってきた。
(
この思考能力はタツヤ本来が持つギフテッドだ。
「憎たらしいぜ」
私にはないその才能にどうしようもないほどの嫉妬が湧き出て来る。もちろん私も才にあふれている。だが、どうしても隣の芝は青く見えるのだ。
恐らくだが、解読者は私の魂の情報とよく似ている。
私の魂は大気中のほとんどがエネルギーによって埋め尽くされているため、意識を切り替えない限りは真正面にいる人間の顔すら見ることが出来ないのだ。その上、死者の魂だったものであるエネルギーから怨嗟の声も絶え間なく聞こえる。
物間がコピーしたときの様子を思い出すと、その状況は絶句に値するだろう。
タツヤの解読者は、私の魂の視覚情報を抜いたものだろう。聴覚情報…それも対象を選ぶことが出来る。その対象の思考内容や意志を聞いたりできるのだろう。もしかしたら文字として残るのかな?
「残るぞ」
「あっそ!」
またもや心の中を見られていることに苛立ちながらバイパーを振るう。
攻撃を続けているうちにバイパーが見切られ始めている。そもそもの反射神経で避けられてしまう上に、そこに予測も乗る。
通形先輩のような経験に基づく予測とは違う。その側面も多いし、経験自体も先輩よりも多いのだが、そもそも対象のすべきことがわかるし、その上で推測できるのだからそれは未来予測に近いものとなるだろう。
しかし、それは完璧ではない。タツヤだって人間だ。生物的には脳無とはいえ、彼の生来の性格がこうも反映されているのだから人間だと言っていいだろう。
だから彼の隙を探すべき…それができるまで根気強く待つべき、なのだが……。
「『タツヤ相手にそれは望み薄』か?」
「……あのさぁ、私の心を読むのは癖なの?」
そろそろこの流れもしつこくなってきたな。喋るのも程々にしておこう。
バイパーから拳での戦闘に切り替える。タツヤの戦闘スタイルは変わらなかった。
「鷲爪虎脚」
5本の爪がタツヤを襲うが、それはタツヤの技術によって効果を及ぼさない。
「群像走乱」
空気を震わせて気弾を放つが、それすら流される。
肉薄し、拳を放つ。
関節に集中した打撃はすべて軍刀によって受け止められる。時には刃を立てられて私の拳に直撃したものもあったが、私の腕には虚無が注がれていたのと、私が身に着けていた手袋によって何とか傷つくことはなかった。
「上手いな」
タツヤの褒めがむず痒い。この言葉は昔の施設時代を思い出させる。
ともあれ、今は十分にいい状況だといていいだろう。
このまま続けば…
「狙っているのは武器破壊か」
「あーらら、気づいちゃったか」
私はそれすらも織り込み済みだと言わんばかりに軽い調子で毒づく。
気付いても対処のしようがないのがこの作戦だ。バレたところで問題ない。
と、思っていたが、私はこの作戦に穴があることに気付いた。
(破壊した後はすぐに弧月を創られるな。ああ、まあいいか。その隙を突けばいい。……これもタツにはバレてるだろうけど)
それはもう仕方がない。隠すことは不可能だと言っていいだろう。
壊すこと自体は簡単だ。弧月に虚無を注ぎ込めばいい。それだけで十分に脆くなるから問題ない。
「っぶね…」
手袋で軍刀をいなす。ギアを上げてきたな。
――瞬間、私の虚無の流れが乱される。
呪壊弾によるものだと気づいたが、気付いても遅い。この刹那にも満たない私の隙をタツヤは簡単に突いてきた。
辛うじて虚無のベールを張ることに成功したが、どうやら軍刀に込められていた権能は
(マズイな。未だに有効打を与えることが出来ていないし、そもそもそのビジョンも乏しい)
武器破壊も着実に進んでいるのだが、私の消耗も同様に進んでいる。比較するのなら、私の消耗の方が少しだけ速い。
だが、武器破壊はもうすぐそこだ。
タツヤの虚を突いて何とかカタストロフを出すも、タツヤはエネルギーの奔流を切り裂くことで対処する。
その間に私は肉薄することでタツヤに拳を叩き込んだ。軍刀によって受け止められるものの、大きなダメージを与えることが出来た。
「死毒崩拳!」
再び拳を軍刀にたたきつけると同時に、軍刀に流し続けていた虚無を一気に暴発させる。それによって軍刀は内部から衝撃を受けた壊れ方をした。
根元から折れる軍刀を認識しながら、私は即座に弧月を生成して技を放つ。
「朧・百華繚乱」
今、タツヤには剣はない。詰みだ――
――本気でそう思った私は、浅はかだという他ないだろう。
タツヤは丸腰だった。
何故、南部式大型自動拳銃を手放しているのだろう。
何故、平然として立っているのだろう。
嗚呼、そうか。
タツヤは、この瞬間に私の技術を模倣して凌いだのだ。
すなわち、素手での剣のいなしを。
「…ハハッ、マジか……」
思わず笑う。自分でも驚くくらいに乾いた笑いだった。
「勝ち筋がなくなったか?」
「まさか。まだまだ引き出しはあるんだよ」
タツヤの挑発に私は強がった。
正直な話、勝ち筋はほとんど消え失せてしまった。タツヤに二度同じ内容の攻撃は通用しないからだ。
朧・百華繚乱を防がれた以上、放つべき攻撃は万華繚乱のみとなってしまった。しかし、それは難しいだろう。
万華繚乱は百華繚乱の派生形であるため、剣筋も見切られてしまうだろう。そもそも、万華繚乱を出せるだけの時間はないはずだ。タツヤもそのような隙を見せることはないだろう。
ならば、放つべきは
また、終末崩縮消滅波は周囲に甚大な被害をまき散らす。あまり推奨できるようなものではない。
ならば、周囲に被害が出ないようにすればいい。
私は「部屋」を生成する。この「部屋」は特殊な設定を組んでいる。
その設定とは、「私かタツヤ、どちらかが戦闘不能になるまで出られない」というものだ。この設定によって「部屋」を容易に作ることが可能となり、このような状態を作ることが出来た。
そして、群訝山荘の時のように私の攻撃で壊れてしまうようなやわなものではない。どちらかが戦闘不能にならない限り「部屋」はなくならない上に、外部からのあらゆる干渉を無視するから当然と言えば当然だろう。
「ほう…」
「感心する暇があるなんて、羨ましいよ」
少しだけあたりを見渡したタツヤをみて、私はカメレオンを起動する。先程もあまり効果を及ぼさなかったが、真正面から突撃するよりもいいと考えたからだ。
「フム、これは異界の類か。あの妖精の迷宮に似ているな」
ぼそりとタツヤが言葉を放ったが、私は少ししか聞き取ることが出来なかった。
(妖精?)
「フッ、お前が俺を倒したら教えてやる」
「負けることを考えるなんて、弱気だね」
「随分と遅い自己紹介だな」
図星を突かれる。立ち回りに弱気が紛れていたのだろうか。攻めっ気を失っていることを見抜かれた。
勝ち方は決まったのだが、それをどうやって決めようかというところだ。決めるための道筋が建てられていない。
前提として、終末崩縮消滅波を放つ際にはその事実が相手にバレる。魔力を練り上げ、正しい形に整形する必要があるからだ。お母様に放った時もそうだった。
それは誰の目から見ても明らかで、一般人だとしても「何かが起こる」ということくらいはわかるのだ。
魔力を練り上げることは片手間でできるとはいえ、どうしても時間がかかってしまう。
その上、タツヤなら、大勢がその事実を認識する数倍の速さで認識できる。
タツヤに認識されるのは仕方ないにしても、タツヤが私の邪魔をできないようにする必要がある。
(……時間を稼ぐか)
部屋の中にある民家やビルの中に入る。
そこからはエスクードやスパイダーを用いることにしよう。
「終末崩縮消滅波か」
「これくらいしか…殺せると思わないからね!」
タツヤの猛攻が苛烈を極める。そのおかげで、私は喋ることすら難しくなる。終末崩縮消滅波のための魔力の練り上げも少々覚束なくなっている。よくない展開だ。
エスクードの急襲も、保護色を用いたスパイダーでの罠も、全てが効果を及ぼさない。私の武器がどんどんなくなっていく。少なくともタツヤに効果のある武器はないと言っていいだろう。
そうなると、技術あるいは力で上回るくらいしか勝ち筋が無くなる。
今私がやろうとしているのは力で上回ることだ。終末崩縮消滅波の波動を「部屋」に満たし、逃げ場のない圧倒的破壊エネルギーのもとで殺す。
そうするほか勝つことが出来ないのだ。
何分経っただろうか。
もうすでに、20回は切り裂かれている。
内訳として、呪壊弾2回、消滅弾8回、解呪弾4回、破界弾6回。
もうズタズタだ。終末崩縮消滅波を整形することに関しては辛うじて可能である位には無事だが、それもすぐに話が変わってくるだろう。呪壊弾を一発受けるだけで逆転するはずだ。
消滅弾を受けすぎたせいで終末崩縮消滅波の整形に後れは出ているが、何とか問題ない。
それに。
(あとちょっと……)
魔力の整形に終わりが見えてきた。
終末崩縮消滅波が現実となりつつあると同時に、私は違和感を感じていた。
(タツヤの魂が静かすぎる)
それは、違和感と呼ぶのが正しい。
悪寒と呼ぶには、あまりにか細いものだった。
そう、違和感。
タツヤは私と同じで、敗北に強い恐怖を抱いている。
だからこそ、誰よりも冷静に、それでいて淡々と勝利の道筋をたどるのだ。
しかし、そんな彼でも敗北の予感というものはある。
一度だけその状態まで追い込んだことがあったのだが、その時の彼は相応に焦っていた。
その焦りが生んだ一か八かの賭けによって、私は勝利を掴むことが出来なかったことだってある。
今の彼には、そんな心情など見えない。
焦りも、不安も、恐怖も。
そんなものは、初めから存在しないかのように。
(無感情…?)
そのような思考とは反対に、私たちの時は動き出す。
私が練り上げた最大級の虚無が解放され、神野と同等の暴力がその威を示す。
「
私の「部屋」を、暴力が満たした。
その暴力からは逃れることが出来ない。例え理性を持ったお母様の脳無だろうと、これから逃れることはできない。
もしこれが「部屋」の中での発動でなければ――神野の時と同じような荒廃地だったら――理性を持ったお母様の脳無以上の実力者は逃れることが出来たかもしれない。
しかしながら、今回はそれに当てはまらない。
今度こそ、詰み―――
―――タツヤが軍刀を構える。
その刀は、私が神滅弾の権能を込めた時と同じように虹色に光沢していた。
それはつまり、神滅弾を込めているという事で、
それはつまり、神をも滅ぼすだけの暴力を秘めているという事で、
刀を振るう。
私はその光景を信じることが出来なかった。
「朧・百華繚乱」
断言しよう。それは確かに私よりも速く、鋭く、強く、美しかった。
何故?
タツヤができることは、
模倣を超えて自分の技にした?
断言する。
それはもう、解読者では説明がつかない。
タツヤが天才であった、という理論も成り立たない。それは理由にならない。
タツヤは、すでに朧心命流を修めていた?
いや違う。
ゲンセイさんは、決まった弟子をとったことがない。
伝授はしていた。しかし、朧心命流の基本的な型すら教えることはしていなかった。教えたのは、剣の持ち方や構え方など、ゲンセイさん以外に享受してもらっても構わないだけの常識だ。
そう。彼の技術は、教わったものであると言っているようなものだ。そう断言できるほどに洗練されている。
だが、タツヤはゲンセイさんに朧心命流を教わっていない。それは揺るぎない事実だ。
ならば、何故?
答えは、出ない。
だが、一つだけわかったことがある。
対処できる技など、恐れるに足らないのだ。そんなことは、はるか遠い昔から分かっていることだっただろうに。
終末崩縮消滅波は、タツヤに届かなかった。
「何故…この技を知って……」
タツヤの刃が私に迫ることを認識しながらも、私は問わずにはいられなかった。そもそも避けることも不可能であるため、せめて情報を得ようとしたのだ。
しかし、それは叶わない。
「俺を倒したら教えてやる、と言ったはずだが」
(避けることはできなくとも受けることはできる。そうしてこの場をやり過ごし、後隙に神滅弾を……)
そう思い全神経を弧月にそそぐが、タツヤが狙っていたのは私の武器を破壊することだった。
弧月が折れ砕かれる。ゲンセイさん以来だろうか、お兄様の武具の拒絶を除き、私が武器破壊をされたのは。
「……ッハハ」
乾いた笑いしか出てこなかった。
そのような現実逃避も効果がなく、タツヤは私の体を切り裂いていく。
そして、朧・百華繚乱の最後の斬撃によって私は袈裟懸けにされた。