耳鳴りがひどい。
視界がかすむ。
上半身と下半身の感覚が分かれている。
身体は警鐘を鳴らして危機を訴え続けているのに、私の魂はこの状況を至極冷静に理解させてくる。
私は敗北した。
軍刀に込められた権能は
この状況を覆し、勝利に向かって道筋を立てることは不可能だ。
身体から虚無が漏れ出ている。
そして何よりも、私が先ほど生成した「部屋」が消滅している。
「部屋」が無くなったことで、外部から私たちの姿が見えるようになった。
しかし、他の人間はこの場にいないので問題はないだろう。
私の命は潰えても、他の者が今タツヤに殺されることはないはずだ。
私はここで孤独に死んでいく。タツヤに、機械的に殺される。
人を大勢殺した人間にはふさわしい最期かもしれない。
だが、しかし。
(……!?)
そこで私は気づいてしまった。
(……天運)
「タツ…ヤ……」
少なくとも、タツヤに今の私の思考は読み取れない。私の命の灯火が消えかけていることで魂が摩耗し、解読できる魂そのものが欠けている状態だからだ。
しかし、私の思考能力は半分ほど残っている。その思考能力で私のすべきことを考えるべきだ。
もうすでに答えが出ている。
「…なんだ」
「あなたの……魂の中を…見せ、て?」
私はタツヤの了承を得ることなく、彼の魂の深淵に侵入する。それは倫理観に欠けたものであまり勧められるものではないのだが、致し方ない。
深く、深く、より深く。
機械のようなタツヤの中に入っていく。
施設時代でもよくわからなかった彼の中を初めて認識していく。
私はタツヤの記憶に入り込んだ。
そこでのタツヤは何かと戦っていた。
施設ではない。外だった。
それに、タツヤの姿も今と少しだけ違う。多くの者を失い、多くの苦しみを経た人間の表情にそっくりだった。血に塗れ、表情は暗い。
それに何よりも、今のタツヤよりも機械的に見えた。
しかしながら、今と違って信念のもとに行動している。
タツヤは海上にいた。海軍、というやつだろう。彼が所持している海軍軍刀もこの時代から使っていたようだ。
それにしても、未だ短い時間しか観ていないがわかることは多々あった。
どうやら、ここは異世界らしい。
タツヤが身にまとう衣類を見てもそれがよくわかる。私が記憶する中で、この服装をしている海軍はなかったはずだ。
異世界、それはコミックの中でのみ存在するものだと思っていたが、まさか現実に存在するとは。
それ以上に驚いたことがある。
タツヤを含め、全員が朧心命流を修めている。私に準ずる技術を持ったのはタツヤのみだが、恐らくタツヤの本国には同じ程度の実力者が少なくとも一人はいるはずだ。
そうでなければ、タツヤ程の実力者を派遣のような形で戦地に送るわけがない。天皇のような立ち位置の人間を守るために近衛がいるはずだ。
……どうやら、少しだけタツヤから離れた場所も観測できるようだ。見てみようか。
そう思い観測地点を変えてみるが、私の予想は的中したようだ。
異様に覇気を人間がいた。とはいえ、それは邪気ではない。
この人が天皇だろう。…いや、皇帝…か?
その人の周りに控えている人間はすべて実力者だ。一人だけタツヤに並ぶ実力を持っている人間がいた。
その人間に、私は見覚えがある。
「……え、ゲンセイさん?」
すぐに思考を巡らせた。
とはいえ、それはすぐに終わってしまう。
思い出したのは、私の弧月を斬った時のゲンセイさんの言葉だ。
『その刀。なかなかだな。オレがあの頃に持っていた刀よりも質がいい』
その時に彼が持っていた刀は、あの時の弧月よりも質が良かったので、この刀の前代がいたのかと思っていたが、彼が言ったのはこの刀のことだったのだろうか。
その場合、彼は何故この世界にいる?
ああいや、そもそもタツヤの記憶に入り込んでいる今、このような別世界の記憶を読めている時点で「近藤達也は転生している、あるいは世界を渡り歩いている」という事実が浮き彫りになっている。
ゲンセイさんも同じだと考えるべきだろう。
なるほど、それならばタツヤが朧心命流を修めて私を倒したことに納得がいく。
しかし、朧・百華繚乱を使えた理由は何だろうか。いくらタツヤでも、ゲンセイさんに教わったとは思えない。
私も、ゲンセイさんが使って初めてその存在を知ったのだ。
こう言っては何だが、才能自体はタツヤよりも私にある。
私が教わっていないというのに、タツヤが教わっていると考えるのはいささか難しい。
……状況の違いやゲンセイさんの方針の違い、タツヤがゲンセイさんと剣を交わした時間の違いなど、色々な異なる点は挙げられるが、タツヤの戦闘シーンを見れば断言は容易に可能だ。
タツヤは朧・百華繚乱どころか、六華斬以上の技すら使えていない。技に関して言えば、私よりも拙く、五華突だろうと揺らいでいた。
ゲンセイさんについてはある程度の考察は終わった。
タツヤたちの方に視線を戻そう。
もう一度見た時、私は新たな技術に気が付いた。
(闘気…か)
現在、タツヤとその部下たちは異形の物の怪と戦闘を行っているのだが、その中で彼らは闘気によって戦いをある程度有利に進めているのだ。
しかし、それはタツヤたちの陣営が優位に立っていることと同義ではない。
物の怪の類は、妖魔と呼ばれていた。私から見ても化け物だと言っていいだろう。虚無を使わなければ勝利することが出来ない。
カタストロフが必要となる相手、といえば十分にその異常性がわかるのではないだろうか。
少なくとも人間、そして、お母様を除く脳無を超えている。
幸運なことは、技術が大したことないことだろうか。
タツヤはそのような存在と2対1を演じている。その上、善戦している。ひとえに技術が卓越しているからできる芸当だ。
しかし、それも長くは続かない。相手の技術もタツヤには及ばないまでもなかなかのものだったためだ。
人間であるタツヤにとって、妖魔の攻撃一発一発が致命となる。
タツヤは傷つき、倒れる――
――瞬間に、彼が消える。
スイッチボックスのようなものか、そう思考した瞬間に、私の視界もぐわんと歪んだ。
そして映るのは、一つの庭園。場面が映ったのだろう。そこも見覚えがなく、そして何よりも異常なことがあった。
空気が異様に重たいのだ。
この空気の中では、何でもできるような全能感がある。
私はあくまでもタツヤの記憶を観測しているに過ぎない。私からアクションを起こせる内容は限られている。記憶の中の人間と会話することなんてできないし、触れることなんて以ての外だ。
しかし、観測及び分析することは可能だ。私はこの空気を理解する必要があった。
しかしながら、それをすることはできない。
私は、庭園でくつろいでいた存在に目を奪われていた。
金髪で、少年のようにも見える。
ただ、そのような人間には似つかわしくないほどにキレた目をしている。表情には自信が溢れており、堂々としている。
その上、その者が持つ魂は先ほどの皇帝と同じものだった。もちろん、些細な違いはある。しかし、パッと魂だけを見れば同一人物だと分かった。
しかし、魂以外にも目を向ければ話は変わる。
(誰だ…コイツは……)
ここも違う世界だという事は理解できている。だから、そいつを知らないのは当然のことだ。
しかし、私はこの人間が放つ異様な覇気に魅せられていた。
私はこのような覇気を知らない。帝王が放つもの?少なくとも、そのような存在に近いことは確かだろう。
『――面白い。これも何かの運命なのだろうな』
金髪が立ち上がり、タツヤに寄った。
そうすると、タツヤは気を失って倒れ伏す。
『任せる』
『分かったわ、ルドラ』
金髪――ルドラ――は護衛…だろうか、近侍のような存在に言ってタツヤを連れて行かせる。
……その近侍さんは、蒼髪だった。とても綺麗で、神秘的だとすら言えた。
そして何よりも、そいつが放つ存在感が別格だった。ルドラが放つ覇気とはまた違ったもの。圧倒的な強さ。
先の妖魔も、タツヤも、私も話にならない。こいつがその気になった瞬間に殺される。
その光景が、いやに想像できた。
本当に近侍だろうか、いや、違うだろうな。近侍だとしたら不敬がすぎる。
『――ところで、そこで見ているおバカさんはどうするの?ルドラ』
『フム、お前も気付いたか』
『ええ、もちろん』
(――え)
私の視界がまた揺れ、別のシーンに移り変わる。
(なんなんだ…あいつらは……!)
私は寿命が縮んだような感覚を覚えた。
呼吸は不自然なくらいに落ち着いている。だけれども、私の魂はおぼつかなくなるような錯覚を覚えていた。
私が、恐怖しているというのだろうか。
(……世界は広いな)
先程タツヤに敗北したとはいえ、正直な話、私以上に強い人間はいないと思っていた。いたとしても、並ぶ程度だろうと。
どうやら、それは私の自惚れだったようだ。
そこからは、ダイジェストのようにタツヤの生涯が映し出されていった。
情報に巣食う怪人
帝国の影に潜むもの
人であり、魔を従える者
様々な二つ名を持つタツヤ。彼は、帝国の情報局局長を務めていた。帝国海軍中尉も務めていた。中尉、という地位は前の世界での彼の地位だったようで、彼はその地位の際に持っていた部下たちの無念を忘れぬようにその地位にこだわっているらしい。
彼らしい、と思った。
彼は帝国で怒涛の活躍を続ける。
主に暗躍だ。
彼は、
というのも、それはこの世界特有の大気を多く使うものだったのだ。
それを『魔素』というらしい。
この世界には『魔物』が跋扈しているらしく、その魔物が生きるために魔素が必要なようだ。その上、魔素は私の虚無のような万能エネルギーの類らしく、この世界にはそれを利用した『魔法科学』という学問すらあるらしい。魔法兵器による戦術兵器も多様に存在するようだ。
魔素、というものを取り込み、自分の力にしたタツヤはすさまじいものだった。
私の世界のタツヤの実力を1とするのなら、魔素を介したタツヤの実力は100を超えるとみていいだろう。
本当に、世界は広い。もしかしたら、私と戦っているときのタツヤの心情は、思い通りに体が動かないことによるじれったさがあったのかもしれない。
私もこの世界に染まれば大きく強さを底上げできるだろうが、それは難しいだろう。行く方法もわからない上、戻る方法もわからない。
タツヤが界渡りをしたのなら帰還方法がわかると思われるが……もし転生ならお手上げだ。
話を戻そう。タツヤは支配の呪弾によって『クレイマン』という魔王を操っていた。
そこは私にとってたいして重要ではない。クレイマンを使って暗躍していた、それだけだ。
その暗躍は世界のほとんどを大きく動かしたものだったのだが、私には関係ない。
しかし、私は一つの存在に目を奪われた。
それは、水色の物体。スライムだった。
しかし、変に知性を持っている。それだけでも異常だが、会話をすることもできるようだ。
私の探知能力の成長のせいか、この世界特有の魔素の影響を受けているのかは定かではないが、私はこの世界のほとんどを観測できるようになっていた。
ある時は、
ある時は、深紅の長髪の悪魔を、そいつと対等な存在である少女を。
どいつもこいつも、先ほどの蒼髪の女に匹敵するか上回るほどの存在感を放っていた。特に、悪魔と対等な少女は蒼髪と同じような魂をしていた。姉妹だろうか。
赤髪はバケモノだ。恐らく、蒼髪を含めても4名の内で最も強い。
ルドラも異常な強さを持っていたし、この世界は地獄の一種なのではないかと疑ってしまう。
そいつらを見た私でも、スライムは異常だと思える。
あいつらのような理不尽な感覚はない。それでも、目を離せない何かがあった。
そいつは、「リムル=テンペスト」といった。
リムルの躍進は目覚ましい。ゴブリンの小さな村から、大きな国にまで発展させていった。
もちろん困難は多く襲ってきた。多種多様な種族の魔物を仲間にしていく最中で、戦闘が多かった。時には、魔物を敵とする人間によって仲間が死んでいくこともあった。
主であるリムルに近しい幹部級の者も、罪のない一般も善良な魔物も、関係なかった。
――そこで、リムルが死んだ仲間を蘇生させていたのだが、そこは割愛しよう。
それよりも驚いたのは、その襲撃者の中に
他人の空似、という線も考えたが、魂を見れば本人だと簡単に理解できる。
彼も界渡りをしたのだろうか。
そう思って彼を見ていたが、ひとりの鬼人に殺されていた。高年の、技術が卓越した者だった。私も、彼から学べることは多い。
あまりにあっけない橘の最期。
(……転生か。思えば、彼は生に強い執着を見せていた。それも、この経験があったからこそなのだろう)
私は橘の最期を見届け、視界の歪みを感じた。
次のシーンは、先ほどのリムルたちの陣営と、タツヤたちの帝国の全面戦争でのことだった。
タツヤの戦闘らしい戦闘はおよそ二回。
一回目の戦闘は、橘を殺した高年の鬼人との戦闘だ。「ハクロウ」と呼ばれていた。
タツヤと彼は同門。そして、戦闘は一瞬で終わってしまった。
タツヤは、「梅花――五華突――」を。
対してハクロウは、「八重桜――八華閃――」を。
それぞれ放つ。ちなみに、勝者はタツヤだ。
勝敗を分けたのは、身体能力の差だった。むしろ、技術に関してはハクロウの方が優れているのかもしれない。
タツヤはその直後に「ガゼル」というハクロウの弟子と戦う――かと思われたが、それはタツヤが不意打ちでガゼルの肉体を銃で穿つことで終わる。
戦争中に、ガゼルと剣を交わす必要はないと考えたのだろう。
ハクロウと剣を合わせたのは、タツヤなりのプライドだと思う。朧心命流。その中の「心命」を魔物であるハクロウが理解しているとは思えなかったのだろう。それを証明するために剣を交わした。
結果として、ハクロウはタツヤを超える技術を持っていたので敬意を払う。自分の流派にはとことん真摯なのだ。
二度目の戦闘はもっと苛烈だ。タツヤは、一人の少女と死闘を繰り広げていた。黄色髪の悪魔だ。「カレラ」というらしい。先の赤髪の悪魔と同列だろうか、彼女の存在感も私を怖気させる。
彼女は剣を得意としていた……と言いたいのだが、それは彼女の部下の悪魔による所業だったようだ。
その悪魔は自身の肉体を剣と変化させ、悪魔の技術を剣の帯刀者に上乗せすることが出来るようだ。「アゲーラ」と呼ばれていた。
ちなみに、彼の魂はゲンセイさんにそっくりであり、姿もそっくりだったため血縁者であると推測できる。
彼はタツヤと一対一が出来ない事を悔やんでいた。「わが流派の末裔」という言葉から朧心命流の開祖だと考えられる。この人も転生したのだろうか、それとも、界渡りをして悪魔化したのだろうか。
考えてもわからないことだが、気になって仕方がない。
とはいえ、別に知らなければならない事でもない。
ともかく、アゲーラのおかげでカレラの技術はタツヤに並んだ。それによってあとは些細な外部的状況などで結果が左右されるほどの激戦となったのだ。
他には、駆け引きや経験などで変わってくるだろう。それはタツヤに軍配が上がっていた。
だからタツヤの方が戦いを優位に進めていく。
そして、カレラは生物的強者であり、生まれついてからの強者であったがために、強敵との戦闘経験に乏しかった。つまり、訓練を積んで実践も積んできたタツヤとは天地程の差があったというわけだ。
タツヤが優位に立っていたのも、当然というものだろう。
しかし、それはカレラが敗北することと同義ではない。
経験がないという事は、伸びしろがあるという事。
そして、タツヤとの戦闘中に進行形で経験を積めばいいという事。
私がそれを聞けば、ありえないと一刀両断していただろう。
しかし、カレラはやってのけた。その上、新しい力を得ることが出来た。自らが強く望んだ「勝ちたい」という意志を形にしたのだ。
それを見て、私は戦慄する。戦闘中に成長するなど、ふざけるなといった話であった。
タツヤもそう思ったのだろう。普段は全く弱音を吐かないタツヤが「お前達は、理不尽だ」と言っていた。私からすればタツヤも大概に理不尽だと思うが。カレラもそう思っていたらしいし。
私が戦慄した理由はそこだけではない。
カレラが新しく得ることが出来た力は、この世の暴力の限りを尽くしたようなものだった。
私でも観測できない歪み、カレラに何かが干渉したかのような、はたまた導いたかのような。そんな温かい歪みを感じた後、私はカレラの変化を完璧に感じ取ってしまった。
それは、タツヤが持つ力と同等以上の力を得たという事実。恐ろしいことだ。戦闘の最中、それも追い詰められた末での出来事なのだから。
タツヤの『
カレラの『
断罪之王は、タツヤの個性である「断罪」の効果を底上げしたものなのだろう。いや、どちらかというと『断罪之王』が弱体化したのが「断罪」なのだろう。時系列的にも正しい。
カレラの『死滅之王』の全貌が明らかになる。
それは、私がよく知っている
しかし、私はそれを良く知らなかったのだろう。カレラの魔法の威力を見て、それを否応なしに認識させられてしまった。
「滅びをくれてやる。消え去れ!"
そう。それは私がよく知っている、終末崩縮消滅波。名前が同じなだけではない。やっていることも、その使用方法も同じだ。
しかし、私はソレが、同じ終末崩縮消滅波であると認識したくなかった。
だって、だって。あまりにも私のソレよりもケタ違いなのだから。
タツヤとカレラが戦っていた戦場は、異界と呼ばれるものだった。タツヤ陣営の蒼髪の女――ヴェルグリンド――が作ったものだ。それも私の「部屋」よりも強固であり、外界から独立していた。
カレラが放った終末崩縮消滅波は、その異界すらも破壊しかねないほどの破壊力を誇っていたのだ。
「……ハハ」
最近は乾いた笑いが多いな。いや本当に、私の理解の範疇を超える出来事が多すぎる。
しかし、これで明らかになった。
タツヤはすでに終末崩縮消滅波をその身に受けていたのだ。だから、その下位互換である私の終末崩縮消滅波にも対応できたのだろう。タツヤの肉体がこの時よりも弱かったとはいえ、脳無化したことによってそれはある程度克服できている。
しかも、私は終末崩縮消滅波を全力で放ったわけでもない。「部屋」が壊れてしまうからだ。例え全力でやったとしても、カレラに劣るためタツヤに勝てる道理がないだろう。
そして、私のその仮説は正しいのだと証明される。
タツヤは刀を構え、一つの技を放った。
「八重桜――八華閃――」
先程ハクロウが見せた奥義を、この場で再現して見せたのだ。しかも、それに込められた権能は
私に使った技よりも位が低い技で、私以上の終末崩縮消滅波を凌いで見せた。
しかし、カレラは一つ上手だった。
その極大魔法すら囮にして、本命の剣戟を形にしたのだ。
朧・百華繚乱。
ああなるほど、と思った。
私には、技術の知識はあるのだ。しかし、その技術を最大限引き出すことが出来ていなかった。
だって、カレラの朧・百華繚乱も私のソレよりも優れていたのだから。
それが浮き彫りになってしまう。
そう打ちのめされている間にも、カレラはタツヤを切り裂いていき。
そして、彼の体を袈裟懸けにした。
彼の命は潰えていく。
己の全霊をかけた死闘に敗れ、体がいう事を聞かなくなっていく。もう満足に喋ることも出来なくなっていた。
その中で、タツヤはカレラと言葉を交わす。その内容は聞き取ることが出来なかった。恐らく、私の世界にいるタツヤが
しかし、私にとってそれは問題ではない。そんなことよりも、視覚的に驚くべきことが起こったのだ。
タツヤが愛用していた南部式大型自動拳銃が黄金に輝いたのだ。そして、タツヤの魂が黄金銃の中に吸い込まれていく。
しかし、魂を構成する要素の一つである
(だから、貴方は転生してきたんだね)
私は、タツヤのことが分かった気がしてきた。
タツヤはカレラに託す。己の約束も、力も。
その話は、もう見ることが出来ないだろう。タツヤの抵抗が強くなっている。
それでもいい。すぐに戻るだろうが――
《―――覗き見は楽しかったですか?》
―――は?
私は、私の頭に響く声に理解を示すことが出来なかった。もちろん、言語としての理解はできている。
しかし、その前提。何故私を認識して話しかけることが出来ているのだろうか、という事が理解できなかった。
先程のヴェルグリンドとルドラとは違う。威圧感がないことが逆に怖い。
《敵ではありません。私のことを話すことはできませんが、私はあなたに祝福を授けることが出来ます》
声は、そんな私を無視して語り掛ける。気遣いもへったくれもない。
「祝福?」
《ええ、祝福です。世界は違えど、
それは、度し難い驚愕。言っていることは理解できるのに理解できない。そう言語化するのにふさわしいだろう。
私の力を。『魂』の能力を変える。
あるいは、私の技術を向上させるという話かもしれないが。
声は私に問いかける。
《
甘美な響きだ。もしかしたら、帰還したその瞬間にタツヤに勝利することが出来るのかもしれない。
嗚呼本当に、これがウソであるという可能性を失くせば、受け入れない理由などないのだろう。
しかし――
「――
《…………》
声は、私の返答に反応する。
その反応は、まるで私がこの先に言う言葉を待っているようなものだった。
「その代わり、叶えてほしいことがある」
私は傲慢に、欲張りなことを言う。
「お前の主――リムル=テンペスト――と、カレラの人生を観測させてくれ」
恐らく、こいつの主はリムルだ。そして、カレラはリムルの部下。
恐らく帝国との戦争はリムルの陣営が勝利するだろう。帝国側ではタツヤを筆頭とした実力者が全員敗北している。残りの戦力はルドラのみ。私が恐怖を覚えたヴェルグリンドもリムルに敗北していた。
だから、リムルを見てヒントを得たい。強くなるのなら、与えられるのではなくて自分で会得したい。
カレラも、私の手本になるだろう。朧心命流はもちろん、タツヤの力を得たことで神滅弾なども扱える。そして、終末崩縮消滅波を研究することもできるはずだ。
だから、これを叶えてほしい。
《………チ》
……舌打ちされたのだろうか。
《ハア…あなたの魂を解析できれば更なる進化を望めたのに……まあ、仕方がありません。それがあなたの望みなら叶えましょう》
声は心底残念そうにそう言った。それを聞いて「解析ぐらいならいいよ」と思ったのだが、それを言うと墓穴を掘りそうだ。
もうすでに観測は可能になったから用は済んだしな。
《言質を取りました。個体名『夜月 静江』の『魂』の解析を開始します》
あれ?
「ちょっま……」
《開始してしまったら中止は不可能です》
「そうじゃなくて!タツヤが私の能力に
《面倒くさいですね…私の方から抵抗しておきます。これで問題ないでしょう》
「ええ…そう言う問題?」
なんだか雰囲気がほんわかしている。少しだけ気が抜けてしまった。
しかし、声は本当にタツヤに抵抗し始めたので正しいことを言っているのだろう。なら、いいか……?
私の名前を知っているのも気になるが……。
そうして解析終了を待っていたが、案外それはすぐに終わったらしい。
《『魂』の解析が終了しました》
「はっや。そんなに情報なかった?」
《そもそも、世界が違うので情報に限りがあります。あなたの意には反するかもしれませんが、かなり有益な情報があったのであなたに一つ祝福を授けます》
そうして、私はその祝福の存在を完全に理解した。
『魔素』の理解、そして干渉権限だ。
「……私の世界に魔素はないぞ」
《……ふふ、あなたには心当たりがあるでしょう?》
……なんでもお見通しだな。
そう思った後、私は歪みを大きく感じた。タツヤの抵抗が成功したのだろう。
嗚呼、そう言えば。
「名前…聞き忘れたな……」
そして、意識は帰る。
私が現実に帰ったことを認識したのは、体を駆け巡る激痛を感じたが故だった。
「覗き見は楽しかったか?」
タツヤのその言葉はあの時の声と同じ言葉だった。それが何だか面白い。確実に違う存在だと判断できるのにもしや、という思考が顔を出してくる。
「あ、あ…ゴフ!…楽しかった、よ……」
吐血したことによって言葉は途切れ途切れになってしまった。
タツヤが私の胸の上に刀を構える。突き刺そうとしているのはまるわかりだった。
「……さらばだ」
ふふ、わざわざ言葉を残すなどタツヤらしくもない。今の私には、そんなことを考える余裕があった。
タツヤが私の胸に刀を突きさすべく刀を下に向かわせる。
「……早計」
――瞬間、タツヤの軍刀がその進路をそらした。
「な……!」
久しぶりにタツヤが驚いた表情を見た。懐かしい、そんな顔だったっけ?
タツヤの軍刀がその進路をそらした原因はすぐにわかる。
そもそも、紫色の光に呼応するように進路をずらしていたためだ。
(流石ナガン)
ナガンが私を助けてくれたのだ。近くに魂は観測できないので長距離スナイプをしたのだろう。こんな暗いところを正確に狙撃するなんて流石だな。
しかし、それは一瞬のこと。
タツヤは状況理解を後回しにして私を殺しにかかった。
(本当にらしくない)
普段のタツヤなら、こんな時こそ冷静に周囲の状況を確認しただろうに。私が記憶を読み取ったみたから動揺しているのかな。
――だから、伏兵の存在に気付けない。
複数の羽根が私の体を運んでいく。その速度はタツヤが剣を振り下ろす速度よりも速かったため、トドメの攻撃は空振りに終わる。
「シズ!」
伏兵はホークスだ。
「い、やー……なーいす……」
しゃべる元気は欠片もなかったが、命の危機を脱したと安堵して少しだけ気分がハイになっていた。今の私はアドレナリンもドバドバなんだろうな。
「クッ…」
タツヤが私たちに銃を向け、放つ。
その弾丸は
しかし、それも届かない。ナガンが弾を撃ち落とした。
本当に流石だ。
しかも、ホークスは私の上半身だけでなく下半身もちゃんと回収していた。流石はナンバー2。
(さようなら、タツヤ)
私は薄れゆく意識の中で思考する。タツヤに届けるように思考したのでタツヤにもその詳細は伝わっているだろう。
(次は殺す)
そうして、私の意識は闇に沈んでいった。