雄英高校に入学してから2日目、私たちは1日目の受難を乗り越え、授業を受けていた。
トップヒーローを育成するところの特別な授業を受けると思い胸を膨らませたが、期待に反して授業自体は普通だった。
しかし、本番は午後から。ヒーロー科の午後の授業は「ヒーロー基礎学」というヒーローの素地を育てる授業がある。午前の一般授業ももちろん大事だが、やはり心躍るのはヒーロー基礎学だろう。
「わーたーしーがー!!」
予鈴がなり、席についていると、突如大きな声が聞こえた。
「……普通にドアから来た!!!」
ドアがバン!と音を鳴らして開けられる。ドアのほうを見ると、そこにはナンバーワンヒーローのオールマイトがいた。
「すげぇ!オールマイトだ!」
「雄英の教師やってるってやっぱ本当だったんだな!」
「あのコスチューム、
オールマイトは今年に入って雄英の教師に赴任したらしく、そのせいか、今年の雄英の倍率は例年よりも高かったらしい。
オールマイトは軽い足取りで教壇へと向かい、『BATTLE』と書かれたプレートを力強く突き出した。
「早速だが、今日は戦闘訓練!そしてそれに伴って……こちら!入学前に提出してもらった『個性届け』と『要望』に沿ってあつらえた
教室の壁が突き出て恐らく
「着替えたら、順次グラウンドβに集まるんだ!」
先生の言葉に私たちは返事をし、更衣室へと駆け込んだ。
女子更衣室でコスチュームに着替えていると、前日よりも会話が続いた。
「なんかパツパツしてる……」
「ね、それ絶対エロ親父が考えたよ!…て、や、八百万!?それ恥ずかしくないの!?さすがに返品できるレベルだよ!」
八百万のほうを見ると、八百万は胸元が極端に開いた赤いレオタードを着ていた。
何て言うか……
「寒そう」
「いやそこ!?」
「私は個性の性質上肌を露出しておく必要があるのです。むしろ要望よりも隠されているくらい……」
「これ以上の要望!?」
「ストイックだね」
「さっきからズレてるよ!」
話題はやはりみんなのコスチュームに関してだった。
「てか、葉隠も寒そうだね。まだ着替えてないの?」
「え?もう着替えたよ!」
みんなが黙った気がした。
「透明な服なの?」
「いや、着てないよ!これで誰にも見えないからね!」
「確かに見えないね。見えないのは戦闘においてアドバンテージになるし」
「だよね!」
私がほめると葉隠は誇らしそうに胸を張った……と思う。
「え!?葉隠裸なの!?」
「もう!言わないでよ!考えないようにしてたのに!!」
耳郎の言葉に葉隠は物申す。そうか、裸なのか。体張るな。
「てか、夜月のは何?軍服?」
芦戸が手袋を着けている私に問いかけてきた。
「軍服だよ」
「なんで?」
「戦闘服といえば軍服じゃない?」
私はコスチュームに特別な機能を求めていなかったので、単純に私の好みを反映させて、『高性能な軍服』という要望を提出した。
上はワイシャツ。下は黒色を基調としたパンツスタイルで、マントを外すと体のラインがよく見える。麗日ほどじゃないけど。マントのフードにはモコモコした毛があって肌触りがいい。
「……」
あれ、黙っちゃった?
「……やっぱ、ズレてるね」
「ひどい」
着替えた私たちはグラウンドに集まった。
「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」
顔を完全に隠した飯田がオールマイトに質問した。声を聴くまでわからなかった。
「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練さ!!ヴィラン退治は主に屋外で行う印象が強いが、実は統計的には屋内のほうが多いんだ」
オールマイトは今日の訓練の設定を発表した。
二人一組(1チームだけ三人)を組み、「ヒーローチーム」と「ヴィランチーム」に分かれる。「ヴィランチーム」は核を所有していて、廃ビルに立てこもっている。「ヒーローチーム」はヴィランの確保に動く。
「ヒーローチーム」の勝利条件は、すべてのヴィランの確保または核の回収。核に触れることで核を回収したと判断するらしい。
「ヴィランチーム」勝利条件はすべてのヒーローの確保または制限時間まで核を守ること。
時間切れの場合は、戦闘不能者が少ないほうのチームを勝ちとするらしい。
設定がアメリカンすぎるけど、とりあえずみんな理解した。
チームメイト及び対戦チームをくじで決めた。私のチームは『I』。チームメイトは尾白と葉隠だった。
「よろしく。尾白。葉隠」
「よろしくね」
「よろしくー!頑張ろ!」
一回戦は、「ヒーローチーム」が緑谷と麗日。「ヴィランチーム」は爆豪と飯田。
爆豪と緑谷には何か因縁がありそうだった。
モニターで一部始終を見ていたけど、正直見るに堪えなかった。
まず、爆豪の独断専行。おそらく戦略的行動ではなく、私怨によるものだった。
緑谷は制御できていない個性を使わずに爆豪の動きを見切り、対処する。
が、徐々に対応する爆豪。戦闘センスの高さを見せる。
戦線離脱した麗日は核のすぐ近くにたどり着くが、核のそばには飯田が。飯田はヴィランになりきっていて、その一人演技に麗日は吹きだしてしまう。そのせいで飯田にバレ、核を確保しようにも飯田の俊足でよけられる。
決め手に欠ける麗日のために緑谷は逆転の一手を打つ。個性を使用してビルの最上階まで衝撃を届け、それに麗日が大きい瓦礫をバットにして、小さい瓦礫を打ち、飯田を怯ませる。その隙をついて核に触れてしヒーローチームの勝ち。
ヒーローチームの勝ちではあるが、その動きはあまり褒められたものではなかった。爆豪もだが。
まず、核を意識していない動き。
緑谷は核の方向に向けた個性の全力使用。
麗日は核に向けての瓦礫飛ばし。
本物の核だったらと思うとゾッとした。
爆豪も爆豪だ。
自分の拠点であるビルの大規模な破壊。しかもそれが私情による暴走によるものという始末。
唯一飯田のみが設定を考慮した動きを見せていた。
以上のことから飯田がMVPとなった。
そして場所を変えて2回戦。ヒーローチームのメンバーは轟と障子。障子の索敵がこの狭いビルという戦場において脅威だ。
ヴィラン側は私たちのチーム。私たちはビルの最上階に核のハリボテを設置し、軽い作戦会議を始めた。
「とりあえず個性の共有しようか。俺の個性は見ての通りこの尻尾。尻尾を動かして攻撃できる」
「私の個性は『透明化』!ずっと透明だから誰にも見えないよ!」
「私の個性は『魂』。魂って言っても、その中に含まれるエネルギーを利用してるだけ。昨日の銃もジャンプ台もそのエネルギーを使って生成したものだよ」
私たちのことを話した後、議論は相手のことに移る。
「脅威なのは障子だ。彼の索敵能力は目を見張るものがあると思う。顔の一部を複製できるみたいだから、葉隠も見つかるかもしれない」
「それに轟君もやばいよね。氷で凍らされると何もできなくなっちゃう」
「そうだね。俺たちは近接メインだし」
葉隠と尾白は障子よりも轟に重きを置いているらしい。でも……
「轟は大丈夫。私が相手できるから。ていうより、相性的に私しか相手できない」
二人は私の言葉に驚いていた。その理由を説明する間もなく、開始の合図が聞こえる。
瞬間、急に冷気が襲ってくる。
「放熱」
私はエネルギーを放熱させ、氷結を防ぐ。ちょうど私たち周辺のみが氷結を免れた。
「無事?」
「う、うん。なんとか」
「ありがとー!」
二人の安全を確認し、私は行動する。
「今みたいにやれば轟は大丈夫。私は轟を抑えとくから障子をお願いしたい。できる?」
「ああ、任せろ!」
「ガッテン!!」
「じゃあ、所々罠仕掛けてくから気を付けてね」
「わかった。そっちも気を付けて!」
私は尾白の言葉を受けて下に降り、轟たちを迎えに行く。
轟とは二階で出会った。
「やあ、ここは通さないよ」
轟は私の登場に驚き、戸惑った。
「なんでここにいる?全体を凍らせたはずだ。どうやって抜け出した?」
轟の疑問。私はそれに答える。
「こうやって」
私はそう言って熱を放出し、ビル全体の氷を溶かした。
「熱……!」
「そう。私の個性は汎用性に優れていてね。君は氷を薄くしてくれたから楽に溶かせたよ」
「なるほどな」
「ところで障子は?外かな?」
「教えるわけねぇだろ……!」
そう言って轟は私に向かって氷を出す。
私は弧月を生成し、氷を斬る。同時にレーダーで障子の居場所を把握。
「障子は外か」
「!」
私は葉隠に無線で連絡を入れる。
『葉隠。轟と交戦を開始した。障子は外にいるから。警戒してね』
『分かった!気を付けてね!』
連絡を切り、轟との戦闘に集中する。轟も障子に連絡を取ってた。
「さて、遊ぼうか。ヒーロー」
そう言って私は轟に弧月を向けた。ついでにエスクードで退路を塞ぐ。
轟も応戦の意志を見せる。
「なんちゃって」
私は弧月を消す。
「!?何のつもり…」
「はい、隙あり」
私は事前に用意していたスパイダーを使い、轟の四肢を固定する。
「なっ……!」
「相手が予想外の行動をしたとしても、冷静にならないとね」
私は戸惑う轟に私は言葉を投げかける。
「こんな糸……!」
「おっと、個性を使わないでもらおうか」
私はアステロイドを生成し、轟の眼前に突きつける。
「使ったら、これで気絶させる」
「くっ……」
轟の抵抗意識を殺し、私は轟に指示を出す。
「障子を呼んでよ」
「な……」
「今、ここに。障子を。今すぐ」
乗らないだろうな。これはあくまでも訓練。殺されることはないし、不用意に痛めつけられることもない。だから、私の要求に乗る必要はない。
「断る…!」
「だよね。知ってた」
私は轟にアステロイドを当て、気絶させる。
『轟制圧。捕獲テープを巻いたら障子のほうに向かう』
『早っ!?わ、分かった!』
私は轟にテープを巻いて確保する。そしてレーダーで障子の位置を確認。
「まだ外?」
私は外に出て、障子の探索に出る。
「……いない」
私はもう一度レーダーで障子の位置を確認し、その方向に向かう。
障子は壁を上っていた。
「壁……そうか!窓!」
私は二人に一報を入れる。
『窓警戒!障子が来る!』
『ッ!わかった!』
尾白が反応した。私もグラスホッパーで障子を追いかける。
私が上ると、障子が尾白、葉隠コンビと戦闘していた。
「終わりだ」
私は障子の首に弧月を添え、動きを止める。
「くっ……。ここまでか」
「夜月!」
「轟は捕獲した。この狭い部屋で3対1。しかも今は挟み撃ちの状態。詰みだ」
私は障子に状況を説明し、戦意を折る。
「……参った」
障子は両手を上げ、降参の意を示す。……が、まだ不意を突けば障子も核に触れることができる距離。
「一応、警戒はする。テープ巻いて」
「わかったよ!」
葉隠が障子に捕獲テープを巻く。
「完敗だな。油断した隙をついて回収しようと考えていたのだが」
障子はテープを巻かれた後、複製した口で言う。
「まあ、一応ね。油断するのは全部終わってからって決めてるから」
『ヴィランチーム、WIN!!!!!』
オールマイトの放送で私たちの訓練は終わった。
「じゃあ行こうか。二階に轟がいるはずだから早くいこう」
轟は目を覚ましていて、テープを凍らせて砕くことで、脱出していたようだ。
「悪ぃ」
彼は障子に謝罪していた。勝敗の放送を聞いていたようだ。
「謝罪は不要だ。俺も思うように動くことができなかった。俺たちの動きが悪いというより、向こうが一枚上手だっただけだ」
そう言って、二人はこちらを見た。
「俺たちは特に何もしてないけど……」
「そうだね、夜月だよりになっちゃった」
尾白は気まずそうに目を逸らした。多分葉隠も。
「そんなことはないよ。二人とも私との連絡を密に取ってくれたし、私の指示に素直に従ってくれた。障子と戦う時も尾白は核を背にしていたし葉隠も障子の裏を突くように行動していた。正直、期待以上の動きをしてくれたよ」
尾白は私の言葉に照れくさそうにほほをかいた。多分葉隠もそうしてた。「へへへ」とか言ってるし。
「……次は負けねぇ」
轟は私に向けて言った。
「私も負けないよ」
轟は私の言葉に何も返さずにモニター室へ歩いていった。
「今回のMVPは夜月少女だ!轟少年の氷結に対する迅速な対処!次に轟少年と対峙したときに機転を利かせて即座に無効化!最後に障子少年を退路を塞ぐ!テープを巻くときも油断を一切せず、隙を与えなかった!理想的な動きと言っていい!」
モニター室に戻ると、オールマイトの講評が始まった。
「尾白少年と葉隠少女の動きも素晴らしかった!先兵として轟少年の対処に赴いた夜月少女と連携し確実に詰ませる動きに殉じる!実際に動くことは少なく、実感しにくいだろうが、障子少年は明らかに二人のことを考慮して迂闊に動くことはできなかった!」
二人はオールマイトの話を聞いてさっきよりも照れくさそうにした。
「障子少年と轟少年も動きは悪くなかったが、夜月少女たちが一枚上手だった!最初のビル全体を凍結させるのはよかった!だが、相手が対処した際の行動には改善の余地があった!轟少年は相手の目の前で驚きをしてしまった!障子少年は轟少年との連絡からの一瞬の行動の停止!細かいところだが、それが勝敗を分ける一因となった!」
轟と障子はオールマイトの言葉を真剣に聞いていた。
でも、ほとんど私が言った気が……。
私は何も言わなかった。きっとこれが正解。
この後も訓練は続き、特にビルの大破や生徒の大怪我もなく授業を終えた。緑谷は保健室に直行だったけど。
「お疲れさん!緑谷少年以外に大きなケガ無し!みんな真摯に取り組んでいて初めてにしては上出来だったぜ!それじゃあ私は緑谷少年に講評を言ってくるからみんな着替えて教室に戻りなさい!」
オールマイトは不自然に急いで私たちの前から消えた。少し不思議に思ったが、気にせずに教室に戻ることにした。
「なあ!放課後はみんなで訓練の反省会をしないか!?交流会も兼ねてよ!」
下校時間になってから切島がみんなに呼びかけた。
「いいね!やろうやろう!」
「賛成!」
「俺も参加しよっかな」
「全員参加か?爆豪!お前はどうすんだ?」
切島は爆豪にも呼びかけるが、爆豪は何も言わずに俯いて帰ってしまった。
「っておい!爆豪!?……帰っちまった。まあいいか。轟はどうする?」
「悪ぃ。用事あっから」
「おう!そうか。また明日な!」
轟も誘いを断り帰ってしまった。
「あとは参加か?じゃあ、始めようぜ!」
切島の発言で交流会兼反省会が始まった。まずは自己紹介から始まり、その次に各試合の意見交換を始めるようだ。
自己紹介が終わって1試合目の意見交換をし終えたタイミングで緑谷が教室に返ってきた。彼は爆豪のことを探していて、帰ってしまったことを知ると、追いかけるべく教室を飛び出した。
緑谷のことを案じつつも、会話は2試合目のことに移る。
「2試合目は夜月がすごかったよな!轟を瞬殺してたし、障子の対処もやってたしよ!」
「轟を倒せたのは不意打ちがうまくいったからだよ。不意打ちしなくても倒せはしたけど時間がかかったと思うし」
「倒せるってだけでもすごいよ……?」
「訓練の時、何考えて動いてたんだ?」
それから、私の動きについての話になった。
「まず、轟の個性上、ビル全体を氷で覆うことが一番強いムーブだと思ったから、尾白と葉隠と一緒にいた。案の定その行動をしたから、まず放熱をして氷を防いだ」
「そういやお前の個性ってどんなのなんだ?武器作るだけじゃないのかよ?熱出してたけどよ」
「私の個性は大気に満ちてるエネルギーを使っていろんな事象を起こす個性だよ。そのエネルギーで武器を作ったりしてるだけ」
「汎用性高……」
「放熱して氷を防いだ後、轟の対処のために下に降りた。障子が一緒にいたとしても障子は先に行かせるつもりだったよ。罠も張ってたし。轟しかいなかったから意味なかったけどね」
私は訓練のことを思い出しながら言葉を紡ぐ。
「轟に時間を使いたくなかったから、さっき言ったように不意打ちした。弧月を向けてあたかもこれから戦いますよっていう印象を植え付けた。エスクードで退路を塞いだのもその一環だね。その直後に弧月を消して動揺を誘う。轟はなまじ優秀な分予想外の行動に弱いと思ったからそうした。そのあと、動揺して隙をみせた轟にスパイダーで動きを止めた」
「お、おう……すげぇな。そこまで考えてたのか……」
みんなは私の発言に少し引いていた。
「え、そのあとにブロックみたいなやつを出したのは?当たったら轟が気絶したけど」
「あれはアステロイドっていう弾丸だよ。弾丸って言っても衝撃と痛みが広がるだけだけど。……で、動けない轟にアステロイドを突き付けて、障子を呼ぶように脅した。障子を呼んでもらったら轟を人質にして降参してもらおうと思ってた」
「ひ、人質……」
「怖ぇよ!」
みんな私の言葉でドン引きした。何も言ってない人も言葉を失ってた。悲しい。
「だって、飯田もヴィランになりきってたし……。ヴィランならこうするかなって思ったからやっただけだし……」
「わ、悪い。言い過ぎた」
私が悲しむ素振りを見せるとみんなわざわざ謝ってくれた。優しい。
「で、轟が断ったから、すぐに気絶させて捕獲して、障子の探索に出た。レーダーで障子は外にいることがわかってたから、外に出て探した。見つけた時には尾白達のところにいたから挟み撃ちして詰み。……こんなところかな」
「お、おう……、すげぇな……」
それからも、みんなで反省会を続けた。熱中してしまい下校するのは放課後に入ってから2時間後ぐらいになってしまった。でも、みんなと仲良くなれた気がして嬉しかった。
こうして、二日目が終了した。
シズのコスチュームのイメージは、転スラのテスタロッサの軍服に、カレラのマントを羽織った感じです。