魂を満たす物語   作:よヨ余

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悪意

雄英高校に入学して早数日。今日も私たちはヒーロー基礎学の講義を受ける。

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう一人で見ることになった。」

 

「はーい!何するんですか!?」 

 

相澤先生の含みを持たせる言葉に疑問を浮かべつつ、瀬呂が質問する。

先生は『RESCUE』と書かれたプレートを掲げる。

 

「災害に水難、何でもござれ。人命救助訓練だ」

 

先生の言葉に教室は騒がしくなる。当然だ。人命救助こそヒーローの本分。確かにヴィラン退治も重要だが、やはり目的は弱者の救済なのだ。

 

「今回のコスチューム着用は各自の判断で構わない。中には活動を制限するコスもあるだろうしな。訓練場は離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上だ。準備しろ」

 

 

 

 

 

 

「バスの席順でスムーズにいくように番号順に2列で並ぼう!」

 

準備を済ましてバスに向かうと、飯田がフルスロットルで委員長の責務を全うしていた。

 

でも……

 

 

「こういうタイプだったかクソゥ!!!」

「意味なかったなー」

 

 

残念ながらこのバスは一部が向かい合わせになって座るタイプだったので飯田の行動は徒労に終わった。

 

「……」

「……」

 

私は向かい合わせじゃないほうの席に座る。隣は轟だった。

 

 

……気まずい……。

 

 

轟も私もしゃべるほうじゃないし、私には前に不意打ちした上に気絶させた後ろめたさがある。

 

「なあ」

 

「…何?」

 

まさかの轟から話しかけてきた!急なことに驚き、そっけない返事しかできない自分を情けなく思う。

 

「お前、どんな個性なんだ?」

 

「個性?」

 

「ああ、初日のテストでも一昨日の訓練の時も思ったんだが、いろんなことが出来すぎてるからな。どんな個性なのか気になった」

 

情報収集の一環かな?別に隠すほどのことでもないし……、会話になるのならぜひ教えよう。

 

「私の個性は『魂』。魂って言っても、その中に存在する『エネルギー』を利用していろんな事象を起こす個性だよ。戦闘訓練の時の剣とか、弾丸とか、熱出すのとかも全部そのエネルギーによるものだよ」

 

「……それって、炎も出せるのか?」

 

轟から質問が来る。その時の目には何か真剣なものが読み取れた。

 

「出せるけど、強さは周りのエネルギーの量と密度次第かな。基本的にはそんなに強くないよ」

 

「……そうか」

 

轟はそう言って黙ってしまった。また気まずい。

 

「……訓練の時の動きが素人に思えなかった。なんであんなに動けたんだ?」

 

と思ったらまた話しかけてきた。もしかしてこいつ会話苦手か?

 

「ああ、実は私お師匠がいてさ。そのお師匠もプロヒーローだったからいろんな動き方とか、戦い方を習ってたから……かな。勝つためにできること全部するんだよ。……不意打ちしたのはごめん。訓練でしたこととはいえ、謝ってなかった」

 

私は初めてクラスメイトにお師匠の話をした。ついでに戦闘訓練の時の不意打ちについての謝罪も済ませることができた。

 

「あん時は俺が油断したのが悪りぃ。それに不意打ちっつってもその前に色々誘導してたろ。策巡らせて上手く立ち回った奴に文句言うのは違ぇだろ」

 

「……ありがとう」

 

轟いいやつだな。

 

私は轟と(多分)仲良くなって、バスの中を過ごすことができた。

 

 

 

そして、ドーム型の巨大な建物の前でバスが停車した。

そこで宇宙服のようなコスチュームのヒーローに案内されて中に入ると、そこには某テーマパークのような空間が広がっていた。

 

「ここは水難事故、土砂災害、火災、etc.……あらゆる事故を想定し、僕がつくった訓練場です。その名も…………USJ(ウソの災害と事故ルーム)!!!」

 

え、大丈夫なの?それ。

 

「スペースヒーロー『13号』だ!災害救助で活躍している紳士的なヒーローだよ!」

「わーー!私好きなの、13号!」

 

緑谷が13号先生の説明をし、麗日が歓声を上げた。

 

少し相澤先生と13号先生が2人で何か話した後、13号先生が私たちに向き直った。

 

「えー、始める前にお小言を1つ2つ…3つ……4つ……」

 

あれ、どんどん増えてる……。

 

「皆さんご存知とは思いますが 僕の”個性”はブラックホール。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます。私はそれを救助に活用していますが、これは簡単に人を殺せる力です。みんなの中にもそういう”個性”がいるでしょう。超人社会は”個性”の使用を資格制にし厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる”いきすぎた個性”を持っていることを忘れないで下さい。相澤さんの体力テストで 自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘で それを人に向ける危うさを体験したかと思います この授業では心機一転!人命の為に”個性”をどう活用するかを学んでいきましょう!」

 

私たちは13号先生の話を聞き、自分の個性に少しだけ向き合った。私の個性……例えば弧月は設定を少し変えれば簡単に人を斬り、命を奪うことができる。イーグレットも、アステロイドも、設定を変えれば、簡単に人体を穿つことができる。人の命を奪うことができる。

 

「以上です。ご清聴、ありがとうございました」

 

ペコリと頭を下げる先生に、私たちは拍手を送った。

 

「そんじゃあ、まずは……」

 

相澤先生が授業を開始しようとしたとき、急にUSJの中心の広場に黒いモヤのようなものが浮かんだ。

 

最初に気付いたのは相澤先生。その少し後に私が気付いた。

 

「先生、あれは……?」

 

私がそう発言したとほぼ同時に、黒いモヤから瞳がのぞく。その瞳から見えるのは……悪意。

 

「全員ひとかたまりになって動くな!!!」

 

いつも気だるげな先生からは想像もできないような怒声にみんなは少し呆気にとられる。

 

「13号!生徒を守れ!」

 

先生がそう言って戦闘態勢を整えた後、その黒いモヤが拡大し、そこから大勢の人間があらわれた。すべての人間の瞳には悪意が見える。

 

 

………………いや……違う……。

 

 

一人だけ………一人……だけ………ない……。

 

 

ひ……とり………だけ………。

 

 

 

 

 

「なんじゃありゃ⁉また入試みたいにもう始まってるっつーパターン!?」

「違う!あれはヴィランだ!!」

 

相澤の言葉を聞いて全員が状況を把握した。目の前にいる人間の正体を正しく理解した。

 

「これはこれは……13号に…イレイザーヘッドですか……。先日頂いた教師側のカリキュラムには確かにオールマイトがここにいるはずですが……」

 

「チッ。やっぱ昨日のはクソどもの仕業か」

 

「どこだよ…せっかく大衆を引き連れてきたってのに……。オールマイト…平和の象徴…いないなんてさ……子供を殺せば来るのかな……?」

 

最初に瞳をのぞかせた青年がそう独り言をこぼす。そこからあふれ出す悪意に生徒全員が身震いする。

 

「13号!!生徒の避難開始!学校に連絡試せ!上鳴、お前も個性で連絡試せ。」

「ッス!」

 

相澤の指示に上鳴が返事をし、個性を利用して連絡を試す。しかし、結果はあまり振るっていなさそうだ。

 

「せ、先生は!?もしかして一人で戦うんですか!?」

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号、生徒を任せる」

 

相澤は階段を飛び降りヴィランの集団に飛び込む。そして抹消を用いて射撃系個性の個性を封じ、動揺したところを捕縛布でとらえ、無力化する。

異形型個性の持ち主にも動じず、冷静に格闘戦を仕掛け、捕縛布で拘束し、同じように無力化する。

 

「すごい……先生の本領は多対一だったのか……!」

「分析してる場合じゃないだろう!早く避難するぞ!」

 

分析を始める緑谷に飯田が避難を急かす。

 

全員が避難を開始し、入り口付近にたどり着いたところで、黒いモヤが現れる。

 

「初めまして。我々は敵連合。僭越ながら・・・ この度ヒーローの巣窟である雄英高校に侵入させて頂いたのは、平和の象徴であるオールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

ヴィランの言葉に全員が戦慄する。しかし、ヴィランに攻撃を仕掛ける2人の生徒がいた。

 

「その前に俺たちにやられることは考えてなかったかぁ!?」

 

爆豪と切島である。二人はヴィランに突撃するも、躱されてしまう。

 

「おっと。危ない危ない。そう。いくら卵といえどもここは天下の雄英。ところで…………、そこで止まっている少女は何をしているのですか?」

 

「止まっている?」

 

全員が後ろを見る。そこには確かに突っ立っているシズの姿が見える。

 

「夜月さん!?」

「敵の前でよそ見とは、ずいぶんと余裕ですね」

「しまっ……」

 

隙を見せた13号にヴィランは行動を起こす。

 

「散らし、嬲り、殺す」

 

ヴィランのモヤは大きく広がり、多くの生徒を飲み込んだ。

もちろん、その中にはシズも……。

 

 

 

 

 

 

私が正気を取り戻したのは、燃え盛る火炎が広がるエリアだった。

 

「ここは……」

「夜月さん!?大丈夫!?」

「尾白……?」

 

私の近くには尾白がいて、私を心配そうに見た。

 

「私は大丈夫。それより何が起こったの?」

 

尾白は私の疑問を不審に思いながらも、状況を簡潔に教えてくれた。

 

「なるほど……だから周りに敵がいるんだね」

「え?」

 

呆ける尾白を気にせず、私は対応に移る。

 

「バイパー」

 

レーダーでこのUSJ内で私たちに敵意を持っている人間を確認し、その対象に向けてバイパーを放つ。

 

「沈黙確認。このエリアはもうおしまい」

 

「……え?」

 

「このエリアにいたヴィランは全員気絶した。捕縛する時間がないから今は放って置くけどね。みんなの安全が最優先」

「さっき突っ立ってた人と同じだとは思えない……!」

 

尾白は私の行った所業に驚く。そんな尾白に私は指示を出す。

 

「ほかのエリアも大丈夫そう。でも山岳エリアだけが不安なの。尾白、助太刀に行ってくれる?」

 

「なんで山岳エリア?他のは?」

 

尾白の疑問に私はレーダーを見ながら答える。A組のみんなのことはタグ付けをしたから、だれがどこにいるのかよくわかる。

 

「飛ばされたエリアはここを除いて暴風エリア、倒壊エリア、土砂エリア、水難エリア、山岳エリアの5つ。暴風には常闇が、倒壊には爆豪が、土砂には轟が、水難には蛙吹がいる。でも山岳には戦闘に秀でた人もいなければ、環境に適した人もいない。だから、助太刀に行って、せめて持ちこたえてほしい。事態を知った先生たちがすぐに来るはずだから」

 

「……わかった。夜月さんはどうするの?」

 

「私は中央広場に行って先生の助太刀をする」

「!?危険だよ!」

 

尾白は私に忠告をする。でも、私の意見は変わらない。

 

「危険なのはみんな一緒だ。尾白に一人で助太刀を丸投げして私一人が安全になるわけにはいかない。……少なくとも、お師匠ならそうする」

 

「お師匠?」

 

「私はもう行く。尾白。山岳エリア、頼んだよ」

 

「ちょっ……夜月さん!?」

 

私は尾白の呼びかけに答えずに駆け出した。

 

 

 

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