デュエマプレイヤーは「カードが全ての学園島」で成り上がるそうです。 作:タク@DMP
「僕は4マナで《アビスベル=ジャシン帝》を召喚!」
「ッ……!! そ、それなら《コハク》で軽減して《一音の妖精》を出しますっ!」
──それから一週間ほど、照陽はこころにデュエマを教える日々が続いた。
今日は互いにデッキを入れ替えての対戦。照陽直々に黒単アビスのプレイングを教授していたのである。
現在、照陽の場には《アビスベル=ジャシン帝》と《霊淵 ゴツンマ=ダンマ》が座している。
「アビスは墓地を増やし、そして《ジャシン帝》の力で墓地から大量の軍勢を呼んで戦うデッキだ。じゃあ、序盤に墓地を肥やせなかった場合はどうなるか?」
「……!」
「……答えは優秀な3、4コスト帯のクリーチャーでじっくり相手を追い詰める、さ」
《霊淵 ゴツンマ=ダンマ》 闇文明 コスト3
クリーチャー:アビスロイヤル/超化獣 パワー3000
《アビスベル=ジャシン帝》 闇文明 コスト4
クリーチャー:アビスロイヤル パワー7000
対して、こころの場には完全耐性持ちの《一音の妖精》が立っている。
(大分改善はしたけれど、教えれば教えるほど不思議だ。この子、今までどうやって戦ってきたんだろう)
「こ、これで照陽さんは1体しかクリーチャーを出せません!」
「完璧だ。じゃあ、これはどうかな。僕は4マナで《深淵の壊炉 マーダン=ロウ》を召喚」
「あっ……!」
「この子の効果は分かるよね。空木さんの手札を見るよ。そして《御代紅海》を手札から捨てさせる。これで次のターンは何も出来ないはずだ」
「そんなぁ……! うう、私はターン終了です……」
「そして、《アーテル・ゴルギーニ》でそっちの盤面を片付けて、墓地を増やす」
着実に場を制圧し、手札も刈り取る。
マナを増やそうにも《ゴツンマ=ダンマ》の効果でこころのマナはタップして置かれる。
「そして《ジャシン帝》の効果を発動。墓地のアビスに”アビスラッシュ”を付与。そして、墓地から召喚するクリーチャーのコストをマイナス2するよ」
アビスラッシュ。
それは、現代の主人公種族であるアビスの専用能力だ。
墓地から召喚すると、出たターンに相手プレイヤーを攻撃出来る。その代わりに、ターン終了時に山札の下に戻るというものだ。
そして、部下たちにそれを付与するのが──
「これが深淵の軍勢たち。これが現代のデュエマの主人公! 《アビスベル=ジャシン帝》の力さ!」
《アビスベル=ジャシン帝》
・墓地のアビスに「アビスラッシュ」を付与
「──1コスで《ジャブラッド》、《漆黒の深淵ジャシン帝》、2コスで《邪魂龍ジャビビルブラッド》を召喚──さあ、一斉攻撃だ!!」
「負けました……私のデッキって……こんなに強かったんですね」
「この間よりは良くなってるけどね」
(良くなってる。やはりデッキの完成度は確かなものだ。細かなプレイングに難はあるけど、筋は悪くない。でも──)
果たして、どうして彼女のような初心者同然のプレイヤーがこの島に居るのか、疑問は尽きないのだった。
※※※
──次の日のHR。
「学園ランクマッチが明日から始まりまァァァすゥ!! 希望生徒はァ、申し込みはお願いよろちゃんンンン」
そんな岩本先生の叫び声と共に朝が始まった。
ランクマッチ、という言葉にテレビゲームの対人戦を思い出しながらも、照陽は自らの持ちうる知識を隣の席の澪音に確認した。
「生徒同士のデュエルで勝率を競うんだったっけ」
「そうヨ。このランク戦はとても重要。学園同士のリーグ戦に出場する生徒を選抜するのだかラ」
──この学園島では、学園同士の格付けを行う為にリーグ戦が行われる。
これは各学園で3人の代表を選出し、対戦するというもの。
そして、この学園同士の試合は1週間に1度のペースで行われる。
合計30の学園による総当たり戦。各学園は、1週間おきに1つの対戦相手のチームと試合するのだ。
「──ソシテ、リーグ戦に出場する選手はずっと変わらないってワケじゃなくて、1ヵ月毎に選定し直されるノ。それを決めるのがランクマッチだワ」
「大体よく分かった。岩本先生、声がデカすぎて説明が頭に入って来ないんだよ……」
「ま、今回もこの私が選出されるのは確定だけどネ」
「何でさ」
「だってワタシ、六禍仙だもノ! 勝つのは当然だワ!」
「調子に乗っちゃって……大体、六禍仙ってどうやって決まるのさ」
「指名ヨ、指名。その時の六禍仙の
「今の筆頭って?」
「王雷学園の鬼塚 牙十丸」
「あのガタイがデカい人か」
「そのシステム上、空席が埋まらない時は一生埋まらなイ。今の”火”が空席なのはその所為ネ。鬼塚が火の六禍仙を開けてるノ」
「六禍仙なのに5人しかいないってのはそういうことか」
──
リーグ戦の話に戻るが、いずれにせよランクマッチを勝ち抜くならば多くの生徒との試合で高勝率を叩き出さなければならない。
「実は次のリーグ戦、一回戦が聖羽衣学園ナノ」
「!」
「……妹サンと会いたいんデショ? じゃあ、ダーリンも全力で勝たなくっちゃネ」
「……理事長から話を聞いた?」
「一応六禍仙で精霊使いダモノ。今、日本で……いやこの世界で起きてる不思議なコトはひと通り知ってるワ」
「じゃあ、勝たなきゃね」
「ウン! 私以外に負けちゃダメヨ、ダーリン♡」
「ははは、善処するよ」
──尤も、誰にも負けてやるつもりはなかった。
次こそは円架に勝ち、彼女をカードの精霊の呪縛から解き放つ。
照陽は強く強く決意したのだから。
「そうだ、白銀さん。昨日、六禍仙同士のミーティングがあったんだよね。円架にも会ったんだよね」
「ッ……!」
「何か、君の目であの子に分かりやすい変化はあったかい?」
そう問われ──澪音は言葉に詰まる。
円架の精霊が暴走している可能性は限りなく低い。そして、彼女は──精霊以外の要因で記憶を失っている可能性がある。
その点について、澪音は既に瀬野理事長に共有済みだ。しかし、瀬野からは──
──ふむ……となると、私の当初の推測は間違っていた事になるか。
──と言うト?
──いや、憶測で話したくはない。事態が確定するまで、少年には何も話さない方が良いかもしれない。彼にはいずれにせよ、次のランクマッチを勝ち抜いて貰う必要がある。下手に不安を与えたくはない。
──真相を確かめるために、デスカ?
──ああ。兄妹の事だ。当人同士で解決するのが一番だろうからね。もしかすると、それで天戸円架の記憶も戻るかもしれない。だが戻らなかった場合──いや、今はいいだろう。
(……理事長は何かに気付いてル。どうしよう、ダーリンに本当の事を言うベキ……?)
そもそも、その「本当の事」ですらまだ何も確定していない。
理事長は別の推論を持っており、それを今は隠している──としか言えない。
そう考えている間に──チャイムが鳴ってしまう。
「あっ、予鈴……!」
「えーと! 相変わらずいけ好かないヤツだったワ!」
「……そっか」
「ま、でも安心しテ。もしダーリンがランクマッチで勝てなくても、私がこの手でアイツの目を覚まさせてやるカラ!」
「そう言うわけにはいかないかな」
授業の準備で教科書とノートをそろえながらも──照陽の目はギラついていた。
「……円架は僕がこの手で元に戻す」
(ッ……うわぁ)
ぞくり、と澪音の肌が粟立つ。だが、不思議と口角も上がってしまっていた。
自分は彼の「この顔」を見たかったのだ、と。
お人好しの天戸照陽の皮の中には──確かに「魔物」が潜んでいる。
(なぁにそのカオ──余計、好きになっちゃうじゃなイ……♡)
※※※
「ねえ、白銀さん。一つ聞きたいんだけど良いかな」
「なぁに♡ ダーリン」
「うわぁ、さっきよりも声が甘い……え、僕また何かやっちゃいました?」
「なーんにも♡」
(怖ァ……恋愛ゲームでも、なろう系でも、もっと納得感のある理由で好感度が上がっていくのに)
「……今、怖いって思っタ?」
「そう言うところだと思うんだけど!!」
準備もそこそこに、教室移動をする。
照陽は──澪音にもう1つ、質問をすることにした。
六禍仙であり、校内のプレイヤーを知り尽くしているであろう彼女に。
「空木こころさんって知ってるかい」
「……他の女の話?」
「放課後デートしてあげるから」
「良いノ!? やっタ!!」
(僕順調にクソ野郎の道を歩んでるな)
「大丈夫♡ ダーリンが他の女の事が好きでも──いずれ私しか見れないようにしてやるかラ」
「だからこえーよ!!」
──正直、打算はあった。
六禍仙の一人と仲良くしていれば、この島で色んな情報が手に入るからである。
尤も相手はウソが通用しない澪音。極力、発言にウソ偽りは混ぜないようにしなければならない。
だが「ウソは言っていない」というのは照陽の得意分野だ。
幾ら澪音と言えど、相手の隠し事の中身までは見通す事が出来ないからである。
また──そうは言っても照陽は基本的にお人好しなので、澪音相手に非情にはなりきれないのだった。
(とりあえず空木さんには、今日のレッスンはお休みだって言っておくか……)
それで必要な情報が手に入るなら、問題はない。
「てかアナタ、空木サンと知り合いだったのネ」
「こっちに来た時に最初に会ったのが空木さんだったんだ」
「……ふぅーん。私より運命の出会いっぽくて妬けるんだけド」
「何か知ってることは無いかい? 少し気になる事があってね。何でも良い、白銀さんの知識が必要なんだ」
「そ、そんなにダーリン、私の事を頼りたいノ?」
「うん。
よく回る口である。
すっかり照れてしまった澪音だったが──それでも、こころの事を思い出すと少し気味が悪そうに言った。
「空木こころは……戦績が
「違い過ぎる……?」
「ええ。1年生の頃同じクラスだったけど、何でもない野良試合で彼女が勝てたところは一回も見たことが無い。はっきり言って、この学園でも最底辺クラスに弱いワ。デュエルもあんまりしなイ。成績は良いけどネ」
「……じゃあ、
「うん。成績が掛かってる実戦試合。そこでの彼女は──人づてだけど、相当ヤバいって聞いた」
「……どういうことかな。普段は手を抜いてるってことか?」
「あいつとデュエルしたヤツは揃ってこういうワ──まるで、悪魔みたいなヤツだ──ってネ」
悪魔──という言葉を聞き、照陽はこころの顔を思い浮かべる。
清楚な黒髪。そして何処かおどおどしたような小動物風の少女。
とてもではないが、悪魔とは結び付かない。
「そんな人には見えなかったけど」
「たとえよ、たとえ。デモ、気を付けた方が良イ。あの子、友達もいないシ──私もまた聞きした情報しか知らないケド、何か隠してル」
「友達が居ない? 彼女はしきりによく自分の友達の話をするけどな」
「まさか。教室でもずっと一人。本ばっか読んでル。たまーに──階段とかで、誰も居ないのに一人でぶつぶつ何か喋ってるのは見たことあるケド」
「……ぶつぶつ、か」
「どっちにしても気味悪いワ!」
「気味が悪いって、そんな」
「だって強いならどうして実力を隠すのカシラ! 正面から私に掛かってきなサイ!」
「あ、そっち? 気味が悪いのって実力を隠してる方?」
「そうヨ! 私は六禍仙として強い奴は捨て置かないノ! 絶対この手で倒してやるワ! ソシテ証明するノ。私が完全無欠ってコトを!」
ところであれからデュエルをしていないので、澪音は照陽に負け越しどころか1勝もできていないままである。完全無欠なんてものは最初から無かった。
そんな在りもしない完全無欠なぞよりも、照陽の興味関心はもっぱらこころに向いていた。
(普段は実力を隠してるのか? だけど、そんな事をする理由はこの学園には無いよな。それに──”友達”の件も気になる)
「ところでダーリン♡ 放課後何処いこっか♡」
(やっべデートの事忘れてた)
天戸照陽──彼は将来、確実にクソ野郎になる才覚がある男である。
※※※
照陽:ごめん! 急な用事が出来ちゃって、今日はレッスンは無理! また明日お願いするよ
「……はぁー」
溜息を吐く。
今日も放課後は照陽にアビスデッキの事を教えてもらおうと思っていたこころだったが、その予定が立ち消えになってしまう。
ずっと一人だった放課後に灯った暖かい太陽。そんな陽だまりのような時間。
こころにとっては──もう既にかけがえのない時間になりつつあった。
照陽:ところで、空木さんってランクマッチは出るの? 確かあれ、希望参加制だよね。
「!?」
暗かった画面に照陽のメッセージが映り、こころは慌ててDMデバイスを取り落としそうになる。
「わ、私は……出ない、かな……」
『いいや、今回は出るぞ、こころ』
「!?」
その時だった。
彼女の脳裏に響く声。
彼女の内なる声。
それが、既に彼女の代わりにデバイスに「出ます」という字を打ち込んでいた。
「な、なんで! 貴女、ランクマッチで目立つのはイヤだって言ってたのに……!」
『それはクダラネー奴が多いからだ。食いでが足りない。白銀澪音も──例外じゃない』
「でも──で、出るんですか? それじゃ……」
『ああ。
「……でも」
『ははん、分かったぞこころ。オマエ、オレをあいつに見られたくないんだろう』
「当たり前です! 貴女のデュエルは破滅的で、破壊的で、人を──傷つける!!」
『だけどな、こっちは危うくこないだオマエの所為でデッキを取られかけたんだ。その責任は──』
「……分かった、わかりました。……ランクマッチには出ます。貴女とも入れ替わります──
『物分かりが良いな、こころ。オマエはずっと、オレの言う事だけ聞いておけばいいんだよ』
そこで──”友達”の声は聞こえなくなった。
「照陽さんに幻滅されちゃうかな……イヤだなぁ……」
ぐぅ、と空腹を知らせるお腹の音が鳴る。
どんなに嫌な気分でも、落ち込んでいても、自分のサガには抗えない。
嫌気が差しながら彼女は自分の部屋を出た。束の間の空腹を満たす為に。
「……今のうちに……ハンバーガー、買いに行こう。明日は何も食べられないし」