デュエマプレイヤーは「カードが全ての学園島」で成り上がるそうです。   作:タク@DMP

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第15話:こころにヒビ

「ねーえ、ダーリン♡ 次は何処いこっか♡」

「もう陽が落ちるんだけど……ランクマッチの調整もしたいし」

「それは私が付き合うヨ! 六禍仙相手なら、文句ないデショ! それもデートのうちって事デ!」

「……盲点だったな、その手があったか。それなら問題なさそうだ」

「抜かりはないワ! だって私、完全無欠だモノ!」

 

 ……結局。

 放課後は腕に抱き着かれたまま買い物に付き合わされ、ペアでプリクラまで撮影され、気が付けば午後6時。

 

「んー♡ ダーリンとのツーショット♡ 一生大事にするネ♡」

「やめてよ、そんなものを衆人環視の前で見せびらかすの」

「ダッテー、ダーリンとの思い出だもン」

「思い出、ねぇ……」

 

 ふぁあ、と照陽は欠伸をした。

 最近──疲れが取れない、と感じていた。

 気が付けばずっと、円架の事を考えながらデッキを組んでいるからだった。

 

(……こんな事、してる場合じゃないんだ。本当は。デッキも組まなきゃいけないし──)

 

 だが、まだ少ない資産では新しいデッキを作るのもままならない。

 故に在り合わせだけで、構築しなければならない。

 それを──学園の厳しい授業スケジュールの中で行わなければならないのだ。

 更に、それに加えて放課後はずっとこころのレクチャーまでしていたこともあり、照陽の疲れは彼自身も気が付かないうちにピークに達していた。

 

「……ダーリン?」

「……ごめん、ちょっと、眠──」

 

 ぱたり、と寄りかかるように──照陽は澪音に寄り掛かる。

 居眠りというレベルではない。それは、失神に近いものだった。

 

「ダーリンッ!?」

「……う、あ、ごめん。ちょっとフラついた」

「あっちにベンチがあるヨ!! ちょっとだけ頑張っテ!!」

 

 澪音が肩を貸し、ベンチに照陽を座らせる。

 目を擦りながら──彼は澪音に目を向けた。

 とても心配そうな顔をしていた。

 

「ゴメンね、無理矢理連れ回すようなことしちゃってサ……!! 具合が悪いノ!?」

「いや、多分……ちょっと寝不足だっただけさ。最近深夜までデッキを考えていて……」

「もーウ!! なんで、そんなになるまで黙ってたノ!?」

「平気だよ。寝たらすぐに治るさ。……本当は寝る間も惜しいんだけどね」

「……迷惑だった、よネ。ゴメン」

 

 違うんだ、と照陽は首を横に振った。

 落ち込んだ澪音の顔。

 決して、そんな顔をさせたかったわけではない。

 彼女には助けられているところも多々ある。

 家族も居ない中、どんな形であれ味方をしてくれる相手がどれだけ心強いか。

 

(……そっか。僕は心細かったのか)

 

 傍で心配してくれる澪音を見ながら──彼女を円架の面影に重ねる。

 澪音は円架とは全然違う。だが味方で居てくれるのは同じだ。

 一人で頑張らなければならないと思っていたが──そうではなかったのだ、と思い知らされる。

 

「デートに誘ったのは僕の方だ。迷惑を掛けた、だなんて思わないでくれよ」

「……明日からランクマッチなんだヨ。デッキの調整しようと思ったケド──休まなきゃ、ダーリン」

「じゃあ白銀さん。もう少しだけ付き合ってくれないか。僕が無理し過ぎないか……見張り役も兼ねて、ね」

「良いノ……?」

「六禍仙が調整相手なんて、これ以上ない贅沢さ」

「……~~ッ!」

 

 必要とされた事に喜びを感じつつも──澪音は照陽を抱き寄せる。

 照陽は顔に、ふかふかとしたものが思いっきり押し当てられるのを感じた。

 

「……いいワ。でも──ちょーっとだけ、休憩……ネ♪」

「し、白銀さん……っ」

「この私の特等席で眠れること、光栄に思いなさイ!」

 

 同級生の中でも図抜けて豊満な胸に顔を埋められながら──ゆっくりと照陽は意識を手放し、寝息を立て始める。

 

(……一人じゃなイ。大丈夫)

 

 その寝顔を見ながら──澪音は顔を伏せる。

 異世界に来て、妹と離れ離れになり、両親とも友人とも会えないまま。

 照陽は──ずっと一人。

 その話を理事長から聞いた時、澪音は強く強く彼を支えなければならないと感じた。

 同情からではない。少しでも彼を助けたい、と思う博愛の心からである。

 

 ──無論、一目惚れ同然に「運命の相手」認定した照陽に対する一方的な愛情も多分に含まれてはいたが、それはそれ、これはこれ。

 

(せめて……妹ちゃんには会わせてあげたイ)

 

 

 

 ──家族と離れ離れになるのは……辛いものがありますね。

 

 

 

 昔。母がそう語っていたのを、澪音は思い出す。

 

 ──家族? そう言えバ、私っておじいちゃんもおばあちゃんも居ないヨネ? 何処にいるノ?

 

 ──シャングリラを手にした今の貴女なら、言っても問題はないでしょう。

 

 あれは──帰国して、カードの精霊であるシャングリラを手にした日の事だった。

 澪音の母は、思い起こすように言った。

 

 ──……澪音。私、そして貴女のお父さんは……()()()()()()()()()()()のです。そして、貴女も。

 

 ──……へ?

 

 ──私達親子は……あの日、3人一緒にこの世界に迷い込んだのです。貴女は赤ちゃんだったから覚えていないでしょうがね。

 

 それは──照陽たちを襲ったのと同様の、空間崩落。

 まるで呼び寄せられるかのようにこの世界に誘われたのだ、と澪音の母は語った。

 辛うじて、赤ん坊の澪音を守り切る事には成功し、離れ離れにならずに済んだ両親だったが──未だに元の世界に帰る目途は立ってない。

 当然、元の世界に残した家族も、友人とも、会えていない。

 

(……ママとパパは、赤ん坊の私と一緒にこの世界に迷い込んダ。そしテ、私を守りながら生きていくのにとっても苦労しタ)

 

 すっかり寝息を立てている照陽の頭を膝に乗せ、ベンチに寝かせる。

 そして自然と澪音は照陽の頭を撫でていた。

 

(……パパが居たけど、ママは寂しかったって言ってタ。当然だけどママにも家族が居て、友達が居て……会いたかったって言ってタ)

 

「ダーリンも……寂しい時は寂しいって、辛い時は辛いって……言ってネ。私じゃあ、妹ちゃんの代わりにならないけどサ」

 

 慈愛に満ちた目で──澪音は照陽を見下ろす。

 異世界から来た彼の境遇は、同じようにして異世界から来た両親と重なって見えた。

 赤ん坊だった澪音からすれば、最早この世界は出身であるも同然だ。

 だが──両親は? そして今此処にいる照陽は──そうではない。

 帰るべき場所があり、家族も友人もいたはずなのに。

 

「ちょっとだけでも……貴方の孤独を……癒せるなら、それで良イ」

 

 澪音の目には──デュエルで戦う時、これ以上なく鬼気迫る顔の照陽の顔が思い浮かんでいた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

(……急な用事って、白銀さんとのデートだったんですね、照陽さん)

 

 

 

 ──その時。

 誰も気が付きはしなかった。

 照陽を膝の上に乗せて寝かせている澪音。

 彼らを射抜くように見つめる──ひとつの人影。

 急用ができたとは聞いていた。最近仲がいいであろうことは分かっていた。

 だが──それでも、納得出来はしなかった。

 

(何であんなにイチャイチャしてるの? 私がデュエマが下手くそだから……? 食べる事しか頭にない食欲無尽蔵女だから?)

 

 生まれて初めて感じる黒い感情。

 それは間違いなく「嫉妬」。

 別に照陽が誰のものでもないことなど分かっている。

 彼が誰と恋仲になろうが、彼の勝手のはずだ。

 にも拘らず──黒い渦が、合理的ではない感情で出来たそれが、空木こころの中を渦巻いている。

 ハンバーガーがたっぷり入った袋をその場に取り落とし、こころは呟く。

 

「……やっぱり、私じゃ……ダメなんだ。照陽さんは……強いから。妹さんを取り戻さないといけないから。強い人が傍に居なきゃ、ダメなんだ。私じゃ足手まといなんだ」

『そうだ、こころ。オマエじゃあ足手まといだ』

「──ッ!!」

『オレの出番だ。オレが……白銀澪音も、天戸照陽も皆倒せば解決だろう? オレに任せておけよ──全部上手くやってやる』

 

 悪魔の囁きが脳内に反響する。

 遅かれ早かれ「友人」の事は照陽に露見する。

 どうせ幻滅されるに決まっている。

 これは全て決まり切っていた事なのだ。

 だから──

 

 

 

「もう、どうなってもいいや」 

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