デュエマプレイヤーは「カードが全ての学園島」で成り上がるそうです。 作:タク@DMP
「……トドメを刺さなかったな……? オレにも、ヴリドガルドにも……!」
「君には、聞いておかなきゃいけないことが沢山あるからね。とはいえ、勝負は僕の勝ちだ」
「ああ、そうだ、天戸照陽なら……そうするはずだ」
白い空間には──シエルを掠めるようにして刃が突き刺さっていた。
気が付けば空間は崩れ去り、後に残るのはシエルと照陽のみ。
だが、シエルは最早息も絶え絶え。
意識を保つのも限界と言わんばかりだった。
「……聞きたい事は山ほどあるけど──先ずはッ!! 取り消してもらうよ、こころさんへの侮辱は」
「ッ……!! あいつがッ!! あいつが悪いんだッ!! あいつがオレのデッキを勝手に使って──デッキはッ!! オレにとって命より大事なモノなんだッ!!」
「──シエル。勝負は僕が勝ったはずだ。そう言う取り決めだったはずだ」
「もう、いいの。照陽さん」
ぶつり、と糸が切れたように──シエルの首が垂れる。
そして──
「……ごめんね、シエル。私ね……わかってなかったんだ……」
──ぽろぽろ、と涙を流しながら謝る。
「貴女にとって、デッキがどれだけ大事か……デュエリストにとってのデッキの価値を、本当に分かってなかったのは、私の方なんだ。私は……貴女みたいに、必死に戦ったことなんて無かった。全部、貴女に押し付けてきたから」
「ッ……空木さん──いや、こころさん、で合ってるんだよね」
「戻っタ……!?」
「……真のデュエルでのダメージが、大きかったみたいです」
ぺたり、とこころは座り込む。
「こころさん──」
「シエルは、悪くないんです。シエルがああなったのは、私の所為。戦い、争い、私の苦手な事を全部あの子に押し付けて……そうやって出来上がったのがシエルだから」
「戦う事が存在意義。だから──デッキは、命よりも大事なモノ、ってわけネ……」
納得するように澪音が頷く。
「そんなあの子にとって、デッキはとても大事なモノで──」
「……そうだね。それを勝手に使ったのは、良くなかった。間違いないよ」
「カッとなっちゃったんです。あの時、下級生の子達を助けられるのは私だけで……でも、シエルはやっても無駄だって言ってきて。そんなわけない、目の前で傷ついている子達を見過ごせない、って……」
しかし。
結局──全ては上手くいかず、結果的には照陽に助けられることになった。
「……あの子の言ったとおりだった。全部、無駄だったんです。デッキを奪われて、シエルに悲しい思いをさせただけだった」
「でもね、こころさん。苦手な事でも挑戦して、戦おうとした君の気持ちまで……僕は否定したくないな」
「……本当に……?」
「うん。だから……それで、仲直りしようよ。互いに良くなかったことを謝ってさ」
「……ッ」
『……悪かったな。言い過ぎた』
こころが顔を上げる。
「……シエル。ありがとう、いつも……戦ってくれて」
『……チッ。どの口で。オレの事を疎んでいる癖に──ッ』
「あのね。私は……貴女に消えてほしいだなんて、思ってないよ。確かに貴女には沢山酷い事を言われたけど……貴女にムカついた事も何度もあるけど」
それでも──それでも、とこころは言葉を紡ぐ。
「貴女に……してもらった事、沢山あるから……ちょっとでも良いから、お返ししたかった。守られるだけじゃ、イヤだった」
『……』
「──だからね。戦う事だけが存在意義、だなんて……悲しい事言わないで。だって貴女は、私の……友達なんだから」
それを最後に──シエルの言葉は聞こえなくなったらしい。
しばらくの沈黙の後、彼女は微笑んでいった。
「……届いた、かな」
「だと良いね」
「ねえ二人共──良い空気の所悪いんだけド……にゃっ!? 時間がーッ!!」
澪音が叫ぶ。
──次の瞬間、DMデバイスのブザーが鳴る。
「──終了! 終了! ランクマッチの結果を発表しマス!」
「あっ、しまったランクマッチ!!」
端末に映されたのは──ランキング。
その一番上には──”空木こころ”の名前が書かれていた。
「第一位ッ!! 空木こころッ!!」
「……え、シエルが一番……!? あの子、暴れすぎ……」
「第二位──白銀澪音ッ!!」
「……よ、良かっタ……辛うじテ……!」
「そして三位は──天戸 照陽ッ!!」
その発表を聞き──照陽は嘆息する。
どうやら、対戦回数こそ他の二人には劣るが──最後に一位のこころを撃破したことで、その分のレートが盛られたのだ。
「や、やった!! 次のリーグ戦に出られる……!!」
「やりましたね、照陽さんっ!! すごいですっ!!」
「てかそれよりも二人共、傷の手当てーッ!! なんであんなカジュアルに真のデュエルやっちゃうのヨーッ!!」
こうして。
最後に波乱こそあったものの、ランクマッチは無事に幕を閉じた。
──しかし。
「──いや、そうだ。まだ喜ぶのは早いかもしれない」
「え?」
「……こころさん。って、名前で呼んでいいかな──空木さんだとどっちか分かんなくなっちゃうから」
「大丈夫ですっ。シエルも多分、その方が喜ぶと思いますから」
「ダ、ダーリン!? 私を差し置いて、その子は名前呼ビ!?」
「
「ハーイ♡ ダーリン♡ どうせなら呼び捨てで良いわヨ!」
「澪音、ちょっと黙ってて」
(白銀さんの扱いが手慣れ過ぎてます、照陽さん……)
コホン、と咳払いした照陽は──こころを指差す。
「……こころさん。もう一度、シエルに出てきてもらう事は出来るかな」
「ッ……多分、出来ます。今すっごく、お腹が減って……倒れそうなんで……」
「彼女にはまだ、聞きたい事があるからね」
「えーと、先ず救急箱持ってくるワ。二人共傷だらけだもノ。大事件ヨ」
「理事長室に行こうか、三人で。その方が手っ取り早そうだ」
どの道、ランクマッチの入賞者はリーグ戦についての説明も受ける手筈になっていたからである。
三人は理事長室に向かうのだった。
※※※
「──ハハハハハハッ!! なんだいその姿はッ!! 派手にやったねぇ!?」
「笑い事じゃないですよ、理事長……」
「シエルが久方ぶりに出てきたと思えば……全く本当に面白いッ!!」
「ねえ、普通そこは心配するところじゃなイ? どうなのよ、大人としテ……」
傷だらけの照陽とこころを見て、思いっきり笑い飛ばす瀬野理事長。
「それよりも、リーグ戦についての説明をすることになっているんだが──どうやら、そういう空気では無さそうだね?」
「はい。シエル──出て来てくれないかな」
「──ああ。しゃーねえなァ」
こころが前髪を掻き揚げ──声色が変わる。
人格が切り替わり、シエルが再び現れた。
「だけどよォ、天戸照陽。オレが”知ってる事について話す”のは──勝負の内容には含まれてなかったよなァ?」
「頼むよシエル。今の僕には、一分一秒が惜しい。君は──何故か僕の事を知っていた。そればかりか、もっと前から僕の事を覚えているようだった」
「……良いぜ。オマエは……他でもない天戸照陽だ。オレの目的に協力するというなら、話してやるよ」
「うん、協力する」
「即答ッ!? 良いノそれ!?」
「ただし──他の人を危険にさらすような”やり方”には賛同できない。良いかな?」
「……相変わらずのお人好しだ。だが、良いぜ。オレは今、とても気分が良い。オマエの顔をもう一度見られたんだからな」
デュエル中のシエルの言動を思い出す。
まるで──「天戸照陽がもう一人いる」かのように彼女は話していた。
今此処にいる照陽がシエルと会うのは初めてだというのに。
「そういえばそうネ。貴女、この私に黙ってダーリンと密会してたノ!?」
「澪音。当の僕に記憶が無いよ」
「フン。白銀澪音。そして瀬野理事長。何よりこころ──いや、それだけじゃない。この島、いやこの世界に居る全員が──忘れちまってんだよ」
「何を?」
「──この島に本来居たはずの……火文明の六禍仙の事をな」
ぴくり、と瀬野の眉が動いた。
「確かに火の六禍仙は1年以上空席になっているねェ。だが、それがいつからかなのか誰も知らない」
「もう1つ。理事長、あんたも知ってるはずだぜ。この島にある不自然な廃墟──ゼロポイントの事を」
「ああ、それは私もかねてより不思議に思っていた。何故あそこが廃虚になったのかは私も知らないがね」
「どういうこと?」
「ダーリン、ゼロポイントって場所がこの島にはあるノ。でも、そこがどういう場所だったのか、どうしてそこが廃虚なのか誰も知らないし覚えてないノ」
それは流石におかしい、と照陽は疑問に思う。
此処は完全に管理された人工島のはずで、しかも廃墟になっているような場所ならばどうしてそうなったかが誰かは知っているはずだからだ。
「だけど、ゼロポイントに火の六禍仙。一体それが何の関係があるんだい? シエル」
「──先ず結論から言えば──この島の、いや──この世界の住民は皆、とあるクリーチャーによる
「改竄……ッ!?」
聞きなれぬ言葉に思わず照陽は聞き返す。
「そういえバ、鬼塚先輩が言ってタ! ゼロポイントや火の六禍仙の事は、カードの精霊が悪さして、人々の記憶からそれを消し去ってるんじゃないかっテ! そういうのを認識改竄って言うんだっケ」
「いや、此処で言う改竄ってのは、
「はぁ!? そんなの出来っこないワ!!」
「信じねえなら置いてけぼりで良いんだぜ」
「ッ……貴女がウソを言ってるようには見えないワ」
シエルの言葉の信ぴょう性は──他でもない澪音が保証している。
彼女の前ではウソは通用しないからだ。
「面白いッ!! そんな事が出来るクリーチャーが存在するというのかね、シエル君ッ!!」
「瀬野理事長。本来ならあんたも感知していたはずだ。だが”無かったことになっちまっている”」
「成程。どうやら、この私の記憶からすら抹消されているのか。全く記憶にないよ」
ククク、と理事長は含み笑い。
本来なら何か知っていそうな顔をしているが、生憎ウソを見抜ける澪音は確信していた。
「まるで物語の終わりで裏切りそうな悪い顔をしているが……この人も何も知らないんだナ」──と。
「つまり、火の六禍仙やゼロポイントは……そのクリーチャーによって皆が忘れてる……というより”無かったこと”になってるってことで良いのかい、シエル」
「そうなるな」
「デモ、火の六禍仙って誰なのカシラ」
「かつて、この無銘学園に入学し、僅か3か月で──六禍仙まで昇りつめたヤツが居た。
「……似たような話を聞いたな。円架も相当早いうちに頭角を現したと聞いた」
「転校して半年でも速いのニ、入学して3ヵ月!? どうなってるのヨ!!」
「ああ。そっくりだぜ。やっぱり血は争えないんだな──」
「え?」
照陽は目を丸くする。
「──そいつの名は──
「待て待て待て待ってッ!?」
思わず静止する照陽。
理解が追い付かない。そもそも六禍仙になった覚えはない。
全く記憶にない出来事が付与されている。
「どういうことなんだ!? どうしてそこで僕の名前が──」
「何も不思議な事はないはずだぜ。テメェは異世界から来たんだろ? そして、こっちの世界にもオマエと名前も顔も同じ……天戸照陽が居たッ!! ただそれだけの話だ」
「……僕がもう1人……!?」
「成程ッ!! 確かにおかしなことでないねェ」
「どういうこと!? ダーリンが二人ッ!?」
「
得意げに瀬野は語る。
照陽も聞き覚えはあった。漫画やアニメではよくある設定だ。
この宇宙は幾つもの並行世界が並んでいるが、それぞれの世界は微妙に異なっている──というものである。
「そこにいる少年が元々居た世界が世界線A。今我々が居るのが世界線Bとしよう。それぞれの世界線Aと世界線Bには、名前と顔がそっくりな少年──即ち天戸照陽が居るということさ」
「もしかして、背景ストーリーのシャングリラみたいなモノかしラ!! あれも色んな世界に似たような存在が居るらしいシ!!」
「ああ、そういうものと思って良い。つまり、この入学して3か月で六禍仙になったのは……この世界で生まれてこの世界で育った天戸照陽……ということになるねェ!?」
「……もう1人の僕」
「ああ。そして、こっちの世界の天戸照陽は……この学園で過ごすうちに、とあるクリーチャーの起こした事件に巻き込まれた」
「……とあるクリーチャー?」
シエルは頷く。
「ソイツの名は
その名前事態は照陽も聞き覚えがあった。
アビスベル=ジャシン帝が主役の背景ストーリーでも登場した、心の闇に寄生する災害のようなクリーチャー。
カードとしても、あまりにも強すぎるあまり殿堂入りした、超凶悪な闇のクリーチャーである。
「カードの精霊が、それほどの力を!?」
「違う。あのCOMPLEXは……カードの精霊なんてチャチなもんじゃねえ。あいつこそ、別の世界からやってきた……正真正銘、本物のクリーチャーだ」
「──本物のクリーチャー!? そんなノ、いるの!?」
「別の世界があるんだ。今更驚くことか? クリーチャーが存在するクリーチャーワールドも確かに存在するんだよ」
「驚いた。今我々はとんでもない話を聞いているのかもしれないねえ」
「だが、COMPLEXは……ただのクリーチャーじゃねえ。時間を、空間を、世界の摂理をも捻じ曲げる……とんでもない奴だ……!!」
「時間と空間、世界の摂理を捻じ曲げる──」
照陽は思い出す。
彼自身がこの世界に流れ着いた時の事を。
崩れ落ちる空間、そして響いてきた邪悪な声。
あの声の主は──
「以前この島はCOMPLEXによって未曽有の危機に陥った。それを救ったのが──こっちの天戸照陽だった」
「……でも、こっちの僕はどうなったんだい?」
「戦いはあまりにも熾烈に続いた。COMPLEXの力で町が丸ごと廃墟となる程に」
「それが──ゼロポイントってコト……!」
「天戸照陽は果敢にCOMPLEXに挑み──」
──シエルは目を伏せる。
「──