デュエマプレイヤーは「カードが全ての学園島」で成り上がるそうです。 作:タク@DMP
※※※
「丁度腹が減っていてなァ……!! 食いでのあるヤツを探してたんだよ。オマエは……どうなんだ……?」
「……食いでがあるかどうかわからないけど、デュエマなら受けて立つよ」
「オマエ、精霊使いだな? 面白い──」
──あの日。あの時。
久しぶりに、表に出ていたオレは──戦い甲斐のある相手を探していた。
戦いだけがオレの飢えを満たす、唯一つの手段だった。
「真のデュエルだァッ!! オレの《ジャシン帝》でズタズタに蹂躙してやるよッ!!」
「……あんまり手荒な事はしたくないんだけどね」
だが──たまたまそこに居てデュエルを吹っ掛けた相手は──
「──《轟く侵略 レッドゾーン》でダイレクトアタック」
──まるで、目が焼かれる程に眩しかった!!
「ッ……トドメを、刺さないのか……?」
「どうしてだい? こんなに君は強いのに。僕はまた、君とデュエマしたいよ」
「オレと……? ハハッ!! オマエ、ロクな目に遭わねえぞ」
「だとしても。君とのデュエルは楽しかったからね」
「ッ……」
変な奴だと思った。
だけど、イヤな気はしなかった。
それから、オレと照陽の交流が始まった。
こころにも事情を話し、あいつを交えた3人での会話。
照陽とデュエルをするためだけに、オレはこころに頼み込んで──何度も入れ替わって貰った。
このオレが!! こころのヤツに頭を下げて頼みこむなんて!!
「照陽さんのおかげで、デュエマも上手くなったんですっ!」
「そんな事はない。こころさんの呑み込みが早いからさ」
……しかもこいつら、オレを差し置いて仲良くなってやがるし。
妬いているのか? このオレが。
クソッ、こころ。オマエが強くなったらオレの存在意義はどうなる?
オレは絶対に嫌だぞ──お役御免だなんて。
「お役御免だなんてあるものか。君は君で、こころさんはこころさんじゃないか」
「ッ……オレたちは二人で一人だぞ」
「だとしてもだよ。僕は、君達二人を個人として尊重したいな。遊んであげるから、あんまりこころさんを虐めたらダメだよ」
「……そんな事を言ってくれるのはオマエが初めてだ」
……ああ、そうか。
照陽、オマエとデュエルしている時だけはオレは──しがらみのない、ただの空木シエルで居られるんだ。
オレはオマエとの時間が、こんなにも心地よくて──
「あー……しくじった」
……あんなに、あんなに強かったのに、照陽。
オマエは──
「しっかり、しっかりしてくださいっ!! 照陽さんッ……!!」
「うん。本当に、マズったよね……全く……」
ああ、もう喋るんじゃねえ。
指の先から、照陽は消えかけていた。
何でオレに何も言ってくれなかった。
何でオレを頼ってくれなかった。
一人でひょいひょい六禍仙に勝手に駆け上がったかと思えば──オレの知らねえ所で、こんなバケモノと戦ってやがったなんて。
「ギ、ギィ、に、ニゲ……!!」
ああ、クソ。取り逃した。
あいつ──COMPLEXだったか。
あんな奴がまさか、この世界に出てくるなんて!
「……此処最近起きてた事件は、全部あいつの仕業だ……不自然に学園から消えていた人は、COMPLEXに抹殺されていたんだ」
「照陽さん、ごめんなさい……!! 私の、私の所為で……私がシエルと入れ替われていれば……!!」
「だとしたらきっと、僕も……君の記憶から消えてしまうんだろう」
「待って!! 待って下さい、照陽さん……ッ!! シエルが──ッ」
「シエル。ごめんね。もう一回くらい、君と……戦いたかったんだけど、な」
駄目だ。忘れたくない。
やめろ、オレを置いていくな──照陽!!
「……これを、頼むよ」
「……ッ」
「僕にとって、一番大事な……カード、だからさ」
照陽が──最後に手渡したのは1枚のカード。
《轟く侵略 レッドゾーン》のカードだった。
だけど、それを渡した時には、もう──照陽は居なくなっていて。
「……あれ? 私、何でこんな所に居るんだろう?」
──こころは、もう全部忘れちまっていた。
そればかりか、この学園島にやってきて電撃のように六禍仙になった──天戸照陽という男の痕跡は、綺麗に消え失せていた。
こころも、あいつに教えて貰った事を全部忘れていた。
元のヘタクソに逆戻りだ。
「あー……クソ。最悪だ」
照陽。
オマエは勝手に突っ走って、オレだけ置いていっちまったな。
オレは嫌だぞ。絶対に消えたくない。
何でオレだけがオマエの事を覚えているんだ、照陽。
オレが消えたら──誰が照陽の事を覚えていられる?
こころですら、何もかも忘れちまったってのに。
ああ、出来る事ならオレも綺麗さっぱり忘れちまえば楽だったのに。
オマエの居ない世界なんて、オレは……。
「面白い事やってるみたいだね。僕も混ぜてよ」
──何で居る。
何でそこに居る。
居るはずがないのに。
消えてしまったはずなのに。
「……何でオマエが居る。こんな所に──照陽」
※※※
「存在を抹消された……?」
「……そうだ。だから、誰も覚えてねえんだよ、天戸照陽の事を」
シエルは──目を伏せる。
「……だが、COMPLEXに全くダメージを与えられなかったわけじゃねえ。深手を負ったあいつは、この島の何処かに逃げ去った。多分今もどこかで隠れてコソコソしてやがる」」
「ッ……そうか。負けたのか……こっちの、僕は」
「COMPLEXに”改竄”されたものは、歴史上から完全に消え失せちまう。天戸照陽という存在は歪な形でこの世界から消し去られたんだ」
「待っテ!! それじゃあ、説明がつかないワ!! 貴女は何で、こっちの世界のダーリンの事を覚えてるノ!?」
「そんなもん分かるか。ただ一つ言えるなら、あいつの改竄は完全じゃなかった。空木こころのもう一つの人格であり、普段は引っ込んでるオレだけは……影響を受けなかったのかもしれねえ」
「そして今此処に──奇跡的に、異世界から来た少年が居る。これは、とんでもない巡り会わせだねぇ?」
「待ってくれ。そうなるとリーグ戦どころじゃないじゃないか」
照陽の中で目下危険視するべきは──こっちの世界の自分でも倒せなかった相手・COMPLEX。
その能力は、照陽も知る通り凄まじいもの。真のデュエルであっても確実に倒せる見込みはない、と言える程に。
(大体、相手の存在を消し飛ばすッてヤバすぎだろ……!! かと言って、対処しようにも……コンプ自体が強いんだよなあ)
別世界の自分が負けたのも納得だ、と照陽はCOMPLEXのスペックを思い返す。
(《COMPLEX》は1コストでパワー25000のブッ壊れクリーチャー……! そのままでは攻撃出来ないが、場からカードが離れる度に下にカードが溜まっていき、8枚溜まると動き出す怪物!)
《
クリーチャー:パンドラボックス パワー25000
その特性上、除去が多いコントロールデッキに於いて《COMPLEX》は最強クラスのフィニッシャーとなった。
何故か除去が効かず、場を離れないので対処も非常に困難なカードだ。
オマケに攻撃したらしたで、下に入っていたカードがそのまま場に出てくる大盤振る舞い。
更に下のカードが8枚になったら、またアンタップする無法の極み。
こんなんどうしようもないので、めでたく殿堂入りにブチ込まれる事になったのである。
(そりゃあ、異世界の僕でも対処に困るよなあ……青黒コンプ苦手なんだよ僕も)
「ともあれ、COMPLEX……クリーチャーは未だに学園島の何処かに居るわけか」
「オレの手で何とかしたかったが、オレのワガママにこころを巻き込むわけにはいかねえ。それに……オレも長い間出ているわけにはいかねえしな」
「何でヨ?」
「オレが表に出てるって事は、こころが腹を空かせてるって事だ。このままにしてると本当にこころがダウンしちまう」
「そうか、君達の入れ替わりはこころさんのストレス、あるいは空腹がトリガーだったからね」
「ふぅむ、時空を歪める程のカードか……いずれにせよ放置は出来ないな。精霊使いの手で対処する事は出来そうだが──む」
パソコンを見ていた理事長がふと、手を止めた。
「どうしたんですか?」
「……いや、ちょっと騒ぎが起きているようだ。今日丁度、天戸円架が趣味のパーティを開いていたらしいんだが」
「何やってんだよアイツ」
「いつもの事ヨ。金を派手に使うのがアイツの趣味だもノ」
「──倒れたらしい」
「え?」
ノートパソコンをひっくり返す理事長。
その画面は、学園島内のSNSだった。
写真と共に、次々にコメントが更新されていっている。
:円架様がいきなり倒れた!!
:外傷はないみたいだけど、救急車で運ばれたって!!
:何だ何だ、テロとかじゃないだろうな──
:銃声みたいな音が何発かしたって!!
「──ッッッ!!」
照陽の顔が急激に蒼褪めていく。
「円架は何処の病院にッ──!!」
「……私から話を付けよう」
「お願いします、理事長ッ!!」
「……先の話が本当ならば……遅かれ早かれ、君はもう一度天戸円架に会わなければならないからな」
「……?」
すぐさま──理事長の車に全員は乗り込むことになった。
そんな中、澪音が呟く。
「銃声……そう言えば、ダーリン。岩本先生の精霊が暴走した時」
「ッ……何か心当たりが!?」
「聞こえたノ、私もっ! シャングリラが崩壊する前に、銃声が──聞こえタッ……!!」
「ってことは、犯人は同じヤツって事だなァ……!! 同じ六禍仙を狙ったヤツの仕業って事じゃねえかァ!?」
「六禍仙──」
つぅ、と澪音の額に汗が伝った。
「居ル……1人居ル!! やりそうなヤツが……ッ!!」
※※※
「……何よ。皆して、顔を見に来て……」
「意識はあるみたいだから、安心したワ」
「……全然大丈夫じゃない」
病室に案内された円架は──既に意識を取り戻していた。
だが、極度の疲労状態に陥っており、体をすぐに動かすのは難しいとのことだった。
そして何より、病室のテーブルには──灰色に炭化したカードが置かれていた。
「──《ゴルギーオージャー》……ッ!?」
「やられた……あたしのゴルギーオージャー……声が聞こえない……!!」
「ッ……精霊を狙ったってワケか。でも、カードの精霊は真のデュエルでもない限り、そうそうは死なないはずなのに……!!」
照陽は息を呑む。
確かにゴルギーオージャーは、円架の意識を乗っ取っていた存在だ。
暴走こそしないが、彼女の人格は半ばゴルギーオージャーに蝕まれていた。
現にこうして今話している円架の口調は──照陽の知るものに極めて近かった。しかし──
「円架……? 僕の事は分かるかい……?」
「……ごめんなさい。私、やっぱり──貴方の事は分からない」
「ッ……そんな」
──やはり、天戸円架は照陽の事を覚えてはいなかった。
「カードの精霊の気配は……もう感じないワ。だって、死んじゃったもノ」
「でも、じゃあ、何で……?」
「少年。我々は最初から大きな思い違いをしていたようだ」
理事長は淡々と言い放つ。
「──今此処にいる天戸円架は……
「……!!」
照陽は──再び円架の顔を見る。
そんなはずはない、と否定しようがなかった。
並行世界線の同一人物ならば、声も、姿も、同じに決まっているのだから。
それでも尚、目の前の彼女が自分のよく知る妹ではないことを──認めたくはなかった。
「ッ……ウソだ、そんなの」
「私も思ったよ。とんだ偶然もあったものだ、ってね。だが全ては──この世界の君の存在が抹消されていたことに起因する」
照陽は──愕然とする。
今まで自分が追いかけてきた相手は、顔と名前が同じだけの──別人だったことを突きつけられたからだ。
「加えて、彼女の意識がゴルギーオージャーと極めて高いレベルで同調していたこともあって──真相を確かめる術が無かった」
「……何、何なの。お兄ちゃん、お兄ちゃんって。私にお兄ちゃんなんて居ないんだけど──」
照陽の顔を見る円架の目は、不思議と懐かしそうだった。
「……なんでだろう、貴方を見てると……すっごく安心する」
「まど、か……」
「でも、私の相棒居なくなっちゃった……私のゴルギーオージャー……」
涙混じりに呟く円架を──照陽は黙って見下ろす事しか出来なかった。
※※※
「理事長はこの事に気付いていたんデスカ?」
「薄々ね。天戸円架のプロフィールに矛盾も偽造も無かった。これが全てだ。だが、確証が持てなかったから言えなかったんだ」
流石の照陽も落ち込んでいた。
病院の待合室で今は一人──窓を見ている。
その目は虚ろで、焦点が合っていない。
流石にこころの肉体が限界ということで、シエルは病院の食堂に向かい──今は瀬野と澪音だけが病室の外で話をしていた。
「結局、妹ちゃんの行方は分からないシ……デモ、だとしてもショックよネ。別の世界の妹ちゃんが、ああなっちゃって……」
「思うところはあるだろうね。世界が違えど──天戸照陽の妹・天戸円架であることに違いは無いんだから」
「……でも、この世界のダーリンはもう居なイ」
「どうして天戸 円架が聖羽衣に転入してきたのか……その辺りも既に”捻じ曲がって”しまっているのかもしれないな」
「どうしテ?」
「COMPLEXの改竄は完全ではないと聞いた。天戸照陽という人間一人の積み上げてきた歴史も抹消されてしまっている。そうなると──絶対何処かで矛盾や不自然が起きる」
「……そっカ。じゃあ、それを無理矢理辻褄合わせしたかラ……円架にも影響が出てるってコト?」
「彼女だけではない。ひょっとすると、彼と関係や親交があった人間全てに影響が出ているかもしれないな」
「ッ……じゃあ、猶更COMPLEXなんて放っておけないじゃナイ!! あいつが居たら、世界が滅茶苦茶になっちゃウ!! それに──」
ギリッ、と澪音は唇を噛み締める。
思い起こされるのは──円架の顔。
そして、終始やりきれない顔をしていた照陽とシエルだった。
「──
「……オマエならそう言うだろうな、白銀。だが問題はそれだけじゃない。天戸 円架を撃ったのが誰か、ということだ」
「それならもう目星はついてるワ! 理事長」
「本当か?」
ドヤ顔で澪音は推理を語る。
「あと10日で発売される王道W第3弾……丁度このパックの目玉は、《COMPLEX》のリメイクカードなノ!」
「ああ、そう言えばそうだったな」
まさに神も恐れぬ所業であった。
ブッ壊れカード《
それは当然のように五色島のプレイヤーにとっても話題になった。
別の世界では災いを齎すクリーチャーと言えど、この世界では所詮、いちカードゲームのいちカードに過ぎないのだ。
「その名も──《
「ああ、そんなカードも居たなあ」
「犯人は私、ソシテ円架、六禍仙を狙ってル! そして常日頃から、他の六禍仙を疎んじてるヤツが居るワ! そしてあろうことか、その人物はスチームナイト使いッ!!」
──六禍仙”水”。
常軌を逸したスチームナイト使い。
戦極学園の生徒会長にして、屈指の性悪としても知られる男。
「矢車蒸一郎!! あいつは自分こそ一番であればいいって思ってるドくされ野郎ヨ!! きっとあいつがCOMPLEXと共謀して、他の六禍仙を襲撃したんだワ!」
「何のために?」
「きっと、自分にとって邪魔な精霊使いを排除していってるのヨ!! そうに違いないワ!!」
「フゥン──成程、完璧な推理だ白銀君。だが──君の推理には一つ、大きな穴があるよ」
「!? 馬鹿な! スチームナイト繋がりなのヨ!! 絶対矢車だワ!!」
理事長は首を横に振った。そして──隣の病室を指差した。
4人部屋の病室だが、プレートにはしっかりと「矢車 蒸一郎様」と書かれている。
「──矢車も入院しているんだ。聞いたところ、昨日からな」
「……」
がらがらと病室を開ける澪音。
一番手前のベッドで──矢車が啜り泣いていた。
テーブルにはご丁寧に炭化してボロボロになった《
「んほはははははぁぁぁ~ん……オレのロマノフがぁぁぁ、死んでもうたぁぁぁ、人の心とか無いんかぁぁぁ?」
……澪音は黙って病室の扉を閉めた。
一歩間違えれば自分も同じ目に遭っていたからかもしれないからである。
「……矢車は、犯人じゃなさそうネ」
「な? そうだろう?」