デュエマプレイヤーは「カードが全ての学園島」で成り上がるそうです。 作:タク@DMP
「……円架」
一人で照陽は病院の屋上で黄昏ていた。
探し求めていた妹は、実質顔の同じ別人。
そして、この世界の自分は存在を抹消されて生きた痕跡すら残っていない。
ならば、彼の探し求めていた妹の手掛かりは完全に消え失せてしまった。
(……いや、下手をすると……もう、円架を探すどころじゃないかもしれない)
何より島に未だに潜んでいるであろうクリーチャー・COMPLEX。
これを止めなければ、また存在を消される人が出てくる。放っておけば、この世界は滅茶苦茶になってしまう。
(……やらないといけない事が山積みで、頭の中もゴチャゴチャで、もう訳が分かんないな……)
柵にもたれかかり──項垂れる照陽。
そこに、一つの影が現れる。
「──照陽さん」
「……こころさん」
穏やかで優しい声だった。
病院の食堂で腹ごしらえしていたこころが──戻ってきたのだ。
「……お腹はもう大丈夫なのかい」
「ッ……き、聞かないでくださいっ。恥ずかしいんで……」
「今更僕の前で恥ずかしがることなんてないだろう」
「それとこれとは別なんですっ! ……それより、妹さんの事、全部聞きました」
「……うん」
「シエルからも、これまであったこと全部教えてもらって──正直、実感はわかないです。私が照陽さんと、ずっと前に出会っていたなんてこと」
「僕からすれば、その天戸照陽は顔の同じ、名前が同じだけの別人だ」
そう──別人だったのだ、と照陽は自分に言い聞かせる。
「……仕方ない、って割り切るしかないよ。妹探しも振り出しに戻っちゃったし──」
「でも、照陽さん……凄く辛そうです」
「……」
「たとえ、並行世界でも……自分の事を覚えていなくても……顔も名前も同じ相手なら、情が湧いてしまうはずです。シエルも──そうだったから」
「……やめなよ。こっちの円架にも迷惑だ。僕は──本当なら居ないはずの人間なんだから。深入りするのは、僕も彼女も辛い」
「……でも、それでも──放っておけないです! 円架さんも、照陽さんも──」
「こころさん。ゴメン──」
照陽は、俯いて言った。
「少しだけ──ひとりにさせてくれないかな」
「ッ……」
「……今は、どうすれば良いのか……分からないんだ。どうしようもないことが、多すぎてさ」
それを聞いたこころは──嫌でも思い知らされた。
結局、今の自分に出来る事は何も無いのだ、と。
「……この距離なら一人で帰れる。理事長と澪音にも言っておいて。待たせたら悪いからさ」
「ねえ、照陽さん」
「……何だい」
「私は確かに弱くて、出来る事もあまり無いかもしれません。それでも……照陽さんに助けてもらったから。色々教えてもらったから。私は──照陽さんの味方です。味方で、居たいです」
「……ありがとう」
そう返す事しか、今の照陽には出来なかった。
※※※
──あれは、1年ほど前の事だった。
父さんが病で倒れ、更に父さんの会社で発生したとある事件が原因で家計が火の車になった。まあ──色々あったんだ。それで洒落にならない損害が出た。
それまで比較的裕福だった家庭は一転。天戸家は未曽有の危機に陥った。
その時、僕は悟ったんだ。もう無邪気な子供のままではいられない、って──
「カードを全部売って家計の足しにする!?」
「ああ、値上がってる奴もあるだろうし、全部売りに出すんだ」
「ッ……」
「父さんが病気で倒れたのに、遊んでる場合じゃない」
「……CS優勝の夢、諦めちゃうの?」
「家の事に替えられないさ」
「このバカ兄貴ッ!! 好きな事を諦める必要なんてない!!」
──円架が本気で怒ったのは、それが初めてだった。
「私は小さい頃しかデュエマやってないからよく分かんないけど……あんなに頑張ってたじゃん!! 簡単に諦めちゃうの!?」
「……高校にも上がったし、良い機会だよ。円架に苦労はさせない」
「どーせお兄ちゃんのカードを全部売ったって、大した足しにはならないよ!! それくらい分かってるでしょ!? あんな雀の涙みたいな小遣いを必死でやりくりして集めてきたのに……!!」
「……じゃあ、他に方法なんてない。お母さんも大変そうだけど、バイトは禁止だし──」
「私がッ!! 何とかするッ!! お兄ちゃんは、CSで優勝して高額プロモカードの一つでも勝ち取ってきなよ!!」
「ッ……でも」
「任せといてよ。私──昔から金運だけは良いからさ」
「そんなの信用できるわけ……」
──結果的に、僕がデュエマを諦める必要はなくなった。
「ね、言ったでしょ? 私が何とかするって。何とか──してみせたでしょ?」
家計を立て直したのは、円架だった。
「金は天下の回りもの。じゃあ、天下は私だよ!」
「……本当にどうにかする奴がいるかよ……」
円架は天才だった。きっとそれは──金の流れを操るチカラなんだと思う。才能。能力。お金の流れを完全に感じ取れる──
オカルトの類だと思うけど、きっとそうなんだと思う。
「え? 駄目だよお兄ちゃん、私みたいに稼ぎたいだなんてさ。株やFXは素人が手ェ出したら大怪我するんだからね! 私に任せておけばいいのっ!」
「正直情けないんだよな。家の危機に僕は何も出来なかった」
「あたしにたまたまお金周りの才能があっただけだよ。そうだ! お兄ちゃんのカード代も出してあげよっかぁ?」
「僕はお年玉と、お小遣いの分だけで十分だよ。妹に趣味の金を援助してもらうなんて下の下じゃないか……死にたくなるね」
「でもお兄ちゃん強いじゃん。こないだもCS優勝したし、優勝賞品のプロモカード売ったお金は家に入れてるんでしょ」
「まだまだだよ。プロプレイヤーに比べれば大した成績じゃない」
「お兄ちゃん頭良いんだから、その調子で勉強も頑張れば
「勉強もやってるよ。難しいモンは難しいのさ。円架みたいに勉強しなくてもテストで高得点取れる人ばかりじゃないんだよ。僕はその一人さ」
……正直僕は──円架に、負い目を抱いていたと思う。
平々凡々な高校生でしかない僕と、天才の円架。
どっちが家の為になっているかなんて、明白だ。高校はバイトも禁止で、僕じゃあ家の助けになることも出来ない──って何度も思った。
ただ生きているだけの僕は、只の穀潰しの役立たずじゃあないか、って。
「……あのね、お兄ちゃん」
「何だい」
「お兄ちゃんがね、思ってること──私も少しだけ分かるよ。私、お兄ちゃんに何度も守ってもらったから」
「……そんな大層な事をした覚えはないよ」
「小学校の頃、一緒に手を繋いで登校してくれた! 私が喉風邪引いた時、ゼリーを買ってきてくれた! 野良犬に襲われた時、追っ払ってくれた! お兄ちゃんの教えてくれたデュエマで、友達ができた!」
「……」
「お金で買えないもの、沢山あたしにくれたっ! だから──今度は私の番! 沢山守って貰った分、私が返すんだ!」
……ああ、敵わない。
本当に僕には不釣り合いなくらい、出来過ぎた妹だ。
こんな円架だからきっと、神様は円架に贈り物をくれたのかもしれない。
「もーう、何で泣きそうな顔してるの。お兄ちゃんは私が居ないと本当にダメダメなんだから。そうだ! 明日買い物に行くから、荷物持ちやってよ。お兄ちゃん出不精だから、丁度良いでしょ?」
「……やれやれ、折角の休日なんだけどなあ」
「そんな事言っちゃって。私と出かけるのイヤ?」
「……イヤとは言ってないよ。円架のお願いなら、仕方がないな」
「あ、そうだ! デッキ持って行くのはやめてよね! 折角のデー……じゃなかった、お出かけなのに」
「そっちは約束できないな」
「もー、このデュエマバカーッ!! お兄ちゃん、カードショップ行ったらしばらく出て来ないじゃん! 他の人と対戦すぐに始めちゃうし!」
「そっちは服屋に入ったらしばらく出て来ないだろう、お互い様だ」
……円架。
あの時、手を伸ばせたなら今君はそばに居たんだろうか。
もっと、もっと先に手を伸ばせていれば──あの手を掴めていれば、君は──
「──君は今、何処に居るんだ? 円架」
※※※
「──ねえ」
声を掛けられ、照陽は振り返った。
そこには──円架が立っていた。
しかし、嘆息する。病人服を纏った彼女は──天戸円架でありながら、照陽の妹である彼女ではない。
「……病室をわざわざ抜け出してきたのかい……?」
「うん。大分、体の調子、戻ってきたから」
「……怒られても知らないよ」
「貴方の事が気になって……!!」
こっちの世界の円架は──そう言った。
「……教えてよ。妹さんって、どんな人なの……?」
その顔も、声も、全てが──同じだ。
「……君に、そっくりだよ。本当に本当に……そっくりなんだ」