デュエマプレイヤーは「カードが全ての学園島」で成り上がるそうです。 作:タク@DMP
二人の間に多弁は不要。
翼を大きく広げた蒼鎧の武者龍は今飛び立ち、照陽を背中に乗せて空へと飛び立つ。
もう何も怖くはなかった。
幼い頃から一緒に居てくれたカード。
その中に封じられていたボルメテウス。
彼と一緒になったことで、照陽は──胸の中から熱いものが込み上げてくる。
「僕はもう、絶対に負けない……!! 妹を、COMPLEXから取り返すッ!!」
夜の空へと消えていく照陽とボルメテウス。
その様を見ながら──この世界の円架は呟いた。
「……私だって、六禍仙なんだ。やられっぱなしじゃあ、居られない……!!」
すぐに彼女はDMデバイスを取り出す。
精霊は喪った。だが、この世界の天戸円架には──一般人の常識を遥かに超える財力がある。
「──セバスチャン!! 至急、アレの手配をお願い!! 操縦は私がやるから!! ……え? 免許? 勿論持ってるよ」
得意げに彼女は言った。
「ちょっと前にハワイで取ったからね!」
※※※
──五色島、ゼロポイント。
爆心地のように荒れ果てた廃虚が広がるこの場所には、何故かカードの精霊が居つくことで有名だ。
しかし、その理由は唯一つ。
本物のクリーチャーであるCOMPLEXが、この場所を今も隠れ家にしていたからである。
マナを持つCOMPLEXの力によって精霊たちは活性化する。
そして、その精霊たちは──次々とCOMPLEXの持つ目玉の付いた不気味な壺へと吸い込まれていくのだった。
「収穫の時だ……!! 遂に私は願望器として完成する……!!」
六禍仙の持っていた2体の精霊。
《~邪眼帝~》に《ゴルギーオージャー》。
それらを吸収したことで、COMPLEXの力は次第に元に戻りつつあった。
しかし、それ故に嗅ぎつかれてしまったのである。
溢れ出る邪悪の気配を──よりによって、天戸照陽とボルメテウスに。
「待てーッ!! COMPLEXッ!!」
降り立つボルメテウス。
そして、その背中から降りる照陽。
COMPLEXは、忌々しそうに照陽を睨み付けると「全く以てどの世界でも愚かだな貴様は」と吐き捨てた。
「……円架は返してもらう。これは決定事項だ」
「懲りないヤツだ。大人しく引き下がっていれば見逃してやったものを──」
COMPLEXの持つ壺から紫色の邪気が漏れ出す。
月の光が照らす中、天戸円架の身体を核として「それ」は再構築されていく。
全身が歯車で構成された巨大な怪物。
更に廃墟の瓦礫を身に纏い、見上げる程の巨体へと変貌していく。
ボルメテウスの数倍近く、学校の校舎とも見紛う風貌の機神。
機械仕掛けの時皇。その名は──
「《
──流石の照陽とボルメテウスもただただ圧倒されるしかない。
あまりにも強大過ぎる敵を前にして。
しかし、それでも──
「私は武者の名を継承せし龍──屈しはせん!! 照陽!!」
「ああ!!」
──照陽を背に乗せ、夜の空へと飛び上がる。
COMPLEXの両腕のアームが伸び、ボルメテウスを追う。
両者は暗闇の中、熾烈なドッグファイトを繰り広げるが、見た目以上に身軽なボルメテウスがアームを躱し、脳天からCOMPLEXを叩き斬ろうとする。
しかし──
「お兄ちゃん、私を助けて……?」
──次の瞬間だった。
円架の体がCOMPLEXの頭部から姿を現す。
咄嗟に身を翻すボルメテウスだったが、当然それが隙となった。
無尽蔵に伸びるアームがボルメテウスを羽虫のように地面へと叩き落とした。
「っがぁぁああ!?」
「ッ──!!」
辛うじてボルメテウスにしがみつき、振り落とされずに済んだ照陽だったが心臓がバクバクと音を立てて止まらない。
あともう少しでボルメテウスの刀が危うく円架を真っ二つに叩き斬るところだったからである。
照陽とボルメテウスの感情は今、高いレベルで共鳴している。照陽が感じていることをボルメテウスも感じ取ってしまうのだ。
故に。
「……バカな奴だ。妹の身体も口も、今は誰が乗っ取っているか忘れたのか?」
「この、卑怯者……!!」
円架を人質に取られた今、ボルメテウスは本気でCOMPLEXと戦う事が出来ない。
かと言って、あの機神が顕現している限り、真のデュエルどころの話ではない。
円架の姿かたちを借りたCOMPLEXは機神の頂上で得意げに笑い──そして自らの勝利を確信した。
「この世界の天戸照陽も、外の世界の天戸照陽も……結局の所、この私に負ける運命だったな」
「……それは、どうかな」
照陽の言葉は、COMPLEXには苦し紛れに見えたかもしれない。
しかし──
「……
──突如。
死角より襲い掛かる拳が機神を襲う。
背後から大きく態勢を崩されCOMPLEXは振り向こうとするが、更にそこに駆け付けるは赤き轟速の影。
COMPLEXの周囲を大きく駆け回り、絶え間なく連続攻撃を浴びせる──
「ッぐぁあ!? 誰だ──ッ!!」
「こないだはよくも、やってくれたわネーッ!!」
「照陽さんっ!! 遅くなってすみませんっ!!」
見覚えのある車から飛び降りる二つの影。
澪音にこころがそこには立っていた。
「澪音、こころさん……!!」
「COMPLEX! あんなに派手に出てきたら、幾ら私でも分かっちゃうワ!! あんたの位置がネ!!」
「私ではヴリドガルドを使うことは出来ませんが……この子は反応していたので!!」
澪音が連れているのは勿論、相棒であるシャングリラだ。
しかし、こころの手に握られ赤く光っているのは──《轟く邪道 レッドゾーン》のカードだ。
「COMPLEX!! 貴方は覚えていますか!! このレッドゾーンが誰のものかを!!」
「……レッドゾーン……まさか」
COMPLEXにとってはまさに屈辱の記憶。
勝利したにも関わらず、大きな致命の一撃を受け、自らの存在を保てなくなった要因そのもの。
「
「シエルが言ってました! こっちの照陽さんの無念を晴らさせてほしい、と──ッ!! 貴方の相手はこの、レッドゾーンです!!」
「戯けるな!! カードの精霊が幾ら束になってかかろうが、関係ないッ!!」
大きなアームがシャングリラを掴み、投げ飛ばす。
そして、高速で動き回っていたレッドゾーンの動きも突如停止する。
その身体には時計の形をした刻印が刻まれていた。
「私は願望器、時間も空間も思いのままだッ!!」
アームに掴まれたシャングリラが、レッドゾーンにぶつけられて爆散する。
両者はそれぞれのカードへと戻ってしまうのだった。
「ウソォ!?」
「……そ、そんな、一撃で……!!」
これが、精霊ではない真のクリーチャーの攻撃。
たとえゼニスだとしても、たとえ轟速の侵略者だとしても。
所詮、何処までいっても紛い物でしかない精霊では──全く歯が立たない。
「二人共ッ!! 逃げるんだ──ッ!! 歯が立たないッ!!」
「デ、デモ──ッ!!」
「逃げましょう、白銀さん!! あいつ、想像以上の強さです!!」
「バカ!! ダーリンを置いていけるわけないデショ!?」
「いや、逃げるのが正解だッ!! あのCOMPLEXとやら、私の予想を超える怪物だったッ!!」
理事長の声が車から響いたかと思えば、澪音の首根っこを引っ掴んで車へと引きずり込む。
「キャアッ!?」
「精霊と、
「ちょっと何するのヨ、理事長!! まだダーリンが──ッ!!」
「そ、そうです!! 照陽さんが──ッ!!」
言い終わる前に、COMPLEXがブン投げた瓦礫が車目掛けて飛んできた。
それを奇跡的なドライビングテクニックで躱した理事長は、すぐさまその場から離脱する。
「今この場は……少年に任せるしかあるまい!!」
「ダーリン──ッ!? ダーリンッッッ!!」
走り去っていく車を見て──照陽は心底安心した。
巻き込まないで済む、と。
「次はオマエだ、ボルメテウス!! 天戸照陽!! 両者諸共に──捻じ曲げてくれる……!!」
「ちょっと待ったーッッッ!!」
振り返るCOMPLEX。
動き回るレッドゾーンとシャングリラに気を取られ、機神は「それ」の接近に最後まで気付かなかった。
大きなプロペラの駆動音と共に「それ」はCOMPLEXに迫りくる。
あまりの衝撃的な光景に、照陽も驚愕せざるを得なかった。
「ヘ、ヘ、ヘリコプターッッッ!?」
しかも機体が金メッキで塗ったくられた趣味の悪いヘリコプターである。
そのヘリコプターから誰かが飛び降りるのが見える。
すぐさまボルメテウスが飛び降りた人影を受け止めるべく飛翔した。
一方、COMPLEXにはヘリコプターが迫りくる。
「なっ──何だァァァーッ!?」
すぐさまアームを伸ばし、ヘリを握り潰すCOMPLEX。
しかし──その一瞬の隙が仇となった。
「──貰ったぞッ!!」
身を翻したボルメテウスの刀が、何度もCOMPLEXを切り刻む。
歯車仕掛けの機神の身体は、崩れ落ちていく──
「そ、そんな、バカな……!? 一体、何が起きて……!?」
ボルメテウスが照陽の傍に降り立った。
その背中には──こっちの世界の天戸円架が乗っていたのである。
すぐに駆け寄った照陽は思わず叫んだ。
「な、なんて滅茶苦茶してるんだ君はッ!?」
「ヘリコプターくらい持ってるよ。私、大金持ちだから。あれは──必要な犠牲ってヤツだったかな」
「そっちじゃない! わざわざ特攻してくるヤツがあるか!」
「だって、貴方なら絶対受け止めてくれる気がしたから。何でか分からないけど──そう思ったの」
「だとしても……ああ、何事も無かったからよかったものの……!!」
「……本当に心配そうな顔。同じ状況なら貴方の妹も、同じようなことしたかしら?」
悪戯っ子のように円架は笑ってみせる。
照陽は首を横に振った。
「いいや……妹は君ほど無茶苦茶じゃなかったよ」
「でしょーね。でも、これで……貴方の妹さんへの道は切り開かれた」
がらがらと崩れ落ちた機体。
その中から、照陽の妹に寄生したCOMPLEXが現れる。
「……記憶には無いけど、今なら分かる。私は……貴方の事が、どうしても他人とは思えない」
「……」
「でも、私じゃあ貴方の妹にはなれない。だから──取り返してきて。貴方の大事な人を」
「……分かったよ。このチャンス、無駄にはしない」
デッキケースを握り締め、照陽は前に進み出る。
「──やっと、捉えたぞCOMPLEXッ!!」
「……天戸照陽……二度相まみえるとは……ッ!! やはり此処で消えるべきだ……ッ!!」
シールドが目の前に浮かび上がる。
今此処に──学園島の、ひいてはこの世界の命運を懸けた真のデュエルが始まろうとしていた。
【天戸照陽】VS【”マガルセカイ”COMPLEX】