デュエマプレイヤーは「カードが全ての学園島」で成り上がるそうです。   作:タク@DMP

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第28話:六禍仙の資格

「──ハァァァ!? これがボルメテウス!?」

 

 

 

 ──昼休み。

 改めて誰も居ない教室で、照陽は澪音に事の仔細を話す。

 しかし、この白髪赤目美少女がカードの姿になったのを見て、漸く信じたようだった。

 

「いや、納得できるワケないじゃなイ!! 年頃の男女が同じ屋根の下!! 何も起きないはずがなク!!」

「澪音。幾ら女の子の姿をしているとはいえ、これはボルメテウスだ。分かるだろ? そう言う展開になるわけがないんだよ」 

「そもそもこの姿になりたくてなったわけではないのだが……」

「分からないワ!! どうせなし崩し的に《轟䡛合体(※自主規制)》するに決まってるワ!!」

「だからゴルギーオージャーに深刻な風評被害をかぶせるのはやめろって」

 

 一番の被害者はゴルギーオージャーである。

 

「ダーリンの隣は私ヨ!! そんなポッと出の女の子に渡さなイ!!」

「私は照陽が小さい頃から一緒に居るが」

「クッソ、負けタァァァーッッッ!!」

 

(めんどくさ……)

 

「ダーリン今めんどくさいって思ったデショ!!」

「うん思った」

 

 地に手を突き嘆き悲しむ澪音。

 正直、この頭のネジが数本外れた婚活女からさっさと逃れたい照陽だったが、そうと問屋が卸すわけが無く。

 

「分かったワ……百歩譲ってダーリンが浮気するのは許すわヨ」

「此処までの話聞いてたか? 僕達そもそも付き合ってないよね?」

「デモ、ズルいワ!! その子だけダーリンと同じベッドで寝るだなんテ!!」

「羨ましいか? 照陽と私は一心同体だからな、ふふん」

 

 少し得意げに腕を組んでみせるボルメテウス。

 余計に怒りを募らせていく澪音。

 だが彼女とて六禍仙、アンガーマネジメントは心得ている。

 そして澪音は既に対抗策をこの短い間に編み出してしまっていた。誠に遺憾であるが。

 彼女が進む先は理事長室である。

 

「クリーチャーが同じ屋根の下なんて危ないワ!! 私をダーリンと同じ部屋にしてくだサイ、理事長!!」

「危ないのは君じゃないかね?」

 

 至極真っ当な返答が帰ってきてしまった。

 呆れたように肩を竦める照陽。

 もしゃもしゃ、とハンバーガーを齧っているボルメテウス。

 わざわざ男女別々に寮を用意しているこの学園で、そんな特例許されるはずがないのである。

 ないのであるが──

 

「しかし事が事だし、君は数少ない精霊使いだ。何かあった時の為にすぐ動ける人員が必要だね。少年たちとよく協議して決めたまえ」

「ちょっと理事長ォォォーッッッ!?」

「やっターッッッ!! ダーリンと同棲!! ダーリンと同衾!!」

「こんなの許されるわけないでしょ!? 貴女、何考えてるんですか理事長!!」

「ふむ、むずかしいことはよく分からないが──ゼニス女も同じ部屋になるのか?」

 

 ハンバーガーを全て平らげたボルメテウスが不敵に嗤う。

 

「……では、また照陽に負けて無様に這いつくばる所が見られるということだな?」

「あんたは一々私の気分を害さないと気が済まないワケ!? フン、今に見てなサイ! 一緒の部屋になったらダーリンと無限にデュエル出来るんだからネ!!」

「チェンジしてください、一生ゼニスと戦わされるのは嫌です」

「ジョーカーズもあるワ!!」

「気持ちは分かるよ少年。だがね、君の今の状態はかなり不安定だ。それに──また、君の力を狙うクリーチャーが現れないとも限らないだろう」

 

 そう言われ──照陽は閉口してしまった。

 ボルメテウスの姿も、力も、この数日の間に急速に変化している。

 そして、その影響は他でもない照陽にもダイレクトに現れてしまっている。

 そうなると、万が一の事が起きてしまった時──止められる人間が他に居ないのだ。

 

「つまり、これは正当な警護任務ってことよネ!! 私に任せてくだサイ、理事長ー!!」

「いや、あのさぁ……もう良いか」

 

 口出しするのも面倒くさくなってしまった照陽。

 何故ならば、こんな戯けた申し出は通るわけがないのだ。

 仮に照陽がOKを出したところで──それを絶対に許さない人間が居る。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──絶対ダメーッッッ!!」

 

 

 

 ──白銀澪音が照陽の部屋に自分の家具や備品を持ち込もうとしていた所で、ストップがかかった。

 侵略現場にやってきたのは、天戸円架。頭が成金な事を除けば、至極真っ当な感性の持ち主である。

 であるが故に、照陽が同じ学年の女子と同棲状態になることなど看過するわけが無かった。

 

「お兄ちゃん駄目だよ、絶対駄目!! 何で止めなかったの!? 理事長から話を聞いたよ!?」

「止めて止まるようなタマならこんな事にはなっていないよ。既に合鍵を抑えられた、手遅れだ」

「ボルメテウスは良いの!?」

「ゼニス女が私達に戦いを挑んでくるならば、私は何度でもそれを返り討ちにするだけの話だ」

「駄目だコイツ、デュエル脳過ぎる!! クリーチャーの癖に!!」

 

 ふんふん、と鼻歌を歌いながら大きなリュックサックをベッドの上に下ろす澪音。

 それに対し──目を吊り上げた円架が憤慨した。

 

「白銀澪音先輩ッ!! こんなのフジュンですッ!! 大体、お兄ちゃんとどんな関係なんですか!!」

「ダーリンは私の運命の人ヨ! だって、私の初めては全部、ダーリンに奪われたんだモノ!!」

「お兄ちゃん……?」

 

 殺意の籠った視線が照陽の方に向いた。

 

「誤解だ、円架! 僕は断じて、そんな真似はしていない! ちょっとデュエルで僕が多めに勝ってるだけだ!」

「あの転入試験で……あんな大勢の前で辱められて……もうお嫁に行けないワ」

「ああやっぱり……半ば逆恨みじゃん、頭おかしいよこの人……」

「でもその後、ダーリンに色々助けられちゃって……やっぱり、この人が私の運命の人なんだっテ」

「情緒ジェットコースターなのかな」

 

 いずれにせよ、こんな奇人に兄を任せるわけにはいかない。

 円架はデッキを手に取っていた。この島では、デュエルが全て。

 ならば、目の前の女を退かせるならばデュエルで倒すしかない、と。

 

「──分かりました。そんなにお兄ちゃんの部屋に泊まりたいなら、先ずは私を倒してからにしてください!」

「良いワ。花嫁修業に姑は付き物!! それを乗り越えてこそ、クリスタル・ブライドは訪れるというもの!」

 

 照陽の意思など何のその。

 女二人は勝手にデュエルを照陽の部屋の床で初めてしまうのだった。

 それを見た照陽は一言。

 

「──円架のデュエル……何処まで澪音に通用するのか、見物だね」

 

 デュエルになった瞬間、完全に観戦モードである。

 自分が今置かれている状況など、目の前で行われる試合に比べればなんてことはない。

 それがデュエマプレイヤーの悪い癖なのだ。

 デッキが広げられ、試合が始まろうとしていた。

 目の前の銀髪少女が──他でもない無銘学園最強であることなど、円架は知った事ではない。

 

「相手が誰だろうが関係ない! お兄ちゃんの変なのは近付けさせないから! 《ソウルサンライト コハク》を《~西方より来る激流の竜騎公~(ハイドロ・ビスマルク)》に進化!」

 

 円架の場に、巨大な魚人のクリーチャーが姿を現す。

 《ソウルサンライト コハク》の効果で1コスト。

 そして、NEO進化させる時、更に追加で2コスト、自身の効果で《~西方より来る激流の竜騎公~(ハイドロ・ビスマルク)》は軽減される。

 通常は6コストの所を、2コストで召喚できてしまうのだ。

 

~西方より来る激流の竜騎公~(ハイドロ・ビスマルク)

・このターンに出た《ソウルサンライト コハク》から進化したので、次の自分のターンまで離れない。

 

「そして、カードをドローして、手札から1枚を山札の上に置くよ! ターンエンド!」

 

 さて、これによって澪音は罠を張られたも同然だ。

 《~西方より来る激流の竜騎公~(ハイドロ・ビスマルク)》は、相手のクリーチャーが攻撃してきた時、山札の上のカードをタダで使用する効果を持つ。

 もしも澪音がクリーチャーを出して殴りかかって来ようものならば、山札に仕込んだクリーチャーが彼女を返り討ちにする。

 仕込まれたのは《歌謡の精霊 カンツォーネ》。相手のクリーチャーをシールドに封じ込める力を持つNEOクリーチャーだ。

 

(そして《カンツォーネ》を《~西方より来る激流の竜騎公~(ハイドロ・ビスマルク)》の上に重ねれば、構成カードがどんどん増える! つまり、《ゴルギーオージャー》への完成が近づく!)

 

「──そして《カンツォーネ》を《~西方より来る激流の竜騎公~(ハイドロ・ビスマルク)》の上に重ねれば、構成カードがどんどん増える! つまり、《ゴルギーオージャー》への完成が近づく! って考えてるわネ」

 

 どきり、として円架は顔を上げた。

 澪音は一言一句違わず、円架の考えていたことを言い当ててみせたからである。

 

「デモ、それは──手札にパーツが揃っている前提の話だワ。そんな見え見えの罠、引っ掛からないヨ!!」

「引っ掛からないって……」

 

(次のターンが来れば、私は普通にゴルギーオージャーを完成させに行くつもりだけど……!?)

 

 手札には《一音の妖精》、《ゴルギーオージャー》、《ホールインワン・ヘラクレス》が揃っている。

 もし澪音が動かなければ、円架は即死コンボを完成させに行く。

 

 故に澪音に残された択は「攻撃せずに円架の戦略を破壊し尽くす」こと。

 

 裏向きにしたマナは合計で4枚。

 そして、そこに闇文明のマナを足す。

 

(来るか……!!)

 

 照陽は顔を顰めた。六禍仙のデュエルは理不尽で始まり、そして理不尽に終わる。

 その意味を──久々に噛み締めていたからだ。

 

「水晶ソウル3、闇マナを1枚足して合計12マナ!! 《「呪怨」の頂天 サスペンス》!! 効果で手札を全部破壊するヨ!!」

 

 ──巨大な骸の顔を持つゼニス《サスペンス》。

 それが円架の手札を全て墓地へと叩き落とす。

 一瞬で状況は急転した。円架の顔はパニックに染まる。

 

「あ、え、嘘──!!」

「デッキトップはさっき《~西方より来る激流の竜騎公~(ハイドロ・ビスマルク)》で固定したカード! しばらくドローはできないはずだワ!」

 

 折角手札に溜め込んでいたコンボパーツは全て墓地に落とされてしまった。

 そして、ゴルギーオージャーは墓地からカードを利用する手段がない。

 こうなってしまうと、立て直すのは困難だ。

 いずれにせよ、円架は《サスペンス》をどかせにかかる。そうでなければ未来が無い。

 

「私は《カンツォーネ》を召喚……ッ!! 《サスペンス》をシールドに送る──ッ!!」

「それは甘んじて通すワ!」

 

(エターナル・Kで耐えなかった……手札に後続が居るんだね、白銀さん)

 

 照陽の予想通り、澪音は更なるゼニスを手札に抱えている。

 今此処で《サスペンス》を下手に生き残らせれば、折角生み出した水晶マナを消費してしまうことになるからだ。

 

「水晶ソウル3、自然マナを足して13マナ!! 《「戦鬼」の頂天ベートーベン》!!」

 

 今度は強大な鬼神が澪音の場に顕現する。

 マナゾーンには更に水晶マナが溢れていく。

 

「召喚して場に出た時、山札の上から3枚を表向きにしてクリーチャーを好きな数回収、そうでないカードは全部マナゾーンに裏向きで置くワ! 私は《ベートーベン》を回収して残り2枚を裏向きでマナに置く!」

「ウ、ウソ、こんな巨大なクリーチャーが……!?」

 

 そして、タップしている限り円架の攻撃は永遠にベートーベンに届くことはない鉄壁の防壁。

 何より、場に出たターンは即座に相手のクリーチャーを攻撃出来る巨大な戦槍だ。

 

「──《ベートーベン》で《~西方より来る激流の竜騎公~(ハイドロ・ビスマルク)》を攻撃して破壊するワ!!」

 

 《ベートーベン》のパワーは17000。《~西方より来る激流の竜騎公~(ハイドロ・ビスマルク)》の8000では太刀打ちできない。

 当然、相手のクリーチャーが攻撃してきたので《~西方より来る激流の竜騎公~(ハイドロ・ビスマルク)》の効果も発動できる。しかし──

 

(《~西方より来る激流の竜騎公~(ハイドロ・ビスマルク)》は……確かに相手クリーチャーの攻撃時に、デッキトップのカードを使用できる強力なカウンターカードだ。だけど、当然弱点が存在する)

 

 無論、そのような強力な効果が制約無しで使えるはずがない。

 《~西方より来る激流の竜騎公~(ハイドロ・ビスマルク)》のカウンターは、自分の手札の枚数以下のコストを持つカードでなければ発動できないのだ。

 手札が0枚の円架には何も使う事が出来ない。

 

 崩落する円架の盤面。

 《カンツォーネ》1体ではどうすることもできない。

 その後も澪音の構成は続いていく。盤面には2体目の《ベートーベン》が並び、一方の円架の盤面は更地に変えられた。

 そして──

 

「11マナで──呪文《オールデリート》を使うワ!!」

「お、おーるでりーと……!?」

 

(勝負アリか)

 

 《オールデリート》。

 それは、互いのマナゾーン以外のカード──つまり手札、シールド、墓地、場のカードを全て山札に送るという効果を持つ。

 

「シールドも!? この時ってS・トリガーは……」

「勿論使えないヨ! シールドも、手札も、墓地も、場のクリーチャーも、全部消し飛ばすッ!!」

 

 当然、澪音の場のクリーチャーもシールドも洗い流されるわけだが、エターナル・Kを持つゼニスは生き残る。

 マナゾーンにある水晶マナを3枚裏返す事によって──《オールデリート》を耐える事が出来るのだ。

 

「エターナル・Kで《ベートーベン》2体は依然健在!! そして《オールデリート》で互いのシールドも空っぽ!! 《ベートーベン》でダイレクトアタックするワ!!」

 

 項垂れる円架。

 無理も無いな、と照陽は首を横に振った。

 これまで運が良かったり巡り会わせが良かっただけで、これが本来の澪音の──六禍仙の実力なのだから。

 

「円架……よく頑張ったよ。相手はこの学園で一番強い人だからね」

「兄ちゃんは勝ったんでしょ!? この人にッ!!」

「いや、悪いけど幾ら僕でも《ベートーベン》に着地されたら勝てないかな。サムライでどうやってあいつを退かすのさ」

「そんなぁ……」

「んっふふー、ダーリン♡ 褒めて褒めてー♡ 私、強いんだからネ!」

「円架は復帰したばかりで初心者同然なんだぞ、それに勝って喜んだところでさ……」

「ダーリン!?」

 

 とはいえ、約束は果たさなければならない、と照陽は運び込まれた荷物を前に嘆息する。

 もしも自分の部屋から女の子がぞろぞろと出て行く様を見られたら、何と言われるか分かったものではないからだ。

 落ち込む妹。ルンルン顔で部屋を占拠しようとする澪音。

 どうにか落としどころを──と考えたその時だった。

 

「うン?」

 

 バイブ音。

 澪音の端末からだ。

 彼女はブレザーに入れていた端末を手に取ると来ているメールに目を遣った。

 

「どうしたんだい、澪音」

「んもー、良い所だったのニ! 六禍仙の招集ヨ!」

 

 不満そうに頬を膨らませると──澪音はカードをケースに仕舞う。

 そして、部屋に置いていた荷物をそのままにして、カバンを背負った。

 

「続きは帰ってきてかラ! じゃあネ、ダーリン♡」

「二度と帰ってくんなーッッッ!!」

 

 憤慨して叫ぶ円架。

 頭を抱える照陽。

 そして何食わぬ顔でハンバーガーを喰らうボルメテウス。

 こんな状況で黙っていられるわけがないのか、円架は進言した。

 

「あたしも此処に住む!! あんな女、野放しにしておいたら何するか分かんないよ!!」

「この狭い部屋にか!? 3人部屋か!? いや、ボルメテウスも入れて4人か!!」

「皆で住めば防衛力が上がって良いと思うのだが」

「世間体も少しは考えておくれよ! 君達ずかずか入ってきてるけど、此処男子寮なんだよ本当は!!」

「なにさ、お兄ちゃんの事心配してるのに!」

「僕は君達も心配なんだが!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──同時刻、学園島内・中央区セントラルタワー。

 学園島の象徴とも言える巨大な塔。

 そこには、光、水、闇、火、自然、無色、それぞれの文明を扱うスペシャリストが集う。

 その名は六禍仙。出会えば必敗を覚悟させるほどの実力者であり、全員がカードの精霊を所有している。

 そして、白銀澪音もまた、そのうちの一人だった。

 だが──この数日間で六禍仙の数は激減した。クリーチャー・COMPLEXの事件でカードの精霊を破壊され、あるいは存在を抹消された者が居たため、現在は3人。

 

「由々しき事態だ。……六禍仙は今や、3人しかいない。矢車は失脚し、そして──光使いもまた、知らぬ間に消えていた」

 

(COMPLEXの力だ……私達の記憶から、光の六禍仙も完全にすっぽ抜けてしまってるワ……!!)

 

 仔細は照陽から聞いたとはいえ、澪音も事実を咀嚼できずにいる。

 これこそがCOMPLEXによる「改竄」。居たはずの人間が「居なかったこと」になり、周囲からもその記憶が消えてしまっているのだ。

 

「COMPLEXは討伐されたが、代償はあまりにも大きかった。ところで──」

 

 この場で音頭を取るのは、闇の六禍仙・鬼塚牙十丸。

 学ランを羽織った巨漢だ。しかし、彼は──辺りを見回す。

 今や六禍仙は後任が決まらぬまま、残るは3人。

 だが──この場には彼を入れて、六禍仙は二人しか居ないのだ。

 牙十丸、そして澪音。たったの二人──

 

「これじゃあ二禍仙じゃねえか!! コナユキは何処に行った!?」

「連絡が付かないのヨ……! 既に何度か電話したんだけド……!!」

 

 残るは自然の六禍仙・花園コナユキ。

 しかし、彼女の姿は何処にも無いのである。

 会合の時間はとっくに過ぎているのだが、それでもやってくる気配がない。

 

「クソッ、こんな時期にどいつもこいつも自覚に欠けている……!! こっちから探してとっちめてやる……ッ!!」

 

 怒り心頭の牙十丸。

 しかし、そんな彼を制するように──何かがドシャッと地面に落ちる音がした。

 振り返る澪音。そして地面に落ちたそれを見てゾッと肩を震わせる牙十丸。

 

 ──小柄な少女──花園コナユキが、制服をボロボロにして、そこに横たわっている。

 

「オマエに手間はかけさせねえよ、牙十丸」

 

 軽薄な声が聞こえてくる。

 倒れたコナユキには目もくれず、牙十丸に負けず劣らず背の高い少年がつかつかと歩いてきた。

 青い髪。

 そして、両耳のピアス。

 何処か浅薄そうな印象すら与えさせる印象の少年だ。

 彼はにこやかに、そして務めて朗らかに笑みを浮かべると──指に挟んだカードを二人に見せつける。

 

 

 

 ──そこに握られていたのは黒く炭化したカード。

 

 

 

()()()()!! いつ、帰って来ていた……!! しかも、そのカードは……!!」

「サクガミ……!?」

「……留学でしばらく五色島を空けていた……矢車の前に六禍仙の”水”を任命されていた男だ。名前は──天津サクガミ……!!」

 

 警戒心を露にしながら、牙十丸は少年の名を呼んだ。

 まるで幼馴染にでも話しかけるようにフレンドリーに言った。

 

「リセットしようぜ牙十丸。今の六禍仙は見るに堪えない。俺が居ない1年の間に……随分悲しいことになってるじゃねえか」

 

 足元に横たわったコナユキを見下ろし、サクガミは──続ける。

 

「そこの彼女は……不合格だ」

 

 炭化したカードを握り潰すサクガミ。

 それが元々、コナユキが所持していた精霊のカードであることを──漸く澪音は理解したのだった。

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