デュエマプレイヤーは「カードが全ての学園島」で成り上がるそうです。   作:タク@DMP

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第31話:サンセット

 理事長に連絡し、校門は開けて貰った。

 そしてクリーチャー案件ということもあり、そのまま二人は理事長室に通されたのだった。

 濡れたままでは風邪を引くのでタオルを貸してもらったコナユキは、ごしごしと髪や制服を拭きながら──ソファに腰かけた。

 

「……下手人は天津サクガミ。大運河高校の3年生……!」

 

 デュエルの事を思い出すと恐怖が止まらないのか、震えながらコナユキは言った。

 

「手も足も出なかった……!」

「先日留学から帰ってきた元・六禍仙の一人か。興味深いねえ?」

 

 理事長が珈琲を飲みながら言った。

 

「だが、天津は1年以上前に手痛い敗北をして六禍仙を引退されている。その後、留学中の1年に新たなるクリーチャーを引き連れてやってくるとは」

「手痛い敗北……?」

「恐らく、そのデュエルで天津も精霊を喪っている。しかしその記録は残っていないので、誰に負けたのか分からない」

「その天津って人、六禍仙の中ではどれくらい強かったんですか? 理事長」

「……鬼塚よりは弱い、程度だな。六禍仙である以上は優劣は殆ど無いと言っていい」

「とにかくだよ……皆やられた。ボクも、精霊を殺された……!!」

 

 悔しそうに掌を握り締めるコナユキ。

 

「相棒だったんだ!! 学園に来てから出会った相棒を!! あいつに……!!」

「ッ……花園さん」

「悔しいよ!! ボクだって自分の実力に自負はあった!! なのに、あいつ、それを、嘲笑うように……ううう……ッ」

 

 堰を切るように涙を流すコナユキを見て、照陽は胸を締め付けられるようだった。

 カードの精霊は、マナの力で実体化した「クリーチャーの紛い物」だ。

 しかし、個体差はあれどある程度意思の疎通が可能で、持ち主と共生すれば良い相棒になれる。

 だが同時に──真のデュエルなどで持ち主を庇う等して致命的なダメージを受けると、容赦なく消滅する。

 

「特にそこのデカ女は念入りに甚振られてた……ッ!! 念入りに……ッ!!」

 

 澪音は未だに目を覚ます様子が無い。

 辛そうに目を瞑り、そして魘されるように呻いている。

 

「天津の狙いは……澪音で、他の六禍仙はついでだったのか……?」

「そんなのボクに分かる訳ないだろ……コイツに恨みがあるみたいだったけど、よく聴こえなかったんだ……!!」

「ごめん、辛い事を思い出させて」

 

 照陽は──務めて笑顔を作り、コナユキに目を合わせる。

 

「ありがとう。君も怖くて辛かっただろうに、澪音を連れて帰ってきてくれたんだね」

「ありがとうって……ッ! あのなぁ……ッ」

「今はゆっくり休んでよ」

 

 穏やかに言った照陽はコナユキの肩に手を置いた。

 だが、コナユキは──その手に無意識に力が入っていることに気付く。

 理事長は肩を竦めた。

 

「真のデュエルともなれば暴力事件で立件も出来ない。表ざたに出来ないからな。危ないし、事態が収まるまで精霊使いはおちおち外も出歩けんだろう」

 

 天津の狙いが六禍仙だけに留まる保証はない、と彼女は言っているのである。

 

「今日はもう遅いし、理事長室に泊まっていくと良い。白銀君も預かろう」

「助かります、理事長。じゃあ、僕はそろそろ寮に戻りますので」

「待て。私から一言入れなくて良いのか? 寮はもう門限だろう」

「必要ありません。お心遣い、ありがとうございますね」

 

 にこにこ笑いながら──照陽は理事長室を後にする。

 それを見てコナユキは大きく溜息。

 

「何なんだアイツ! ヘラヘラヘラヘラ……こちとら、襲われたんだってのに……!!」

「……あれは、私も見たことが無い顔だったねぇ」

 

 眉を顰める理事長。

 これまで幾度となく顔を合わせてきた照陽だったが──此処に来てからの彼は少し様子がおかしい、と彼女は感じていた。

 

「バカなことをしなければ良いが……私に止める力は無い、か」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「照陽。照陽っ!!」

 

 

 

 校門を一跳びでよじ登り、乗り越える照陽。

 それに向かってボルメテウスは呼びかける、呼びかけ続ける。

 相棒は心此処にあらず、だ。何度も何度も呼びかけ、そして漸く──彼は足を止めた。

 

 ずぶぬれになり、制服もカバンもデッキケースもびしゃびしゃになる。

 だが、そんなこと構わず照陽は電柱を思いっきり殴りつける。

 

「ッ……僕自身が思ってた以上に……僕は澪音の事を大切に思ってたみたいだ。自分の事は、もっと薄情なヤツだと思ってたんだけどね」

「……照、陽……」

「ごめんよ、ボルメテウス。だが君なら分かるはずだ。今の僕はちょっと冷静じゃない」

「……」

「澪音を、仲間をあんな風に好き勝手されて、挙句の果てに精霊まで殺されて……それで黙っていられるほど、僕は大人じゃないんだ」

 

 ぐつぐつと煮滾るような怒り。

 それが──ボルメテウスに伝わっていないはずがない。

 ふたりは一心同体。照陽の考えていることは、ボルメテウスにもダイレクトに響く。

 

「澪音は……ちょっと困ったところもあるけど……それでも、円架を探してる時に散々助けてくれたんだ。一度円架に負けた僕と特訓してくれたし、気遣ってもくれた」

 

 ましてやそれは仲間を傷つけられたことによる純然たる怒り。

 何より、自分がその場に居なかったことへの無力感。

 

「でも、僕はちょっとでもあの子に何か返せたか!? あの子の好意に甘えていたんじゃないか!? ……僕は情けないよ自分が。何か起きてから今更怒ってる自分自身に腹が立っている!!」

 

 もう一度照陽は電柱を濡れた拳で殴りつけた。

 

「だけど今、とても許せないんだ。許せない気持ちで胸がいっぱいなんだ。僕がボルメテウスを喪ったらって思うと……きっと澪音だって同じくらい辛いはずなんだ」

 

 気が付けば──照陽の目の前には──青い武者鎧を身に着けた竜が炎を身に纏いながら顕現していた。

 

「……ボルメテウスッ……!!」

「それは、私とて同じだ照陽ッ!! オマエの怒りは私が喰らい、糧としよう。だからオマエは、いつものように戦えッ!!」

「……止めたりしないんだね」

「当たり前だ。私を誰だと思っている? オマエに命を拾われたあの日から、私は──オマエの刀だ」

 

 照陽は頷き、そしてボルメテウスの背中によじ登った。

 翼を広げたボルメテウスは──目を閉じる。

 この島の何処かに居る──もう1つの竜の気配感じ取っている。

 

「ゼニス女を倒せる程のデュエリスト。そして、それが従えるクリーチャー。今、この島には──たったひとつしかない」

「そいつがきっと天津だ……ッ」

「だが、この気配……私と同質でありながら、正反対の気配……!! 非常に嫌なカンジがするぞ照陽……!!」

「相手が誰だろうが関係ないよ。もう僕は──身近な誰かが傷つくのは嫌なんだッ」

 

 消えていった円架の事を思い出す。

 傷つけられた澪音の事を思い出す。

 その度に、いつも肝心な時に近くに居ない自分に心の底から腹が立った。

 ボルメテウスは飛翔し、力強く雨の中を羽ばたく。

 豪雨如きにボルメテウスの怒りの炎がかき消えるはずがない。

 嫌でも感じ取れるマナを辿り、ボルメテウスが降り立ったのは──五色島北部の海岸沿いに立つ大運河高校。

 夜間故に灯台の光が海上を照らす中、DMデバイスのマップを眺めながら照陽は──ボルメテウスの背中から飛び降り、ぬかるんだ地面に足を降ろした。

 

「──よう」

 

 声が聞こえた。

 照陽は振り向く。

 ボルメテウスが警戒するように照陽の前に出た。

 だが同時に、それに向かって襲い掛かるもう一つの竜の影。

 硬く、そして重い鎧同士がぶつかり合い、重低音が鳴り響いた。

 雨は──止みつつあった。

 雲の切れ間から、月の光が校庭を照らす。

 

「……ボルメテウス……が、二体!?」

 

 自らの相棒であるボルメテウス・武者・ドラゴン「武偉」。

 そして、それと睨み合う──もう1体の青いボルメテウス。

 背中にレールガンを装備し、ヘッドギアからは魚のような鰭が生えた、群青のボルメテウス。

 

「気を付けろ照陽──こいつは……私の知る同族とは違う!!」

「分かってるよ!! 僕も見たことが無い奴だ……ッ!!」

「……何かデカいクリーチャーの気配が迫っていると思って外に出てみたら……マジギレしてて面白」

 

 照陽のボルメテウスに全く驚く気配を見せることなく、少年が言った。

 青い髪。軽薄そうに笑う嫌な顔。

 それだけで照陽の生理的な嫌悪感が積み上がっていく。

 一目でわかった。コイツが六禍仙を壊滅させた張本人であり、澪音の仇である、と。

 

「君かな。六禍仙を──澪音を襲ったのは」

「おん? オマエ誰だ? どっかで見た事あるような気がするが──無銘学園の制服ってことは、白銀澪音のオトコか何かか」

「澪音は僕の仲間だよ」

「どわーッ!! な・か・ま!! オマエ何歳? 無銘学園って事は高校生だよな、その年で、仲間ごっこ!? 少年漫画か!?」

 

 腹を抱える少年。

 余計に照陽の中で彼への嫌悪感は強まっていく。

 

「何を笑っているんだい? 君は自分のやったことが分かっているんだろう」

「ああそうだ。六禍仙も、白銀澪音も、俺がやった。これで満足か?」

「どうしてこんな事をするんだい。デュエマは人を傷つける道具じゃない」

「うおっ、漫画の主人公かよ格好いいねえー。仲間をやられてピキって此処に来たってんだろうが──そういう態度は冷笑したくなる」

「ああ成程、そういう手合か」

 

 ボルメテウスが咆哮する。

 照陽は心の底から軽蔑しながらデッキを取り出した。

 

「──こんなヤツに白銀さんは……!!」

「自分がキライなヤツを矮小化したくなるのは人間の悪い癖だ。だけどなァ、今オマエの前に立ってるのは──六禍仙の頂だぜ」

 

 最早それ以上の言葉は必要なかった。

 周囲に真っ白な空間が広がっていき──シールドが展開される。

 他に選択肢など無い。

 デュエマは人を傷つける道具ではないことなど、照陽も分かっている。

 

(勝っても負けても相手が誰でもデュエマは楽しいものだと思ってた。だけど今日だけは……デュエマを楽しめそうにない)

 

「俺にオマエの勝負を受けるメリットは欠片もないんだが……いや、あるな。そのボルメテウスのマナ……俺のボルメテウスに全部寄越せ」

 

 空間は業火滾る合戦場に変わっていく。

 

「──天戸照陽。君を──此処で倒す」

「六禍仙の”水”──天津サクガミ。心配するなよ、俺もオマエみたいな良い子ちゃんが心の底からキライだ」

 

 おえ、と吐くような仕草をしながらサクガミは続ける。

 

「……押し流してやるよ。濁った夜の海にな」

「対戦……よろしくお願いします」

 

 

 

【天戸照陽】VS【六禍仙”水”─清濁奔流・天津サクガミ】

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──《ROYAL-減亜5》を召喚!!」

「──2マナで《神判のカルマ コットン》よ、来いッ!!」

 

 

 

 合戦場には、照陽とサクガミのクリーチャーが向かい合っていた。

 マナを増やした照陽は次のターン4マナ帯に到達する。

 一方のサクガミは手札にハンデスカードや妨害を抱えており、次のターンには本格的に動き出す事ができる。

 

【3ターン目】

先攻:天戸照陽(マナ3)

後攻:天津サクガミ(マナ2)

 

(……デュエルに怒りを持ち込むな、僕)

 

 大きく深呼吸をして彼は相棒の名を呼ぶ。

 

「──僕は4マナで《ボルメテウス・武者・ドラゴン「武偉」》を召喚」

「うおっ、サムライかよ!! やっぱり自認主人公ちゃんか」

 

 爆炎と共に現れた《ボルメテウス・武者・ドラゴン「武偉」》。 

 その刀が、照陽のシールドを斬り刻む。

 

『照陽ッ!! 此処から始めるぞッ!!』

「ああ、ボルメテウス。そして終わらせよう」

 

 砕かれたそれは──S・トリガーではない。

 しかし、サムライの合戦の始まりを告げるカードとなる。

 

「先ずは《神判のカルマ コットン》を破壊!!」

『せいやーッッッ!!』

 

 サクガミの場に浮かんでいた純白の法衣を纏った少女が両断され、爆発する。

 しかし同時に、死に際に少女の握っていた杖から放たれた電撃が《ボルメテウス》の身体を縛った。

 

『ぐぬうっ!? 何だこれは、動けん──!?』

「《神判のカルマ コットン》の効果ッ!! 相手のクリーチャーは場に出たターン、攻撃出来ねえよ!」

「大丈夫だよ、ボルメテウス。後は任せて──サムライ流ジェネレートで《竜牙リュウジン・ドスファング》をジェネレート」

「うおっ、サムライみてーな型落ちデッキで俺を倒そうてか。カッコいいねえ!!」

 

(……サムライ、コイツ底が知れねえぞ。何をデッキに入れてやがる……!! 何が来ても驚かねえが……!!)

 

 相手を挑発するトラッシュトークの裏でサクガミは照陽のデッキの内容をマナゾーンから推理していく。

 本当に相手のデッキだけで侮るような性格ならば、サクガミは六禍仙になってなどいない。

 彼はある意味でのポーカーフェイスの持ち主だ。決して自分の焦りや不安を相手に悟らせない。

 照陽のマナにあるのは《王道の大地》と《ナイッショエル》、そして《PERFE910-御代紅海》。

 それを見ただけで、テクノサムライのNEOクリーチャーを主体としたデッキであることは分かる。 

 分かるのだが、まだ序盤も序盤、結局推理するだけ無駄という結論に至ってしまうのだが──警戒するに越したことはない。

 

(《場和了》だとか《一音》じゃないだけマシと言えばマシだがな……!!)

 

「《竜牙リュウジン・ドスファング》のメクレイド発動」

 

 照陽は山札の上から3枚を見る。

 

 

 

 ──彼が選んだのは──《暴覇斬空SHIDEN-410》。

 

 

 

「《ROYAL-減亜5》をG・NEO進化──《暴覇斬空SHIDEN-410》ッ!!」

 

 

 

 現れたのは、ネオンカラーに彩られた紫電の鎧武者。

 即座に照陽は《暴覇斬空SHIDEN-410》に《リュウジン・ドスファング》をクロスし、攻撃に入る。

 

「……幾ら何でも不用心すぎないか!! ケアも何も無しに盾に突っ込むつもりかよ!!」

 

 照陽は──デュエル中は怒らない、と自分に呼びかけていた。

 だが、彼は自分に嘘を吐ける程大人ではない。

 ましてや──彼の怒りに呼応するかのように、全てを焦土に変える手筈は整いつつあった。

 デッキの全部のカードが、彼に必殺の一手を集約させているのである。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、よって《暴覇斬空SHIDEN-410》の攻撃時に侵略を宣言」

「ッ……!! 侵略!?」

「そして《暴覇斬空SHIDEN-410》の効果で、デッキからカードをこのクリーチャーの下に重ねる。《無頼BEN-K1000》を下に」

 

《暴覇斬空SHIDEN-410》

進化元:現在2枚 パワー8000

 

「《リュウジン・ドスファング》の攻撃時のメクレイドは──流石に失敗か。でも、もう何でも良いかな」

 

 その厳しい条件に当てはまる侵略持ちの進化クリーチャーは1体しかいない。

 ──只の一度の降臨でゲームを終わらせるとされる、太陽の神。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 サクガミは高揚が止まらない。

 全てがあまりにも照陽に都合がよく出来過ぎていたからだ。

 そして同時に笑っていられる場合ではない事も分かっていた。

 

 

 

 ──結論から言えば、このままではサクガミは死ぬ。

 

 

 

(ハハハッ!! 面白ェ!! あそこで《SHIDEN》が捲れてなかったら繋がってねえじゃねえか!!)

 

()()()()()()()()()()()()

 

 照覧あれ。

 世界は──太陽に飲み込まれる。

 龍の時代の黄昏。

 《暴覇斬空SHIDEN-410》が燃え盛る不死鳥へと姿を変える。

 

 

 

「──究極進化、《超神羅星 アポロヌス・ドラゲリオン》」

 

 

 

 ──神は告げている。座して死ね、と。

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