デュエマプレイヤーは「カードが全ての学園島」で成り上がるそうです。 作:タク@DMP
「白銀さんが、居なくなった……!?」
「理事長の部屋に泊まっていたはずが、朝見たら居なくなっていたみたいで……荷物も全部まとめてしまった、と……」
「それじゃあ、僕の部屋の荷物も……ッ」
「待って下さい、それどういうことですか」
一気に部屋の空気が氷点下を突破した。
照陽は自分が口を滑らせたことを理解した。
そういえば、こころには何一つ言っていないのである。ボルメテウスが少女化してしまったことも言っていないのだ。
「えーと、勝手に押しかけられちゃったんだよ。うん」
「……前から思ってましたけど、照陽さんと白銀さんってどんな関係なんですか」
むす、と頬を膨らませ──しかし、そんな事を言っている場合ではないと理解しているのか彼女は首を横に振った。
「……とにかく、連絡も付かないんです」
「本当だ、電話してるけど一向に出て来ない。何処に行ったんだ……?」
「ボルメテウスの事も心配だけど、澪音も心配だ。今回の件で一番傷ついているのは彼女だろう」
「でも、ボルメテウスは取り返しにいかないといけないのでは。もし何かあったら照陽さんが……」
「どうやって取り返すんだよ。今の僕には精霊が居ない。何かあった時は君にお願いするしかないかな」
「荷が重すぎますよ!!」
「理事長の部屋に行こう、何か知ってるかもしれないから」
「……どうするんですか」
「──澪音に会いに行こう。いきなり何も言わずに居なくなるなんて、あんまりすぎる」
照陽は体をベッドからもう一度起こす。
だが──全身の骨が砕かれるような感覚を覚え、転がり落ちるのだった。
「がっ、ぎ、がぁっ……!?」
「照陽さん!? 無茶です……そんな調子じゃあ……!!」
「僕、が、しっかりしなきゃいけなかったんだ……!」
それでも呻きながら、彼はカーペットにしがみつき、立ち上がろうとする。
「もう、嫌なんだよ……ッ!! 見知った誰かが、居なくなるのは……ッ!! 僕がやらなきゃ、誰がやるんだ……ッ」
「ッ……照陽さん」
「僕が弱い所為でボルメテウスを奪われた!! 僕が呑気にしていた所為で澪音が襲われた……ッ!! 僕が、僕が、僕が……僕が、何とか出来た、はずなのに……ッ」
歯を食いしばり、唇から血が出る程噛み、それでも彼はふらつきながら部屋の扉に寄り掛かった。
「照陽さん──自分を責めないで下さい……ッ! それじゃあ……自分を傷つけるだけじゃないですか!」
「じゃあ、どうしろってんだよ……ッ!!」
「私がッ……」
思わずこころは口走る。
そして──照陽の腕を掴み、彼の身体を背負った。
「私が……照陽さんを、支えます……!!」
「……こころ、さん」
「私、皆さんみたいに、シエルみたいにデュエマは強くないです、弱いです! 痛かったらすぐ泣いちゃうし、お腹が空いたら動けなくんっちゃう……フツーの女の子です」
だけど、と彼女は──続ける。
「でも私、ずっと最初から照陽さんが頑張ってるところ、見てきました。照陽さんはきっと、誰かの為なら際限なく頑張れちゃう。そんな人に頑張るな、だなんて言えないし……きっと、照陽さんは止まったりなんかしない」
「そうだね。君は……僕の事をよく分かってる」
「だからこそ、今の私が出来るのは……照陽さんを支えること、です……ッ」
「……でも、重いだろう」
「重くたって良いです、だって照陽さんはもう……沢山重いものを背負ってるじゃないですか。そのうちの少しくらい、私が肩代わりしたって……いいでしょう?」
こころは──部屋の扉を開ける。
今は授業中。寮の中は皆、出払ってしまっている。
照陽は、一歩、また一歩と廊下を歩き、俯きながらも紡いだ。
「……ありがとう」
※※※
「そんな身体でよく来たねエ? まあ、そこの彼女のおかげか」
「理事長……すみません、僕……ッ」
「謝らなくて良い。きっと私でも同じことをしただろう」
止められなかった私も悪いからね、と理事長は言った。
「だが問題は白銀澪音だ。あの子、こんなものを私に出してきた」
「……これって」
封筒に入った書類を、理事長は照陽に見せつけた。
その中に入っていたのは──「退学届」。
ゾッと蒼褪めた照陽はそれをひったくろうとするが、理事長はすぐさま書類を封筒の中に仕舞ってしまった。
「ダメだよ、個人情報が書いてある。だが彼女の申し出は大体想像通りだ。あれほど屈辱的に敗北して、おまけに精霊まで失ったのだから、自分の立つ瀬は無い──退学する、とね」
彼女ほどの強いプレイヤーが辞めるなら、それこそ他の生徒の立場が無いだろうに──と理事長は続ける。
「そんな、白銀さん、学校やめちゃうんですか!?」
「親にも相談しないでやめるなんてそうは問屋が卸さない。コイツは保留にさせて貰ったよ。実家に帰すから、頭を冷やして話し合えと言った。そして今朝、実家に帰ってきた、と親から連絡が入った」
「……そ、そうですか」
「だが自室に鍵をかけて引き籠ってしまって出て来ない、と。困ったねェ……もっとも、今の彼女に必要なのは時間なんだろうが、君はそうではないんだろう?」
「……はい」
照陽は自分の左胸を抑える。
そこには、ボルメテウスと繋がった炎が今も宿っている。
一刻も早くボルメテウスを取り戻さなければ、彼自身の生命が危ない。
だが、それ以上に──澪音の精神状態が照陽は心配だった。
「会いに行かなきゃ、澪音に」
「そうです! このまま放っておけません!」
「何を言っている。授業をサボってわざわざこんな所まで来て。教師から苦情が私に来ているぞ、二人共」
「えっ……」
「あ……」
照陽とこころは顔を見合わせた。
よくよく考えれば、本来は二人共此処にいるべきではないである。
学生の本分は勉強。にも拘らず授業を無視して昼間から理事長室に居座っているのはおかしいのだ。
「理事長としては、不本意ながら君達に罰を与えなければならない。そうだな……君達は4日間の停学処分だ」
「えっ……」
「そんなッ──!? 私もですかぁ!?」
頭が真っ白になる照陽。
ここにきて追い打ちのような懲罰に──彼は後ずさる。
だが、理事長はチッチッと指を振った。
「だがもし、白銀澪音を連れ戻して来たなら……理事長権限でこの処分は内申には響かない出席停止にしておいてやる。なんせ彼女は優秀な生徒だ、失うには惜しい」
「ッ……理事長! 良いんですか!?」
「おっと、だが今はコンプラが厳しい。他の生徒の住所などおいそれと教えられない。問題になるだろう」
そう言って封筒に入った書類を持った理事長は──わざとらしくそれを床に投げ捨てる。
「──おっと手が滑った」
「あっ」
「……いけないいけない、私としたことが書類を落としてしまった。ぶえくしょいっ!! あー、ぶえっくしょい!!」
「……」
「……」
そしてわざとらしく大きなくしゃみをしながら、理事長は後ろを振り返った。
その隙に照陽とこころは封筒から書類を抜き取り、住所の欄をスマホでパシャリ。
そのまま封筒を机の上に置いた。
向き直った理事長はわざとらしく鼻を指で拭くと、一言。
「おい、住所見ていないよな? スマホで撮影なんて以ての外だぞ、断じてやっていないよな? フリではないぞ、やっていないよな?」
「い、いえっ。見ていません。断じて撮影もしていません」
「わ、私も……」
「さっさと返せ。全く──個人情報の流出とか大問題だからな、大問題」
そう言って理事長は懐に封筒を仕舞う。
そして、ぱちり、とウインクをした。
「……とまあ、少年少女よ。これが
「ありがとうございます──理事長!」
「はぁー? 停学処分に礼を言うなんて、全くおかしな生徒だ。これだから最近の若者は分からん」
「あはは……」
照陽とこころは顔を見合わせた。
これで──澪音の下に向かうことが出来る、と。
※※※
「結局君もついてくるんだね」
「照陽さんにもしもの事があったら、今戦えるのはシエルだけです。精霊は五色島の外にも居るんですから」
「そりゃあそうか……」
「それに私も照陽さんと一緒に居たいんですっ。お役に立ちますから!」
荷物をバッグに収め、コート姿で船で島の外に出た照陽とこころ。
向かう先は──東京。
「白銀さんが住んでるのは──東京都の鶺鴒って町だ」
「……照陽さんは、五色島の外に出るの……初めてですよね?」
「ああ。この世界では、ね」
東京か、と照陽は船の外から本土の方を見る。
ネットでの写真を見た限り、外は彼の知るものと相違は無い。
強いて言うならば、鶺鴒という地名を照陽は知らない。
また、学園島たる五色島以外にもデュエリスト養成学校は各地に点在しているのだという。
船から降り、東京に着いた頃にはもう陽も傾いていた。
雑踏に押し流されないように、照陽はこころの手を握る。
「わわっ、ありがとうございます、照陽さん」
「しっかり。流されないようにね」
「でも、身体……平気ですか?」
「大丈夫。船で寝てる間に多少はマシになったよ」
駅前に出て、二人はベンチに座る。
今日のうちに目標を達成するのは不可能だ、と考える。
ああは言ったものの、照陽の身体は限界だ。
一刻も早くベッドに横になり、出来るだけ早く回復を待ちたかった。
「えーと、私達……今日何処に泊まれば良いんでしょうか……?」
「適当にホテルでも泊まれば良いだろう」
「お金そんなに持ってないです……考えなしに出てきちゃった所為で……」
「あっ」
照陽はDMデバイスの通帳アプリを開く。
そこには──いつの間にか幾らか金が入金されていた。
しかも、ご丁寧に妹からのメッセージまで。
『お兄ちゃんへ 理事長から聞いたよ! 白銀先輩を連れ戻しに行くんだって!』
『これは軍資金です、宿泊とかに使ってね!』
「……ッスゥゥゥゥゥゥゥゥ」
照陽は深呼吸。
確かにそこには、何泊か出来るくらいの額が入っている。
しかし、どうやってこれほどの金を稼いだのか──照陽には謎だった。
『稼いだって、どうやってこんなに稼いだ? 投資にしたってあまりにも早すぎる』
『宝くじ』
当たりくじの画像が送信されてくる。
照陽は頭を抱えた。やはり妹の黄金律は健在のようである。
「……どうしたんですか、照陽さん」
「こころさん、宿泊費は僕が出そう」
「えっと、良いんですかそれ……!? 結構、しますよ」
「……正直、心配するだけ僕がバカだったよ……こころさんは気にしないで」
「いや、気にしますが!?」
此処までくると、大人しく使ってしまった方が良いようだ、と照陽は考えた。
こんな東京の都会で、女の子を寒空の中に晒し続けるわけにはいかないからである。
「でも大丈夫でしょうか、高校生二人だととやかく言われちゃうんじゃないでしょうか……? 最悪ホテルマンが通報して補導ルートかも」
「……制服は置いてきたけど、受付に身分証を出さないといけないかもしれないね。少々面倒くさい事になりそう」
「良い子ちゃん」の二人には色々と不安が付きまとう。
東京で高校生だけで夜を明かすというのも初めての経験だ。
そんな中、光明が差してくる。
「あ! 待って下さい! シエルが”とやかく言われない場所”を知ってるそうですっ!」
「本当かい!?」
「しかも安値で済む、とまで言ってます! シエル、場所を教えてっ」
そんな都合の良いホテルがあるのか、と照陽が怪訝に思う中──シエルに指示されながらスマホを操作するこころ。
そして、行き先が分かったからか──こころは地図を見ながら照陽の前を歩き始めるのだった。
※※※
猥雑とした飲食店や酒場。
そして、ぎらぎらと目を刺すネオンライト。
そんな町が広がる中──二人の前には、中世のお城のような建物が待ち構えていた。
照陽は即座に回れ右をするが、こころが彼の袖を引っ張る。
「ちょっと、何処に行くんですか! 此処ですよ此処! シエルが言ってた場所!」
「いや、あの、確かにホテルなんだけどさあ……ホテル、なんだけど……えーとチェンジで」
(おかしいな。僕一応深刻な理由で東京に来たはずなんだけどな)
「休憩3000円、宿泊5900円、ですって! 安いですよ! それにしても……休憩って何でしょうか? 宿泊と休憩は何が違うんでしょうか」
「あのさ、こころさん。やっぱり別の場所にしよう。いやマジでシエルは何て言ってるの」
「”つべこべ言わずにさっさと入れ”と言ってます」
「シーエルーッッッ」
どうやらシエルは全部知っているようであった。
「此処なら学生かどうかもとやかく言われないし、制服とかでもない限り補導されたりもしない、と。何なら学生も利用していると」
「確かにそうかもしれないけどね……!?」
これバレたら今度こそ停学では済まないな──と照陽は地面に手を突きそうになった。
だが既に夜の八時を回っており、今更他の施設を探す時間的な余裕は照陽には無いのだった。
そんな照陽の気心などいざ知らず、こころはワクワクとした顔でお城のような建物を指差す。
「だってこれ絶対ホテルですよ! でかでかと看板に”ホテル”って書いてますもん! おまけにお城のような外観ですし!」
(参った……こころさんは二重人格だが、
「あ、シエルが言ってます! 此処は”親しい二人が夜通しデュエルをする場所”だって! カードショップも併設されてるんでしょうか!?」
(物は言いようだね)
「”何なら轟䡛合体(意味深)する場所”だって言ってます! なんでそこでゴルギーオージャーの名前が出てくるんでしょうか、やっぱりゴルギーオージャーが最強だからでしょうか」
「だからゴルギーオージャーへの深刻な風評被害はやめろって!!」
「ふ、ふーひょーひがい……?」
「いや、何でもない……仕方ない。行くしかないか」
意を決した照陽は、こころの手を引っ張ってお城のような建造物に入るのだった。
「取り合えずこころさん。詳しい事は中で話すとしよう。後、シエルの事は一回ブン殴って良い」
「え、何でですか? わ、私自分で自分は殴れませんよ?」
「今回ばっかりは殴って良いと思うよマジで」