デュエマプレイヤーは「カードが全ての学園島」で成り上がるそうです。 作:タク@DMP
リビングに通され、椅子に座らされる。
言い知れない緊張感の中、沸かしたお湯をティーカップに注ぎ、紅茶のパックを浸す紫月。
慣れた手つきで茶を出す姿は一般的な主婦の姿そのもの。
最も、その容貌は子供と見紛う程で──尚且つ、その中身が正真正銘の怪物であることを照陽達は知っている。
(……白銀紫月。この世界における伝説的なデュエマプレイヤー……ッ)
玄関には澪音の取った賞のトロフィーだけではなく、横に紫月の取ったプロリーグの優勝トロフィーも飾られていた。
「粗茶ですがどうぞ」
「ありがとうございますっ……」
「わざわざ娘の為に来ていただいたのです。礼は要りませんよ」
「あの、白銀さんは……?」
こころの問に紫月は首を横に振った。
「先日帰宅してから、ずっと部屋に引き籠ってしまっています。扉の前にゴハンを置くと無くなっているので、食べてはいるのでしょうが……」
「……そう、ですか」
「連絡も完全に断ってしまっている以上、貴方達がこうして直接来た理由も大体察せます。ただ、その前に──」
一瞬だけ──紫月の目が赤く光った気がした。
そして、椅子に腰かけた彼女はナイフのように鋭利な声で刺す。
「
お茶を出しながら──紫月は照陽の方を見ていた。
思わずティーカップをこぼしそうになってしまう照陽。
ぎくり、としながら視線を逸らすこころ。
照陽は──動揺を極力抑えながら問い返した。
「……娘さんから聞いたんですか?」
「……そういうことにしておきましょう。私と夫がこの世界の人間ではない事も、澪音から聞いているはずです」
「ッ……知ってたんですね、全部」
「そして、娘が傷ついている理由は──真のデュエルで敗北し、精霊を喪ったこと。そうでしょう」
「……その通りです」
「これがイジメだとかトラブルなら私も出る所に出るのですが真のデュエルとならば……下手に干渉は出来ない。クリーチャーの力は、持たざる者にとっては大砲のようなもの。今の私では消し炭にされるがオチでしょう」
無力は罪ですね、と紫月は俯いた。
娘の危機に自らが直接立ち向かうことが出来ない事を悔いているようだった。
一方、照陽も幾らプロプレイヤーとはいえ一般人そのものの紫月に表に出ろとは口が裂けても言えなかった。
「この世界でも実体化するクリーチャーの脅威は健在。精霊を手にした娘に一度助けられています。親として恥ずかしい限りです」
「紫月さんの居た世界でも、クリーチャーが……?」
「ええ。私も貴方くらいの年の頃に……それはそれは長い戦いを経験しました。夫もその時に一緒に戦った──戦友のようなものですから」
「……紫月さんの強さは、命懸けのデュエルの賜物だったんですね」
「いいえ? 師匠がきっと優秀だったんだと思いますよ。今でも夫より私の方が強いですから」
自慢げに胸を張る紫月。
御年40歳と聞いたが、ところどころ仕草が子供っぽい。
こういうところはきっと澪音にも似たんだな、と納得する照陽だった。
「……娘さんが精霊を……シャングリラを手にした切っ掛けは?」
「彼女はどうやら、アメリカでの留学中にシャングリラを手に入れたようです」
「アメリカ……ッ」
(そういえば、天津も留学してたって言ってた。デュエマの開発はアメリカで行われる。いわば、本場本流、生誕の地……ッ)
「……遭遇したのは偶然だったと言っていました。しかし、娘には生まれつき──ゼロのマナに対する親和性が強かった」
「ゼロのマナ……?」
「……恐らく、血筋によるものでしょう。私は特別、疑問には思いませんでしたよ」
いまいち飲み込めない照陽だったが、紫月は何故澪音がシャングリラを屈服させられたのか見当がついているようだった。
「精霊は……本物のクリーチャーの劣化コピーのようなもの。真のデュエルに負ければ簡単に死んでしまうし、自我も希薄……それでも、あれだけショックを受けるのは……愛着があったのでしょう」
「劣化コピー……か」
「この世界にはところどころ、マナの力が強い地がある。その周辺ではただのカードにマナが宿り、クリーチャーの紛い物たる精霊を生み出す。では──そのマナを発しているのは一体何なのか」
「……本物の、クリーチャー……?」
「そうです。私は五色島に精霊が多く現れる理由はそうだと考えています」
(それ、もしかして……COMPLEXの事かな……あいつも長い間、五色島に居たらしいし。あいつのマナで精霊が活性化したのか……?)
「……話がそれましたね。娘に会いたいのでしょう。ですがその前に──私としては確かめておきたいことがある」
──紫月は何処からともなく古びたデッキケースを取り出した。
照陽は──首を傾げた。
「あの、まさかと思いますけど……」
「相手の人柄を見るにはデュエルが一番です、娘の交際相手とならば猶更」
「ねえ待って下さい、多大な誤解を含んでいる気がします」
「なに。私は貴方が娘の交際相手だと聞いていたのですが──はぁー……またあの子の思い込みですか。そんな事だろうと思いましたが」
そう言いながらテーブルにカードを広げる紫月。
あくまでもデュエルを止めるつもりは無いようであった。
「……良かった、てっきり娘を弄んだのか! とか言ってくるのかと」
「いえ、喉からは出かかりましたよ。アナタ、なかなかカワイイ顔をしていますから。澪音がコロッと落ちてしまっても不思議ではありませんでした」
「フクザツですね……」
「それでは、さっさと始めませんか」
「……やらないといけないですか、デュエル」
「貴方も内心では乗り気なのでしょう。デッキケースに手が掛かっていますよ」
無意識にデッキを取り出していることに照陽は気づく。
本能には──抗えない。
「……照陽さん。相手はあの伝説のプレイヤーです、でも──照陽さんなら!」
「あんまり買い被るなよ。下手したら──この人は、天津より強いだろう」
「私も最前線を退いて長いですから。ブランクはあるでしょうね」
ですが、と紫月は言った。
「──アナタが娘の戦友だというならば──その実力、デュエリストとして是非とも拝見したい」
「……対戦、よろしくお願いします」
「が、がんばれー、照陽さん……ッ!!」
(頑張れ、か)
照陽は──明らかに目の色が変わった目の前の紫月を前に、身震いが止まらない。
(この世界のプレイヤーは、たとえ学生でも上位層ならば僕らの世界のプロに匹敵するだろう)
しかし、と照陽は目の前の対戦相手の紙捌きで──明らかにこれまで戦った相手とは別格の凄みを感じていた。
(それを踏まえたうえで……この人は、ヤバい)
「……では、始めましょうか。腕が鈍っているので──あまり楽しませられないかもしれませんね」
【天戸照陽】VS【