デュエマプレイヤーは「カードが全ての学園島」で成り上がるそうです。 作:タク@DMP
「──《レッドゾーン》の効果を解決。パワーの一番小さいクリーチャーを、全部破壊する」
「……100点満点の回答、ですね」
アタックされない。ブロックされない。選ばれない。
確かに一見《神帝》は無敵のクリーチャーに見える。
しかし──除去されないわけでもないし、ましてや耐性のあるGーNEOクリーチャーでもない。
何より、紫月の場には《神帝》一体しかいなかったのだ。故に──容赦なく《レッドゾーン》の効果で破壊されることになる。
「ターン終了時に《王闘の大地》の効果で《レッドゾーン》はマナに送られます。だけど──GーNEOクリーチャーの耐性で、下のカードを全部墓地に送る事で生き残る」
「さっきの質問の続きといきましょう。必ず勝てる保証は無く、負ければ失うものだってある。それでも何故、貴方は戦うのですか」
《減亜-5》を《SHIDEN》に進化させた照陽は──《レッドゾーン》に手を掛ける。
その攻撃時の効果で、《御代紅海》の効果が誘発し、《デスモナーク》が《レッドゾーン》の下に重ねられた。
「──戦わなきゃ、失ってしまうものがあるからじゃないですかね」
消えていった者の顔を思い出しながら、照陽は続けた。
「もう、僕は身近な誰かが居なくなるのは嫌なんです。僕は確かにこの世界にとって部外者だけど……大事なものが、ちょっと増えすぎちゃいましたから」
残るシールドはG・ストライク。
だが、《レッドゾーン》の効果で「攻撃出来ない効果」は無効化されている。
当然《海底研究所》もただの置物と化している。
「だから、僕は戦います。惨めでも、不格好でも……この心臓が動いている限り」
「……それが、貴方の戦う理由ですか」
「それに僕、デュエマだけが取り柄ですから。自分の大好きなもので大事な人を護れるなら──惜しむつもりはありません」
「きっといつか、デュエマが嫌いになる日が来るかもしれませんよ」
「だとしてもきっと、後悔はしないと思います」
《レッドゾーン》の二度目の攻撃が通った。
紫月は両の手を挙げる。
「……その言葉を聞けて良かった。貴方は……大したデュエリストですよ」
「対戦、ありがとうございました」
「……こちらこそ、ありがとうございました」
──勝者、天戸照陽。
※※※
「か、勝っちゃった、照陽さんが……!!」
「……いや、でも正直ラッキーだったよ。回答は──《レッドゾーン》以外無かった。こころさんとシエルに──感謝しなきゃね」
ぼんっ、とこころの頬が真っ赤に染まっていく。
そして彼女は照れ臭そうに目を逸らした。
「え、えへへへ……そ、そうですかぁ……?」
「……欠けたカードを友人のカードで補った、というところでしょうか」
「刺さったのはたまたまでしたけどね。ただ、ジャストダイバーの《神帝》を始末する方法はあれしかなかった」
「……デアリレッドゾーンは現在、絶賛環境デッキ……しかし、本来なら1ターン耐えきれば、神帝で叩きのめせる相手です」
しかし、と紫月はこころと照陽の顔を交互に見た。
「攻めのカードたる《レッドゾーン》を《王闘の大地》で防御に転用し、同時に《海底研究所》の効果を無力化する動き──お見事でした」
(二つのデッキのキーカードを組み合わせ、未知の反応を生み出す。それもまた……デュエルの醍醐味。私が知らないだけで、この二人にも──色々あったのでしょう)
デッキを片付け──紫月はリビングの入り口である引き戸に目を向けた。
少しだけ隙間が空いている。
「というわけですが──貴女はどうですか、澪音」
「ッ……」
「えっ」
「白銀さん!?」
そぉ、と戸が開く。
そこから──気まずそうな顔で澪音が出てくるのだった。
「……ずっと、試合を見ていたのかい」
「ずっとじゃなイ。……ママが久々に本気を出したのを感じテ……何事かと思って降りてきたノッ!! まさか、ダーリンが……ママと戦ってるなんテ」
「感じたって……」
「ママが本気出すと、家の空気がビリビリって震えるノ! 分からなかっタ!?」
「いずれにせよ、デュエマバカを天岩戸から引きずり出すのは──デュエマだったというわけですが」
「バカ言うナーッ!!」
照陽は紫月の瞳を見た。
元の群青色に戻っている。
(いや、やっぱり目の色変わってたよな。この人、タダモノじゃない……?)
「そんでもって、なんでダーリンとココロがウチに居るノ!? わ、ワタシ、ビックリしたんだけド!!」
「えーと、いきなりで驚かせてゴメン」
「私達、白銀さんを学園に連れ戻しに来たんですっ」
「わ、ワタシを……?」
「……後は若い者同士に任せましょう」
そう言って──紫月はリビングを出る。
「積もる話もあるでしょうから。澪音」
「ッ……うン」
※※※
「……ワタシ、学園には戻らないかラ」
開口一声はそれだった。
パジャマ姿の澪音は髪もぼさぼさで、学園に居た頃からは考えられなかった。
「……どうしてだい」
「シエルから聞いたノ。ダーリンが、天津と戦って負けたっテ……ボルメテウスも奪われた、っテ」
「……そうだね」
「ワタシの所為なの……ワタシが、もっと強かったラ……ダーリンを巻き込むこと、無かったのニ……シャングリラを失う事も無かったのニ……」
暗い顔で澪音は続ける。
「ダーリンに負けて、ワタシは無敵の六禍仙じゃなくなっタ。シエルに負けて、ワタシは……絶対強者じゃなくなっタ」
華々しい無敵の戦績は、物の数日で塗り替えられることになった。
それでも、澪音は自らの強さに自負を持っていた。
自分が弱いのではなく、照陽とシエルが強かったのだ、と。
だが、それは──完成してしまい、停滞してしまった自分自身を直視することに他ならなかった。
世間は評する。白銀澪音は完成された完璧なデュエリストである、と。
しかし──その意味は、
「……天津に負けて……ワタシは……精霊も失って……挙句の果てに、皆に迷惑までかけテ……こんなの、私の目指した”カンペキなワタシ”じゃなイ……!!」
「……カンペキって、何ですか」
「ッ……」
澪音が顔を上げる。
こころが──真剣に彼女の目を見ていた。
「私も、照陽さんも……白銀さんがカンペキだから一緒に居る訳じゃないと思います……カンペキじゃなかったらダメなんですか……? そんな事言ったら、シエルに頼らなきゃデュエマもできない私は……もっとダメダメじゃないですか」
「……あなたに何が分かるノ! ワタシが積み上げてきたものが──ワタシが、六禍仙になるまで、どれだけ努力したカ……ッ!!」
ぎゅう、と拳を握り締める澪音。
「パパもママも、
「ッ……白銀さん」
「パパは仕事で家に居ない時の方が多かっタ。ママだって、プロリーグに行ってて居ない時の方が多かっタ。二人共、苦労してるノ!! だから……ワタシがそれに応えなきゃ……いけなかったノ……!!」
「それは違うよ、白銀さん。ご両親が頑張ってこれたのはきっと……君が居たからこそ、だよ。君の所為だなんて言い方はよくない」
「特待生になっテ……留学も勝ち取っテ……カンペキな成績で卒業しテ、カンペキなダーリンを見つけて結婚して……カンペキなワタシじゃなきゃ……パパとママを、安心させて、恩返しさせられないノ……!! なのに……ッ」
目に涙を溜め──澪音は伏せた。
「もう、わからなくなっちゃっタ……どうしたら、良いのか……」
「……澪音。君の両親は、君が完璧じゃないとダメだって言ったのかな」
「え……?」
「紫月さんと対戦したけど……僕はどうも、そういう厳しい人には見えなかった。分からないよ、そりゃあ。ちょっと会ってデュエマしただけだからさ。でも……子供に対しては、とても穏やかな人だって思った」
「……ッ」
「君が頑張ってるのは……両親の事が大好きだから。ありったけの愛情を君に注いだから」
「……だから、ワタシは……もう……」
「絶対強者で完璧でいられるのは……多分、辛い事だと思う。ってか、そんな人いないよきっと。誰しもきっと何処かで落ち込んだり、凹んだりする」
自分だってそうだ、と照陽は過去のどうしようもない自分を笑い飛ばす。
荒れに荒れた日々。デュエマすら捨てようとした過去。
だが、それでも──今、照陽は生きている。
「僕だって負けたし……天津にボルメテウスを奪われたよ。でも、まだ生きてるから……あいつにもう一度挑む」
「でも、ダーリン……ボルメテウスが居ないのに、どうやって」
「シエルが言ってます。”本当ならオレがヤツをブッ倒してやりたいが、それじゃあリベンジにならねえ”って」
照陽は──レッドゾーンのカードを澪音に見せた。
「……それは」
「こいつにも精霊が宿ってる。この世界の僕の相棒だったカードだ」
「”もし次もダメだったら骨はオレが拾ってやる”とも言ってますね」
「ダメ! 私の為にそんな大事なカードを賭けたら……ッ」
「僕は……君が襲われていなくても、いずれ天津と戦ったと思うよ。デュエマで
照陽の戦う理由は、もう決まっている。
デュエル・マスターズが好きな者として、デュエマで相手を傷つける人間を彼は放ってはおけない。
「デュエマで泣く人は……これ以上見たくない。だから──澪音には僕の……ううん、僕達のデュエマを身に来てほしい」
そう言って、照陽は立ち上がる。
「ッ……ダーリン」
「それとね、澪音。僕は──君がカンペキだからだとかそんな理由で一緒に居たんじゃない。君が居ない学園は……静かすぎてちょっとイヤだな」
「……あっ、照陽さん」
「行こう。僕は、言いたい事は全部言ったよ。後は──澪音次第だ」
「え、えーと……また、学校に来て下さいねっ、白銀さん! 私、待ってますっ!」
引き戸を開けて──リビングを出る照陽。
澪音が何かを言おうとしたが、彼は振り返らなかった。
玄関の壁に寄り掛かった紫月が──ぐす、ぐす、と嗚咽を小さく漏らしていた。
「……やっぱり、ずっと聞いていたんですね」
「……澪音は……幸せ者です。貴方達のように、大切に思ってくれる友人が居て」
「それは貴女にも言えるんじゃないですか。ちょっとブッ飛んだところはあるけど……良い娘さんですよ」
紫月が見送る中、照陽とこころは白銀家を後にした。
後は──全て、澪音に選択を任せるだけだ、と。
※※※
「澪音。学園に戻るんですね」
「にゃっ、ママ!?」
その日の夜。
鍵の開いた自室で、荷物を整理している澪音の傍に──紫月は立っていた。
「え、えーと、ママ。お騒がせしマシタ……え、えへへへ」
「……澪音。貴女がどれだけ頑張ってきたかは、私が一番知っているつもりですよ。でもね、貴女が……私達の為にって頑張る必要は無いんです」
「ッ……」
「親の責務は、子供が自分らしく生きていけるようにすること。貴女が……のびのびとやりたいことをして生きているだけで、十分に恩返しなんです」
優しい目で──紫月は澪音の肩に手を置いた。
「貴女を産んだ時から私達はその覚悟が出来ていますから」
「ママ……」
「勉強。運動。礼儀作法。人との付き合い方。貴女には沢山の事を教えてきました」
これまでの事を思い起こしながら紫月は優しく語る。
「でも、それを頑張って身に着けたのは貴女の力。私が高校生の時なんて、もっといい加減でした。部活中に居眠りして……パパに怒られてたんですから、ふふっ」
「……今サラッとノロけなかっタ?」
「ノロケテナイデスヨ」
コホン、と咳払いすると──紫月は続けた。
「後は──それを、貴女自身を苦しめる呪いにしないで。貴女自身の道を進むために──使ってください、澪音」
「……うんっ!」