デュエマプレイヤーは「カードが全ての学園島」で成り上がるそうです。 作:タク@DMP
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「グオオオオオオオオオオンッ!!」
咆哮を上げる青き竜。
両肩のビーム砲が発射されれば空は罅割れ、そこから徐々に穴が開いていく。
「……時空の歪みそのものから生じた存在。であるが故に第四の壁すらリバース・ドラゴンはすり抜け、破壊する。さあ、招来するぞ」
巨大な魔法陣、そして手に掲げられた聖書。
ローブを被った少年の身体から膨大なマナが溢れ出す。
「リバース・ドラゴンの時空間に穴を開ける力。そして、私自身のマナ。それにより──神を別次元より呼び起こす」
「……本当にこんな好い加減な設備で、ゴッドを呼び出せるのかぁー?」
「可能さ。殉教者の力を合わせれば──容易い」
その魔力を抽出する為に、十字架に賭けられているのは──《ボルメテウス・武者・ドラゴン「武偉」》。
「我が糧になるが良い、武者・ドラゴン。オマエの持つマナを搾り取り、神の降臨の呼び水にしてくれよう」
「あーあ、どうなっても知らねえぞ俺ァ……」
『ぐぅ、が、貴様……ッ』
呻くような声が響き渡る中──罅が一層広がっていく。
ボルメテウスは衰弱していき、最早カードとしての姿を保つのも精一杯だった。
(契約を解除せねば……ッ!! せめて、照陽だけでも……ッ!!)
カードが火の粉を散らして燃えていく。
ボルメテウスという存在そのものが炎へと還っていく。
(……すまない、照陽。だが、私に出来るのは、オマエを守ることだけだ──ッ)
「──そんなことは、させないよ」
一陣の風が吹き荒んだ。
十字架諸共《ボルメテウス・武者・ドラゴン「武偉」》のカードは消え失せる。
轟速の勢いで突貫してきたそれを辛うじて避けるサクガミは──好戦的な笑みを浮かべてデッキを握り締めた。
「……来やがったか……天戸照陽ッ!!」
十字架を奪ったのは真紅に染まったロボットのようなクリーチャー・レッドゾーン。
それは疾風の如き勢いで照陽の下に戻り、十字架を地面に置くなり──元のカードの姿へと戻っていくのだった。
「──ボルメテウスは……デュエルに勝って返してもらうつもりだったけど……ぐぅっ……!!」
どくん、どくん、と心臓が激しく痛む照陽。
それは──ボルメテウス自体の生命が弱っていることを意味していた。
十字架からカードを引き剥がした照陽は、今にも消えかけているボルメテウスのカードに呼びかける。
「ボルメテウス……ごめんよ!! こんなになるまで待たせて……ッ!!」
『いいさ……照陽なら、絶対に来てくれると信じていた……ッ!!』
「……感動的だねェー、冷笑したくなる」
ぱちぱち、と乾いた拍手が聞こえてくる。
サクガミの傍には彼を守るようにしてリバース・ドラゴンが翼を広げて立つ。
一方の照陽は、ボルメテウスのカードを強く握り締めた。
彼自身から発せられる火のマナが、僅かでもボルメテウスに再び生命の灯りを点ける。
「そんで? ギャラリーも居たみてえだが……どっかに行ったなァ?」
「ッ……」
照陽は辺りを見回す。
こころの姿が無い。
更に、サクガミの傍に立っていたローブ姿の少年も居なくなっている。
(もう1人居たはずだが……騒動に乗じて姿を消したか。でも、こころさんまで……!?)
澪音が叫ぶ。
「ダーリン!! ココロは怪しい奴を追いかけていっタ!!」
(そういう事か、判断が早い!)
「怪しい奴とやらも気になるけど……彼女に任せよう」
「おいおいおい、誰かと思ったが──何か? 元・六禍仙殿も一緒か。泣いてママの下に帰ったのかと思ったぜ」
「僕が呼んだんだ。それに今、白銀さんは戦えない──僕が代打だ」
「ハッ。そんな奴を何故連れて来た?」
「見届けてもらうためさ。君とのデュエルを」
空が割れて硝子のように零れ落ちていく。
そんな中、澪音は──祈るように両の手を合わせた。
サクガミと改めて向き合う照陽。
デッキを掲げ、いつでも決闘の準備は出来ていると言わんばかりにデッキを構えるサクガミ。
二人の視線が交錯する。
「……今更何の用だ? 大人しく引っ込んでれば痛い目に遭う事も無い。ボルメテウスを持って、さっさと帰んな」
「君は止めなきゃいけない。君は──自分の為に他の誰かを躊躇なく真のデュエルで蹂躙するだろう」
「仕方ないだろう。そうじゃねえと俺の身体は維持できねえ。精霊を取り込むのが一番手っ取り早い」
「その方法だけじゃないはずだ! 僕のボルメテウスのように、クリーチャー側が燃費を抑えることが出来れば……!!」
「……しゃーねえだろ。俺ですらコイツの……リバース・ドラゴンの考えてることが分からねえんだからよ」
ぞくり、と照陽は肌を粟立たせる。
そう言えば──と思い返した。
サクガミの背後で顕現する竜・リバース・ドラゴンからは、一度も自我のようなもの意識のようなものも感じられていないのである。
「オマエの所は運が良かっただけだ……クリーチャーも、ドラゴンも、俺達人間とは別次元の存在。意思の疎通が出来てる事自体が奇跡みてーなもんなんだよ。半年前、死にかけだった俺は何故かリバースに生かされた。コイツと一心同体になったんだ」
「……僕達と、同じ」
「いいや? 真逆だね!! 肉体の主導権を握ってるのはリバース・ドラゴンの方だ。もしリバース・ドラゴンが一方的に契約を打ち切れば、俺だけが死ぬ」
『確かにそのようだ……ッ!! しかし、あの同族はどうしてそのような契約を……!!』
「どっちにしても、だ天戸照陽。恵まれていたオマエには俺の事をとやかく言う資格は無い。才能に恵まれ、親に恵まれ……オマケに特待生待遇で金にも環境にも恵まれてるオマエと──全てを努力で掴むしかなかった俺。そして、努力にすら見放されて死んでいった兄貴」
サクガミは──手を大きく広げ嘲笑する。
不公平で不均衡な世界そのものを。
「おかしいとは思わねえかあ!? オマエも!! 白銀も!! 成功してる奴は須らくたまたま周囲に恵まれてやがる!! 兄貴は──あれだけ血の滲む努力をしたところで何にもなれずに死んでいったってのによォ!!」
「……やっぱり。君の動機の全ては、お兄さんか」
「世界は欺瞞に満ちてやがる。真面目に生きてるヤツ程バカを見る。だから、そんな世界を冷笑してやるのさ」
見ろよ、とサクガミは上空を指差した。
「……もうすぐ空の裂け目が開く。そこからドデかいのが降りてくるらしい。どっちみち終わるぜ、この島は。だが、ちったぁ面白い世界が訪れるんじゃねえか?」
「……終わらせない」
単純明快な話だ、と照陽はデッキを握り締めた。
サクガミを倒す。そして裂け目から現れたクリーチャーも倒す。
たったそれだけの話なのだから。
「デュエマは楽しむものさ。それが競技であっても、草の根の遊びであっても、変わらない。デュエマを──暴力として振るう人間を、僕は放っておけない」
「うおっ、他人は良くて自分は良いってのかよ、天戸照陽!! オマエも結局、真のデュエルじゃなきゃ俺を止められねえ癖にな!! それこそが偽善で、欺瞞だ!!」
「そうだね。それでも──君の所為で泣く人が居なくなるなら、僕は偽善者でも悪者でも構わない。デュエマで人を傷つけるのは──僕達だけで十分だ」
それに、と照陽は続ける。
「どんなに詭弁で取り繕ったところで……君が白銀さんを傷つけた事実はどうやったって変わらないよ。僕が勝ったら白銀さんに謝罪してもらおうか」
「謝罪だァ!? 何処まで頭ン中お花畑なんだオメーは!! 道徳の授業じゃあないんだよ!!」
空間が開く。
その最中──澪音が叫んだ。
「ダーリンッ!! 聞いてッ!!」
「ッ……澪音」
「ダーリンは怒っても全然怖くないんだかラッ!!」
「えっ……それ、今言う!?」
誰の為に怒ってたと思ってるんだ、と取り乱す照陽。
しかし──澪音は思いっきり口角を吊り上げて笑ってみせた。
「ダーリンが一番怖いのは……
「……っ! ……そうだね、流石白銀さんだ」
読心術に長けているだけの事はある。
白銀澪音は──誰よりも、他者の事をよく見ている。
怒りに飲まれるな。冷静に。そして──この命懸けのデュエルすらも楽しめ。
『照陽……行くぞ。今度こそ、天津を……そして、リバース・ドラゴンを討つ』
「そう気張るなよ、ボルメテウス。ゲームを──始めよう」
『照陽──!?』
いつになく穏やかで、そして静かな照陽。
激しさと苛烈さを良しとする火文明のクリーチャーとしては、それを良しとはしない。
だが──照陽の事をずっと見てきた相棒としては、肯定できる。
『そうか……そうだった。その姿こそ、一番オマエらしい姿だ、照陽』
「楽しむだァ? 一度負けた俺に、ましてや六禍仙であるこの俺に!! とんだ余裕をブッこいてるじゃねえかァ!!」
「まあまあ、細かい事は良いじゃない。相手が誰でもゲームの上では公平で平等だ」
それが──それこそが、天戸照陽の座右の銘。
たとえそれが命懸けのデュエルだったとしても、それは変わらない。
「──対戦、よろしくお願いします」
「何が対戦だ──オマエは今日此処で死ぬんだよ、天戸照陽ッ!!」
【天戸照陽】VS【六禍仙”水”─清濁奔流・天津サクガミ】