デュエマプレイヤーは「カードが全ての学園島」で成り上がるそうです。 作:タク@DMP
※※※
「お腹がすきましたぁ~……シエルぅ~やっぱり一つだけカレーパン食べたらダメですかぁ~?」
『しっかりしやがれ。カレーパン食った奴らは皆おかしくなってるだろが』
──同時刻。
五色島第六番街。
そこをフラフラと私服で歩くのは空木こころだった。
早々に島に起きた異変に気付いたシエルの提言で、朝から学校をサボらされて調査をしていたのである。
一歩間違えれば補導モノの行動であったが、島の異変はそれどころではなかった。
本来ならば学校で授業を受けているはずの学生たちが多数、島中で突如開店したパン屋でカレーパンを買いあさっているのである。
いや、学生だけではない。その中には教師らしき大人も正気を失った目でカレーパンを買ってそこら辺で餓鬼のように食い散らかしているのだ。
「カレーパン……カレーパン……うめ……うめ……」
「から……うま……」
その有様はまさに麻薬中毒者の如し、であった。
まるで水を求めるゾンビのように徘徊するカレーパン亡者共は道行く場所でカレーパンを食い漁る。
そればかりか──
「よーこーせーよー!! よーこーせーよー!! カレーパン、ヨーコーセーヨー!!」
「ハッハー!! 進めば二つ逃げれば一つ奪えば全部ゥ!!」
「略奪の時間だーッッッ!!」
「ぎゃああああああ!! 乱闘よーッ!!」
──カレーパンを奪い合い、デュエルどころかリアルファイトに発展している場面すら見られる。
「島中の食べ物がカレーパンになっちゃってるから、カレーパンしか食べるものが無いのにい。そのカレーパンすら食べちゃダメなんてぇ」
『食ったらああなるんだぞオメーも』
「私のグルメ細胞の悪魔が覚醒してしまうんだけど!!」
『安心しろ、悪魔は俺だ』
そんな中、未だに飯一つにありつけていない哀れな少女が一人。
空木こころである。体内に悪魔・シエルを飼っている所為で人一倍カロリー消費の激しい彼女にとって、他の誰かが美味しそうにカレーパンを食べている中で自分だけ我慢を強いられている状況は生殺しの地獄も同然だった。
「……ううう、こんがりの衣、香ばしいカレー、胃がグルグル鳴ってますぅ……ううう」
『おい、こころ、アレを見ろ!!』
「はい……?」
ふと、シエルの言葉に従って路肩を見遣るこころ。
そこにはドン引きするほどの長蛇の列。そして、その先には趣味の悪い黄金色に塗装されたカレーパン屋の姿があった。
特筆するべきは、そのカレーパン屋の屋根には見覚えしかない人物の顔が描かれた旗が立てられていたのである。
「あ、アレって……円架さん!?」
『照陽の妹め……カレーパン屋にクソみてぇな旗を立てやがって……』
「確かにクソみたいな旗ですけども、いや、でも、そんなまさか……ええ……?」
まるで証明写真のような円架の顔が貼りつけられたセンスあふれる旗である。
こんなものを往来に昼間から展示できる神経を疑うこころだったが、喜劇はこれだけでは終わらない。
思わず二人は店の裏側に回る。
すると──不用心にも店の窓から店主の姿が見えた。
安楽椅子に座って札束を数えているのは──我らが天戸円架の姿であった。
「にゃはははははーっ!! ひーふーみーよー、大大大儲け!! 潰れかけのパン屋を爆速で買収した甲斐があるってもの!! あたしがやってるのはカードゲームじゃなくてマネーゲームなんだよねえ!!」
「……う、うわぁ、お手本のような成金仕草……」
『しょ、照陽が見たら卒倒するな……教育の失敗だぜ……』
ビジネスが大成功し、踏ん反りがえっている円架を見て言葉も出ないこころとシエル。
この天戸円架と言う少女は生まれつきの黄金律を持っており、金が悉く彼女を中心にして回るという性質を持つ。
そのため、ひとたび商売やビジネスを始めれば彼女は成功してしまう天性の才能を有している。
金に関することはヌルッと上手くいってしまうのだ。
「このままカレーパンを使った情報商材でも始めてみよっかなあ。いやでも、前にお兄ちゃんに激しく怒られたし……やめといた方が良いかな?」
「やったことあるんだ……」
『捕まってないだけの詐欺師の所業だからな……怒られて然るべきだろ』
「どっちにしても、乗っかるしかないよねえ! カレーパンバブル! 時代はカレーパンだ! にゃははははーっ!! 儲けたお金でお兄ちゃんと高級カレーパンでも食べに行こうかな、にゃはははは!」
見なかったことにしてシエルとこころはその場を去った。
ある意味平常運転だが、いっぺん痛い目を見てほしいと激しく思ってしまった二人であった。
元々本性がこうだったのか、カレーパンの魔力が円架を暴走させているかは定かではない。
だが、それはそれとして本当に痛い目に遭ってほしいと願うのだった。
救いがあるとするならば、その行動原理が兄の為という点である。
「せ、せめて飲み物を買いましょう……変なものを見た所為で喉が渇きました」
『ダメだ。自販機の飲み物も全部、カレーになってやがる』
「カレーが缶とペットボトルで売られる時代!?」
終わっている。
ついでに自販機の色もカレー色に塗装されている。
この恐怖の光景を前に、一周回って食欲が減退──することもなく、こころの胃はグルグルと鳴り続けるばかりであった。
「グ、グギグギグ……もうダメ、お腹壊れる……」
『クソッ、そろそろ限界か! このままじゃあ俺達共倒れだぜ……!』
ばたーん、と地面に倒れ込んだこころ。このままではアスファルトの砂利を頬張りかねないところである。
そこに──救いの手が現れる。
「ねえねえ、大丈夫?」
「……あえ?」
思わずこころが見上げた先には──
「もしかして、カレーパンが苦手なの? ウチに来る?」
「……それは」
「あんパン! 甘くておいしいよ?」
華やかな和装に身を包んだ少女の姿があった。
彼女の手にはあんパンが握られていたのである。
※※※
「はぐっ、はぐっ、もぐっ……しゃーわせー……」
しみいるような顔であんパンを頬張るこころ。
お腹が優しい甘味で満たされていく幸福に、彼女は涙すら流している。
此処は町の一角の休憩スペース。海が一望できるテラス席だ。
周りに店が無いからか、カレーパンを求める亡者共の姿も見当たらない。
「貴女、本当に幸せそうに食べるんだね!」
「食べる時間は誰にも邪魔されず、自由で……なんか、救われてなきゃいけないんですよお……」
「フフッ、良かったぁ。風香ね、お腹が空いてる人が居ると放っておけないんだあ」
「ヒーローっていたんですねえ……何処を見渡してもカレーパン亡者ばっかりで……」
「カレーパンが嫌なの? そんなにお腹を空かせていたのに?」
「というか、皆おかしくなっちゃってるんです。挙句の果てには奪い合いまで。カレーパンは美味しいと思いますけど……こんなのヘンです」
サクリ、と音が鳴った。
風香と名乗った少女がフォークで目の前のあんパンを突き刺したのである。
「奪い合うと足りないけど、分け合うと余る。何事もそうだと風香は思うなあ」
「そうなんでしょうか?」
「そうだよ。皆が同じ事を考えて同じように分け合えば争いなんて無くなると思うよ」
あんパンを一口で食べた風香は──何処か面白そうにこころの顔を見遣る。
「貴女はどう思う?」
「えっ?」
「貴女、とっても大食いでしょ? もうあんパン5つも食べてるし」
「あ、そ、それは……えへへへ」
「もし、この世界の食べ物が全部自分の物だったら、って思ったりしないの?」
「……それは──思いません」
6つ目のあんパンをかじった後、こころは首を傾げた。
「……確かに私は、人一倍食べますけど……他の誰かがお腹を空かせているのを見るのは嫌です」
「どうして? もし、食べ物が足りなくなったら、そんな事言ってられないかもしれないんだよ?」
「お腹が空いて苦しいのが……自分で嫌と言うほど分かってるからだと思います」
「……そ。世界が貴女みたいな人ばっかりだったら良いのにね」
風香は立ち上がり──踵を返した。
その顔には、何処か諦めのようなものが滲んでいた。
「……じゃあね、悪魔さん! 次は……何処で会うかな?」
「えっ」
ぱちり、と瞬きする間に風香の姿は消えていた。
シエルが警戒した様子で喋りかけてくる。
『あいつ……俺の事が見えていたのか?』
「ッ……何だったんだろう。それに、あの子だけ……カレーパンの影響を受けていませんでした」
『……ところで事態はもっと深刻になってるぜ』
ざっ、ざっ、と足音が聞こえてくる。
こころは蒼褪めた。
一歩、また一歩とおぼつかない足取りであったが──次々に学生たちが虚ろな目で此方へにじり寄ってくるのだ。
そして、その頭には──ハムスターのような紋章が浮かんでいる。
更に、彼らの背後からはクリーチャーの気配を宿した靄が立ち上がっているのだ。
「ッ……ひ!!」
『こころ気を付けろ。コイツ等みんな、憑かれたみたいだぜ──クリーチャーに』
「うわーん! 折角お腹いっぱいになったのに、デュエルだなんてーッ!!」
『心配すんな、俺に代われ!』
こころの意識がフッと消え失せる。
そして、次に目を開けた時──そこに立っていたのは悪魔の仔だった。
「──面白ェ。死にてえヤツから掛かって来なぁ!!」
『シエルーッ! 殺したらダメですからねーッ!』
「わーってるよ、言葉の綾だ。……ヴリドガルドォ!! まとめて片すぞ!!」
シエルの叫びと共に幾つもの触手を携えた巨大な蛇神が顕現する。
この異様な状況の中、シエルは冴えわたるくらいに冷静だった。
「あのカレーパン、食わなくて正解だったな。さっきの風香という小娘の言う通り──こいつら皆、”同じ”になりやがった」
『”同じ”って……』
「見事に洗脳されてやがる。オマケに強烈なマナまで宿してる。それが島中の精霊を呼び寄せてるんだ」
「カレーパン……カレーパン……!!」
「……成程、皆”同じ”になれば争いは起きない、か。俺みてーなはみだしものを排除すれば良いんだからな」
シエルはデッキを構える。
「──ハッ、バカらしい。大人しくやられるかよ!! 俺は悪魔の仔、シエルだッ!!」