デュエマプレイヤーは「カードが全ての学園島」で成り上がるそうです。 作:タク@DMP
※※※
──同時刻。
大運河高校、校庭は──異様な光景であふれていた。
頭にはハムスターの紋様が浮かんだ生徒達が虚ろな顔で次々に外へと雪崩れていっている。
それを屋上から見下ろすのは、元・六禍仙”水”の天津サクガミ。
彼の周囲には、憑いた精霊を粉砕された生徒達が物言わずに倒れていた。
「ハハハハハハハ!! カレーパンを食べた生徒が次々におかしくなっているとは──食べずに正解だったでネッケツ!!」
澄み切った目で彼は叫ぶ。
照陽との戦いを経て、彼の魂は逆転し──今ではすっかりやかましく鬱陶しい熱血野郎になっていた。
そのサクガミの手には相棒たる逆転した切札・ボルメテウスが握られている。
この学園の生徒程度、今のサクガミではさしたる相手ではなかった。
問題は、この事態を裏で手引きしている黒幕が居る訳で。
「むッ!! そこにいるのは誰だネッケツ!! この学園で狼藉は、天が許しても、この俺が許さないのでネッケツ!!」
指を差した先には──空に浮かぶ女。
彼女は物も言わずに屋上に舞い降りる。
カンフー服を着た辮髪の少女だ。その口は布のようなもので縛られており、目はギョロりと爬虫類のようにギラついていた。
「……天津サクガミ。ボルメテウス・リバース・ドラゴン、貰い受けるね」
「うん? 何だ貴様はッ!! 正々堂々として気持ちが良いでネッケツ!!」
「……私、火車の哪吒。貴様、始末するね」
カタコト気味に喋りながら彼女はデッキを取り出す。爆炎と共に、背後から巨大な龍が舞う。
それを見て──高らかに、そして溌剌と笑いながら天津も受け答えた。
「良いだろうッ!! ならば此方も正々堂々、熱血でネッケツ!!」
「……なんか、聞いてたキャラ、違う……ッ!? ……まあ、いい。お前、私に勝てないね」
屋上は一瞬で火の海と化し、互いを守るようにシールドが展開された。
「だが、ボルメテウス・リバース・ドラゴンを渡すつもりは無いッ!! 何故ならこいつは俺の半身だからでネッケツ!! ネーケツケツケツ!!」
「……調子、狂うね」
【六禍仙”水”清濁奔流─天津サクガミ】VS【火車のナタク】
灼熱が舞い散る中、哪吒はサクガミを見遣る。
事前に聞いていた彼の情報とはあまりにも差異が多すぎる。
ボルメテウス・リバース・ドラゴンを連れている以上、彼が天津サクガミであることは疑いようもない。
しかし、彼は世界を侮蔑する冷笑野郎である──と哪吒は金剛から聞いていたのだ。
(間違っても熱血だの正々堂々だのと口にする男ではなかった、とも聞いている。が、何ら問題無い。どうせ下手な演技に決まってる)
哪吒の目が赤く光った。
「私の目──相手の魂のカタチ、分かるね。相手の魂のカタチを見れば──今何を考えているのか、オマエがどんな奴なのか一発で分かる」
「ほう!! ならば見てみるが良い!! 俺の魂を!!」
「……魂を見透かされて動揺しないヤツは居ないね」
天津の心臓部分が見透かされる。
そこに浮かび上がるのは彼の魂のカタチ。
それは確かにハート形をしていたのであるが──哪吒は驚愕する。
(な、なんだこの男の魂のカタチは!? 薄っぺらい!! まるでコピー用紙のように薄っぺらすぎるね!!)
あまりにも見た事の無い薄っぺらさに哪吒は恐怖を覚えたのだった。
(魂のカタチはその人間の性質を表す!! こいつは何!? 紙!! ええ!?)
更に、その薄っぺらいハートに落書きのような文字で「熱血」の二文字が書かれているのである。
あまりにもあんまりな魂のカタチを前にして、哪吒はすぐさま透視をやめた。
「な、なにアルかオマエ!! 熱血熱血って言っておきながら、とんでもないね!! 薄っぺらい!! 薄っぺらすぎるね!! 魂のカタチ変ね!!」
「薄っぺらい!? 何を言っている!! 俺は熱血ガチ勢だネッケツ!!」
「いや違うね。オマエ絶対熱血ガチ勢じゃないね。取ってつけた語尾も薄っぺらいね。えっ、こわっ、本当に薄すぎる、魂のカタチから何までペラッペラの薄っぺらで浅すぎね!! こんなヤツ見たこと無いね!!」
恐怖した哪吒はすぐさまクリーチャーを繰り出した。
既に3マナ。熱風と共に吹き荒れるは、ハムスターのようなクリーチャー。
「──《風波の1号 ハムカツマン》召喚ね!! 攻撃時に革命チェンジ!!」
「ほう!! こちらにクリーチャーは居ない!! 熱血らしく受け止めようではないかネッケツ!!」
「ええもううるさい黙るよろし、《漢の2号 ボスカツ
手札にあるクリーチャーと入れ替わり、より強力な姿になる革命チェンジ。
現れたのは剛腕を持つハムスターのドラゴン。その拳が天津のシールドを爆砕した。
「うおおお、でネッケツ!?」
・天津 残りシールド:3枚
「その取ってつけたようねネッケツやめるね!! ……本当の熱血がどういうものか、たぁっぷり教えてあげるね」
シールドを砕かれ、破片が脳天に刺さっている天津。
しかし彼は笑顔を絶やす事をしない。
「……ほう! なかなかイキが良いでネッケツ! では俺は──《ボイル・チャージャー》を使い、ターンをエンドしようでネッケツ! 俺の血も熱湯のように湧き上がっているのでネッケツ!!」
・天津 マナ3→4
あまりにも静かな動き。
これが元・六禍仙か──と哪吒は失望した。
天戸照陽に敗北したという情報こそ知っていた彼女は──漸く察する。
もう、天津サクガミという男の精神は死んでしまったのだ、と。
「……ふ。ふふ。悲しい生き物ね、天津サクガミ。お前はもう、デュエリストとしても人としても死んでしまったね。それがあの魂のカタチの現れよろし」
「ネッケツ?」
「……魂が死んだ人間は、二度と起き上がれないね。だけど、私違うよ。私は死んでも死にきれなかった──」
哪吒の目から爆炎が迸る。
布をぎちぎちに巻かれた口からは血が溢れ出た。
「……私、魂見る力で色んな人に迫害されたね。鍛えた武術も評価されなかった。でも、魂だけは死ななかったね。こんな世界……絶対、燃やし尽くしてやろうって──」
それは憎悪。
世界への憎悪だ。
燃え滾る炎は未だ燻る事を知らない。
「《ボスカツ》の効果でコストを2軽減──」
・《漢の2号 ボスカツ逆》
クリーチャーの召喚コストを2下げる。
「3マナで《
爆炎が踊る。
現れたのは巨大なヌンチャクを振り回すずんぐりとしたドラゴン。
その腹にはハムスターの紋様が浮かび上がっており、額にはVの炎が燃え盛っている。
「そして《カツドン》で攻撃する時、革命チェンジ発動よ!!
──《
飛び掛かる《カツドン》。
それが哪吒の手札の爆炎と入れ替わり、そして──無法の神となって顕現した。
巨大な剣、そして頭から生えた翼。胸にはハムスターの紋様、そして∞の文字が刻まれる。
「お前のうすら寒くて浅い熱血なんて燃やし尽くしてやるね。私の絶望、私の憎悪、炎と共に受けるが良い!!」
剣が大上段に振り下ろされた。
天津のシールドが真っ二つに切り裂かれ、更にその衝撃で彼は吹き飛ばされる。
「どわーッ!?」
ゴチーン!!
天津の身体は屋上の建物にぶつかり、そして後頭部を激しく打ち付けた。
ずる、ずると彼の身体はずり落ち、真っ赤な鮮血が壁に残る。
そして──がくり、と天津の首は垂れ下がってしまうのだった。
「ふっ、頭を打ってしまったか。これではもうデュエルどころではないね」
勝利を確信したのか哪吒は《ボスカツ》に命じる。
天津を殺せ、と。
「……私は私の手で燃え盛る世界を作り上げる。私の力が正当に評価される世界を。オマエのような薄っぺら野郎は、此処で紙切れのように破れて死ぬね」
──おっ……おっ……おっ……
──《ボスカツ》が足を止めた。
何か、低い重低音のようなものが辺りに響き渡る。
「ッ……な、なんだ? この不愉快さと薄っぺらさを併せ持ったような音は──」
思わず哪吒は耳を塞いだ。
しかし、それでも音は聞こえてくる。
そして彼女は気付いた。
これが物理的な音ではなく、魂の奏でる音色であることを。
──うおっw……うおっw……うおっw……うおっw……
「──いや、これはまさかッ!!
ぞわり、と肌が粟立ち、哪吒は引き下がった。
《ボスカツ》が倒れた天津目掛けて殴りかかろうとするが──すぐさまその場に水が満ち満ちた。
《カツムゲン》も《ボスカツ》も一瞬にして激流の中へ飲まれて消えたのである。
唱えられた呪文は──《「この先は修羅の道ぞ」》。
「クカカカカ……思い出したぜェ……!! 俺様が何者だったかをなァ……!!」
そしてそれを唱えたのは──熱血も、憎悪の炎も嘲る冷笑者。
「冷笑ってのは、誰よりも独りよがりで……浅くて……薄っぺらくて……それでいて、上から目線じゃなきゃあいけないんだ」
更にもう1枚。砕かれたシールドから収束した光を手に取り──天津は立ち上がった。
その口はシニカルに歪み、目の前の復讐者すらも冷笑する。
「今から冷笑してやるよ。テメェの攻撃が如何に無意味だったかをなァ!! クカカカカーッ!!」
薄っぺらい紙のようなハートが裏返る。
そこに刻まれたのは──「冷笑」の二文字。
「この男、まさか──魂が冷笑の形をしているのかーッッッ!?」
──冷笑者、天津サクガミ復活の瞬間であった。