デュエマプレイヤーは「カードが全ての学園島」で成り上がるそうです。 作:タク@DMP
天津サクガミ。
プロデュエリストだった兄を事故で喪い、努力が報われない世界を冷笑するようになった男。
しかし、それはそれとして彼は根っからの冷笑者であった。
努力する者を冷笑した。欺瞞ばかりの社会を冷笑した。そして何より、自分自身をも冷笑した。
その全ては逆恨みですらない八つ当たり。天津サクガミの魂のカタチの薄っぺらさは──何一つ偽りの無い彼の本質である。
悲しいが、そうなのである。
「S・トリガー発動、《忍蛇の聖沌 c0br4》ァ!! 効果でェ、俺は山札の上から2枚を墓地に落とし、コスト5以下のクリーチャーを蘇生するッ!!」
「ま、待て、オマエの墓地にはロクなカード無いね!!」
「だから今から落とすんだろうが、日本語が分からないんですかァー? べろべろべろべろ」
「何だコイツ、復活して生き生きとしてるね!! さっさと殺せば良かった!!」
「もう遅いでぇぇぇーす!! そんじゃあ行くかァ!! 冷笑の向こう側ァ!! テメェの緻密に練ったデッキが、ただの上からドローで崩壊する瞬間をなァ!!」
山札の1枚目──呪文の《S・S・S》。
そして、2枚目を墓地に落とそうと天津はデッキに指を重ね、嘲笑を浮かべた。
「このドローは激しく薄っぺらいぜェ──だがッ!! 俺は引くッ!!」
「え? なんか始まった……?」
「たとえ世間から──冷笑が冷笑されようともなァァァーッ!! 見せてやる、俺の冷笑魂ィィィーッ!!」
天津のカードを引く手に力が入る。復活記念、恐怖の冷笑ドローバンクである。
灼熱に塗れていた周囲の空間は一瞬で氷河へと塗り替わる。
そして、天津の背後には──天をも貫く我竜塔が聳え立つのだった。
「うーおうおうおうおうおうおうおうおうおうおっ冷笑ウオォォ、ドロウォォォォォォオオオオ!!」
カードが墓地へと落とされる。
同時に氷河が砕け散った。
冷たく睨む双眸。そして青き鎧に身を包んだ竜が覚醒する。
全ては逆天に落ちた。
「うおっ、来ちまったぜェェェーッ!! 俺の切札ァァァーッ!! どわーッ!!」
墓地に落ちたのは──天津の最大の切札。
それが地獄より這いずり出る。
歪み、曲がり、裏返った逆夢。
「……清濁奔流、押し流すッ!!
捻じ曲がれ、《切札竜ボルメテウス・リバース・ドラゴン》ンンンッ!!」
──切札竜が、再び天津の冷笑に呼応した瞬間であった。
「ついでに喜びの舞も踊っておくかぁ!? うおうおwうおうおwうおうおダンスwうおうおwうおうおwうおうおダンスw」
尻を振りながら明らかに相手をコケにしたような舞を踊る天津。
一度のみならず二度照陽に敗北した天津は、もう無敵であった。
完全なる無敵の人になってしまったのである。
「こ、こいつ……!! 黙っておけば……!!」
「うおっ、顔真っ赤!! 効いてる効いてるッ。あ、そうそう、《リバース》の効果で相手のクリーチャーを全部止めるぜ? ん……?」
無論、止めるクリーチャーなど居ない。さっき天津が《「その先は修羅の道ぞ」》で全てバウンスしてしまったのだから。
「攻撃してるのにクリーチャー居ねえじゃァァァん!! 何処行ったのーッッッ!? どわーッ!!」
「ええい黙れーッ!! 《カツムゲン》はバトルに勝ったらアンタップするスピードアタッカー、次のターンに出し直して終わりね!!」
加えて、バトル時はパワーが∞となる。次のターンに《カツムゲン》が着地すれば、天津がどれだけブロッカーを並べてもそのまま貫通されてしまうのだ。
しかし──
「──え? 何言ってんすか? オマエのターン、もう来ないけど?」
「……は?」
──六禍仙のデュエルは理不尽に始まり、そして理不尽に終わる。
それをこれから、天津は実行する。
「5マナで呪文、《希望と勝利の伝説》ッ!!
──効果で手札から《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》を1体、冷笑する」
「冷笑する!?」
「──さあ行こうじゃねえか、薄っぺらい冷笑の向こう側へ!!
《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン・ネクサス》冷召喚!!」
爆炎が燃え盛る。
希望と勝利の伝説は逆転し──絶望と敗北の現実へと落ちる。
青き装甲を身に纏い、四色を宿した龍が火を噴き──降臨した。
「──そ、そいつはぁ──!?」
「《ネクサス》の効果発動ッ!! 山札の上から4枚を墓地に置き、それが全て異なる名前のカードならば!! その中からコスト7以下のカードを実行しちまうぜェ!!」
「そ、そんなギャンブル、当たるはずが」
「うおっ、当然このデッキのカードは全て異なるカードで構築されたハイランダーボルコン!! 絶対に当たるんだよ!!」
「なぁっ……!? 絶対……!? そんなイカれたデッキ、握ってたのね!?」
「さて、テメェの希望的観測を冷笑したところで、山札の上から4枚をオープン!!」
墓地に叩き落とされていくカードたち。その中から1枚を天津は掬い上げた。
「唱えるのは呪文、《ブレイン・スラッシュ》!! 場に水と闇のクリーチャーが居るので効果を二つ起動する!!」
死神の鎌が天津の山札を更に切り裂く。その中から1枚を墓地へと落とし──そして、魔法陣が展開される。
1つ目の効果は、3枚ドローして1枚を墓地へ捨てるというもの。
そして2つ目の効果は──墓地からコスト8以下のクリーチャーを蘇生するというもの。
当然、たった今墓地に落としたばかりのクリーチャーも蘇生することができるわけで──
「どわーッ!! またまた上から引いちまったぜ──《CRYMAX-ジャオウガ》!!」
──地獄の鬼が、終結を告げる。
魔槍と化したその脚が、哪吒のシールドを焼き尽くした。
「その効果により、互いのシールドが3枚になるまで、シールドを墓地に置くッ!! S・トリガーも発動しねえッ!!」
哪吒
・残りシールド:5→3
そして、それに反応して《ボルメテウス・リバース・ドラゴン》の武装が全解除されていく。
「グルルオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアーッッッ!!」
・《ボルメテウス・リバース・ドラゴン》
Zラッシュ:シールドゾーンからカードが離れた事でハイパーモード解放
「ヒィッ……!! こ、これが、ボルメテウスの真の姿ぁ……!?」
哪吒は後ずさった。
ねじ曲がった夢の具現化・エクスドリーマー。
その圧倒的な威圧感は彼女の戦意を削ぐには十二分であった。
「シールドが燃えた事で、《ボルメテウス・リバース・ドラゴン》のZラッシュが冷笑!! T・ブレイカーになり、相手のシールドを冷笑却するッ!!」
「何でも冷笑に絡めないと気が済まないのか!?」
(い、いや、そんな事を言っている場合ではない!! これは、まずい、私のシールドは3枚しかないのに、今《ボルメテウス・リバース・ドラゴン》に攻撃されたら──)
・《ボルメテウス・リバース・ドラゴン》
ハイパーモード解放:T・ブレイカー、相手のシールドをブレイクする代わりに山札の下に送る。S・トリガーは発動しない。
「──押し流せ、《リバース・ドラゴン》!! シールドをT・ブレイクだァーッ!! クカカカカーッ!!」
一瞬で激流と共に消滅する哪吒のシールド。
逆転の余地など残りはしない。後は地獄の鬼が哀れな亡者を連れて行くだけだ。
「S・トリガーは発動しねえ。全部テメェの山札の下だからなーッ!! クカカカカーッ!!」
「あ、あああ……!!」
つかつかと歩み寄る《CRYMAX-ジャオウガ》を前に、哪吒は叫んだ。
「ふ、ふざけるなーッ!! S・トリガーを都合よく踏んで、上から全部引いてきただけじゃないか!! お、オマエのようなヤツに、オマエのようなヤツに、私の悲願をッ!! 踏み潰されて堪るかーッ!!」
「上から全部引いてきたぁ? そうだぜ? 俺のご都合トリガーとご都合ドローは許される。だが、テメェのご都合トリガーとご都合ドローは許されねえんだよ」
まさに暴君の理論であった。
自分は良くて他人はダメ、の究極のダブスタであった。
「ところでさっきオマエ──辛そうで大変な自分の過去を語っていたが……まー、陳腐でよくある話だぜ!!」
「なにぃ!?」
「俺の兄貴も似たようなモンだし。……この世界はハナっからクソったれてるんだよ。まだ分かんなかったのか? 努力が評価されるってナイーブな考えを先ず捨てるべきだったなクカカカカーッ!!」
「ぐ、ぐににににに!! オマエに私の何が分かるね!? 私の闇が!! 武闘の他に何も無かった私の気持ちが!? 空虚さが!! その望みを生まれ持った力の所為で断たれたのだ!! 私は持っている空虚さを武闘にぶつけるしかなかったのに!!」
「分かんねーよ。アホか? テメェの事なんざ、俺の知った事かーッ!!」
れろれろれろ、と舌を出しながら天津は突きつける。
「……闇も空虚も、人間皆持ってんだよ。そしてそれは誰にも理解されることはねえ!! 人が他者を理解できるなんて、ウソっぱちだぜーッ!! だったら自分の好き勝手なようにやるのが一番じゃあねーかァ!?」
「ッ……オ、オマエは何なんだよーッ!! 何様だーッ!!」
「悲劇の主役を気取りたいなら、一生地獄で踊ってなァ!! 俺様は一抜けさせてもらうぜ、クカカカカカカカーッ!!」
がくり、と崩れ落ちる哪吒。
その目からは血混じりの涙が流れていた。
しかし──それすらも天津は冷笑する。
彼女は復讐者。自らが悲劇に囚われる事を望んだ。
故に、そこから一生出られなくなった。ただそれだけなのだ。
「……なあ、哪吒よ。話してみろよテメェの過去を」
「ッ……!? 話したところで、オマエに何が分かるね……!! さっさとトドメを刺すよろし……!!」
「哪吒。俺だって鬼じゃねえ。のっぴきならない理由があるんだろ? 分かりあえなくても──痛みを分かち合う事は出来るかもしれねえぜ?」
哪吒は顔を上げる。
天津は少しだけ優しく微笑んでいた。
「俺も兄貴を事故で喪った。クソッタレデュエリストの白銀紫月ってヤツの所為でな」
※逆恨みですらない八つ当たりです。
「……世の中には人を傷つけてのうのうと生きてるクソみてーなヤツが幾らでも居る。俺の兄貴もその犠牲者だ」
※違います。
「……話してみろよ、哪吒。握りこぶしじゃあ……人は分かりあえないぜ?」
「ッ……天津、サクガミ……!!」
涙でぐしゃぐさになった顔で彼女は己の過去を話し始める。
「わ、私は貧しい農村の生まれで──」
──ごしゃっ
……尚、その続きが紡がれることはなかった。
「──どわーッ!! 何で自分を殺しに来た相手に情けをかけなきゃいけねえんだよ、クカカカカーッ!!」
──哪吒が何か言いかける前に《ジャオウガ》の足が、彼女を羽虫のように叩き潰したのである。
これぞまさに冷笑の極み。情けも容赦も欠片も無し。
そして、空間は崩落する。
後に残るのは、這いつくばる哪吒。そして、ボルメテウス・リバース・ドラゴンを従えて堂々と勝ち誇るクソ野郎──天津の姿だった。
「ところでよォ、オマエ。誰の差し金だ? どうせまたロクでもないクリーチャーの──」
胸倉を掴んで哪吒を引っ張り上げる天津。
しかし──さらさらと砂のようなものが天津の腕に降りかかった。
哪吒の頭は、既に真っ白の灰のように風化していたのである。
「おいおい、手加減はしたはずだぜ? ……こんなのは初めてだ」
天津は流石に眉を顰める。そして、哪吒の口ぶりを思い返す。
「……こいつまさか……
ちらり、と天津は屋上に散らばった哪吒のデッキのカードを見遣った。
《カツムゲン》のカードを除き、その全てが灰化している。
そして、《カツムゲン》もまた、二度と実体化する気配は無かった。
「……死んだ人間とクリーチャーを何らかの力で蘇らせたのか。精霊の強さじゃあなかった。間違いなく、ボルメテウスと同じ生きたクリーチャー……」
天津は視線を空に向ける。
五色島に浮かぶ、巨大な浮遊島。異常の根源は確実にそこに潜んでいる。
《カツムゲン》のカードを拾って仕舞った彼は、ボルメテウスの背中に飛び乗った。
「面白ェ!! 世界を先に壊すのは俺様だーッ!! クカカカカカーッ!!」
天津サクガミ。目指すは究極の冷笑。即ち、世界の破壊。
人類の敵がまた一つ、増えてしまった瞬間であった。
しかし、その前に先ずは──世界の敵を除かねばならない。
邪魔者は全て排除する。そして今度こそ天津は望む。
天戸照陽との決着を──
※※※
「うっぐ……」
──天戸照陽は目を覚ました。
頭はガンガンと痛み、身体は虚脱感が重い。
それでも起き上がらなければならなかった。
「……澪音……助けに」
「動くのはまだ無茶だ、照陽」
照陽は声のした方を向く。
白い髪の少女が──照陽を見下ろしていた。
「……ブイ。ブイ!?」
思わず照陽は起き上がり、そして目を逸らす。
ブイは一糸まとわぬ姿で照陽のそばに寄り添っていた。
だがそれは、思春期真っ盛りの少年にはあまりにも刺激が強い光景であった。
「……な、なんで何も着ていないんだい!?」
「……私と君の仲なら、何も問題ないはずだが?」
「問題しかないよ!! 服を着て!!」
「無理だ。君のマナを回復するのにリソースを注いでいる。私達は一心同体だと言った筈だ」
「ッ……ご、ごめん。取り乱した。君はずっと、僕の事を守ってくれてたのに」
「分かればいい。状況は思ったより悪いからな」
ブイは神妙そうに言うのだった。
それはそれとして心臓に悪い光景であることに違いはないのであるが。
(……結局、あれからどうなったんだ? どうして僕は助かったんだ……?)