デュエマプレイヤーは「カードが全ての学園島」で成り上がるそうです。 作:タク@DMP
──ファイナル革命。
それは、世界をも破壊する力を秘めた究極の一撃。
背景ストーリーでは禁断の勢力をも圧倒する必殺技として、カードゲームのデュエル・マスターズでは数多のデュエリストにとっての切札として活躍してきた。
マナの少ないこの世界に於いては流石に世界を破壊するまでには至らないものの、ブイを蒸発させるには十二分過ぎる威力であったことは言うまでもない。
そんな一撃をどうしてブイが耐えることが出来たのか──
「──侍流ジェネレートだ」
広場にあったドーム状のオブジェの下は隠れるのに都合が良かった。
そこでブイは照陽のボロボロの制服の上着を羽織りながら言う。
「侍流ジェネレートォ……?」
怪訝な顔で照陽は問うた。
どうしてそこでカードゲームのキーワード能力が出てくるのか不思議でならなかったのである。
ブイは少し不服そうに鼻を鳴らすと続けた。
「奴らがファイナル革命を使えるならば、私も侍流ジェネレートを使える。侍流ジェネレートとは元々、魔道具たるクロスギアを緊急的に呼び出すサムライの秘術だからな」
「じゃあ……クロスギアを呼び出したってこと? でも、一体、何の? あの激ヤバ砲撃を何とかできるカードあったっけ」
「照陽のデッキからクロスギアを一つ呼び出し、緊急で身代わりとして使わせて貰った」
「身代わりって、そんなのができるカード……あった」
《聖竜鎧 シデンズ・ソウル》。それはクロスしたクリーチャーが離れる代わりに、このクロスギアを外すことで身代わりにできるクロスギアだ。
鉄壁の防御を誇るこのクロスギアを呼び出すことで、ブイはオーパーツの放ったファイナル革命の砲撃を耐え、爆風に紛れて脱出することに成功したのである。
「……とはいえ、ダメージは甚大だ。回復に時間がかかった」
「も、もしかして服がボロボロなのにケガがないのは」
照陽の制服は半分焼け焦げており、見る影も無かった。
しかし、それでも彼の身体の傷は殆ど残っていない。
照陽は察する。半分クリーチャーになった自分の身体が今、どうなっているのかを。
(空気中のマナが濃くなっているのが僕にも分かる──それが、僕の身体を再生するのを助けているんだ)
肌感覚で分かる周囲の異常。
しかしそれは、意図せずか照陽を助けるものでもあった。
尤も、その根源は──全ての元凶たる逆札・ドギラゴンにある。
決して手放しで喜べるものではない。
「君は私で、私は君だ。君の身体は半分、クリーチャーになっている。私のマナを君に送ることで、君の身体の損壊はほぼ完治した」
「ッ……そ、それで君は大丈夫なのかい!?」
「お前が無事なら、それで良い」
ずい、と顔を近付けながら──ブイは言った。
彼女は、じろりと照陽の目を見つめながら、そして──がくりと力が抜けたように寄り掛かる。
「ブイ!? 大丈夫!?」
「……~~ッ!! ……良かった……」
「えっ……」
「本当に、本当に良かった。危なかったんだ。死ぬかと思ったんだ。怖かったんだ。私は良い。でも、でも……オマエに何かあったらと思うと、私は……」
何処か安心したように、そして──恐怖を抑えるような嗚咽が響き渡る。
彼女はずっと、責任を感じていた。
照陽と力を分かち合い、照陽を半分人ならざるものにしてしまった責任を。
本来なら、ただの人間として生きてただの人間として死んでいたはずの照陽。
しかし、今の彼は常人なら大怪我と呼べるものでも、マナの供給さえあれば回復するようになっていた。
泣きながら寄りかかるブイを──照陽は抱き締める。
「……ブイ。頑張ったね、ブイ。本当にありがとう」
「あれ、あれ、おかしいな……この身体になってから……涙が……止まらないんだ。私は……私はサムライで、ドラゴンで、オマエの切札なのに」
「……君はサムライで、ドラゴンで、切札である以前に……僕の相棒だよ」
ぐすぐすと泣く相棒。
どれ程彼女が心細かったか、どれ程彼女が自らを責め続けたか、照陽には痛いほど分かってしまった。
「……すまない。すまない……あれだけの敵を前に、私は……怖気づいて逃げる事しかできなかった」
「生きてるだけで御の字だよ。生きているなら、これから立ち向かえるだろう? それに、もし僕が人間のままだったら、あの攻撃で死んでたかもしれない」
照陽は起き上がる。
体に力はまだ入らない。だが、ケガは完治している。
ならば、やることは一つだった。
(澪音を……助けに行かなきゃ。でも、戦力が少ない)
照陽は自分一人で、あの軍勢に勝てると思っているほど楽天家ではなかった。
(島中の精霊使いがどれだけカレーパンに抗えているかは未知数だし、頼れるのはこころさんくらいか? 後は……天津……)
渋い顔で照陽は考える。
天津サクガミという男は例の一件以来、性格が反転してしまった。しかし、ボルメテウス・リバース・ドラゴンは健在。
不安は付きまとうが、この際なりふり構っては居られない。
(猫の手も借りるしか……いや、待てよ。そもそも島の戦力がガタ落ちしてるの、あいつが精霊使いを狩りまくったからじゃないか!! 本当に迷惑なヤツ!!)
「……照陽? 顔が怖いぞ?」
「いや、何でもない。取り合えず、こころさんを探そう。金剛に立ち向かえる仲間を集めるんだ」
「ッ……そうしたいのは山々だが……私はまだ元の姿に戻れない。それに──簡単には行かせてくれないようだぞ」
ブイがカードの姿に戻り、照陽のデッキへと吸い込まれていく。
照陽も尋常ならない気配を感じてドームの外に出た。
じりじり、と音を立てながら一人、また一人と学生たちが近付いてくる。
彼らはいずれも虚ろな顔をしており、更に頭にはハムスターの紋様が浮かび上がっていた。
「カレーパン……カレーパン……!」
「な、なんだこいつら!?」
『……皆、精霊が憑依している!』
学生たちの影には様々なクリーチャーの気配が宿っていた。
元々五色島に漂っていたカードの精霊たちが、例のカレーパンを食べてマナを宿した人間に取り付いたのである。
そして彼らは──主たるドギラゴンの使命のままに統一された意識の元で行動する。
カレーパンに染まっていない者を染め上げる為に。
「……一人一人、倒していくしかないか」
「照陽、大丈夫なのか!?」
「やるしかない。このまま袋叩きに遭うくらいなら!」
ブイが実体化するほどの力を取り戻していない以上、手だては一つ。
デュエルで彼らを倒していくことだけだった。
照陽はすぐさま空間を開く──
「──《バザガベルク・閃光・ドラゴン》の侍流ジェネレートで《バジュラズ・ソウル》をジェネレート! そのまま《無頼BEN-K1000》にクロスして攻撃──ッ!! マナを破壊だ!!」
「──D・D・D発動、《轟く邪道 レッドゾーン》!! 二回攻撃して、ダイレクトアタック!!」
「──侵略進化、《超神羅星 アポロヌス・ドラゲリオン》!! メテオバーンでシールドを全てブレイク!!」
「──《PERFE910-御代紅海》の効果でNEOクリーチャーを無敵状態に! 《暴覇斬空SHIDEN-410》で攻撃ッ!!」
「──《ボルメテウス・武者・ドラゴン「武偉」》でダイレクトアタック!!」
──何人、倒しただろうか。
辺りには物言わぬ学生たちが倒れ伏せている。
しかし、それでもまだ、精霊とカレーパンに取り付かれた生徒達が次々に照陽の元に現れる。
「──《アビスベル・覇・ロード》に革命チェンジ!! 効果でマナゾーンから《テレスコ・テレス》をバトルゾーンへ出してお前の手札を破壊する!!」
「《リュウジン・ドスファング》でメクレイド発動!! 《弐天》でドローしてリソースを取り返す……ッ!!」
「──来なさい、《芸魔王将カクメイジン》!! ブレイク時の効果で呪文を唱える──」
「進化していないとはいえ《一音の妖精》が居て助かった……!! 呪文はこのターン、もう使えないよ!」
「──《レッドゾーンF》でシールドをW・ブレイク!! オラオラオラ!! これでテメェのシールドはゼロだ!!」
「S・トリガー、《王道の大地》!! 効果で《轟く邪道レッドゾーン》を出して、君の《レッドゾーンF》を破壊だッ!!」
そして、島のデュエリストは精霊に取り付かれて尚、強豪ぞろいだ。
当たり前のように完全に通れば必敗のコンボを叩き込んでくる。
それを今までの経験と、デッキ内の40枚のカードをフルに使う事で照陽は対抗し、そして叩きのめす。
「《暴覇斬空》でダイレクトアタック──ッ!! うっ……ゲホッ、ゲホッ……!!」
その度に、疲労は積み重なって確実に照陽を蝕んだ。
「きりがないぞ、照陽ッ!! このままではオマエが持たない!!」
「……クッソ……! 想像以上にキツいな……!」
連戦は想像以上に精神を摩耗させ、そして彼の体力とマナを消耗させる。
照陽は一度も負ける事が許されず、しかし敵は敗北上等で何人も襲い掛かってくる。
ケガが治ったとはいえ、彼の体力もマナも回復しきったわけではなかった。
残る照陽の性根も尽きつつあった。
(こ、こんなところで──負けるわけにはいかないのに……!!)
照陽が悔しそうに歯ぎしりした。
だが、そうしている間にも四方八方から精霊の取り付いた生徒達が近付いてくる。
かと言って、ブイを実体化させて無理矢理振り払う事すら出来ない。
(澪音を助けなきゃ、いけないのに……!!)
どくん、どくん、と嫌な鼓動が鳴る。
マナの消耗に伴い、照陽の生命にも危機が近付きつつあった──その時。
それは、剣閃だった。
目にも止まらぬ斬撃が突如天より降り注ぐ。
そして、生徒たちに取り付いていた精霊が次々に切り裂かれ、消滅していく。
何が起きたのか──照陽には一瞬、理解が出来なかった。
そして、周囲の全ての生徒達が倒れ伏せた後、それは残像と共に戦場に立つ。
──現れたのは見たことのない異形だった。
「……ウルルルルルウウアアアアアアアアアア……?」
言葉ですらない悍ましい唸り声が響いた。
おおよそ、それから理性というものは感じられず、照陽は全身から寒気がした。
「なん、なんだコイツ……!?」
それは龍であり、鬼だった。
ぐりん、と首が捻じ曲がり、照陽の方を振り向く。
思わず後ずさった。
目には生気というものが宿っていない。いうなれば亡者。
体の半分が龍、身体の半分が鬼。
中央を──スケッチブックのリングで繋ぎ合わされた──歪な合体獣。
「こいつ、ドギラゴン逆やボルメテウス・リバース・ドラゴンと同じ……ッ!!」
「ああ……この捻じ曲がった歪なマナ、エクスドリーマーか……ッ!?」
身構える照陽とブイ。
目の前の合成獣から放たれるマナはドギラゴン逆のそれと遜色なく、そして彼らと同様の異質なものだ。
相対しているだけでこの世に居てはならないものだ、と嫌でも感じさせる。
しかし、今此処で戦う気力は既に照陽には残されていなかった──
「モモ──
──その時、声が響く。
ぐりん、と合成獣の首がその方向へ向いたかと思えば──カードの姿となり、飛んで行く。
照陽は思わずその方を向いた。
カードを握るのは──見知らぬ青年だった。
黒くツンツンと逆立った髪、鋭く吊り上がった目。
若い見た目だが、何処かこなれた様子の風貌。
照陽は、外見年齢こそ自分と然程変わらない──しかし、タダモノではないと直感する。
先ずは敵か味方か。それだけが気掛かりだった。
「……大丈夫か!?」
心配するような声と共に、青年は照陽の方へ駆けてくる。
思わず拍子抜けしてしまった。彼の表情、そして声色は敵意を感じさせるものではなかった。
「何とか此処ら一帯の連中は片付けたけど……今はまだ寝ててもらった方が良さそうだな。あ、もちろん倒したのは精霊だけだぜ!?」
「た、助けてくれてありがとうございます……!!」
「良いってことよ。困った時はお互い様だからな」
(た、多分味方だ! この人……良い人だ! ……それにしても、連れてるクリーチャーがあまりにもヤバげだったけど……)
連れているクリーチャーで判断してはいけない、と照陽は己の偏見を反省するのだった。
「オマエ、見た感じ──俺と同類だな」
「えっ」
「オマエ、半分人間じゃねえだろ。違うか?」
一目で照陽の性質を見抜いた青年。
照陽はしどろもどろになりながら──答えに窮した。
「えっと、それは……」
「あー、悪かった。落ち着けって。俺も同じなんだ。半分クリーチャー」
「……そ、そうなんですか!?」
「ああ。昔の相棒が……もう居なくなっちまったんだけど……そいつに力を注いでもらって生かされてる。おかげでこの年になっても老けやしねえ」
何者なのだろう、という疑問が残る。
とはいえ、渡りに船であることは確かだった。
彼の信頼を得るのは、この場の最優先事項だと判断した照陽は深々と頭を下げる。
「……えっと──助けてくれてありがとうございました! 僕、天戸照陽と言いますッ!! 貴方は──」
「白銀
「……白銀?」
聞き覚えのある苗字に、照陽は顔を上げる。
白銀耀、と名乗った青年は──納得したように頷いた。
「ああ。ボロボロだけど、その制服……娘と同じ学校の制服だろ? 無銘学園。そんでもってオマエが……天戸照陽だったんだな」
「え? 今、娘って……」
「あー、その反応も無理ねーわな……よく言われるんだよ。高校生の娘が居るようには見えねーって」
耀は一転して真剣な眼差しで告げた。
「澪音は俺の娘だ。俺は──娘を助けに、此処まで来たんだ」