腹凹毒蟲【Q】 作:アンディライリーのうさぎ
一級術師と言っても、任務によって同等級の者と組むこともある。櫻はあわよくば七海と組んでみたいと思っているが、五条がわざわざ圧力をかけているため今のところ一度も組んだことがない。「悟くんってば嫉妬しちゃってかわいい♡」とも思っている。
組む確率で言えば歌姫が高かった。時折夏油に頼まれ組むこともある。彼女の『毒蟲』の能力は有用なのだ。特に呪霊を捜索する場合は。
そしてごく稀に五条と組まされる。バディを組めば長期任務でも共にいられる。誰が意図的にこうなるよう仕組んだかは丸わかりなので、彼女は「かわいいな〜〜!!」と思っている。
戦闘スタイルは相変わらずで、呪具の大型ハンマーを振りまわす。呪霊を潰した際に飛び散る血よけで任務時は依然と仮面をつけていた。
服は黒のストレートパンツと白のハイネックで、その上に黒のロングコートを着る。コートの前は閉じたり閉じなかったりと気分だ。靴は動きやすいようスニーカーである。
結婚指輪については付けていない。レッドダイヤの指輪を常日頃つけて歩けるわけないだろ。値段がおかしい、値段が。彼女が頑なにつけないせいで五条も臍を曲げてつけていない。
呪霊を食べられることはすでに知れているので、基本的に虫どもに捕食させながら戦う。口で食べると人間離れしたイメージを植えつけてしまうので、経口接触は避けている。
彼女の最近は仕事をして、坊を甘やかし、たまに伏黒姉弟に会いに行き、また仕事をして──といった感じだ。
五条と結婚した時点で、呪術師を辞める選択肢を本家から持ち出されたが続けている。ここには男尊女卑な問題があった。
過去の安倍家でのことを思い出した彼女は「ミ゛ィヤァ……!!」と猫ミームのようになり、五条が間に入ってくれた。それから本家とは距離を置いている。
一応年始年末とお盆はあいさつに行っている。その時も「子はまだか?」な視線を送られるので居心地が悪い。それなりに旦那と肌は重ねているが、中々子はできない。
薄々彼女は自分が孕みにくい体質だと気づいている。原因は過去の過度な食事制限のせいだろう。
申し訳なさで五条には他の女と関係を持っていい、と話してある。そのあと普段は受け身な相手に散々分からせられたが。あぁ、私は旦那に愛されてるんだな──と彼女は改めて感じた。ついでに号泣する相手に「絶対に七海のとこ行くな゛よ゛ぉ……っ!!」と言われた。今のところ七海にアタックする気はない。
──でだ。彼女は現在緊急の案件で現地に赴いている。
組んだ相手は面識のない若い男で、同様に取り急ぎで集められたらしい。まずはじめに自己紹介する。相手はその間眉を寄せて櫻の仮面を凝視していた。本日は般若の面である。
「一級術師の五条櫻です。よろしくお願いします」
「名前は聞いたことあるかもしれへんけど、ボクは禪院直哉や。よろしゅうな」
彼女が手を差し出すと、相手はニコッと笑って握手に応じた。直哉直哉……と櫻は考えて、そう言えば禪院の現当主の息子にそんな名前の男児がいたことを思い出した。
年齢は五条と近いだろう。髪は染めているらしく金髪で、耳に穴を空けている。五条や七海とはまた違った毛色の美男子だ。
(っていうか、名前が『五条』なのに絡まれないな…)
五条家と禪院家に因縁があるのは彼女も存じている。また禪院家がKU★SOなのも伏黒姉弟と接する前に五条から聞かされた。安倍家とどっこいか、それ以上のKU☆SOと聞いて櫻は戦慄した。よほどのことがない限りは恵を除いて禪院家とは関わらんとこ…と思った。
一方、禪院直哉はかなりのおしゃべりだが、見た目どおり爽やかな印象である。
禪院家と言えど
車内では現場の資料を読み込み、作戦を立てる。
(山に登った児童たちが教員含めて行方不明になった…か)
呪霊の捜索をし、場所を把握したら行方不明者の安否を確かめつつ呪霊を祓う必要がある。生存者がいれば彼らを保護するのが最優先となる。
役割は捜索・呪霊の討伐が櫻に。行方不明者の保護が直哉になった。場合によっては二人での戦闘も視野に入れる。
結果として行方不明者は衰弱していたものの全員無事だった。教師が道を誤った末、彼らは同じ道をグルグルと回る状態になっていたらしい。呪霊の生得領域に入り込んでしまったのだろう。問題の呪霊は櫻がボコボコにして祓った。
子どもたちも怪我がなく一安心だ。櫻は大きく伸びをする。思考は旦那のいない夕飯について考え始める。仕方のないことだが、五条は家にいることが少ない。忙しくなさそうな見た目のくせに、実際はかなり忙しいのだ。二人とも同じ日に休日なんて滅多に取れない。
「たまには外食にしよっかなぁ〜」
「じゃあせっかくやし、ボクと飲みに行かへん?」
「ん?」
ニコニコした顔の直哉がいつの間にか彼女の後ろにいた。ゴキブリみてぇに素早く動くのは任務中に見た。速いのは彼が持つ術式によるものだ。同じ術式を持つ禪院直畏人は『最速の術師(五条除く)』と謳われる。
「前から気になってたんよ。悟君の嫁はんがどんな女か」
「こんな感じです」
「あぁ、うん。外見はもう分かったわ」
バァーンッ!! とジョジョ立ちを決める彼女から一歩、直哉は離れた。
「…で、飲みのお誘いはどうするん? 親交を深めるにはちょうどエエと思うけど」
「そうですね……」
「お家同士の問題はボクは気にせーへんで」
「……まぁ、それなら」
七海と二人きりで飲みに行くわけじゃないのだ。別に構わないだろう。
ということで二人は飲みに行くことになった。
禪院直哉はクズだった。彼はバリバリの男尊女卑な思考の持ち主である。同じクズでも女は(殴れたとしても)殴らなそうな甚爾に対し、こちらは殴るタイプのクズだ。いとこで甚爾と同じ天与呪縛(ただしこの力は不完全)を持って生まれた真希をよく“教育”している。
そんな直哉は力のある者に対しては真摯に評価する。甚爾や五条悟がこれに当てはまる。殊に甚爾に対しては限界オタクと言っていい。その一面は不完全な天与呪縛を持った真希をいじめているところからも察せられるだろう。
(五条悟に婚約者ができたやて……!?)
当時中学生の年齢だった直哉の耳にもその情報が入った。五条の坊が見合い話を蹴り続けていたのは有名な話である。それが急に相手が決まったというのだ。直哉は心底驚いた。
幼いころの彼は五条に憧憬を抱いていた。その念は今も変わらない。向こうが友だちを募集していると聞いた時は父の直畏人にごねたこともある。「俺、悟君の友だちになりたい!」と。当然却下された。こちらは禪院家で向こうは五条家。しかも互いに次期当主候補だ。
そのような経緯もあり、婚約者とやらの顔を一度は見たいと思っていた。あの五条悟を落とした女なのだ。気にならない方がおかしい。
ただ高専に通わなかった彼はそのつながりで会うことはなく、月日ばかりが流れた。五条が入れ込んでいるというのは噂を聞いていればよくわかる。女が術式を詐称していたことが明らかになった時も上層部に手を回していたし、特定の術師が嫁と同任務にならないよう圧力をかけている話も知っている。
嫁の容姿は日本人形のような顔立ちで、血の如き赤い目が特徴らしい。髪は呪物を取り込んで以降白髪になったそうだ。曰く任務時は仮面をつけていて、長身の女である。胸とケツがでかいとも聞いた。
出会うチャンスが来たのは偶然だった。現場の近くにいた直哉に連絡が来て、この件に例の女も参加すると聞いたから話を受けることにした。
(うっわ、マジでお面付けとるやん)
最初は仮面のインパクトに驚き、対面したら次はその身長に驚いた。背が高いと言っても女の長身はせいぜい170センチくらいやろ、と余裕をかましていたが、当の直哉が見上げるハメになっている。「ハ? 何で女のおどれが俺のこと見さげとんねん?」と彼は内心でキレた。
外見に対し内面はまとも──と思ったら大間違いだ。でかい乳のことを皮肉って「動物で言ったら牛に似てるって言われへん?」と言うと、「あなたは目が細いのでチベスナですね」と返ってきた。
チベスナを知らなかった直哉は画像を調べ、携帯を軋ませた。そこには悟りを開いたような目をするキツネの写真が並んでいた。さらに「牛よりもうさぎに似てると言われます」とも返された。知らんわ、そんなこと。
気に食わないメーターは着実に溜まっていき、呪霊討伐の際は呪具を使っていることに対し「ここだけの話やけど…」と、術師が武器に頼って戦うことに対し否定的な者が意外といることを話した。あくまでこれは禪院家内部での話だ。
面の下できょとんとした櫻は「そうだったのか…」と驚き、試しに拳と蹴りで呪霊を撲殺した。
忘れてはならないが彼女は体術を嗜んでいる。これに『腹凹』の全ステータスアップが加われば一級は余裕で倒せる。血まみれになった彼女に直哉は口を開けてポカンとしていた。
一級にも上と下の差がある。その中で櫻は上位に入る。特級でないのは“国家転覆が単独で可能”とされていないからで、蟲人間の製作が可能とバレたらたちまち特級術師になるだろう。
櫻について知れば知るほど、直哉の中で「何でこないな女が悟君に…!!」と厄介オタクのツラを覗かす。
ここまで来ると、一度でいいからギャフンと言わせたかった。ゆえに彼は飲みに誘った。異性と二人きりで飲むのは旦那に禁止されているかとも思ったが、そうでもないらしい。「七海」なる一級術師限定でダメなのだと言う。
二人が入ったのは居酒屋だった。座敷の席に案内される。櫻は「つくね50本、カワ50本…」と注文していき、店員と直哉をドン引きさせた。
「そんな食ったら太んで? ……あぁいや、もう十分に肥えとったな」
「五条くんは太ってる方が好きだからいいんです。直哉くんもどうぞ」
メニュー表を渡された直哉はそれで顔を隠しながら携帯を触る相手の顔を盗み見た。任務が終わり、面を取った姿は血も凍る美人といった顔つきだが、キツめなわけではない。むしろ可愛らしい方だ。“血も凍る”と表現するのはやはりその目が原因だ。見ていると引き込まれそうになる。五条の吸い込まれそうな六眼とはまた違う。
「ハァー……暑ッ」
黒いコートを脱いだ櫻は腕を捲った。セーターになった途端胸の形がはっきりと露わになる。男の店員の目が思わずそちらに向かった。直哉の目もだ。
((デッッッカ……))
一級のくせに胸は特級かい……!! ──と直哉は思った。
間違いない。五条悟はこの胸に虜になったのだ。雄の本能がそう言っている。
「まだメニューは決まらない? 直哉くん」
「今、決めてる最中や……!!!」
「そう」
その間に第一陣の大皿に盛られた焼き鳥がやってきた。肉を黙々と運ぶ口元に彼の目が釘付けになる。口の端についたタレを舐めとる姿にそこはかとないエロスを感じてしまった。
そんな己を直哉は脳内直哉で殴る。しっかりしろ、禪院直哉。己はこの女をギャフンと言わせるためにわざわざこんな安っぽい店に来たのだ。ひとまずビールとともに砂肝やぼんじり、なんこつを頼んだ。
(悟君の地雷を踏まないようにしつつ、この女に一泡吹かせたる。となると……相談に乗るように見せかけて、触れられたくない傷をえぐるのが一番やな)
直哉は世間話をしながら相手の弱みを探る。話は自然と色恋話になった。
「櫻ちゃんは悟君のどんなところを好きになったん?」
「………青空みたいなところ」
「青空?」
「私からしたら遠い存在で、美しいケモノだったから」
触れてみたら白い肌は柔らかかった。子どもの匂いとともにお日様の香りがして、彼女はその存在を抱きしめたくなった。あの感情は「自分のものにしたい」という欲望だったのかもしれない。
「その美しいケモノを独り占めにしてるっちゅーわけやね」
「直哉くんは好きな人いないの? 相伝持ちなら禪院家の当主候補だろうし、嫁を作れって言われない?」
「ボクのお眼鏡に適う女なんて早々おらへんわ」
「ふーん」
ジョッキを一気に飲み干した櫻は空になった大皿とともにおかわりを注文する。食べ終わった串は皿の上でジェンガになっていく。
「悟君とはいつ出会ったん?」
「私が10歳の頃だから……10年以上前かな。家同士のお見合いで、最初は友だちになって…。あの時の坊ちゃんは可愛かったなぁ」
「旧姓は確か『安倍』やったな。聞いたことない家名やけど」
「没落寸前だったからね。養子に引き取った私を家の建て直しに使いたかったみたいよ」
「へぇ、養子なんや。えらい苦労してたんやねぇ」
「うん。クソみたいな家だった。全員ブッ殺してやりたかったな」
届いた肉を全てバラし、櫻は串にプスプスと刺していく。「これが義兄で、これが義母で…」と話しながら三つの肉を刺した。それを口に運んで、うま〜っ、と咀嚼する。その様が妙に艶かしく、そして背筋の凍るものがあり、直哉は思わず見入った。
「殺すなんて物騒やね。そんなにひどいことされてたん?」
「花嫁修行が大変でね。過剰な折檻を受けることもあったよ。禪院家でもあるの?」
「……まぁ、あるで。ウチは男尊女卑が激しいからなぁ。三歩後ろを歩かれへん女は背中を刺されて死んだらええ──って感じや」
「わぁ、素敵なおうちですね。時代の最末端を生きてるじゃないですか」
「それは禪院家に喧嘩売っとるん?」
「まさか。『末端』は「物の端っこ」って意味ですよ? だから時代の後か先か……この場合“後”だと言及しているわけじゃないですよ」
「じゃあ“先”って意味でええんやね?」
「ハァー、酒もウマ〜〜! 枝豆食べたいな」
「…アンタ性格悪いやろ」
「五条くんほどじゃないっすよ」
櫻は三杯目のビールと枝豆を20皿分頼んだ。もう店員は山の注文に驚かなくなっていた。短時間で調教されている。
直哉は話を整理する。櫻は男尊女卑や安倍家の話に露骨な嫌悪感を示した。養子になる以前の件も掘り下げれば地雷が見つかりそうだが、そこまでいくのは踏み込み過ぎだろう。
(養家の件がおそらく地雷とみた。可能性としてはこの家がバリバリの男尊女卑だったのかもしれへんな…)
となれば自分の家の愚痴をこぼしつつ、安倍家の話を引き出すのが一番いい。そこで同情するそぶりを見せながら、直哉はこの女が苦しむ顔を見るのだ。
幸い櫻は彼がクズ人間であると気づいていない。ならばそのイメージを利用させてもらう。直哉は今、
「家族が嫌なのはわかるで。ボクの兄弟もな──」
酒が入っていることもあり、家族の愚痴は直哉が思った以上に盛り上がった。愚痴の対象は家族どころか親戚にも渡った。ただそれでも一人特別な人間がいる。いや、いた。
黒くたくましい獣だった。誰よりも強かったのに、その牙をさらすことはなかった。
「直哉くんは、その人に憧れてたんだね」
「アホ、
「おっと、失礼。……いいなぁ、なんか、そういうの」
直哉の倍は飲んでいる櫻は顔が真っ赤だ。目がトロンとしている。酒癖が悪い父と違って豪酒な方の直哉はまだまだ飲める。ここで彼は安倍家について深掘りした。櫻は壁のメニューがデカデカと書かれた紙をしばらく眺め、口を開く。
「義兄が引きこもりのクソ野郎だったのは話したけど……人のことを性的な“物”として見ててさ。人間じゃなくて道具ね。あの時私はよく殺さなかったと思うよ」
「あの時?」
「あぁー……あの野郎に寝込みを襲われた時があって。まぁ、玉を潰してやったんだけど」
「えっ?」
「玉をつぶ」
「二度も言わんでええわ…!! 恐ろしい……」
「あっはっは! 二度じゃなくて、二個潰したの」
「おどれは人の心とかないんか!?」
「ははっ………いやぁ、本当に殺さなくてよかった。えらいぞ12歳の私! 殺してたら絶対に呪詛師になってたもんなぁ」
「やってることはすでに呪詛師やろ」
「殺してたら悟くんと結婚できなかったもんなぁ……」
七海や灰原、夏油や硝子、歌姫とも出会えなかった。一歩間違えれば彼女は義兄を食い殺していた。殺さなかったのはなぜか五条の顔が浮かんだからだ。あと、食欲がなくなるほど義兄がまずそうだったからだ。
「もし呪詛師になってたら、櫻ちゃんは今頃どうなってたんやろうね」
「……いっぱい食べてたんじゃないかな、肉を」
「何で呪詛師になってやることが肉を食うことなんよ」
「君はビールに合いそうだな」
「…………ハ?」
赤い目が弧を描いて直哉を見ていた。彼は喉を鳴らして口の中に入っていたビールを飲み込む。いい感じに酔っていた気分が一気に冷めた。そして、“背筋が凍る”美人の本当の意味を理解した。
(コイツ、人間を食い物にカウントしとるッ………!!)
あともう少し踏み込めば、きっとこの女の曇る姿が見られる。「呪詛師になったら悟君に殺されてたかもな」と言う気だった。しかし冷や汗が流れるばかりで喉から何も出てこない。そんな彼を見て、櫻は笑った。
「────なんて、冗談に決まってるじゃん。直哉くんってば間に受けちゃって〜」
「……ハァ? ……ハ!?」
「あっ、ジョッキ空になってるね。すみませーん! 生追加で二つ!!」
櫻はB級映画にハマっていたことを明かし、食人族やスプラッタ系の話をし出した。食事中に持ち込む内容ではないため、ビールを持ってきた店員に「すみません。ちょっとその話は……」と止められる。
(この
酔いではない怒りで直哉の顔が赤くなる。店員から引ったくるようにジョッキを取り、一気に飲んでテーブルにダンッと音を立てて置いた。
コイツの曇り顔を絶対に拝むまでは帰らん! そのくらいの意気込みで、彼は口を開く。
「櫻ちゃんがもし呪詛師になっとったら、悟君に…「僕が何だって?」………ふぁっ!!?」
いつの間にか一人増えていた。五条はテーブルに肘をつき、直哉の隣で彼が頼んだ砂肝を食べている。
「な、何で悟君がここにおるんや?」
「いやぁ、それが早く仕事が終わって高専に行ったらさ、偶然今日の緊急任務に当たった補助監督に出会ってね」
「すみませーん! 枝豆おかわり〜!!」
「なぁおい、コラ。この
「あとホルモン50に、レバー50で!!」
五条はその補助監督から櫻が同任務に参加した術師と飲みに行った話を聞き、現場近くの店を探した。
これが一緒に飲んでいるのが夏油や歌姫だったらいいが、相手は禪院家。絶対に面倒なことになっていると感じた。
ちなみに直哉のことは何度か会ったことがあるが、ほとんど記憶にない。「あぁあの禪院のジジイの子どもね」という認識だ。
「で、もし僕の嫁が呪詛師になってたら、僕が……何?」
「いや、その…」
「あぁー、特級術師が一個下にパワハラしてる〜」
すっかり酔っている女は届いた枝豆を美味そうに食べ始めた。その目前で静かな空間が広がる。直哉は冷や汗をびっしょりかいていた。六眼に余すことなく見つめられている。
櫻は片手で枝豆を吸い込みつつ、ホルモンを一本差し出す。腹が減ってるから人間は争うのだ。五条は直哉から視線を離さず串を受け取った。
「はじめての面識だったけど、私と直哉くんは結構相性がいいみたいだよ。話も盛り上がったもんね?」
「そうですね……」
「あれ、関西弁が死んだ?」
櫻はホルモンの皿を綺麗にしてから、レバーに手を伸ばす。また一本五条に渡した。「ねぇ」と彼女が言うと、五条が視線を直哉から外す。
「あなたに殺されるなら、本望だよ」
五条はレバーを受け取らず、そのまま彼女に抱きついた。サモエドに衝突された櫻は倒れながらレバーの皿を絶妙なバランス感覚で持つ。
「妊婦みてぇな腹になってる」「うん、五か月」──と話し始めた二人に、直哉は口を開けたままとんこつに手を伸ばした。
(とんこつ美味……)
そして思考を放棄した。