腹凹毒蟲【Q】   作:アンディライリーのうさぎ

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六話 サトル、ポケモンマスターを目指す

 呪詛師堕ちBADエンドルートは回避したアオムシ少女こと、安倍櫻。

 

 レインボーロードを99999ccでキメるような精神状態から回復するのに数ヶ月かかった。

 

 

 彼女は自分の術式について色々と試した。その一例が他者の体内に仕込ませた虫である。奴らはその人間の呪力を食らって活動を維持している。人の脳を乗っ取った虫が対象の性格や記憶を読み取ることで、オート操作もできる。この方法で両親や女中は動かしている。

 

 ただ細かい命令を行う際は、彼女が直接虫に呪力を流す必要がある。義父母が完全に不要になった時は海外で事故死に見せかけて処分する気でいる。

 

 蟲人形はかなり役にたつ。虚無しか感じなかった家族ごっこは別として、仕込んだ虫に対象の記憶を話させることで“知識”を得られるのだ。

 

 花嫁修行ばかりで呪術界についてほとんど知る機会のなかった彼女は、義父からさまざまな知識を得た。この知識を活かし今後の予定を決め、力をつけていくことにした。

 

 

 それから五条家からお友だちを打診する手紙も来たが、毒親ならぬ蟲親に丁重に断ってもらった。六眼が呪力を可視化できるというなら、両親や使用人に仕込んである虫に気づかれる可能性がある。

 

 夢の中でナナミンと遊び壊れた心が回復してきた櫻としては、この件がバレると本気で呪詛師認定されるので五条の坊ちゃんにはもう近づく気がない。機会があっても、その頃には両親も女中もさよならバイバイだ。

 

 ちなみに虫を抜くとその人間は完全な廃人となる。

 

 

 中学校までは勉学に励みつつ、人気のない森に放った子分が退治した呪霊のパワーを集めて力をつけた。そのスピードはしかし、限りなくゆっくりである。入学予定の呪術高専に入るまでは隠密に過ごしたい。彼女の術式がアオムシ様のものだと露見すると宗教団体に逆戻りになりそうだったから、殊更慎重になった。

 

 呪術高専に入ったら術式は『毒蟲(どっこ)』で通す気でいる。悲しいかな、彼女は術式の名前が元々『百虫毒蟲(ひゃくちゅうどっこ)』であることを忘れてしまっていた。当時三、四歳だったので仕方ない。

 

 

 フィジカルを鍛えるため、空手や柔道も始めた。同年代と比べると頭ひとつ飛び抜けている彼女は肉体に恵まれている。男も女も次々となぎ倒し、勝利を収めた。大食いもあって、小学卒業頃には百七十センチを超えた。身長は未だ伸びている。

 

 そして武器も新調した。大型ハンマーの呪具である。わざわざ海外から取り寄せた。コイツを選んだのは単純にスプラッタ映画に彼女が最近お熱だったからである。

 

 

 

 

 

 恋人も友達も作らぬまま、青春が旅たつ。安倍家の当主の座をもらってから両親とグッバイし、彼女はいよいよ呪術高専に入った。同級生は数名。紅一点である。

 

 呪専に入ってから彼女は本格的に『腹凹』の力をつけていく。個人で、しかもこっそりと見つける呪霊には限界がある。その点ここなら合法的に呪霊の任務につける。彼女が直接食わずとも、虫伝いにその栄養は還元される。

 

 なるべく『腹凹』の力は隠すが、バレてもすでに呪専の後ろ盾がある。過信する気はないが、そう簡単にアオムシ教の残党も狙っては来れまい。

 

 戦いは血液から生成される百虫によって密偵や奇襲を可能とする。彼女自身の素の身体能力も高く、呪具のハンマーを振り回して呪霊をお陀仏させることも可能ときた。まさにオールラウンダー。

 百七十後半になった長身も去ることながら、胸と尻もでかい。小学三年生くらいの少年の隣に立ったら性癖開花の音がしてしまう。

 

 

 ただこの女、ジェイソンに感化されてしまったせいでお面をつけている。高校デビュウでお面デビュウ。時代の最先端か最末端を生きている。はじめ胃を押さえていた担任も次第に慣れた。

 

 呪術高専ということもあり尖った人間も多く、面白半分で彼女に仮面を貢ぐ者もいた。櫻は仮面より食い物が欲しかったが仕方ない。

 

 ちなみに食事の際はトイレに引きこもって七重に積み上げられた弁当を五分で食べる。一層目は敷き詰められたひき肉、二段目は炊飯してない米、三段目はぎゅうぎゅうに敷き詰められたカット済みの生野菜。それから………と続いて、水筒は獣の血。

 

 

 食中毒は『()蟲』である彼女には効かない。そんな食事ラインナップがバレてパイセンに悲鳴を上げられることになり、彼女は渋々料理を始めた。料理は花嫁修行を思い出してしまうので、なるべくしたくなかった。

 

 自炊できそうなナナミンがやってくれたらいいんだけどね。しかし彼はただのイマジナリー。

 

 テキトーに料理している最中にうっかり指を切断してしまい、慌てて虫さんにくっつけてもらうこともあった。この異常治癒はおそらく『腹凹』のステータス上昇効果によって、呪力の自然治癒速度が早まることで起きている。学校には「体内の毒の効果で自然治癒速度を早めて…」と話している。

 

 

 

 呪専の中でもヤベェ奴扱いが浸透しつつ、呪霊を百虫がちょいちょい盗み食いして一年と数ヶ月。等級も準一級になった。宗教団体のお誘いもなく、非常にスムーズに力をつけている。やがて特級を単体の物理攻撃で倒せるようになれば、ひとまず安心して眠れるようになるだろう。

 

 いや、問題はあるんだが。噂にはなっていたが、まさかの五条の坊ちゃんがやって来るらしい。嵐の予感がするぞ。台風の目の中心は坊ちゃんに決まっている。

 

 京都に移れ京都に移れ!京都はいいぞ。何せ八ツ橋が美味い。櫻はパイセンと任務に当たって京都に行った時、口を八ツ橋専用の吸引機にして、この世のすべての八ツ橋を我が物にしようとしていたほどだ。

 

 まぁだから、京都に行け坊よ。ナナミンも嫌そ〜な顔をしているのだ。

 

 

 願い虚しく彼女が三年になった折、二人のクズとニコチンガールが入学した。

 

 

 

 

 


 

 

 呪術高専に通う生徒において女子の人数は少ない。紅一点どころか絶滅している教室もある。そのため学年違いでも女同士は親しいことが多い。

 

 

 例えば庵歌姫の場合。

 

 新入生に女子がいると聞き、仲良くなりたいと考えていた。休日に出かけてカラオケに行けたらもう最高だ。

 

 入学したのは女子の中でも長身の部類に入る歌姫より、さらに背の高い女だった。『櫻』の名前は愛らしいが、ジェイソンマスクで彼女はすべてを悟ってしまった。さようなら、一瞬夢見た後輩との青春。

 

 呪術師に変人が多いのは仕方ない。イかれていないとこの世界はやっていけない。だからって外見からヤバさを匂わせてくるとは。

 

 能力は血液から生成した虫を使った索敵などの後方支援かと思いきや、前線を余裕でこなせる物理的蹂躙スタイル。新入生ながら戦闘能力が高く評価された。オールラウンダーのメリットはどの人間とも組ませやすいことだろう。デメリットは使い勝手がいいせいで、次から次へと任務が舞い込んでくることだ。歌姫と組む機会もすぐに来た。

 

 櫻は虫を出すため出血させる時、ナイフで手首を切ってそこから虫を出す。メンヘラの絵面で湧き出た百虫は控えめに言って吐きそうだった。グロい。気になって見なければよかったと後から思った。

 

 

 だが話してみると、仮面こそトリッキーだが常識人だった。女子トークで盛り上がって、連絡先も交換した。部屋に帰ってから外見で遠ざけていた己を恥じたくらいだ。これから友情を築き上げていこう。その数日後、トイレでのあの事件が起こる。ぼっち飯を決め込む後輩にアナ雪のようなノリで強制的に開けさせたらどっこい、彼女は見てしまった。

 

 櫻は術式が『()蟲』という性質上、毒が効かない体質らしい。だからってなぜ素材本来の味を本気でそのまま食べているのか。びっくりした櫻がひっくり返した水筒からは血がドプドプ飛び出した。歌姫は絶叫した。

 

 以降後輩というより、生活能力のない子供を世話するような母親感覚で付き合っている。京都へともに任務に赴いた時も色々あったが、詳細は省く。しばらく八ツ橋は食べたくない。

 

 歌姫は携帯を開いてメールの画面にすると、『今度カラオケに行かない?』と送信した。

 

 

 

 

 


 

 

 教室の扉がスパンと開いた。扉に視線を向けることなく雑誌を読んでいた夏油と携帯をいじっていた家入は、次の言葉で朝から元気な男へ視線を向ける。

 

 

「なぁ、宇宙人見に行かね?」

 

 

「宇宙人?」と二人の声が重なった。珍しく遅刻せずに来た五条の坊ちゃんは、朝から何を言っているのだろう。当の五条はすでに被害者一名(歌姫)を出して登校している。

 

「宇宙人ってどういうこと?」

 

「まぁまぁ、見に行けばわかるって」

 

 面倒くさそうな家入の背を押し、五条は目的の場所へ向かう。夏油も雑誌を持ったまま五条の後に続いた。

 

 入学して間もない五条と夏油はすでに仲がいい。家入は夏油が捻くれた性格の五条とよく付き合えるな、と思った。蓋を開けてみれば夏油も五条と同族だったから意気投合しただけだった。

 

「目的の場所って…もしかして三年の教室かい?」

 

「っそ。歌姫から聞いてさ」

 

 歩き携帯なんてけしからんと後ろから脅かしてやった歌姫の携帯に、見覚えのある名前があった。「んー?」と首を傾げた五条はそこで思い出した。昔一度だけ会ったがそれ以降会うことはなく、すっかり忘れていた。「ソイツって歌姫の友達?」と彼が聞くと、歌姫は「そうよ。……まさか私に友達がいないとでも思ったわけ?」と毛を逆立てるようにして去って行った。

 

 これには五条も面白くない。彼は夏油(マイフレンド)を連れて、「こいつ、()()()()」とマウントを取りに向かった。

 

 対し三つの空席を目の当たりにした一年の担任である夜蛾正道は、深いため息をついた。

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