翌日以降も、フェルトとソフィアのお茶会は同じ時間に続きました。日々のことを話しているだけでとても楽しくなります。
どうやらソフィアは、いつもは外で何かお仕事をしているようです。ここでのお茶会は息抜きにちょうどいいのだとか。
何回目のお茶会でしたでしょうか。ある日、ソフィアはとんでもないことを言いました。
「フェルトって王女様だったんだね」
回を重ねるうちにソフィアの態度は気安くなりました。フェルトとしてはそちらの方が気が楽なので問題ありません。それよりも。
「今更!?」
思わずフェルトが叫ぶと、びく、とソフィアが驚きからか体を竦ませました。
「ご、ごめんね。全然知らなくて」
「い、いえ……。こちらこそすみません。そうですね、知らない人もいますよね……」
知っているだろうと思っていた自分が恥ずかしいです。まさに自意識過剰。穴があったら入りたいとはこのことでしょう。
フェルトのその反応にソフィアがあわあわ慌てています。見ていてとてもかわいくて、恥ずかしさも忘れて思わず笑ってしまいました。ソフィアが途端に憮然とした表情を浮かべます。
「ご、ごめんなさい、ソフィアさん」
「まあ、私も悪かったし……」
そうして、お互いに小さく笑顔を交わしました。
そうそう。いつの間にかソフィアはフードを被らないようになりました。綺麗な黒髪で、神秘的にすら思えるソフィアにはよく似合っています。それを言うと、ソフィアは照れくさそうにはにかんでいました。
そう言えば、とふとフェルトは思い出しました。父から頼まれていたことがあったのです。
「ソフィアさん。お父様とお会い頂けませんか? お父様が是非とも挨拶を、と」
聞いてほしいと頼まれた時、フェルトは驚いたものでした。一国の王が、命ずるのではなく、聞いてほしいという下手からの言葉。そして、無理強いはしなくてもいいとまで言われています。ここまでくると、フェルトもソフィアの正体が気になってくるというものです。
「お父さん、ということは、王様?」
「はい。そうです」
「んー……」
ソフィアが迷うように唸ります。これもやはり、考えられないことです。王が会いたいと言って、それを断ろうなんて人はまずいません。
ソフィアが父よりも上の立場だと仮定しましょう。そうした場合、考えられるのは一つだけです。
即ち、銀麗の魔女。
銀麗の魔女は精霊と共に歩む者。銀麗の魔女は誰にも縛られることなく、世界を見守る存在です。故に、この世界の共通の認識として、人間よりも上位に位置づけられています。
もっとも、銀麗の魔女が実際に上に立って命令をしてきた、なんてことはないそうですが。
しかしそうなると、疑問が出てきます。
銀麗の魔女は、たくさんの歴史書やお伽噺に出てきますが、それら全てが、大人な女性として描かれています。子供ではないはずなのですが。
そこまで考えて、しかしフェルトは内心で首を振りました。どうでもいいかな、と。
この子はソフィアです。フェルトの大切な友達です。銀麗の魔女かどうかなんて、知ったことではありません。
じっとソフィアを見つめていると、ソフィアと目が合いました。きょとんと、首を傾げてきます。
「な、なに?」
「何でもないですよ」
にっこりと笑顔で言います。ソフィアは首を傾げたままでしたが、すぐに気を取り直したように言いました。
「うん。やっぱり、会うのはやめておく。本来ならここに入り浸るのもよくないことだし」
「そうですか……。分かりました。お父様にはこちらから伝えておきます」
「うん。お願い」
それなら仕方ありません。
次の手段。そう、次の手段です。
「ではまた別のお誘いなのですが」
「なに?」
「近々お祭りがあります」
この王都では、年始の大きなお祭りの他、不定期でお祭りが開かれます。何かおめでたいことがあったり、お客様を歓迎したりと、理由は様々です。今回は、ソフィアのために開こうということになっています。もちろん、公には別の理由となりますが。
「お祭り?」
「はい。よろしければ、一緒に見て回りませんか?」
「んー……」
これもあまり乗り気ではないようです。いえ、よくよく観察すれば、どちらかと言うと別の理由で悩んでいるといった様子でしょうか。
急かすことはせずにじっと返答を待っていると、やがてソフィアが言いました。
「日程は?」
「四日間です。日付は……」
日付を伝えると、さらにソフィアが考え込みます。
「えっと……。友達も一緒でいいかな……?」
友達、ということは例のウルフに乗った女の子でしょうか。それはむしろ、フェルトが会いたいです。
「もちろん」
フェルトが頷くと、ソフィアは安堵のため息をついて、
「それじゃあ、行ってみようかな」
そう言いました。
・・・・・
北の森のいつもの広場で、スピカはたくさんの動物たちに囲まれていました。みんなで集まってお昼寝をしています。もふもふもすべすべもみんな一緒です。至福。
今日は兄も一緒です。スピカと同じ黒髪黒目の少年で、魔法を覚えていない剣スキル特化の剣士です。ちなみに、魔法スキルを覚えていない、もしくは上げていない武器スキル特化のプレイヤーは無色と呼ばれています。
兄も動物が好きで、スピカに一緒に行きたいと頼んできました。兄なら大丈夫だろうとここにいます。
兄の側にはウルがいます。動物たちにあまり相手にされない兄をかわいそうに思ったのか、慰めているようです。兄は苦笑しつつも、ウルのもふもふを堪能しています。
「ここに、以前まで銀麗の魔女がいたの?」
兄が聞いてきたので、スピカはうさぎの毛皮から顔を上げて言います。
「うん。ここで動物たちにえさをあげたりしてたよ」
こんな風に、とスピカは銀の魔法を使います。魔力が集まってきて、できあがるのはブロック状のえさです。それを作った瞬間、動物たちがさらに群がってきました。
「わああ!?」
「スピカ!?」
すぐに兄に救出されて、兄に肩車してもらいます。死ぬかと思った。