気を取り直して、えさを投げます。たくさんの動物たちがさえに群がります。みんなが食べられるようにたくさんまきましょう。余っても勝手に消えるので大丈夫です。
「お兄ちゃんも。はい」
「ああ、うん」
兄の手にえさを握らせます。兄はおっかなびっくりといった様子で、側にいたうさぎにえさを差し出しました。うさぎはぱくりとえさを食べます。兄の頬が緩みました。
「これは……いい……」
「でしょ?」
動物好きならこれはくせになるでしょう。どの子も人懐っこいのです。まあみんな兄よりもスピカの方が好きなようで、スピカに群がりますが。
「ほらほら、お兄ちゃんも怖くないよー」
「兄としての威厳が……」
「威厳……?」
「え」
固まる兄に、冗談だよと笑います。そうしてまたえさを投げようとしたところで。
動物たちが一斉に動きを止め、ある一点へと視線を投げました。初めてのその反応にスピカと兄も同じ方を見ます。
そしてすぐに。唐突に。空間がぐにゃりと揺れて、ぽっかりと黒い穴ができました。そして出てきたのは、白いローブの女の子。
「あ、ソフィアちゃん!」
「スピカちゃん。良かった、ここにいた……、わあああ!?」
ソフィアに群がる動物たち。小柄なソフィアはすぐに動物たちに埋もれて見えなくなってしまいました。
「むぎゅう」
「ソフィアちゃん!? お兄ちゃん助けて!」
「わ、分かった!」
兄と一緒に大慌てで動物たちを抱き上げ、横へと逃がして。
どうにかソフィアを助け出しましたが、すでにすっかりと目を回してしまっていました。
「し、死ぬかと思った……」
「あ、あはは……」
「動物に好かれすぎるのも困りものだね」
草原にへたり込むソフィアと、その向かい側に座るスピカと兄。お互いに苦笑いです。
動物たちはスピカたちを囲むように座っています。さすがにちょっと反省したようです。少しだけ本気でソフィアが怒ったのも理由かもしれません。殺す気なのかと一匹一匹に問い詰めていました。スピカですら怖かったです。
「そっちの人は誰?」
ソフィアが兄を見ながら聞きます。兄が頭を下げて、
「初めまして、銀麗の魔女ソフィア。僕はラーク。剣士だよ」
「で、私のお兄ちゃん」
スピカが付け加えておきます。ソフィアはへえ、と少しだけ目を丸くしました。
「動物は好き?」
「ん? 大好きだ!」
「うん。良かった。みんなと仲良くしてあげてね」
ソフィアの言葉に、もちろんと兄が頷きます。
「それで、ソフィアちゃん。急にどうしたの? びっくりしたよ」
「たまには友達の顔を見たいなと思って。だめだった?」
「だめじゃない!」
ぎゅっとソフィアを抱きしめておきます。ソフィアは戸惑いながらも、同じように腕を回してくれました。やっぱりソフィアはいい子なのです。
「まあ、スピカちゃんに用事もあったんだけどね」
お互いに解放してから、ソフィアがそう言います。そうなの? とスピカが首を傾げると、ソフィアは頷いて、
「スピカちゃん。お祭りに参加してみない?」
そう聞いてきました。
「お祭りなんてあったっけ?」
兄が首を傾げて、ソフィアが言います。
「始まりの町じゃなくて、南の王都であるんだよ」
「南の王都!?」
兄が驚愕に目を見開きます。ソフィアが首を傾げ、スピカもどうしてそんなに驚くのか分からずに兄を見返します。
「スピカ。まだ誰も行ったことがないよ。王都なんて」
「そ、そうなの?」
重々しく頷く兄。スピカも、知らず知らず喉を鳴らします。
この場所のように隠されているわけでもなく、単純にそこまで攻略が進んでいない場所。攻略勢と言われる人たちが一先ずの目的地として定めている場所の一つです。
「参加って……。私も南の王都に行けるの?」
何か条件があるのでは。そう思って聞いてみると、むしろソフィアの方が首を傾げました。
「もちろん行けるけど……。何かあるの?」
どうやらソフィアにとっては特別なことではないようで。それならば、一緒に行けるのでしょうか。
「行ってみたい」
少しだけ緊張しつつもそう言うと、ソフィアは柔らかく微笑みました。
「それじゃあ、決まりだね。お兄さんはどうする?」
「え? 僕も一緒に行っていいの?」
「もちろん。赤の他人ならともかく、スピカちゃんのお兄さんなら信用するよ」
「そ、そう……? どうしようかな……」
悩む素振りを見せる兄。スピカとしては、見知らぬ土地に行くのでやはり知り合いは多い方がいいです。兄を上目遣いでじっと見ます。う、と兄がうめき声を漏らして、やがて肩をすくめました。
「それじゃあ、参加させてもらうよ」
「うん。了解。日程だけど……」
ソフィアからお祭りの四日間を教えてもらいます。都合のいい日を聞かれて、少し困りました。なぜ四日間もあるのでしょうか。
「冒険者に配慮しているんだと思うよ。ここでの四日間がリアルの一日だから」
兄にそう耳打ちされます。なるほど、と手を叩きました。
「じゃあ、どの日がいいのかな?」
「ちょっと待って。変換するから」
このゲームのメニューには、ここの日付とリアルの日時の検索機能があります。リアルの日時、もしくはゲーム内の日付を入力すれば、対応する日時が表示されるというものです。
兄がメニューを操作するのを黙って見つめます。その間、ソフィアはウルをもふもふしています。ウルも満更ではなさそうです。
「よし。それじゃあソフィアさん。この日程の参加でいいかな」
兄が示した日時に、ソフィアは頷きました。どうやら反対はないようです。
「それじゃあ、また迎えに来るね」
そう言って、ソフィアはすぐに帰ろうと踵を返してしまいます。スピカは慌てて呼び止めてしまいました。
「ソフィアちゃん!」
「ん……? どうしたの?」
「えっと……。もう少し、ゆっくりしていかないかなって……」
ようやく再会できた友人です。できれば、少しぐらい一緒に遊びたいのです。
スピカのその想いが伝わったのでしょう。ソフィアは戸惑っていたようでしたが、やがてにっこりと笑顔を見せてくれました。
「うん。じゃあせっかくだし、みんなと遊んで行こうかな」
ソフィアがそう言った直後、動物たちが嬉しそうに鳴き声を上げました。どうやら、嬉しいのは動物たちも一緒のようでした。