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挨拶を終えた後は早速四人で祭りに参加します。
まだ朝の時間帯ですが、多くのお店が営業を開始していました。あちこちから客寄せの声が聞こえてきます、お祭りは日本のお祭りと大差ないようで、軽食を提供している屋台もあれば、ちょっとしたゲームができる屋台もあります。
スピカが隣を歩くソフィアを見ると、彼女の目は主に軽食の屋台を見ているようでした。
「まずは何をしましょう。ソフィアちゃん、希望はありますか?」
「んー……。スピカちゃんに任せる」
「なんで!?」
まさか自分に振られるとは思いませんでした。しかしどう見ても、ソフィアはご飯を食べたいようです。視線が軽食にしか向いていません。ここで遊びたいと言えるほどスピカも空気が読めないわけではありません。言えばどんな反応をするか見てみたいですが。
「何か食べたいかな。フェルトちゃんのお勧めは?」
無難な回答を選択してフェルトへと投げれば、そうですねと少し考えて、
「昨日食べたものでは、あの屋台のたこ焼きが美味しかったと思います」
「たこ焼き?」
「たこ焼き!」
ソフィアはどんな食べ物か分からなかったのか、首を傾げています。スピカはこのゲームにもあるのかと目を輝かせました。
「スピカちゃんは知ってるの?」
「知ってる! 美味しいよ!」
スピカが何度も頷くと、ソフィアは興味を覚えたようでした。早速、フェルトの案内でたこ焼きの屋台へ向かいます。
店員のおじさんはとても気さくな人のようです。にこやかに笑いながら、たこ焼きを焼きつつパックに入れて販売までこなしています。その動きの速いこと、まさに達人です。
「五ついただけますか?」
フェルトが声をかけると、おじさんはあいよ、と元気よく返事をして、そしてフェルトを見て目を見開きました。
「これは驚いた! 王女様じゃないか! 今日も買ってくれるんですかい?」
「はい。今日はお友達も一緒です」
そう言って、フェルトがスピカたちの方を見ます。おじさんは気を良くしたのか、そうかそうかと笑いながらたこ焼きをパックに詰めていきます。
「はいよ! 本当は六個入りなんだけど、七個入れといたよ!」
「ありがとうございます。でも、いいんですか?」
「もちろんさ! 王女様に気に入っていただけるなんて光栄だからね!」
あっはっは、とおじさんは本当に嬉しそうです。フェルトはありがとうございますと目礼すると、すぐにスピカたちを連れてその場を離れました。周囲が何事かとフェルトを見ていたためでしょう。
十分に離れてから、パックを開けます。湯気と共にいい香りが鼻をくすぐります。ごくり、と誰かの、というよりソフィアの喉が鳴りました。
「い、いいの?」
ソフィアがフェルトへと聞きます。フェルトが頷くと、ソフィアはそっとたこ焼きを口に入れました。少し熱かったのか、はふはふと食べるのに苦労しているようです。少しして呑み込んで、ほう、と感嘆の吐息を漏らしました。
「美味しい……」
ソフィアはとても幸せそうです。それを見ていると、スピカもなんとなく嬉しくなります。フェルトも同じように思っているのか、お互いに笑顔を見合わせました。
スピカも食べてみます。外側はぱりぱりと楽しく、中はふわふわとろとろ食感。たこの固さがいいアクセントになっています。なるほど、これは、美味しい。
「ウルとラビも。はい、あーん」
スピカが差し出したたこ焼きを、二匹とも嬉しそうに口に入れました。はふはふと、やはり熱そうにしていますが、とても美味しそうに見えます。
「もっと食べる? いいよー」
すり寄ってくる二匹に次のたこ焼きをあげます。二匹とも、とても美味しそうに食べてくれます。スピカも楽しくなるというものです。
「いいなあ……」
それを羨ましそうにフェルトが見ていて、そのフェルトをソフィアが見つめていました。
食べ終わった後も、たくさん屋台を見て回りました。焼きそばとかリンゴ飴とか、お祭りの名物と言えるものも食べています。ソフィアはリンゴ飴を気に入ったようで、三個も食べていました。これにはフェルトも少し頬を引きつらせていました。
たっぷりと屋台を楽しんで、お昼過ぎになりました。次はどうしようかということになって、
「ちょっと森に行きたいんだけど、いいかな?」
ソフィアがそんなことを言いました。
「森? 何かあるのですか?」
「うん。ちょっと」
不思議に思いながらも、四人は森へと移動します。最初の門を通り、王都の外へ。兵士さんが着いてこようとしましたが、フェルトが必要ないと言い張ると渋々と従いました。
ソフィアに案内されて、森の広場へ。どうやら森の多くに、ちょっとした広場は必ずあるそうです。もっとも、ソフィア曰く、特殊な魔法がかけられていて普通ではたどり着けないそうですが。
「フェルトちゃん。これ、あげる」
ソフィアがそう言って差し出してきたものは、何かの紙片でした。複雑な魔方陣が描かれています。首を傾げるフェルトに、ソフィアが言います。
「この森のモンスターには話を通してある。これを見せて、友達になりたいって言えば、使役できるよ」
「つまり、魔法を使えるアイテムってことか。今回は青の魔法の使役と」
「そう。さすが冒険者だね」
ラークの言葉に、ソフィアが頷きます。これがあれば、青の魔法を覚えていなくてもモンスターの使役ができるそうです。
「えっと……。どうして……?」
「羨ましそうにしてたから」
ソフィアの言葉に、フェルトの顔が赤くなりました。スピカはよく分からないままですが、まあ二人の間でわかり合えているなら大丈夫なのでしょう。
「スピカ。モンスターとの会話はできるようになった?」
ソフィアがそう言った瞬間、ラークがぎょっとした様子でスピカを見ます。それに気づいたソフィアが、一瞬だけ怪訝そうに眉をひそめて、そしてすぐにはっとしたようにスピカに視線を戻しました。スピカは苦笑いです。
「もしかして、会話ができること、黙ってたの……?」
「えっと……。うん。黙ってた、というより、できるようになったのが昨日で、まだ話してなかっただけなんだけど……」
「そうなんだ。ごめんね、言うべきじゃなかった」
「ううん。気にしないで。帰ったら報告しようと思ってたから」
申し訳なさそうに眉尻を下げるソフィアと、笑って手を振るスピカ。フェルトとラークの二人は、まさかと目を見開いたままです。
「スピカ。もしかして、会話できるの? 動物とか、モンスターと」
「うん。はっきりとした会話じゃなくて何となく分かる程度なんだけど、できるよ」
「うわあ……。銀の魔法、規格外にもほどがある……」