銀麗の魔女   作:龍翠

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閑話 運営休憩室

 都内にある高層ビルの一室。そこはサンクチュアリ運営部の休憩室だ。その部屋には壁一面の大きなモニターがあり、サンクチュアリ内のあらゆる場所を映している。

 

「おお、ついに最初のエリアボスが倒されたか。これは近いうちに次の町までたどり着きそうだな」

「王都は今年中かな? 思惑通り南側の攻略が活発みたいだけど」

「あ、面白いプレイヤー発見。メモしないと」

 

 サンクチュアリのゲーム内の様子は休憩中の彼らにとっての娯楽だ。もちろんここで見たことは、会社外では他言無用となっている。もしも他言してそれが露見した場合は、解雇どころか会社から訴えられることになっているので、皆が徹底している。

 そのモニターだが、あらゆる場所を小さく区切っていくつも流しているのだが、隅に他よりも大きく映されている映像がある。休憩中の半数はそれを見ている。

 

 大きな映像は二つ。一つはプレイヤー名スピカの映像。銀麗の後継者という、運営すら把握していなかった称号を獲得してしまった少女。

 もう一つは、銀麗の魔女本人。ただ、運営が知っている銀麗の魔女はシエラという二十代に見える女性だったはずだが、今は幼い女の子になっている。弟子を取って引き継いだらしい。そのシエラが現在何をしているのか、それは運営の彼らですら把握できていない。

 

「このプレイヤーが称号をもらった時はどうなることかと思ったけど……」

「騒ぎにならなくて一安心、ですね。どうやら悪用するつもりもないようですし」

 

 数人がスピカを見守りながらそう口にする。スピカはいつもの森で動物たちと戯れていた。これを見ているだけで和むというものだ。ちょっとしたアニマル動画になっている。

 

「全モンスターがノンアクティブとか、ダンジョンの報酬全てリスクなしで回収できるってことだからなあ」

「そういうことをしない子で良かったですね。むしろ動物たちと遊ぶだけで満足してそう」

「あはは。ある意味このゲームを一番楽しんでる子かもしれないな。……あ、うもれた」

「おお、もふもふパラダイス。大変そうだけど、本人楽しそう。なんかもう、表情が恍惚としてるし」

「どんだけ動物が好きなんだ」

 

 見守りながら、思わず微笑む。本当に、運営としては楽しんでもらえて何よりだ。

 さて、銀麗の魔女はと言えば。

 

「なんで王城にいるの!? なんで王女と接触してるの!?」

「相変わらず予想できない行動するな銀麗は……」

 

 まだまだ解放が先になるだろう南側の王都の王城で王女とお茶を飲んでいる。数日前までは四聖獣の“炎帝”朱雀と会っていたはずだ。本当に予測がつかない。

 彼女たちが食べているのはバウムクーヘンか。ぐう、と誰かがお腹を鳴らした。

 

「先輩、ちょっとコンビニ行ってきていいですか?」

 

 スーツをきっちり着こなした女が言う。問われた男は時計を見る。

 

「休憩はあと何分だ」

「う……。十分……」

「少し遅れても構わないから全員分買ってきてくれ。俺も食いたい。ほれ、金だ。余った金は冷蔵庫にぶち込む飲料を買ってきてくれ。レシートの釣りはちゃんとくれよ」

 

 上司に渡された五千円札を恭しく受け取り、早速休憩室を出て行く。再びモニターへ。銀麗は美味しそうにお菓子を食べるので少し困る。出費がかさむ。

 

「王女は銀麗に気づいてないのかな?」

「反応を見る限りそうみたいですね。あの世界の人たちにとって、銀麗と至金は特別なはずですし」

「休憩終了だ戻るぞ!」

「りょうかーい」

 

 ぞろぞろと休憩室を出て行く人々。そして入れ替わりに休憩室にまた入ってくる人々。この休憩室は交代制で利用されているため、人がいないことはほぼない。ある意味で二十四時間の監視体制だ。主に銀麗の。

 

 

 

 数日後。休憩室でそれに気づいた彼らは、半ば呆然としていた。

 

「これ、お祭り、か……?」

「なんで? いつの間に? まだプレイヤーがたどり着いていないのに?」

 

 南の王都ではお祭りが開催されていた。プレイヤーがいない町そのものの監視なんてしていないので、気づくのに遅れてしまった。たくさんの屋台が並び、とても楽しそうな雰囲気だ。

 それに気づいた理由は単純に、銀麗と、そしてその後継者が一緒に参加していたためだ。

 

「もしかして、王女と何か話していたのはこれか……?」

 

 銀麗たちの側には王女もいる。この三人が偶然居合わせたとは考えづらい。そもそもスピカの方は普通の方法ではこの王都まで来ることができないはずだ。

 

「会話を確認しておいた方が良かったですね……」

 

 この映像、音声は流れていない。それもそのはずで、ゲーム内の時間は四倍で流れている。つまりこの映像は四倍の早回しで流れているようなものなのだ。音声を流しても聞き取れるとは思えない。

 問題があればその時間を検索して、後ほど等倍で確認するのだが、銀麗はわざわざそれをするときりがなくなってしまう。故に基本的には放置されていたのだが、それが裏目に出てしまったらしい。

 

「ちょっと確認してきます」

 

 誰かがそう言って休憩室を出て行く。その後も皆の視線は銀麗たちに釘付けだ。

 

「この少年は誰だ?」

「ああ、その子はスピカちゃんのお兄さんですね。関わりなんてなかったはずですけど……」

「もう何がなにやら……」

 

 その後、確認のために出て行った職員が戻ってきて、その報告からこの祭りは銀麗の魔女のために催されたものだと判断された。

 

 

 

 さらに映像は続く。銀麗たちは王都から出ると、外の森を歩いている。どうやら何か目的があるらしく、会話をしているのが分かる。

 そうして見守っていると、ソフィアを残して三人だけが離れていく。

 

「なんだなんだ?」

 

 二つの画面を皆で見守っていると、スピカたちの前にフェンリルが現れた。突然のことに驚く彼らだが、そこはさすがに運営の者たち、あのフェンリルが何かを知っている。

 

「あれって、エリアキーパー?」

「ああ、そうか。スピカちゃんに反応したのか」

「いやいや、ちょっと待って。今の担当は誰だ!?」

 

 そう。このエリアキーパー、通常のモンスターと違い、実はプレイヤーと同じなのだ。運営の人間が、交代で中に入っているのがエリアキーパーだ。故に銀麗の後継者の称号は意味を成さない。エリアキーパーはモンスターではなく、プレイヤーなのだから。

 そうこうしているうちに、銀麗の魔女が合流。そして彼女はとんでもないものを呼び出した。

 

「うっわ……」

「白虎って……。かわいそうに……」

 

 AIたちはあの世界で生きている。画面越しではあまり分からないが、直接相対すれば、殺気なんてものもリアルに感じてしまう。今、白虎に睨み付けられているフェンリルの中の人間は何を感じているだろうか。

 

 

 

 しばらくして、休憩室にフェンリルの中に入っていた女性が戻ってきた。同情の視線を向けられ、女性は見ていたんですねと苦笑する。上司から手渡された缶コーヒーを有り難く頂戴した。

 

「今日はもう帰るか? さすがに、まあ、なんだ。認めるぞ?」

「あはは……。そうします。とりあえずこれ、報告書です」

「ああ。ありがとう」

 

 女性は上司に数枚の用紙を渡すと、ふらふらとした足取りで戻っていった。かわいそうに。

 

「ああ……。新しいAIのモンスターを渡したのか。ふむふむ。なるほど」

 

 報告に問題はないと判断しておく。妥当な落としどころだろう。銀麗の魔女の反感を買っていないだけで十分だ。

 

「それにしても……」

 

 未だあまりプレイヤーが関わっていないにも関わらず、この騒ぎだ。先が思いやられる。

 

「どうするんですか? 次のイベント。シエラさんに協力をお願いしてましたよね?」

「あー……。早まったかなあ……」

 

 初代銀麗の魔女シエラ。彼女への連絡方法は持っており、それを使ってあることをお願いしていた。ただ、この騒動を考えると、早計だったかもしれない。

「まあ、なんだ。もう話は通してしまってある。がんばろう、諸君」

 その上司の言葉に、彼らは乾いた笑みで応じていた。

 

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