銀麗の魔女   作:龍翠

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 そして意味が分かりました。

 

「君たちがソフィアの友達。うん。良い子そう。良かった」

「えっと……。あの……?」

「どちら様、ですか?」

 

 スピカとフェルトが会話している相手を見て、ソフィアは頭を抱えたくなりました。何故、ここにいるのか、と。

 

「とりあえずぎゅー」

「わわ!?」

「な、なんなんですかー!」

 

 白いローブに金の髪の女に、スピカの友達二人は抱きしめられています。相変わらず自由な人です。ソフィアは呆れつつも、変わらないその姿に少し安心もしました。ですが、友達二人がわたわたしながら涙目になっているので、そろそろ助けた方が良いでしょう。

 

「何してるの、ししょー」

 

 ソフィアが呼ぶと、女が、師匠であるシエラが顔を上げます。友達二人が驚愕に目を見開いて、シエラのことを見つめています。

 

「ん。愛弟子に友達ができたと聞いたから、会いに来た。とてもかわいい。お持ち帰りしたい」

「やめなさい」

 

 冗談のように聞こえますが、この師匠は本当にやります。夜には解放するでしょうが、自分の世界に連れて行ってしまいます。当然ながら、銀麗の魔女以外は出入りできないので、逃げることは不可能です。

 ソフィアがじっと師匠を睨むと、師匠はばつが悪そうに目を逸らしました。

 

「ん……。冗談」

「うん」

 

 師匠は色々と思考がぶっ飛んでいるので、注意が必要です。改めてそう思いました。

 

「でも、だからお招きする。二人とも、お茶しに来ない? 今ならソフィアの恥ずかしい話やあることないことも教えてあげる」

「師匠?」

「う……。冗談、だよ? だからほら、ししょーって呼んで?」

「もう……。ほどほどにしてよ、ししょー」

 

 本当に、油断できません。

 

「うん。この舌っ足らずな言い方が、いい。かわいい。私の弟子は世界一」

「はいはい。それで、どこまでが本気なの?」

「むう。全部本気なのに」

 

 やれやれ、と首を振る師匠。ソフィアはそろそろ怒ってもいいのではないでしょうか。

 スピカとフェルトがウルたちを連れて、今のうちにとばかりにソフィアの背中に隠れます。そこの方が安全だと判断したのでしょう。賢明です。もっとも、師匠が本気になれば、ソフィアでも止められませんが。

 

「ソフィアの友達に挨拶したいっていうのは本当。お茶とお菓子も用意してる。来ない?」

 

 師匠が首を傾げて聞いてきます。ソフィアから見ても美人な師匠です。その仕草はとても様になったもので、思わず顔が赤くなります。

 

「えっと……」

 

 ソフィアの後ろで、スピカとフェルトが返事に困っているのが分かります。そして、助けを求めるかのようにソフィアへと視線を投げてきました。行ってもいいのかと不安に思っているのでしょう。大丈夫だと頷くと、二人は安堵したように微笑みました。

 

「それじゃあ、あの……」

「お邪魔してもいいですか……?」

 

 恐る恐るといった様子で二人が言います。それを聞いた師匠は、とびきりの笑顔を浮かべました。

 

「よし! それじゃあ早速行こう!」

「ま……」

 

 待って、とソフィアが止める間もなく、師匠は杖を振ってしまいました。

 そして次の瞬間には、始まりの町から四人と四匹の姿が忽然と消えていました。

 

   ・・・・・

 

 そこは、小さな島でした。

 美しいコバルトブルーの海の上に、小さな島だけが浮いています。ただし、小さな、といっても、スピカからすればとても大きな島です。小さいというのはスピカとシエラの言葉だけです。

 

「ししょー……」

 

 ソフィアからの非難がましい視線を受けて、シエラはこほんと咳払いを一つ。

 

「お茶とお菓子をとってくる」

 

 そう言って、側にある小さな家にそそくさと歩いて行ってしまいました。つまりは逃げました。

 残された三人は、特にソフィアは大きなため息をつきました。まったく、と小さく文句を言っていますが、けれどその顔はどことなく嬉しそうです。

 

「あの人が、ソフィアちゃんの師匠?」

 

 スピカが聞くと、ソフィアは頷いて答えます。

 

「うん。初代銀麗の魔女シエラ。私の育ての親でもあるよ」

「育ての親、ですか?」

 

 首を傾げたのはフェルトです。ソフィアが続けます。

 

「うん。私は拾われたんだよ。本当の両親は、事故で死んじゃった」

 

 こっち、とソフィアが歩き始めます。向かう先は家の前のテーブルでしょう。用意してあったのか、木製の可愛らしいテーブルと椅子が四つありました。

 その一つにソフィアが座り、向かい側にスピカが、その隣にフェルトが座ります。

 

「そんなに特別な話じゃないよ。馬車で別の町に行く途中に崖から落ちて、両親が先に死んで私だけが助かって。でもどうすることもなく途方にくれていたら、ウルフがたくさんきて……」

「それで、師匠に助けられたの?」

「うん。そう。ウルフを追い払ったししょーが、私に言ったの。孤児院に入るか、私の元に来るか選びなさいって。あの時のししょーはかっこよかったなあ……」

 

 懐かしそうに、そしてどこかうっとりと、ソフィアが言います。あまり見ないその表情に、スピカたちの方が少し照れてしまいます。

 

「それでね、一緒に行きますって答えたんだよ」

「へえ……! これはあれだね、私の魔法を伝授してやろう、とかそんなことを言ったってことかな?」

 

 それは、ある意味では運命だったのでしょう。ちょっとだけ感動、していたのですが。

 

「いやー……。それがねえ……」

「うん?」

「合法的なお持ち帰りきたこれ、って言った」

「台無しだよ!」

 

 ソフィアが色々とぶっ飛んでいると言った理由が分かりました。なるほど確かにぶっ飛んでいます。もちろん悪い意味で。感動も何もありません。

 

「まあ、それでも、ししょーはすごく優しかったよ。本当のお母さんみたいに思ってる。魔法の授業の時はとても厳しかったけど、危険な魔法だからね」

 

 ソフィアは、心から師匠のことを尊敬しているようです。語るソフィアの顔は、嬉しそうで、そして誇らしそうでした。こうして師匠のことを話せるのが嬉しいというのがよく分かります。

 でも、とソフィアが続けます。

 

「外に出てまでぶっ飛んだ発言するのはやめてほしいなあ……」

「あー……」

 

 フェルトと二人、何も言えなくなります。お持ち帰り発言は色々とだめだと思うのです。

 

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