銀麗の魔女   作:龍翠

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 ケーキを食べ終えて、シエラを交えてたくさん話をして。そろそろ帰ろうという時になって、シエラが言いました。

 

「三人に、いい子をあげよう」

「いい子……?」

 

 頷いたシエラが家に入り、そして戻ってきて、それを見せてくれました。

 毛玉でした。腕で抱える程度の大きさの毛玉でした。その毛玉に可愛らしい目があって、くりくりとしています。毛玉はふわふわです。柔らかそうです。もふもふしてそうです。

 

「殺人毛玉だー!」

 

 スピカのテンションがうなぎ登りです。両手をわきわきさせています。ちょっと目が危ないです。

 

「もふっていい!? もふっていいよね!?」

「え? あ、うん。どうぞ?」

 

 さすがにシエラもスピカのテンションにたじたじです。シエラからもふもふ毛玉を受け取ったスピカは、はわあ、と感嘆の吐息をつきました。つぶらな瞳が不思議そうに見つめてきます。さっそく抱いてみると、ものすごく柔らかい生き物です。ずぶずぶと指が沈んでしまいます。毛の部分が多いようですが、ならこの目はどこに? 不思議です。

 毛玉は特に嫌がるような素振りは見せず、むしろもっと構えとばかりにすり寄ってきます。なんだこれ。なんだこれ。

 

「かわいいいいいい!」

 

 もふもふぎゅー。スピカのテンションは天井知らずに上がっていきます。

 

「あー……。ソフィア。あの子がおかしくなったけど……」

「大丈夫。ただの発作」

「発作……。いや、まあ、いいけど」

 

 微笑ましそうな友人二人とは対照的に、シエラは明らかに少し引いています。どうやらシエラにも常識人の部分があったようです。

 

「二人にも、はい」

 

 シエラがどこからともなく毛玉をさらに二匹召喚して、手渡しています。二人はそれを受け取ると、フェルトはスピカど同様に抱きしめて、ソフィアは毛玉をまじまじと見つめました。

 

「これは……。精霊?」

「ん。この精霊は特殊で、たくさんいるけど意識は一つしかない。伝言に便利」

「へえ……。知らない精霊だ。そんな子がいたんだね」

 

 もふもふ。ソフィアも毛玉をにぎにぎしています。その頬はいつもより、というよりもどう見てもゆるゆるです。

 

「シエラさん! この子はお持ち帰りしていいんですか!」

 

 スピカの問いに、シエラは薄く苦笑しつつ頷きました。

 

「いいよ。大事にしてあげてね」

「わーい!」

 

 スピカの喜びようが尋常ではありません。どうやらスピカの好みにばっちりはまってしまったようです。ほらほら、とウルに見せています。頭に毛玉を載せられたウルは少し困惑しているようでした。

 

「面白い子だね。本当に」

 

 シエラの、どこか楽しげな声に、

 

「でしょ?」

 

 ソフィアは笑いながら頷きました。

 

   ・・・・・

 

 始まりの町ではちょっとした騒ぎが起きていました。今まで誰にも場所を知られていなかった銀麗の魔女がいる、という噂が全プレイヤーに伝わった結果です。何としても銀麗の魔女に会いたい、そしてあわよくば銀の魔法を習得したい、というプレイヤーが銀麗の魔女を捜し回っていました。

 その光景を広場で眺めているラークは、スピカへとメッセージを送ります。

 

「入口近辺は探し終わったみたいで、比較的落ち着いてる。中心あたりはまだまだ騒がしいから、戻ってくる時はそれを考慮するように、と」

 

 そろそろ戻りたいというスピカからのメッセージへの返答です。どうやらスピカは全く違うエリアにいるようで、戻ってくる時はこの町のどこかだそうです。ある程度は融通がきくらしいので、入口近辺がいいでしょう。

 もちろんこの周辺にもプレイヤーはいますが、彼らは銀麗の魔女にあまり興味がない者たちです。いわゆる生産職だったり、NPCとの交流をメインとしている方たちです。そのため、ここに銀麗の魔女が突然現れても、驚きこそすれ騒ぐことはないでしょう。

 さらに少し待つと、突然、本当に突然、目の前に四人の人影と数匹の獣が現れました。果たしてそれは、ラークの妹とその友人たちでした。

 

「あ、お兄ちゃん」

 

 スピカが駆け寄ってきて、そして何かを見せてきました。丸いふわふわした毛玉。のような生き物。首を傾げるラークに、スピカが言います。

 

「この子、もらったんだよ! 名前はふわる!」

 

 おい何だその名前は。思わず頬を引きつらせて、フェルトとソフィアを見ます。二人そろって目を逸らしました。

 

「ん? あたしが考えた名前だけど。文句があるの?」

 

 見覚えのない女が目を細めます。ラークは慌てて首を振りました。

 

「そう。ならいい」

「えっと……。ところで、あなたは?」

「ん? シエラ。先代銀麗」

 

 つまりは、ソフィアの師匠ということでしょうか。とんでもない大物が出てきているような気がしますが、本人とソフィアの気質がそうさせるのか、なんだかありふれた出来事のように思えてしまいます。

 ただ当然ながら聞き耳を立てていた周囲のプレイヤーは、ぎょっとした様子で驚いていました。なるほどこれが普通の反応。どうやらラークも気づかないうちに彼女たちに染まりつつあるようです。

 

「あー……。これからどうするの?」

 

 おそらく、じきに中央部分に行っているプレイヤーが戻ってくることでしょう。そうなる前に解散した方がいいとは思うのですが、こればかりは彼女たち、特に先代銀麗次第でしょう。

 三人の視線がシエラへと向きます。シエラは少し考えて、そして周囲の様子を確認して、どこか残念そうにため息をつきました。

 

「ん。騒ぎになりそう。いや、なってるみたい。私はもう帰るよ。ソフィアと、フェルトも早めに帰るように」

 

 そう言って、そしてすぐにシエラは姿を消しました。あっという間でした。

 周囲の様子を確認、ということは自分の立場や知名度などを自覚しているということでしょうか。

 

「お兄ちゃん。シエラさんはリアルやその事情も知ってるんだって」

「……!」

 

 そんなNPCがいるのか、と驚くラーク。さすがにそれは予想外です。

 ラークが唖然としている間に、少女三人は別れの挨拶をしていました。どうやらこのふわるという生き物のような何かで連絡を取り合うようです。

 

「それじゃあ、ソフィアちゃん。フェルトちゃんをお願いね」

「うん。行くよ、フェルトちゃん。またね、スピカちゃん」

「はい! また会いましょう、スピカちゃん!」

 

 そうして、少女二人が消えました。残されたスピカは少しだけ残念そうに、そしてどこか寂しそうにしています。

 

「楽しかったかい? スピカ」

 

 ラークがそう聞けば、

 

「うん! って、わあ!」

 

 返事をしたスピカは、そのまま自分のモンスターたちに襲われていました。彼らなりに励まそうとしているのかもしれません。楽しそうにはしゃぐスピカを見ながら、ラークは思わず噴き出してしまいました。

 

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