銀麗の魔女   作:龍翠

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第四話 ミオとレナ
01


 サンクチュアリで、特殊なクエストが発見されました。現在の攻略最前線、始まりの町の南、最初の村の側にそのクエストはあったそうです。

 村の側には特殊な森があります。周囲がまず森なので判別しにくいのですが、葉っぱが薄く紫色になっている森です。その紫色は奥に進めば進むほど濃くなっていき、そしてある程度奥まで進めば、プレイヤーに毒のバッドステータスが入ります。この毒は通常のポーションでは治癒できず、どうやらフィールドの効果らしいということになっています。

 

 そしてさらに奥に行けば、毒をまき散らすモンスターと対峙することになります。人と同程度のサイズの、鱗が紫色のドラゴンです。そのドラゴンは動くことなくじっと森の奥で佇み、プレイヤーが訪れた時のみ襲いかかってくるモンスターです。

 このドラゴンについて、出会ったプレイヤーが村で情報を集めたところ、村の人々が教えてくれたのです。

 

 昔から側の森に棲み着いていたドラゴンでしたが、人々に危害を加えることなく、森の奥で静かに暮らしていたそうです。ですがある日から、何故かドラゴンは毒に侵されました。毒はドラゴンを殺すことはなく、それどころかドラゴンに取り込まれました。それだけなら良かったのですが、なんとドラゴンが毒をまき散らすようになってしまったそうです。それも、当のドラゴンが制御できない形で。

 それ以来、ドラゴンはさらに森の奥深くに潜み、動かなくなりました。様子を見に来た人々も、威嚇し、時に少し攻撃して追い返します。それは全て、何も知らない人が毒に侵されないようにという配慮からくるものでした。

 

 村人たちはどうにか毒を治そうと奔走しましたが、通常の毒消しは量があっても効果はなく、時間ばかり過ぎていきます。ドラゴンは、どんどんと苦しそうになっていっているそうです。

 そうして、村の人々はプレイヤーである冒険者に依頼します。あのドラゴンを楽にしてやってほしい、と。つまりは、討伐してほしい、と。これ以上、苦しまないように。

 

 

 

「と、いうのが設定よ」

 

 紫色の森を進みながら、その女は言いました。腰まで届く青い髪に金の瞳を持つ冒険者です。どこかのゲームで見たことのあるような、武闘家が着る服を着ています。事実彼女は武器スキルではなく、体術スキルをメインに上げているプレイヤーです。

 話の相手は白い法衣を身に纏った少女。先の女よりも年下に見える少女で、金の髪に青い瞳です。見た目通り、白の魔法をメインに上げている回復特化のプレイヤーです。一人で活動できるように棒術を軽く上げているそうですが、最前線では通用しない程度だそうです。

 

「えっと……。それで、討伐するんですよね? ミオさんは何か良い方法を考えているんですか?」

 

 ミオと呼ばれた女は不敵に笑って答えました。

 

「レナの回復頼みよ!」

「えー……」

 

 レナと呼ばれた法衣の少女が露骨に顔をしかめます。ですがすぐに、まあいつものことかとばかりにため息をついただけでした。

 ミオとレナは最近よく行動を共にするようになったパーティです。出会いはリアルでの一週間前になります。始まりの町でちょっとした騒ぎがあった時に、ひょんなことから知り合い、何故か意気投合して友達になりました。

 

 今日はミオからレナを誘いました。一緒に討伐クエストに行こう、と。最初レナは周囲のモンスターを狩るのかと思っていたそうですが、今日の目的は森のドラゴンです。それを知ったレナは初めに言ってくださいとぷりぷり怒っていましたが、それでもこうして付き合ってくれています。

 

「レナは優しいよね」

「何ですか急に」

「思っただけよ。……そろそろね」

 

 周囲の森はすっかり濃紫色に染まっています。HPも少しずつ減っていて、これが噂の治癒できない毒状態でしょう。減り方は緩やかですが、ボスモンスターと長時間戦闘するなら無視できないものです。

 

「うわあ……」

 

 レナの表情も嫌そうです。ヒーラーのレナからすればそのまま負担が増えるということなので、ある意味では前衛よりも嫌な状態でしょう。それでも、レナには頑張ってもらわないといけません。

 そうしてさらに歩くと、目的のドラゴンが見えてきました。

 紫色の鱗に覆われたドラゴンです。体躯はよくあるゲームほど大きくなく、大型犬よりさらに一回り大きくした程度です。

 ですが、そのドラゴンから感じる威圧感は相応のものでした。

 

「よし、やるわよ」

「うん」

 

 レナが杖を構え、ミオがナックルを付き合わせます。その行動から敵対に気づいたのでしょう、ドラゴンがのっそりと体を起こしました。その瞳は、とても悲しげに見えます。

 

「え……?」

 

 その瞳の意味にレナが首を傾げるのと同時。

 ドラゴンが、濃紫色の巨大な水球を吐き出してきました。

 

「え」

 

 油断していたわけではありません。どう考えても自分の足で逃げられる大きさでなかっただけです。

 水球は真っ直ぐレナへと命中して、彼女のHPを吹き飛ばしてしまいました。

 

「うええ!?」

 

 まさかの一撃死。戦慄するミオを、尻尾がなぎ払いました。

 

「あふん」

 

 そうしてミオもHPを吹き飛ばされ、視界が暗転します。

 とりあえず思いました。無理ゲーだこれ、と。

 

   ・・・・・

 

 いわゆる死に戻りをしたレナは、始まりの町の広場でのんびりと待っていました。周囲からは、驚いたような視線を感じることができます。一応レナも攻略勢の一人、しかも前線を支えるヒーラーの一人としてそれなりに名が通っているので、自分が死に戻ってきたことが信じられないのでしょう。

 すぐにもう一人、倒れている人間が広場に転移してきました。ログインすると立っている状態で現れるため、倒れたまま転移してきた時は死に戻りの人です。

 その人、ミオへと歩き、その頭をつんつんつつきます。

 

「ミオさん、生きてますか?」

「死んでるー。死んだー」

「死にましたねー」

 

 レナが苦笑していると、ミオが勢いよく立ち上がり、そして叫びました。

 

「なによあのドラゴン! 勝てるわけないでしょうが!」

 

 それだけで彼女たちの死に戻りの理由が分かったのでしょう、こちらをちらちら見ていた人たちは、納得したように頷いていました。

 

「どれだけ攻撃力高いのよ! 一撃なんてあり得ないでしょう!」

「フィールドの毒で多少なりともHP減ってましたから。それでも一撃はびっくりですけど」

 

 まともに攻略させるつもりがあるとは思えません。ということは、考えられるのは何かしらのクエストの関係ですが、今のところそんな情報はありません。

 

「どうしますか?」

 

 レナが聞くと、ミオは肩を落として、

 

「作戦タイム……」

 

 そう言いました。

 

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