銀麗の魔女   作:龍翠

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   ・・・・・

 

 ドラゴンに挑戦した他の知り合いや掲示板から情報を集めて、ミオとレナは喫茶店のテーブル席で途方に暮れていました。

 多くの人が、あのドラゴンは何かのクエストかイベントに関わるものだろうと予想を立てていますが、何のクエストか分かった人は未だ誰もいないようです。追加で分かったことといえば、あのドラゴンはボスモンスター扱いでありながら、ノンアクティブのようだということです。

 

 掲示板で得られた情報の中には、武器を構えなければそれこそ触れられる距離まで近づくことができ、さらには実際に触ることができたとのことです。もっとも、触ったからといって何かが起きたということもなく、そのまま戻ってきただけとのことですが。

 まさに謎のモンスター。何か、調べる方法はないものでしょうか。

 ミオが腕を組んで考え込んでいると、レナが口を開きました。

 

「ミオさん。ちょっと聞いていいですか?」

「え? いいけど。なに?」

「モンスターにもAIが使われているんでしょうか」

 

 急になんなのだろう。首を傾げながらも、考えます。モンスターのことなど考えたことはありませんでしたが、しかし使役しているモンスターの様子を見ていると、NPCと同程度のAIが使われていると言われても疑いません。

 

「使われてる、かもしれないわね。それがどうかしたの?」

「あのドラゴンですけど。なんだか、私たちが敵対した瞬間に、すごく悲しそうにしていたような気がして……」

「へえ……」

 

 ドラゴンの目なんてそこまで意識して見ていませんでした。レナがそう言うなら、そうかもしれません。この子は人の顔をよく見ています。モンスターの表情まで分かるのはびっくりですが。

 

「いや、何となくですよ?」

「分かってる分かってる」

「分かってませんよね?」

 

 レナが頬を膨らませるのでそれを指でつつきます。ぷすぷすと音がなります。この世界は妙なところまで作り込まれているなと少し呆れながらも、再びドラゴンについて考えます。

 ドラゴンにも高度なAIが使われているとして、それなら何故、あのドラゴンはあそこにいるのか。運営があの場所に配置したと考えるとどうしてあんな何もないところにと不思議でしたが、ドラゴンが自分からあの場所に行ったのなら、理由はある程度分かるというものです。

 自分の毒に、他の人を巻き込まないようにするため、でしょう。だからこそ、冒険者が迷い込んできても、敵対しない限りは戦わない、と。そういうことなのでしょう。

 

「と、考えてみたこと、どう思う?」

 

 思いついたことを話してみると、レナは神妙な面持ちで頷きました。

 

「何となく、そんな気がします」

「うんうん。……ということは、クエストやイベントなんてものはただの噂話で、何も存在しない可能性が濃厚ね……」

「殺され損ですね」

 

 二人で苦笑を浮かべます。別に不愉快ではありません。まあこういうこともあるだろう、という程度のものです。

 仕方ないと気持ちを切り替えようとしたところで、テーブルの上に子犬が上ってきました。尻尾を振ってミオを見つめてきます。撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細めます。かわいい。

 

「いやあ、いい喫茶店ね」

「全くです。まあ、知った経緯は問題ですけど」

 

 ホットケーキをつつきながら自己嫌悪する相棒に、ミオは苦笑しました。

 ここはもふもふ喫茶。子犬や子猫たちと触れ合える素晴らしいお店です。以前、とある女の子たちが利用したのをきっかけに、それを見ていた人も利用するようになりました。しばらくはとても繁盛していたようでしたが、今は落ち着いており、自分たちのような動物好きが集まるお店になっています。

 

「やあやあ。どうしたのかなお二人とも」

 

 不意に若い男の声が聞こえて、二人は顔を上げました。

 側に立っていたのは、黒髪黒目の青年です。この店のオーナーで、雰囲気を一言で言えば優男です。この青年は来店した人の相談をよく受けている、と聞いています。

 

「見たところ、何か困っているようだったけど?」

 

 オーナーの言葉に、ミオとレナは顔を見合わせ、微苦笑を浮かべました。

 

「困り事というか……。骨折り損だったね、っていう話よ」

「へえ? 詳しく聞いても?」

「別にいいけど……」

 

 オーナーに、ドラゴンのことと冒険者や自分たちが挑んだこと、その時にレナが感じたことなどを話していきます。もちろん、AIに関しては伏せて。NPCであるオーナーに話していいことではないでしょう。

 全て聞き終えたオーナーは、なるほどと頷いていました。

 

「まさか、あの子以外でモンスターの感情に気づく子がいるなんて」

「え?」

「いや何も」

 

 ぼそりとつぶやかれた声は、残念ながら聞き取ることができませんでした。

 よしと頷いて、オーナーがどこからペンとメモ帳を取り出しました。さらさらと何かを書いて、こちらへと渡してきます。書かれていたものは、シンプルに日時だけでした。

 

「えっと……?」

 

 困惑するミオに、オーナーは言いました。

 

「その時間に、もう一度ドラゴンの元に行ってみるといいよ。ただし、他の冒険者には内緒にしてね」

 

 それじゃあ、と手を振ってオーナーが離れていきます。ミオとレナの二人は唖然とその後ろ姿を見送っていました。

 

 

 

 指定された時間は二人にとって無茶という時間ではありませんでした。時間によってはログインの制限時間に引っかかるかもと思っていたので、一先ずは安心です。二人は始まりの町で待ち合わせをして、そうしてドラゴンのいる森へと向かいます。

 やがてたどり着いた二人が見たものは、信じられない光景でした。

 

「とりあえず、これで毒は弱まるから。正式にマスターが決まればいいんだけど。ん? いや、気にしなくていいよ。だから大人しくしててね」

 

 そこにいたのは、ドラゴンを優しく撫でる白いローブの少女でした。

 フードで顔は隠れていますが、それが誰かは分かります。ミオもレナも、面識はなくても見たことはありますから。

 二人が呆然と立ち尽くしていると、その少女、銀麗の魔女ソフィアがため息をついて振り向きました。

 

「さっきからずっと見ているけど、何か用?」

「あ、えっと……」

 

 話しかけられるとは思わずに、二人は言葉に詰まってしまいます。

 

「あの……。私たち、喫茶店のオーナーさんから、この時間にここに行けと言われて……」

 

 レナがどうにかそれだけ言葉を絞り出すと、ソフィアは訝しげに眉をひそめました。

 

「喫茶店? ……もふもふ喫茶?」

「そう! そこ!」

 

 ミオが返事をします。ソフィアは頭痛を堪えるようにこめかみを押さえ、大きなため息をつきました。

 

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