銀麗の魔女   作:龍翠

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「何を考えているのか……。まあ、いいけど」

 

 どうやらソフィアはあのオーナーと面識があるようです。不思議に思いましたが、そう言えば彼女ももふもふ喫茶には入っていたはずです。その時に知り合ったのでしょう。ただ、そう考えると、連絡を取れる手段がオーナーにはあるということになります。あのオーナー、今思うとなかなか謎の多い人物のような気がしてきました。

 

「ここで何をするのかは聞いてるの?」

 

 ソフィアの問いに、ミオとレナは首を振りました。自分たちはここに行けと言われただけです。

 

「そう」

 

 ソフィアはそれで興味をなくしてしまったのか、視線がドラゴンへど戻ってしまいました。

 ドラゴンを見るソフィアの瞳はとても優しげです。心の底から心配していることが分かります。

 

「あの、そのドラゴンには何かあるんですか?」

 

 ミオの隣、レナが勇気を振り絞って訪ねます。心の中でレナを褒めながら、ミオもソフィアを見ます。ソフィアは少し面倒そうにしつつも、答えてくれました。

 

「縄張り争いの結果だよ」

「え? 縄張り争い?」

 

 うん、とソフィアが頷きます。想像していなかった理由に二人が困惑していると、ソフィアがもう少し詳しく教えてくれました。

 曰く、この森のさらに奥には沼地が広がっているそうです。その沼地には、強力な毒を持った大蛇がいるそうです。それが沼地のまとめ役なのだとか。

 

 いつの頃かは分かりませんが、ある日大蛇は自分のエリアを広げようと考え、この森へと侵攻しました。当然ながら森に住む動物やモンスターたちは黙っているはずもなく、このドラゴンが迎え撃つことになったそうです。そうして長く戦った結果として、戦いに敗れた大蛇は沼地へと引き下がり、ドラゴンは勝利したものの毒に侵されてしまったそうです。

 毒に侵されてからは、ドラゴンは森のまとめ役を別のモンスターに引き継ぎ、こうしてひっそりと、できるだけ迷惑をかけないように、森の奥深くで静かに過ごしているとのことでした。

 

「ただ、この子が毒を取り込んでしまったことは予想外でね。こうして森が毒に侵されてる。毒の放出量から考えるとこれ以上の浸食はないだろうけど、今度はこの子が困ったことになってる」

「困ったこと?」

「うん。この子自身が毒に耐えられなくなりつつある」

「治癒はできないの?」

 

 ミオの問いに、ソフィアは難しい表情を浮かべました。レナとミオを順番に見て、少し目を逸らして。何かを考えているようです。

 

「私たちで協力できることがあるなら、力になるわよ?」

 

 ミオのその言葉に、ソフィアは小さく頷きました。

 

「それじゃあ、依頼」

 

 ぽこん、とミオの視界の隅に、小さなウィンドウが現れました。ソフィアが口を動かすと、そのウィンドウに文字が連ねられていきます。

 これは、聞いたことがある現象です。ゲーム中一度しか発生しないエクストラクエストの特徴的な演出です。一説ではNPCの発言に合わせてクエストが構築されるためこの現象が起きていると言われていますが、真実は運営のみぞ知る、です。

 

「王都の近くに、洞窟がある。その洞窟の奥に、光がなくても育つ綺麗な花がある。それが、この毒の治癒には必要なんだけど……。私はもう、そこには入ってはいけないことになってるから」

「え? それはまた、どうして……」

「冒険者との鉢合わせがないように、かな」

 

 まだまだ先のエリアではありますが、どうやら現在、銀麗の魔女は特別な理由がない限り、ダンジョンの内部には入れないそうです。

 

「取ってきてもらえないかな?」

 

 ソフィアの依頼に、二つ返事で頷きそうになります。けれど、王都の側となると、自分たちでは行くことができません。もし仮に行けたとしても、その近辺のモンスターには太刀打ちできないでしょう。

 そのことをソフィアに話すと、ソフィアは分かっていると頷いて、

 

「案内はつけるよ」

 

 ソフィアが何かを召喚しました。丸っこい、毛玉のような何かです。ソフィアはそれをしばらく撫でていると、よしと頷きました。

 

「ちょっと待っててね」

 

 そう言って、ソフィアが杖で地面を二回叩きます。するとソフィアを中心として、ぐにゃりと景色が歪んで。次の瞬間には姿を消していました。

 

「わあ……。転移魔法ですかね。羨ましい!」

「ね。私も欲しいわね」

 

 そのまま待つこと数分。再びぐにゃりと景色が歪んで、ソフィアが戻ってきました。彼女の隣には人が一人増えています。その子を見た瞬間、ミオは口をあんぐりと開けてしまいました。

 そこにいたのは、噂のウルフ少女でした。ラビットを腕に抱いて、ウルフを側に従えています。ウルフ少女はミオたちを不思議そうに眺めて、次に頭を下げました。

 

「初めまして! スピカです!」

「あ……。そっか。初めまして。ミオよ」

「レナです」

 

 掲示板で話に上ったり、この間は始まりの町の散歩を見守っていたりとしていたためか、どうにも初めましてという気はしませんが、確かにこうして顔を合わせるのは初めてです。それに、名前も今初めて知りました。こんな形で知り合えるとは思いもしませんでしたが。

 

「それでソフィアちゃん。私は何をすればいいの?」

 

 スピカがソフィアへと聞きます。どうやらスピカもまだ詳しくは聞いていないそうです。

 

「この人たちと一緒に、王都のダンジョンい入ってもらえないかな。そこに、例の花があるから」

「あ、ドラゴンさんを治せる花だっけ。私も行っていいの?」

「うん。花はこの人たちが何とかするはずだから」

 

 その言い方はつまり、スピカでは一人で行ってはいけないところで、そして最下層の花には何かあるということです。

 ですが、それを聞いて臆するミオとレナではありません。そもそも最前線のモンスターとの戦闘なんて全てが手探りです。やることは普段と同じでしょう。もっとも、絶対的なレベル差という問題はあるでしょうが。

 

「ダンジョンの手前までは送ってあげるよ。それで、どうかな?」

 

 ミオは視界の隅のウィンドウを見ます。そこにはクエストについて書かれています。達成条件は精霊花の入手、失敗条件は手に入れられないままダンジョンを脱出すること、となっています。

 クリア報酬は、驚きの『未定』です。初めて見ました。

 できれば、報酬を聞いてから行いたいところではありますが。

 

「引き受けるわ」

 

 ミオが頷いて、レナはやれやれとため息をつきました。

 確かに報酬が分からないのは気になります。けれど、例えなしだとしても、十分に報酬はもらっていると言えるのです。

 だって、噂のウルフ少女とフレンドになれるかもしれないから。

 

 ミオの、掲示板では青の武闘家の頬が緩みます。

 レナは、掲示板では白のヒーラーは、彼女の内心を察して頭を抱えたくなっていました。

 

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