銀麗の魔女   作:龍翠

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 ともかく、作戦通りです。ゴーレムはスピカを追いかけて真っ直ぐに向かってきます。

 

「それじゃあスピカ! 私たちでできるだけ時間を稼ぐから、真っ直ぐ逃げなさい!」

「うん! ありがとう!」

 

 スピカが横を通って、通路を走り抜けていきました。

 さて、とミオとレナはゴーレムに向き直ります。ゴーレムはこちらへと走ってくるところです。

 

「間違い無く一撃でももらえば即死ね」

「だと思います。逃げ回って、できるだけ時間を稼ぎましょう」

「これはお決まりのセリフを言うしかないわね!」

「はい?」

 

 首を傾げるレナに、ミオは元気よく言いました。

 

「……別に倒してしまってもいいでしょう?」

「フラグじゃないですか!」

 

 叫び返しながら、レナも楽しそうに笑いました。

 

   ・・・・・

 

 十分ほどの死闘、という名の逃走劇を終えた二人は、無事に始まりの町に死に戻りしました。予想通りの結果なので無事に、です。むしろあのレベル差のボスに十分も時間を作ったことは大健闘と言えるかもしれません。

 

「まあ結局は死に戻りですけどね」

「うっさい」

 

 今はあの森に向かっているところです。クエストの表記はクリア扱いになっていたので、スピカはちゃんと無事に届けてくれたのでしょう。一安心です。死に戻りでも失敗にならなかったことにも安心です。

 そうして二人が森にたどり着いて見た光景は、落ち着かないようにそわそわしているスピカと、それを呆れたように見ているソフィアでした。

 ソフィアが真っ先にミオに気づき、口を開きます。

 

「スピカちゃん。戻ってきたよ」

 

 スピカが勢いよく振り返りました。そしてそのままこちらへと走ってきます。

 

「ミオさんおかえりなさい!」

「わっと」

 

 そのまま抱きついてきました。ぎゅっとしてくれます。まさに役得。

 

「無事に戻ってこれて良かったよ!」

「うん。無事に死に戻りしたよ」

「無事じゃなかった!?」

 

 クエストはクリアできたので問題ありません。このゲームのデスペナルティも、十分間のステータス減少なのでさほど痛くもありません。

 

「ソフィアちゃんも心配してたんだよ。ほらほら早く!」

 

 スピカに手を引かれて、二人はソフィアの元へと向かいます。

 二人を迎えたソフィアはほんの少しだけ頬を緩めて言いました。

 

「おかえり」

 

 どうやらソフィアも心配してくれていたようです。そしてソフィアは、杖である方向を指し示しました。

 ミオとレナがそちらへと視線を向ければ、あのドラゴンがこちらをじっと見つめていました。以前までとは違い、心なしか元気に見えます。よくよく周囲を見てみれば、紫色が少し薄くなったような気がします。

 

「治療はもう?」

「終わってるよ。毒を扱えることは変わってないけど、今までみたいにコントロールできなくなることはないはず」

 

 もしも、とソフィアが続けます。

 

「大丈夫だとは思うけど、また制御できなくなったら、連絡してくれればいいよ」

「へ? どうしてそれを私たちに言うの?」

 

 ミオもレナも、ここに通うつもりはありません。このクエストが終われば、また次の町を目指して最前線に戻るだけです。もうこのドラゴンと関わることもないでしょう。

 そう思っていたのですが。

 

「だって、このドラゴン、君に懐いてるし」

「え?」

「君、青の魔法使えるよね?」

 

 それは、つまり、そういうことなのでしょうか。

 ミオがドラゴンを見れば、こちらをじっと見つめています。少し緊張しつつも、使役の魔法を使ってみます。

 

『ヴェノムドラゴンの使役に成功しました。名前をつけてください』

「まじですか……」

 

 ミオの頬が引きつります。まさかドラゴンと契約できるようになるとは思いませんでした。

 

「ミオさんテイマーだったんだね! 他は? 他は?」

 

 スピカの瞳が輝いています。どうやらスピカにとってはドラゴンよりもミオのモンスターが気になるようです。ただ、ミオは青の魔法を上げているとはいえ、戦力としてのものではありません。なので強いモンスターはいないので、自慢できるものではないのですが。

 とりあえず、使役しているモンスター全て召喚しておきます。ラビット二匹とウルフ三匹です。するとスピカが歓声を上げました。

 

「ウルフがいっぱい!」

 

 早速とばかりにスピカがウルフの一匹に飛びつきます。戸惑いながらこちらを見てくるウルフに苦笑を返して、改めてミオはドラゴンに向き合いました。

 

「名前とか気にしたことないのよね……」

 

 ウルフなんて家で飼ってる犬の名前と同じな上に、ラビットの名前は猫のものだったりします。さすがにそんなかわいい名前はドラゴンには合わないでしょう。

 

「レナ。何か良い案、ない?」

「私に聞かないでくださいよ……。確か名前は後で変更できましたよね?」

「進化前ならね」

 

 進化の直前に名前の最終決定を求められ、それ以後は変更できなくなりますが、それまでは何度でも変更できます。人によっては、しっくりくるまで何度も変更するそうです。

 

「まあ、そうね。それじゃあ安直に、ヴェノムで。良い名前が思い浮かんだらそれにするわ」

『ヴェノムで登録されました。召喚リストに追加されます』

 

 どうやら無事に使役できたようです。よろしく、とミオが言えば、ドラゴンがゆっくり頷きました。

 

「ドラゴンと契約ってすごい! ミオさんすごい!」

 

 スピカが我が事のように喜んでくれます。少しだけ照れくさくなりますが、これはむしろソフィアとスピカが協力してくれたからこそです。

 

「ドラゴンに触ってもいい?」

 

 スピカがわくわくしながら聞いてきます。期待のこもった眼差しに、ミオは笑いながら頷きました。早速とばかりにスピカがドラゴンへと駆けていきます。

 ヴェノムは優しげな瞳でスピカを見つめていて、スピカがおずおずと差し出した手を受け入れています。

 

「わあ……。ちょっと冷たくて、すべすべしてる」

 

 もふもふもいいけど、すべすべもいいなあ、なんてつぶやいています。ミオは思わずレナと顔を見合わせ、噴き出してしまいました。

 いろいろと噂が多いウルフ少女は、どうやらただの動物好きのようです。ソフィアですらそんなスピカを微笑ましそうに見つめています。

 

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