銀麗の魔女   作:龍翠

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 どうすればいいですか、とフェルトが王様へと振り返ります。王様は優しげに微笑むと、

 

「うむ。行ってきなさい。これも良い経験になるだろう」

「ありがとうございます! お父様!」

 

 そんなわけで、フェルトの参加も決まりました。

 王様が戻った後、三人で今後の予定を決めていきます。一先ず集合は森の広場。その後のことは都度決める、というなんだか適当な決め方です。ソフィアの、忘れ物があれば取りに来ればいい、という言葉でかなり気楽になっています。

 

「お泊まり、楽しみですね!」

「だね! 私、友達とお泊まりなんて初めてだよ!」

「ふふ、私もです」

 

 そう言って笑うスピカとフェルトを、ソフィアも楽しく感じながらあ眺めていました。

 

   ・・・・・

 

 イベント当日の日になりました。今日は朝から、兄もそわそわしています。そんなことを思い出しながら、スピカは森の広場で待っていました。

 ウルのお腹を枕に、ラビを抱き枕にしながらスピカはのんびり待ちます。お布団は森の動物たちです。たくさんの動物たちがスピカを包んでくれています。

 つまりどういうことかと言えば。

 

「苦しい……。助けて……」

 

 重い。ひたすらに重い。ちょっとぐらいいいかと思った結果、気づけば抵抗できない重さになっていました。

 

「何やってるの、スピカちゃん」

 

 ひょっこりとソフィアが顔を出しました。動物たちに埋もれるスピカを見て、薄く苦笑しています。どうやらフェルトと一緒に来たらしく、フェルトが小さく笑っている声が聞こえてきました。

 

「ソフィアちゃん。助けて」

「もう……。仕方ないなあ」

 

 そう言いながら、ソフィアが動物たちをどかそうとして。

 動物たちが一斉に立ち上がりました。

 

「え」

 

 続いて起こるのは、いつもの光景。動物たちに襲われるソフィアの姿。そうしてあっという間に見えなくなるソフィア。

 

「むぎゅう」

 

 いつもの潰れたような声が聞こえてきました。

 

「ふう。楽になった」

 

 そんなことは全て無視してスピカが言います。フェルトもさすがにその光景に慣れてしまっていて、少しだけ呆れつつそれでもやっぱり笑っていました。

 

 

 

 落ち着いたところで出発です。動物たちは皆お留守番です。寂しそうに鳴いていますが、こればかりは仕方ありません。

 

「どうやって行くの? 転移?」

 

 スピカが聞いて、ソフィアが首を振って答えます。

 

「それもいいかな、と思ったけど、今回は飛んでいくよ」

「はい? 飛ぶんですか?」

 

 意味が分からないといったの様子のフェルト。スピカも同意見です。

 ソフィアはいたずらっぽく笑うと、杖を掲げて言いました。

 

「青龍」

 

 空に、分厚い雲がかかりました。真っ黒な、稲光が走る雲です。お腹の底を振るわせる重低音にスピカとフェルトが抱き合って震えていると、それが姿を現しました。

 雲の合間から、ゆっくりとその巨体が姿を現します。蛇のような長い体に、角と腕。いわゆる東洋のドラゴン、龍です。

 

 これはすごい。以前の毒のドラゴン、今はヴェノムと呼ばれているドラゴンは西洋のドラゴンで、あれはあれで格好良かったのですが、やはりスピカとしてはこちらのドラゴンの方が格好いいと思います。すごい。

 

「かっこいい! すごい!」

 

 スピカが手放しで褒めちぎっていると、龍がどこか照れくさそうに笑った、ような気がします。

 

「青龍。ちょっと下りてきて」

 

 青龍がゆっくりと下りてきます。雲の合間からゆっくりと。ただその体はあまりに巨大すぎるのでしょう、青龍の頭が地についても、体は雲の合間に繋がっています。

 

「おっきい……。体を駆け上がったら雲まで行けるのかな?」

 

 何となく思い浮かんだことをスピカが言うと、

 

「行ったけど、黒い雲だから何も見えないよ」

 

 こちらも何気なく答えるソフィア。うん、ちょっと待ってほしい。

 

「え……? ソフィアちゃん、上ったの?」

「え? うん。気になったらから、白虎に手伝ってもらって上ったよ。その時はししょーが召喚してたけどね」

 

 まだ弟子になりたての頃だったかな、とソフィアが懐かしそうに目を細めます。それを見て、スピカはちょっとだけ青龍に同情しました。もちろんスピカも上ってみたい気持ちはありますが、さすがに実行しようとは思いません。

 青龍に視線を移せば、青龍は気まずげに目を逸らしました。涙を誘う姿です。

 

「移動した後に上ってみる?」

「上る!」

「あ、私も!」

 

 前言撤回。上れるなら上りたいというのが本音です。青龍が遠い目になっていますが、きっと気

のせいでしょう。

 いそいそと、ソフィアとフェルトと共に青龍に乗ります。頭、になるのでしょうか。巨大すぎてどこが頭で首で胴体なのか分かりません。

 ゆらりと青龍の体が浮き上がります。あっという間に地面は遠くなってしまいます。

 

「ちなみに落ちても青龍が助けてくれるから大丈夫だよ」

 

 至れり尽くせり。すごい龍です。

 

「青龍すごい!」

 

 そう言って撫でてみます。鱗がすべすべ。たてがみふさふさ。気持ちいい。

 青龍もどこか誇らしげです。なんだかちょっとかわいいです。

 

「この子、もしかして白虎と同じ四聖獣?」

 

 スピカが聞いて、ソフィアが答えます。

 

「うん。四聖獣“水王”青龍。ししょーと一番仲良しで、よく遊んでくれたよ」

「へえ! いいなあ!」

 

 ちょっとだけ羨ましいと思います。隣ではフェルトが、四聖獣が遊び相手、と遠い目をしていますが、やはりここで生きるNPCにとってはすごいことなのでしょう。

 

「他の子も見たい!」

 

 スピカがそう言うと、ソフィアは少し考えて、

 

「んー……。お泊まりの間に、召喚するね」

 

 そう約束してくれました。

 

 

 

 余談ですが。

 突然暗雲がたちこめ、巨大な青い龍が現れるところは始まりの町からも確認できてしまったために、なかなか大きな騒ぎになっていたりします。まさか銀麗の魔女が突然青龍を召喚するなんて思っていなかった運営はイベント前だというのに対応に追われて涙目になっていたりしたのですが、仲良し三人組はそんなことに全く気づきませんでした。

 

 

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