銀麗の魔女   作:龍翠

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   ・・・・・

 

 油断なんてしていないつもりでした。ですが、これはもう言い訳なんてできないでしょう。

 ソフィアは師匠の元を離れてから、まずはこの森に来ました。この森には多くの動物たちがいると師匠から聞いていたためです。この森で、精霊たちに周囲のことを聞いていこうと考えました。

 銀麗の魔女の仕事は、世界の監視です。各地の精霊たちから話を聞き、世界が危うくなるような危機があれば対処、場合によっては精霊を通して至金の魔導師に報告、というものです。もっとも、そんな危機なんてそうそう起こらないそうですが。

 

 そうして森で精霊の話を聞きつつ、寄ってくる動物たちと戯れていました。遊び疲れたら、動物たちに囲まれて眠って。そんなことをしていても、悪意のある者の接近にはすぐに反応して、身を隠していました。

 けれど、まさかモンスターもたくさんいるこの森で、悪意なく近づいてくる人がいるなんて思いませんでした。

 

 気持ちよく眠っていて、小さな物音で目を覚ましました。そして見たのは、至近距離にいる女の子。思わず、悲鳴を上げていました。師匠がいれば、情けないと呆れられたことでしょう。

 動物たちがいなくなって二人きりになって、少しして落ち着いたところで改めて話をすることになりました。

 

「悲鳴を上げてごめんなさい……」

 

 最初に口を開いたのはソフィアです。彼女だけでなく、動物たちまで驚かせてしまいました。反省です。

 目の前の女の子は慌てたように手を振って、

 

「い、いえ! 私の方こそ何も言わずに近づいてごめんなさい!」

 

 そう言って頭を下げました。とても良い子です。

 

「あの、私はスピカっていいます。あなたは?」

「ソフィアです」

「ソフィアちゃん?」

 

 いきなりのちゃんづけです。不愉快なんて思いませんが、妙に気恥ずかしく思えてしまいます。ソフィアが戸惑っていると、スピカと名乗った女の子は慌てて頭を下げた。

 

「あの、ごめんなさい! なれなれしかった、ですよね……」

「あ、いえ……。いいですよ。むしろ、ちょっと嬉しいというか……」

 

 ソフィアがそう言うと、スピカはぱっと顔を上げて、花が咲いたような笑顔を浮かべました。とても嬉しそうに笑うスピカを見ると、ソフィアも何となく嬉しくなります。

 

「じゃあ、あの……。ソフィアちゃんで、いい?」

「はい。スピカも……その……。スピカちゃんで、いい?」

「うん!」

 

 ああ、これが友達というものでしょうか。まともに会話したことがあるのは師匠だけなので、とても新鮮な気持ちです。心がぽかぽか温かくなります。

 

「ソフィアちゃんはここで何してたの?」

 

 スピカの問いに、ソフィアは言葉を詰まらせました。銀麗の魔女の仕事は、あまり言いふらしていい内容ではありません。師匠からも、よほどのことがない限りは言わないようにと言われています。特に冒険者相手では面倒なことになるから、と。理由は教えてもらえませんでしたが。

 

「えっと……。動物たちと遊ぶために?」

 

 苦し紛れです。なんだその理由と自分でも思います。けれど、あながち間違ってもいません。動物たちと遊ぶのはとても楽しいことです。そしてスピカの反応はといえば、

 

「そうなんだ! 分かる! すごく分かる!」

 

 一切疑われませんでした。それどころか何故かとても嬉しそうです。仲間を見つけたような、そんな顔です。スピカが言います。

 

「私もね、リアルだとアレルギーで動物に触れないの。でもここなら、そういったことは気にしなくていいから。だから、動物と遊びたいのはよく分かる! 私も遊びたい!」

 

 そう力説するスピカの側では、ラビットがぴょこぴょこ跳ねています。スピカに気づかれないように、そのラビットの状態を精霊たちに教えてもらいます。

 どうやらこのラビット、スピカの青の魔法で使役させられているようです。けれど、どうやらこのラビットも喜んでそれを受け入れている様子です。この子と一緒にいることが、このラビットの意志なのでしょう。

 これはとても珍しいことです。青の魔法はその性質上、強制的に使役することが多くなります。青の魔法を使われて喜んで使役されるなんて、よほどのことがない限りあり得ません。それだけで、スピカが良い人だと分かります。

 

「その子、かわいいね」

 

 ソフィアが言うと、スピカは嬉しそうに破顔してラビットを抱き上げました。

 

「でしょ! 私の最初の友達なの! ふわふわだよ!」

「あはは。うん。ふわふわだね」

 

 ラビットを撫でてみます。スピカに手入れをしてもらっているのでしょう、野生のラビットよりもよい毛並みでした。癖になりそうです。許されるなら、ソフィアもラビットを連れ回したくなります。

 そうして話していると、動物が一匹、また一匹と戻ってきました。小さな動物も鳥も虫も、みんな戻ってきています。

 

「わあ……」

 

 スピカが感嘆の声を上げます。ソフィアは微笑むと、側に寄ってきたリスを抱き上げました。

 

「スピカがひどいことをしない人だってみんな分かったみたい」

 

 はい、とリスをスピカに差し出します。恐る恐るとそのリスを受け取ったスピカは、リスと見つめ合って、

 

「あの……。よろしくね?」

 

 スピカが言うと、リスはきゅ、と小さな鳴き声で返事をしました。

 

   ・・・・・

 

 とても、とても不思議な体験でした。

 あの後、スピカはソフィアと一緒に、たくさんの動物たちと遊びました。一緒に広場を駆け回ったり、もふもふさせてもらったり、とその程度でしたが、リアルではあまり動物と触れ合えないスピカにとってはとても貴重な体験でした。今でも、もふもふを思い出します。もふもふ。

 

 そうしてほどよい時間になったので始まりの町に戻ることにしたのですが、ソフィアはまだ森に残るとのことでした。どうせなら一緒に戻って町を回りたかったのですが、あまり無理は言ってはいけないでしょう。

 今日はとても有意義な一日でした。それに、この子とも契約できました。

 スピカは自分を乗せてくれている子を撫でます。ふわふわの毛並みは触るだけで気持ちがいいです。スピカをあの広場へと案内してくれたウルフでした。

 

 広場で遊び終わった後、このウルフが迎えに来てくれたのです。ウルフの案内で森を出てお礼を言ったのですが、ウルフはその場を離れずにじっとスピカのことを見つめていました。

 だめでもともと、とスピカは青の魔法を使ってみました。弱らせていない限り、使役できることはまずありません。ですが、このウルフは魔法を受け入れてくれて、スピカの友達になってくれました。

 名前も決めました。ウルです。そのまんまです。

 

 驚くべきことに、ウルはスピカをまたその背に乗せてくれました。こんなことは見たことも聞いたこともありません。それとも、皆が秘密にしているだけでしょうか。ともかく、スピカはウルの背中に乗せてもらって、町へと向かいました。

 ウルに乗ったまま、町を巡ります。周囲から視線を感じます。やはりウルフに乗っているのは珍しいのでしょうか。そんなことを考えながら先生の元に向かいました。

 

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