銀麗の魔女   作:龍翠

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 夜。湖から戻ってきて広場をのぞくと、朝にダンジョンへ入った人が戻ってきたところでした。四人とも、とても悔しそうな顔です。かなり長い時間ダンジョン内にいたようですが、どうやら良いものは見つけられなかったようです。

 

「三層だけ広すぎだろう……!」

「まさか丸一日使っても探索しきれないなんて……」

 

 話を聞いていると、どうやらここの地下迷宮はとてつもない広さを誇っているようです。

 彼らは町で購入していたのか、広場にテントを用意しました。明日も朝から挑戦するのでしょう。ほんの少しだけ、楽しそうだな、と思ってしまいます。

 ソフィアの方を見ると、ソフィアは新たにやってきた冒険者に、最初と同じ説明を繰り返しています。なんだかもうやる気がないというのがよく分かります。ずっと同じ説明ばかりなのでソフィアも飽きていることでしょう。

 

 ふと、ソフィアと目が合いました。ソフィアの目が死んでいます。助けを求められているような気がしますが、スピカには何もできません。代わってもいいのなら、スピカも手伝えるのですが。

 ソフィアはいつまで続けるつもりでしょうか。プレイヤーの活動時間は人によってばらばらです。おそらく夜に活動する人もいるはずです。

 

 スピカとフェルトが心配していると、ソフィアが視線をわずかに上げました。そのままの体勢でしばらく固まっていたかと思うと、唐突にまた動き始めます。足下に置いていた看板を手に取り、ほこらの前に突き刺します。よしと満足そうに頷くと、唖然としているプレイヤーを無視してこちらへと戻ってきました。

 

「ただいま」

 

 どうやらソフィアのお仕事は終わりのようです。ソフィアの表情も晴れ晴れとしています。よほど苦痛だったのでしょう。

 

「お疲れ様、ソフィアちゃん」

「癒やしが欲しい……。ウル、おいで?」

 

 よいしょ、とソフィアが屈むと、ウルがとととと歩いてソフィアの元へ。ソフィアはウルを抱きしめると、ふはあ、と大きなため息をつきました。

 

「もふもふ……かわいい……」

「ソフィアちゃんがスピカちゃんみたいになってますね」

「うんうん。……あれ? なんだかばかにされたような……?」

 

 それにしても、どうせならふれあいコーナーを利用すればいいのに。そう言うと、ソフィアはウルを撫でつつ、首を振ります。

 

「銀麗の魔女だから。幻滅なんてさせたくないからね」

「あまり気にしなくてもいいと思うけど。私たちはいいの?」

「うん。二人なら、別に」

 

 それはつまり、それだけ心を許してくれている、ということでしょうか。なんとなく嬉しくなってきます。

 しばらくウルをもふもふし続けて、ソフィアも復活したようです。夕食の準備をすることになりました。準備といっても難しいものではなく、作るのはカレーライスです。

 

 料理のできないフェルトにウルたちの相手も任せ、スピカとソフィアは手早く準備をします。材料は全てソフィアの手持ちです。食材はいつもため込んでいるからどれだけ使ってもいいのだとか。どこで買っているのかと聞けば、行く先々でもらうそうです。

 そうして雑談しながら作り終えたカレーを、フェルトも一緒にテントの前で食べます。フェルトが辛いのが苦手だということで、今回は甘口カレーです。

 

 ちなみにカレーは動物たちの分までしっかりとあります。先ほどソフィアがふれあいコーナーに大きなカレー鍋を持って行っていたのですが、なにやらプレイヤーの皆さんが騒いでいました。多くの人がカレーを食べさせて良いのかと思っているようです。最初はスピカも思いました。

 ここの動物たちはこちらからあげるご飯に関しては雑食です。小さい馬ですら肉厚のステーキを食べます。ゲームに細かいことを求めるなということでしょう。多分。

 カレーを食べながら、ソフィアが明日からのことを教えてくれました。

 

「れいどいべんと、だって」

 

   ・・・・・

 

 三日目。ミオとレナはあの広場に戻ってきました。二日目はきっと人が多くなるだろうと遠慮したのですが、三日目でも人数が多かったのであまり変わらなかったかもしれません。

 早朝に広場に来たのですが、多くのテントがありました。そしてそれらプレイヤーが寝ているテントの奥、ほこらの向こう側では走り回っている人影が見えます。起き出している一部のプレイヤーも、そちらを不思議そうに見ています。朝靄ではっきりと姿が見えません。

 

 人影はどうやらロープのようなものを持っているようでした。人影は三つ。そのうちの一つが一瞬立ち止まり、こちらへと駆けてきました。

 

「ミオさん!」

 

 その人影はスピカでした。スピカの姿を見たプレイヤーの多くが驚いています。ミオもスピカがこちらへと来たことに驚きましたが、とりあえず笑顔で応対します。

 

「おはよう、スピカ。何しているの?」

「えっとね、これでね、エリア区切ってるんだよ! レイド戦用のエリア作り!」

 

 周囲が静かになりました。誰もが聞き耳を立てています。仕方ないので、ミオが代表して情報を引き出します。

 

「レイド戦があるの?」

「うん! ほこらから向こう側! あ、もちろんふれあいコーナーは入らないよ。あと私たちが寝泊まりしてるテントの周辺も入らないから。それ以外の場所で、えっと、午後一時から三時にかけてレイド戦します」

「へえ……」

 

 ミオの瞳が鋭くなります。これでもトッププレイヤーの一人に数えられているミオです。レイド戦と聞いて血が騒がないわけがありません。

 

「ちなみに、レイド戦の形式は?」

「大型ボス、になるのかな? かわいいよ!」

「へえ……。ん? かわいい?」

「うん! かわいい!」

 

 大型ボスでかわいいとは一体。周囲のプレイヤーも分からないようで、しきりに首を傾げているのが分かります。

 

「参加報酬は記念品だから、別に、えっと、おいしく? はないって。だから実益を取るなら地下迷宮に行ってね」

「なるほどね……。了解よ。掲示板でも書いておくわね」

「よろしくー!」

 

 ぱたぱたとまたスピカが走って行きます。これでスピカが銀麗の魔女に全面的に協力しているのが周囲にばれてしまっているのですが、いいのでしょうか。多分考えていないのだと思いますが。でも、楽しそうなので良しとしましょう。

 

「だって、レナ」

 

 相棒へと笑顔を向ければ、相棒は肩をすくめました。

 

「付き合いますよ」

「さすが」

 

 にやりと、獰猛な笑みを浮かべます。それにしても、大型ボスでかわいい、というのは、どんなボスなのでしょうか。それだけがとても気になりました。

 

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