銀麗の魔女   作:龍翠

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 町を出て、森に入って、そのままウルの背中に揺られることしばらく。

 目的地である広場にたどり着くと、昨日と同じようにソフィアがいました。地面に何かを振りまいています。動物たちがそれを食べているので、おそらく彼らのご飯か何かでしょう。

 

「ソフィアちゃん!」

「あ、スピカちゃん」

 

 スピカが声をかけると、ソフィアは嬉しそうに微笑みました。もふもふではないけれど、この子はこの子でとてもかわいいと思います。

 

「こんにちは!」

「うん。こんにちは」

 

 スピカの元気たっぷりの挨拶に、ソフィアは少しだけ恥ずかしそうにしながら返事をしてくれます。ソフィアは次にラビとウルを見て、

 

「ラビちゃんとウルちゃんも。こんにちは」

 

 二匹が嬉しそうに鳴き声を上げます。この二匹もソフィアのことが好きなようです。何となく嬉しくなります。

 その後は、ソフィアと一緒に動物たちにえさを与えます。ソフィアが用意したそれは特別なえさらしく、どんな動物でも食べることができるそうです。おそらく青の魔法で作ることができるのでしょう。スピカはまだ作れないので、ソフィアの青の魔法のレベルはとても高いようです。

 

 動物たちがたくさん集まってきます。ソフィアから渡されたえさがなくなっても、ソフィアがすぐに次を作ってくれます。ソフィアが手を宙にかざすと、光が集まってきてえさになりました。やはり魔法のようです。

 スピカの手から食べてくれる子もいます。食べてくれている間に撫でると、気持ち良さそうに目を細めます。みんなかわいいです。野生とは思えないふわふわもこもこの子もいます。天国です。

 

「スピカちゃんは、動物が好きなんだね」

 

 ソフィアが言って、スピカは頷きます。

 

「うん! 大好き! リアルだとアレルギーで触れないけど、ここなら気にしなくていいから。たくさん撫でる! 撫でさせろー!」

 

 側によってきた黒い子犬のような動物を捕まえてわしゃわしゃします。嫌がるようなことはなく、むしろもっと撫でろとばかりに体をすり寄せてきます。もういっそ契約したい。ウルがちょっと寂しそうなので自重しますが。

 ソフィアが嬉しそうに目を細めて、言います。

 

「うん。スピカちゃんと知り合えて良かった。もっと遊んであげてね」

「うん! たくさん遊ぶ! もふもふだー!」

 

 次の子を捕まえて撫で回して。それを繰り返して。楽しそうなスピカの様子を、ソフィアは微笑んで見守っていました。

 

 

 

「ねえ、星香。またウルフに乗ってたね?」

 

 夕食時、兄に言われて星香は目を逸らした。何故ばれる。

 

「掲示板とかで結構話題になってるよ。本当に気をつけた方がいい」

「ええ……。そんなに変なことしてるかな?」

「悪いことはしてないけど、やっぱり目立つものだよ。他の人と違うことっていうのは」

「それは、何となく分かるけど……。でも乗らないと、ウルが悲しそうだし……」

「まあ、星香の気持ちも分からなくはないけどね」

 

 兄が小さく苦笑する。兄も星香が動物を好きなのは知っている。そして、アレルギーのせいで触れないことを悲しんでいることも。兄としては、ゲーム内とはいえ動物と遊べることを止めたくはないのだろう。だがあまり目立つとやはり良くないものだ。

 兄のそんな気持ちも分かるため、星香はごめんねと小さく謝った。

 

「何かあったら、ちゃんと言うから」

「うん。まあ、頼むよ」

 

 兄はまだどこか心配そうにしながらも、微笑んでそう言った。

 

「で、銀麗の魔女は見つけられた?」

「あ」

「…………。星香らしい」

 

 星香が恥ずかしそうに頬を染めて、兄は楽しげに笑う。

 兄に言われるまですっかり忘れていた。そう、銀麗の魔女だ。動物たちと遊ぶことに夢中で全然探していない。主目的であったウルフの使役は終えているので、別に無理に探す必要もないのだが。

 

「でもどんな姿か分からないから探せないし」

「うん。NPC図鑑は見た?」

「あ」

 

 硬直する星香と、笑うのを必死に堪える兄。

 NPC図鑑は公式のホームページにあるページで、NPCについて纏められている。あのゲームで暮らすNPCたちのほとんどが網羅されている。名前と写真、職業程度のものではあるが。

 もちろん青の魔法の先生についても載っているし、ポーションを売ってくれるお姉さんも記載されている。至れり尽くせりなページだ。もっとも、見たところで全て覚えられるわけではないので、ほとんどの人があまり見ないページでもある。それでも、物好きな人はこまめにチェックしているらしい。

 

「あとで確認する……」

 

 そのページについて忘れていることに自己嫌悪しながら星香が言って、しかし兄は首を振った。

 

「いや、まあ、載ってないんだけどね」

「え?」

「銀麗の魔女についてのページはある。けど、写真もなければ名前も不明、場所も不明。情報なし。お手上げだ」

 

 なら何故言ったのか。冷たく兄を見つめると、兄は肩をすくめた。

 

「忘れてるみたいだったからね。今は載ってないけど、いずれ載るかもしれないから」

「そう、だね……。うん。こまめにチェックする」

 

 兄の言うことも間違っていない。あのページは公式にお知らせがなくてもいつの間にか更新されていることがあるページだ。不意に銀麗の魔女についても更新されるかもしれない。

 そのことを教えてくれた兄に感謝しつつも、けれどやっぱり少し不満に思う星香だった。

 

 

 

 学校で勉強して、ゲーム内でソフィアと一緒に動物たちと戯れて。そんな生活を数日続けていると、すっかりスピカはゲーム内で有名になっていました。ウルに乗って移動していると、手を振ってくる人もいます。スピカも手を振り返すと、皆が相好を崩していました。少しだけ照れます。

 ですが、やはり、悪意もあるようで。

 兄の懸念は現実のものとなりました。

 

 

 

「待て」

 

 森の中を歩いていると、声をかけられました。ウルと一緒に、そちらへと振り返ります。そこにいたのは、男三人の、おそらくはプレイヤー、でした。剣士二人に魔法使い一人、でしょうか。スピカをじっと睨み付けています。

 

「なん、ですか?」

 

 警戒しつつ、そう問いかけます。男が言います。

 

「ウルフに乗る手段、教えてもらおうか」

「えっと……。どうして?」

「金になるからさ」

 

 言われて、スピカは顔をしかめました。

 スピカには思い当たるものがあります。それは、兄が今朝方、教えてくれたものです。

 どうやらスピカがウルに乗って移動するようになってから、ウルフに乗る手段を多くの人が探しているようです。それでも未だ判明せず、ついには教えてくれた人には少なくない額を払うという人までいます。

 この人たちは、それを狙っているのでしょう。

 

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