私、松田一郎はこの世界の人間ではない。
死して生まれ変わったのだ。私のいた世界はほんの二十数年前までは平凡なものだった。
だが、あの一発のICBMが全てを変えてしまった。
いや、その前から予兆はあったのだ。吉祥寺連続殺人、軽子坂高校事件、そして……悪魔召還プログラム。
あの日、あのICBMの日から世界には悪魔や天使、神々が溢れ人々を翻弄した。
いや、そんな生易しいものではない、虐殺だ。
幾たびの戦乱を私は潜り抜け、悪魔と戦ってきた。
戦況は厳しい。聖書の神と天使たちのLAW勢力、悪魔たちのCHAOS勢力。
そして、人間たちのNUTRAL勢力。
戦乱の世の中にあって人間は長い者に容易に巻かれる。
ましてや、天使や悪魔の加護は人の強さを簡単に跳ね上げる。
人であっても神や悪魔に組するものたちがどんどんと増えていった。
連中は簡単に人間をおもちゃにする。逆らえるのは力ある者のみ。
地獄だった。
その中であの英雄が出てきた。
CHAOSに行った友人の忠告を無視し、LAWに行った友人を無視し、
そうして彼らを殺し、彼らをそこまでおいつめた天使も悪魔も殺しつくして一応の均衡を作り出した。
世は……少しだけ、ほんの少しだけ平和になった。
人間でも力を得て、悪魔と対等になれ、再び文明を得るチャンスのある平和が。
だが、私はその完成を見届けることなく戦士として敗れて死んでいった。
新宿バベルの建設途中だったか。
まあいい、とにかく悪魔や神の世界で世界はめちゃくちゃになった。
そうして私はその戦いの中で死んでいった。
だが……生まれ変わった世界では、『まだ』悪魔も天使もその影くらいしかない。
あの平和な、限りなく尊い20世紀の文明世界だった。
□
生まれ変わってから私は徐々にこの世界の私となじんでいった。
今ではもう、どちらが元々の私か解らない。
しかしデビルバスターとしての私はこの世界の私を乗っ取ってしまった悪魔と変わりない存在だとは思う。
だが、親やこの世界の自分に悪いとは思いつつも生き方は曲げない。
悪いとは思うが、それだけだ。
どっちも私なのだ、有用な知識として活用させてもらう。
私はちょっと秀才なくらいで普通の子供を演じつつも、この世界のことを調べた。
細かいところは違うが、やはり前の世界の20世紀くらいの文明だ。
だがこの世界では起こるべき悪魔の事件が起こっていない。
ならば悪魔はいないのか、いや、いるようだ。
本好きな子供という演技から私はオカルト関連の書籍や果ては大学のフィールドワーク論文まで目を通した。
やはり、いる。
神器(セイクリッド・ギア)という存在、悪魔の駒、聖剣、妖怪。
いくつかの文献であきらかに実在しているだろうという証拠を突き止めた。
ならばどうする。私は目を閉じ耳をふさぎ、平穏の中に生きるか?
それもいい。尊く、安らかで、なにより誰の迷惑にもならない。
だが私はこの世界でもデビルバスターとして生きていくことにした。
平穏は連中の身じろぎだけで軽く吹き飛ぶものだと知っているからだ。
その時になってさあ力がありませんではどうしようもない。
とはいえ、できることはそう多くない。
わざわざ古武術道場を探して両親に頼み込み体を鍛え上げるくらいだ。
同時に、あの世界で使えた装備も魔法も再び手にする必要がある。
幸い、この世界には魔力も魔術師もいる。なんとかなるだろう。
そして……悪魔召還プログラム。
いやと言うほど弄ったから大体は覚えている。
パソコンの機能自体はICBM以前よりはるかに高いのだから問題はないだろう。
□
私は高校生になった、同級生といっしょに馬鹿をやったりしている。
私は主に力仕事担当だ。
馬鹿みたいな日常。楽しく尊い時間。
だがその日常に異物が紛れ込んだ。
リアス・グレモリー、ソーナ・シトリー。
奴らは悪魔だ。外面をどう取り繕うと私には奴らの気配がわかる。
奴らの取り巻きも同じく悪魔だろう。
それとなく調べてみれば出るわ出るわ。
グレモリーがあの72柱のグレモリーであること、奴の祖先がこの学校の設立に関わっていること。
不明瞭な金の使い道、関係者に多発している記憶の齟齬。
どうやら悪魔は想像以上に深く人間社会に根を張っているらしい。
私はさっさとオカルト部と生徒会の天井裏に忍び込み、盗聴器を仕掛けた。
これで連中の事は筒抜けだ。
おかげでかなりのことがわかった。
サーゼクス・ルシファー、禍の団、ライザー・フェニックス、聖剣計画、姫島朱乃の両親のこと。
断片的な情報から真実を組み立てていく。あとは地道な裏付け捜査だ。
おかげでよーくわかった。悪魔共も神も人も腐れ果てている。
対抗すべき人間も聖剣を弄繰り回したり、英雄派などと餓鬼の遊びに興じている。
停戦による平和ボケといえば聞こえがいいが、これはむしろ退廃というべきものだろう。
危機感があまりにも欠けている。その癖狂気と傲慢さは無駄に満ちているから性質が悪い。
よく解った、うんざりするほど解った。
奴らは人間の命と人生を雑巾程度にしか思っていない。
悪魔の駒はまさに悪魔の発明だ。
適当に眷属に出来るシロモノで、おまけに眷属は奴隷かアクセサリー程度でしかない。
悪魔の気分次第で誰もが簡単に悪魔の奴隷になりうる。
種の繁栄、保存を歌っているがなんのことはない、奴隷を増やして勢力を水増ししているだけ。
その奴隷が台頭すればあの汚らわしい純血主義とやらで押さえつける。
だが一つ収穫はあった。リアス・グレモリーはまだしもまともらしい。
悪魔にすれば、だが。
眷属を人扱いというか悪魔扱いしている。ある程度の人権を認めているのだ。
その点は少し見直したが、逆に言えば他のやつらは軒並みあのICBMで出てきた連中と同じような奴らだとよくわかった。
だが、そのグレモリーとソレに近い感性を持つソーナでさえ訳ありとはいえ幼い連中を平気で裏の世界に巻き込むのだ。
私の覚悟は決まった。
神討つべし。悪魔、降すべし。
一人たりとして神も魔も狂信者も生かしておけない、
人間の世界の事は人間が決める。神も悪魔もいらない。もちろん私もだ。