事の始まりは友人の兵籐一誠に彼女ができたという話だった。
それはいい、喜ばしいことだ。
だが、におう。
あの忌々しい天使どもの魔力の匂いがする。
杞憂ならばいい、だが見極めさせてもらう。
それにしても何が楽しくてカップルを尾行しなければならないのか。
前世と今世で身に着けた潜入・穏行技能の全てを使って隠れているが虚しくなって来た。
だが、一つ収穫はあった。天野なんちゃらという兵籐の彼女はまちがいなく天使か堕天使で、兵籐に悪意があるということだ。
あのLAWのうさんくささを知っている人間なら解る。独特の偽っているような口調と気配がする。
おや、人気の無い公園に行くようだ。
「イッセー君。お願いがあるの」
「何?」
あのモーションと殺意はヤバイ。
「死んでくれないかな?」
ムド、いやハマ系か?いやあれはヒートウェイブのような物理系だ。
黒い羽、堕天使か。
手に光る槍を持って一誠を見下ろす。その瞳には侮蔑が込められている。
だがその前に術の出がかりを潰す!
「ザン!」
光る槍は私の放った風の一撃により狙いがそらされた。
意識を戦士のそれに切り替える。
バックアタックだ、先制はもらった。
「お前は何?神器持ちかしら。邪魔しないでくれる」
「答える義理は無い」
「な、なんだよお前!夕麻ちゃんに何すんだ!」
説得する時間が無い。
「ドルミナー」
睡眠の状態異常を与える魔法だ。コンボにもつなげられる便利な技なので習得しておいた。
イッセーは崩れ落ち、眠ってしまう。
まあ、私が奴の友人だとバレなかったのは単純に変装していたからだ。
金髪のカツラ、帽子にバイザー、マスク。
服装も普段はしないヒップホップ系だ。
「やはり神器持ちの人間、でもお前はあっけなく死ぬわ。人間が堕天使に勝てるとでも?」
「ならば反証してみせよう」
私は素早く踏み込むと防御を崩す拳の一撃を見舞った後背面からさらに追い討ちをかける。
ひるんだ隙に魔法を詠唱する。
「タルカジャ」
「スクカジャ」
「テトラジャ」
「人間が私に触れるなんて!ありえない!」
「言った筈だ、反証すると」
「私を怒らせたことを後悔させてあげる!」
堕天使は光の槍を振り上げ、私に切りかかる。
素早く体制を攻撃から回避に切り替えて避ける。
隙を見ては筋力上昇(タルカジャ)の魔法を唱える。
「どうしたの?避けるばかり?」
「安い挑発には乗らん。私は私のやりたいようにやらせてもらう」
「調子に乗るな!コケにするのも大概にしなさい人間風情が!」
繰り出してきた槍にカウンターを乗せる。破魔無効(テトラジャ)のかかった腕でつかみ、相手の体に槍を突き立てる。
そのまま槍を奪い取り抜き取って思い切り叩きつけ、さらに接近し投げ技で転がし、関節を決める。
「貴様には聞きたいことがいくつもあるが、残念ながら今の私では生かしたまま貴様を捕らえるほどの余裕は無い。故に死んでしまえ」
「ま、待って!」
「聞けない相談だ」
首をへし折ると堕天使の体は一瞬ではじけて一枚の羽になってしまった。
なるほど、この世界ではこうなるか。以前の世界でもほうっておけばマグネタイトが霧散して悪魔の死体は残らなかった。
どうやらこの世界でも似たようなものらしい。
実に都合がいい、便利だ。
「わたしもあなたに聞きたいことがあるわ。あなたは何者?」
「……グレモリー、なるほどゴモリーか。72柱の56番目の公爵だったな?」
後ろからかけられた声はたしか、オカルト部のリアス・グレモリーだ。
私が悪魔の存在を確信した証拠の一つだ。
「いや、質問に質問で返すのは礼を失するか。言っておくがわたしは神器持ちなどではない。
ただの魔法を知っているだけの人間だ」
「話が早いわね、でも神器の存在を知っているって言うことは裏の者なんでしょう?
ここはこのリアス・グレモリーの管轄よ。知らないってわけには行かないの」
振り返るとやはりそこにいるのは赤髪のグラマラス。
リアス・グレモリー。忘れもしない、あの悪魔の気配を持つ女だ。
さて、名前を名乗らねばならない。そうだな、あの英雄のようなニュートラルの象徴……
神、討つべし。悪魔、降すべし。
「……神討降魔(カミウチゴウマ)とでも呼んでくれ。連絡先はこのメールだ。これでは不足か?」
私はポケットに入れておいた軍用ボールペンでメモに使い捨てのメールアドレスを書き込む。
「ええ、不足だわ。あなたの立ち位置をはっきりして欲しいの」
「だろうな、今は敵対する気は無いし、何処に属しているわけでもない」
「あなた狙われるわよ」
「そうだろうな、だからこうして顔を隠している。
それで察してくれ、今は正体を明かす気は無い」
私はどうなってもいい、だが家族は巻き込めない。
「あきれた、そんなもので隠し通せると思うの?
あなた、もしよかったら私の眷属に……」
グレモリーの声色には心配するような響きがあった。
なるほど、庇護下に入れと言うことなのだろう。
ふん、慈愛、慈愛ね……
「断る、嫌だ、ふざけるな。会って30秒で眷族になる奴がいるか」
「それもそうね、その辺も含めて今後のことを詳しく話し合いましょう」
私は先手を打って場所を指定した。グレモリーはオカルト部で話し合う気の様だが、相手のホームグラウンドで話し合う気はさらさらない。
「場所はこちらで指定させてもらう。ジョリー・ロジャーで会おう。
日時はそちらで決めてもらってもいい。だが、お互い学生の身だ。放課後か土日がよいだろう」
「ええ、じゃあ明日の放課後、7時に。ところで、そっちの彼を保護してもいいかしら?」
兵籐か。堕天使に狙われると言うことは何かしらあるんだろうが……
このままにしておくわけにもいかない。
グレモリーが保護してくれれば助かるが、悪魔に友人の身柄を預けると言うのは気が引ける。
信用がおけない。
「勝手に契約なり眷属なりしないというならばな。食らうと言うならばお前を滅ぼす。何年かけようと必ずだ。
一切の害を及ぼさないというならば構わない」
しばらく話していてわかった。この悪魔はお人よしなタイプだ。
悪魔にとって約束など紙切れにも等しいものだとはわかっている。
だが、このタイプはチャンスさえあれば誘惑してくるものの、脅しておけばとりあえず怯むタイプだと私は経験上知っている。
「厳しいわね。いいわよ、約束しましょう。彼に危害は加えないわ」
「いいだろう、ではさようならだ」
「ええ、ごきげんよう」
そうして私は逃走用魔法を唱える。
「トラエスト」
「……瞬間移動?やっぱり神器使いかしら、そうじゃなければ相当な魔術師ね」
公園には、グレモリーのつぶやきだけが残っていた。