翌日、喫茶店ジョリー・ロジャー。
私は天使、堕天使、悪魔の三大勢力に悪魔の駒の話をグレモリーから聞いた。
「というわけで神器もちは狙われやすいのよ。あなたは本当に神器持ちじゃないの?」
「くどい、これは俺の知っている魔法だ。
情報源については聞いても仕方のないことだ。このやり方を知っている者はおそらく今はいない」
「そう、でもどの道あなたは堕天使に狙われることになるわ」
「俺自身はなんとでもなる。問題は兵籐だ。眷属とやらにするのか?」
「ええ、あのまま放って置いたらどの勢力からも狙われることになるわ。
それともあなたが彼を守りきれる?」
その顔は勝ち誇っているようだった。
そのとおり、あの女好きに事情を説明したとしよう。
私は奴の彼女を殺した相手としか映らない。
もしも奴が私の話を信じたとして、まともに努力するだろうか?
いつ来るかもわからない敵とやらを相手に?
奴が本気になるとしたら全てを失った後だろう。
だがそれでは遅い。
しかし、友人が悪魔になるのを見過ごすと言うのは……
決断の時だ。
見捨てるか、助けるか。
「奴が契約するかどうかは奴が決めることだ。
だが、条件がある。差し出がましいようだが、奴に説明する際に俺も同席することと、発言権を許して欲しい」
「そう、じゃああなたはその対価に何を差し出すのかしら?」
「私の扱う魔法を全て差し出そう」
「そう、悪くは無いわね。でもいいのかしら?
あなたは手の内をさらす事の危険を解っているとおもうのだけれど」
「何が言いたい」
「どの道調べればすぐにばれるのよ?正体を教えるほうが得策じゃないかしら?」
「その場合は俺の行うことにいくつか協力してもらいたい」
「話し合う余地はあるということね」
「ああ、それは……」
私は条件を言った。
「あなた、正気?」
「さてな、だがこのくらいの覚悟なくば成せることも成せん
それと、言っておくがわたしはいざとなれば「彼ら」も見限って行動するぞ」
「私から言っておいてどうかと思うけど、本当にいいの?
これをしたらあなたは……」
「遅かれ速かれ、だろう?ならば今のうちにしておいた方がいい」
「解ったわ。これは契約ではなく取引あつかいにしておいてあげる。
でも、最後に一つだけ聞かせて。あなたは一体何を成すつもり?」
私は少しだけお茶を濁した回答をすることにした。
「……神と悪魔が人類を巻き込んで最終戦争を行う可能性を一つでも減らしたい。
できることなら、神と悪魔の戦いに人類を巻き込ませたくない、それだけだ」
「そう、ならあなたが何かしなくってもすでに三大勢力は戦争を回避する方向に行っているわ。
私はあなたが心配よ。「人類」っていっても会ったことの無い他人でしょう?
そんな人たちのためになぜあなたが戦うの。たった一人になってまで」
痛いところを突く。だが私の戦いは賞賛をえるためのものではない。
憎しみだ。貴様らのような存在への耐え難い憎しみゆえに私は戦うのだ。
「……私の心配が杞憂ならばいい。だがきっとお前たちは人間を巻き込んでいろいろとやっているのだろう?
私はどうもそれが許せないのだろう。人間は神の玩具でも悪魔の糧でもない」
「……」
グレモリーは絶句してしまった。
そうだろうな、あの世界を知らなければ狂人の戯言にしか聞こえないだろう。
一個人が世界の趨勢をどうこうできるものではない。だが私はやる。
できるできないではない、やらねばならないのだ。
「まあいい、戯言とでも思ってくれ。それでは、その件はよろしく頼んだ」
「ええ、悪魔は取引は誠実に実行するわ」
かくして私、松田一郎は死人となった。
□
結論から言おう。私は社会的に死んだことになった。
事故の記憶を偽装して公的な書類を全て準備したのはグレモリーだ。
家族も私が死んだという嘘を信じてくれている。
ちょっとしたトリックなのだが。
電話でひき逃げ事故にあって死んだと家族に連絡し、グレモリーがなにやら適当に調達してきた死体と対面させただけだ。
顔は適当に潰しておいた。
それで皆が泣いた。
私にとってもつらいものだった。
だが、私は神の軍勢とも悪魔とも戦うことを決めている。
どっちにしろ、後戻りする気はなかった。
松田一郎は死んだ、覆面をかぶった時にはもう神討降魔になっていた。
そうして、私はイッセーとの説明の場に同席することとなる。
□
「私たちオカルト部はあなたを歓迎するわ。悪魔として」
「えっああ、はい」
それからグレモリーによる堕天使と悪魔、神器の説明を私は黙って聞いていた。
兵籐は実に高校生らしい反応でおっかなびっくり聞いている。
相変わらずリアクションが面白い奴だ。
「それが神器、あなたのものよ」
ふむ、己が最強と思う姿を念じて出す、か。
なるほど合理的だ。私ならば何だろう?ミトラあたりか。いや悪魔ではない。
やはりあの英雄だろう。ヒノカグヅチをもち足に神経弾を装備した最強のデビルサマナー。
「あなたはその神器を危険視されて、堕天使、天野夕麻に殺されかけたの」
さて、心苦しい瞬間だ。だが、言い訳はすまい。
「いや、あの時たしかに死んでくれる?とか夕麻ちゃんは言っててその後俺は意識がなくなったけど……
その前になんか変な奴が乱入してきたような」
「ああ、それはね……」
グレモリーが困ったような顔をした。
「私が殺った。お前が殺されそうになったから、私があの女を殺した。
それが全てだ、信じるかどうかはお前次第だ」
「お前が夕麻ちゃんを殺しただって?それに堕天使?悪魔?信じられねーよ!」
「いいえ、私たちが悪魔というのは本当のこと」
グレモリーが翼を広げてみせる。
忌々しい蝙蝠の羽だ。
「マジか。いやでも神器も出て来たし……全部、本当なのか?」
「嘘は言っていないし、隠し事もない」
ここでグレモリーは笑みを深くして兵籐に囁き掛ける。
「あなたにはいくつか選択肢があるわ。私の眷属になって悪魔として生きる道。
そのまま何もせずずっと堕天使達に狙われる道。
契約者となって私の庇護下に入る道。
お勧めは最初のと最後のね。一度力に目をつけられてしまったら死ぬまで追いかけられることになるわよ」
「俺、殺されるんですか」
「そのままだと間違いなくね。それに私の元にくればあなたの新しい生き方も華やかなものになるかもしれないわよ?」
グレモリーはウィンクする。
まあ、悪魔ならばそう言うだろう。だが私は人間だ。
「……兵籐、言っておくが眷属になったらほぼ死ぬまでその悪魔の下僕……奴隷になる。
そこのグレモリーは奴隷扱いまではしないだろうがな」
「う、うーん……美女の下僕というのもそれはそれで良さそうだけど、納得は出来ないなあ……」
「でもね、悪魔には爵位っていうものがあるの。私も持ってるわ、生まれ育ちも関係するけど、成り上がりの悪魔だっているわ。最初は皆、素人だったのよ」
「本当ですか?いまいち信用できない」
そこでグレモリーは兵籐の耳に顔を近づけて耳打ちする。
アレは女に免疫のない奴では厳しかろうな。
「やり方次第ではモテモテな人生をおくれるかもしれないわよ?」
「どうやってですか?!」
そら、食いついた。なんと言うか、高校生だな。
割ってはいろう。
「……人から悪魔に転生した者でも功績によっては爵位が与えられることもある。
だがな、兵籐。これは開放奴隷みたいなものだぞ?
コロッセオの剣闘士は知っているだろう。あれのチャンピオンは解放され、市民権が与えられる。
そういうようなものだ。ごく一握り……5%未満の勝ち組というエサ、理想に過ぎない。
このグレモリーは別だが、大体がそのまま奴隷として使い潰される」
奴のいう台詞を先取りしてやった。
当然、グレモリーは俺を睨むが知ったことじゃない。
「カミウチ。その言い方はないんじゃないかしら?
あともうちょっと多かったはずよ。
イッセー、悪魔は神々との戦争で数が大きく減ったわ。悪魔は出生率が低いから。
だから素質のある人間を下僕として悪魔に引き込むことで数を回復させて来た。
それは事実よ。でもね、それは力のある悪魔を再び存在させるためなの。
たしかに一握りの勝ち組かもしれない、でもそこに入ってしまえば認められるわ。
悪魔は力ある者を認めるものよ。ハーレムだってやってもいいものなの」
兵籐はうんうん言いながら話を理解しようとしている。
「う、うーん、あんまり自信はないけど、やり方次第では俺も爵位を?」
「ええ、不可能じゃないわ。それ相応の努力と年月がかかるでしょうけど」
「エ、エッチなこともしていいんですか!?」
「あなたの下僕にならいいんじゃないかしら」
「心がぐらつくなあ……」
相変わらず下心に素直すぎる奴だ。奴は間違いなくCHAOS属性だな。
もう一つ釘を刺しておこう。
私は奴を悪魔にさせる気はさらさらない。
「落ち着け、兵籐。下僕にならば迫ってもいいということはおおよそ下僕は何をされても拒否権がない、文句を言えない存在だということだぞ。
お前はそんなものになってもいいのか。それと、この現実で這い上がれない奴が悪魔の世界で成り上がる?
夢物語も大概にしろ。人間の世界より悪魔の世界は厳しいぞ。だいたいにおいて戦いと切り離せん。
そもそも、下僕になった転生悪魔が成り上がる方法なぞレーティングゲーム……こっちでいうサバイバルゲームを実弾使ってやるようなゲームで勝ち続けるしかない」
「なにその危なさそうなゲーム!?命がけなの?」
「いいえ、ちゃんと審判もいれば回復魔法もあるわ。
スポーツの一種みたいなものよ。ボクシングだって殴りあうけど死ぬことはあんまりないでしょう?
っていうかカミウチ、ここは私の部室であなたは客分。それを忘れていないかしら?」
そろそろ引きどきか。黙っていよう。
「発言権を許したのはそちらだろう?だがたしかに礼を失していたな。黙っていよう。
それと一つフォローを。こいつは下僕を奴隷扱いするような奴じゃない。
下手な奴に目をつけられて眷族にされるよりはましだろう」
ここで俺の存在を思い出したかのように兵籐はたずねる。
「あの、カミウチってそいつもやっぱり悪魔なんですか?」
「いいえ、彼は人間。だけどあなたと同じで特殊な力を持っているわ。
分類としては魔法使いでいいのかしら?」
「その扱いで構わない。格闘もそれなりにできるが」
「紹介が遅れたけど、彼は神討降魔。私の客分よ」
「へえー」
すごくどうでもよさそうだった。
まあ、そうだろうな。
「それで!あなたの立場はいますごく危ないの。
神器もちはだいたい大成功するか、利用されて狙われるかのどっちか。
あなたはすでに狙われる側よ。いつどの勢力に殺されてもおかしくないの。
最悪、死んだほうがマシな人体実験をされたりするかも……」
グリモリーが口調と論旨を変えて今度は脅しにかかる。
だが、事実でもある。
「ゲッ、マジですか」
ここでグレモリーは木場にちらりと目線を送る。
「部長の言っていることは本当だよ。僕はそういう人を何人も見てきた。
それに、神器を狙って抜き取られる場合もある。神器を抜き取られたら人は死ぬんだ」
なるほど、経験者は語る、か。
リアリティはあるだろうな。
「実際、あなたはすでに狙われたでしょう?今回は運よく無事だったけど、次もそうとは限らないわ。
下僕になれとは言わないけど、保険はあったほうがいいでしょう?
私の契約者になれば庇護を約束するわ。危なくなったら私が必ずあなたを守る
それにもし死んでしまっても大丈夫!転生悪魔って言ったでしょう?
死んだ後すぐなら悪魔として復活できるのよ」
「なんだか保険のCMみたいだなあ……うーん、じゃあ今回はそれで。
女の子に守ってもらうって言うのもしゃくだし……
もし俺が死んだら悪魔になるっていうのでどうでしょう」
「もちろんよ。それに悪魔の女の子は美人が多いわ。
その神器も多分戦闘用よ。鍛えればそれなりになるはず。
力さえあればモテるわよ?そこでこオカルト部に入っておけば悪魔の世界に行き放題!
普通の人生じゃめったに味わえない面白い体験が出来るわよ!今ならこのオカルト部入部セットプランがお勧め!」
「た、たしかに皆美人だ……じゃあ俺そのプランで!」
「交渉成立ね。さあ、契約書にサインして」
ああ、とうとう奴はサインをしてしまった。
まあ、この辺が落としどころか。
その後なんとなく雑談をしてこの場は解散となった。
「カミウチ、ちょっと後で来なさい」
「ああ、解っている」