<イッセー、悪魔である私達は堕天使たちに手は出せないわ。
そして、あなたが教会に行くのも止めなきゃいけない。
神器を使いこなせていない人間であるあなたが行っても殺されるだけよ>
<そうですよね……部長達を巻き込みはしません>
<待ちなさいイッセー!……カミウチを頼りなさい。
私の名前を出してもいいわ。
それから、私はしばらく席を外すわ。
皆、自由に行動しなさい。悪魔は自らの欲望に忠実な者だから>
ふむ……なるほど。神器もちのシスターを助ける、か。
正直メシア教徒じみたやつらは皆死んでしまってほしいがね。
だがまだ人間だ。動く価値はある、か……リアスへの貸しになるだろうしな。
それに、あのはぐれエクソシスト共は少しは見所がある。
まだまだLAWから脱し切れてはいないが、真のNUTRALになれる素質を持っている。
この際だから組織を作ってしまおう。
まあ、駄目だったら皆殺しだな。
さて、用意をしておくか……
□
「カミウチ!すまねえ、力を貸してくれ!」
「落ち着け、何があった?」
「アーシアって友達が堕天使に神器を抜き取られそうなんだ!
ほっとくわけにはいかねえ、たのむカミウチ!力を貸してくれ!」
ふむ、奴らしいストレートな頼み方だ。
「構わない。だが、いくつか条件がある」
「条件って?」
「一つ、敵の生死は問わない事。これは生かして抑えるのは難しいからだ。
二つ、倒した敵の処遇は俺に任せること。いわば捕虜だな。倒した奴が責任を持ってどうにかするということだ」
「あっああ……俺はかまわねえけど。皆は?」
「そうだね……カミウチさん、君は捕虜をどうする気だい?」
「安心しろ。お前達の害になる使い方はしない」
「答える気はないんですね」
「ないな。それともう一つ。これはリアスへの貸し一つということで構わないな?」
「なっなんで部長が!」
「本来、あいつの管轄内の出来事であり、あいつが当たるべき案件だからだ。
俺やお前、部下の自由行動ということで責任を放り投げてはいけない。
あいつが出向いて抗議すべきことだ」
「それは僕の一存では決められないな……」
「まあいい。リアスに伝えてくれればかまわない。
だが、要求するからには見返りを出すのが私のやり方だ。
これをやろう」
俺は幾つかの記号が書かれた石をイッセー達に渡した。
「この赤いのがアギストーン。炎の魔法が込められている。
黄色がジオストーン、雷だ。青がブフストーン。氷の魔法が入っている。
使い方は簡単だ。攻撃する意思を持って投げればいい」
「こんなに沢山、いいのか?」
「作るのはそれほど難しくはない。それから今から力を増幅させる魔法を使う。
マハタルカジャ!」
赤い光がイッセーたちの足元からあふれ出る。
「すげえ……なんか力がみなぎるぜ!」
「だが10分ほどしか持たん。突入前にこれと同種の魔法を4回重ねがけする。
これで要求分は釣り合うはずだが」
「アーシア・アルジェントは捕虜に入っていないね?」
「ああ、そっちで好きにするといい」
「ならいいんじゃないかな」
「じゃあ行こうぜ!いそがねえと!」
□
カジャ系魔法を重ねがけし、イッセー達は教会の扉をくぐった。
「ご対面!再会だねえ!感動的だねえ!」
あれは確かフリードとかいうエクソシストだったか。
「俺としては二度会う悪魔はいないって事になってんだけどさ!
ほら俺メチャクチャ強いんで初見でチョンパなわけですよ!
一度合ったらその場で解体!死体にキスしてグッバイ!それが俺の生きる道でした!
それがお前らのせいでメチャクチャだよ……俺のスタンスと人生設計がメチャクチャだよ!
だからさ、ムカつくわけで!死ねと思うわけよ!つーか死ねクソ悪魔共!」
「……下品」
「てめえらあの悪魔に魅入られてるクソビッチを助けに来たんだろ?
とりあえずそこの人間のお前も悪魔に肩入れしてる時点で死刑確定!」
「おい!アーシアはどこだ!」
「んーそこの祭壇に地下への道が隠されておりますぞ」
「そうか、それだけ聞ければ問題ない。麻痺呪文(シバブー)」
窓に張り付いて様子を伺っていた俺はさっさとフリードに向けて麻痺呪文を打ち込んだ。
黒い光がフリードに向かうと黒い刺のような魔力光が奴を包む。
「なんじゃこりゃ!俺を縛ってボコるつもりですか!
さすが悪魔!悪魔汚い!」
「……先に行け。この拘束は1分ももたん。
コイツを処理したらすぐに行く。急げ!」
「サンキューカミウチ!」
イッセーたちは先へと急いだ。
さて、と……じゃじゃ馬慣らしと行くか。
「さて、拘束が解けるまであと50秒ほどか。
フリードとやら、少し話すことがある」
「何でしょうか!俺としては悪魔とつるむ奴に話すことなんか1mmもない所存であります!」
「利用しているだけだ。神も悪魔も天使も堕天使もすべて殺す。教会の狂信者共も生かしておかぬ。
貴様にはわかるだろう。悪魔はもちろん、天使も堕天使も、教会も腐敗しきっていることが」
「あーあーきこえなーい。今俺の頭にあるのは俺の拘束が解けたらこの余裕こいちゃってる魔法使いさんをどうぶっ殺してやるかしかないんだよ!」
「教会は腐っている。それは教会から抜けたお前が一番よくわかっているはずだ。
悪魔はクソだ。
しかしだからといって堕天使がまともなわけはないな?
やつらは人を殺す。神器をコレクションするためにな。
おまけに悪魔とも和平をしようとしている。
連中、人間をゴミほどにも思っていないぞ?
なぜ生かしておく。なぜ殺さない!!」
「悪魔を殺すのが俺のマイウェイなんですぅー。堕天使とかしらんちょ。
あいつら俺に悪魔を殺すための武器をくれる人たちですし?
お前こそなんであの悪魔共を殺さないんですかー」
「お前の堕天使とやらは人を殺しにかかってきた。
あの悪魔たちはまだ人を殺してはいない。
だから俺も今はまだあいつらを殺さない。それだけだ」
「悪魔は悪魔ってだけで生きてる価値ないんですけど?」
「そうだな、その通りだ。これ以上は無意味だな。
俺は貴様らを手に入れる。そして教会も悪魔も堕天使も天使も皆すべて生かしておかぬ」
「プゲラ、妄想とか超痛いんですけど」
「ならば試せ。逃げるなよ。貴様がどこに逃げようと必ず突き止め屈服させる」
フリードにかけたシバブーが解ける。
「アンタみたいなガイキチに構ってる暇なんてないんで!バイちゃ!」
フリードが閃光弾を振り上げようとする。
だがそれこそ俺の狙いだ。この手の奴はさんざん苦戦させられてダメージを与えるだけ与えたあと逃げる悪魔に良く似ている。
実際、メシア教徒もガイア教徒ももはや人ではなく悪魔だしな。
悪魔合体できるし、COMPにも入る。人間としての一線を越えたやつらはだいたいああなる。
こいつはメシア教徒ではないが、似たようなものだ。
故にわかる。さんざん殺しあってきた奴等と似ているからどういう手を繰り出すかよくわかる。
「貴様が逃げる場所はいくつもない。窓かドアか、眼くらましをしている最中に隠れるか。
さもなくば転移魔法かのどれかだ。
そして貴様が逃げる場所にはあいにくとブフストーンが置いてある。
貴様の氷結が解けるまであと20秒ほどだが……まあ、十分だ」
私はさっさとアタックナイフを振り下ろし、フリードの足の腱を切った。
一度では切れないので5、6回ほど振り下ろし、ついでにノコギリのように斬る必要があったが。
「ぐっ、げあ、があああああ!!」
「残念だよ、フリード。まともに戦っていればきっとこんな事にはならなかった。
だが貴様はそういう性質(タチ)だから、逃げるだろうとも解っていた」
そういう間にも私は奴の腕をガムテープでぐるぐる巻きにして、指錠を一個一個、指にかけていく。
手錠も3つくらいかけておこう。
ついでに剣と拳銃ももらっておく。これは便利な武器だ。
「さてフリード、貴様には言ってもらう事がある。
私の仲魔になれ。眷属といってもいいな。
安心しろ、私は人間だ。だからこそ、悪魔より、堕天使よりずっと多くの者を殺すだろう。
共に来い、楽しめるぞ?」
「dick your suck!san of a bitch!」
フリードは英語で罵言を返す。
「元気なのは良いことだ。まあ、これからお前は元気ではなくなっていくんだが」
爪に爪楊枝を差し込んでいく。これはどんな奴も根を上げる。
まあ実際耐えられない苦痛だ。されたことがあったからよくわかる。
「歯医者という拷問を知っているか?できればしたくない。
さあ、言うことがあるな?安心しろ、仲魔になっても好きに私の首を狙え。
構えない。こちらは代償を払い、お前には俺の敵と戦ってもらう。
そういう関係だ。俺はお前が戦えるのに必要なものを提供しよう。
堕天使と何の違いがある?さあ、言えよ。仲魔になると!」
「XXXX!XXXXX!!」
「残念だ」
「さて歯が雑巾のようになってしまったわけだが……
まだ駄目か?まだ頷いてくれないか?
そうか、とても残念だ」
「ふむ……まあ目玉はいらないか」
「鉛筆削りという拷問を知っているか?いい感じの指だ」
「聞いたことはあるか……?ネイティブアメリカンは狩った相手の頭の皮をはぐという。
まあ私も何度かやったことがあるんだが」
「おい、聞こえているか?なあに心配するな。耳たぶがなくなっても耳は聞こえるさ……それに私は回復魔法も持っている。
さて、そろそろ私も疲れてきた。お前の強情さには参ったよ。
悪魔の駒が偶然ここにあるんだがな。リアスから眷族にならないかと言われて持っていた奴なんだが……
どうする?俺はお前を悪魔にして無理やり使い魔にしてやってもいい。
選ぶのはお前だ。どうする?仲魔になるか。それとも悪魔になって眷属となるか」
「y,yes......」
「仲魔になるんだな?」
フリードがうなずく。
その瞬間、フリードの体が電子情報に分解されてCOMPに入る。
『はぐれエクソシスト:フリードを仲魔にしました』
やれやれ苦労した。だが、こいつはレベルを上げていけば中堅くらいの強さにはなるだろう。
下にいるはぐれ神父も何人か欲しいしな。
「さらばだ!人間!そしてグレモリーの娘よ!」
「さっさと逃げるっス!やっぱり最初からこんな計画はムリがあったんすよ!」
床を突き破って何かが来た。堕天使共だ。
「マハブフ!シバブー!」
私は氷結の波動(マハブフ)を放ち、拘束呪文をかけた。
「うおりゃあああ!!……あれ?」
イッセーが堕天使を追うように飛び上がってきた。
「見せ場を取ってしまったか?兵頭一誠。堕天使たちならばそこにいる。
今ならば叩くだけで殺せるだろう。さあどうする?お前は殺すのか。それとも救うのか。あるいは放って置くか?」
その間にも私は堕天使たちを物理的に拘束していく。
「くっ殺せ!」
「いやっス!死にたくない!私は死にたくない!ああああああ!!」
男の堕天使、ドーナシークといったか。そいつは悪態をついてまだまだ元気だ。
しかし、ミッテルトとかいう女の方は完全に恐怖している。
眼に涙を浮かべ、必死ではいずりながら逃げようとするが、パニックで過呼吸になりそれもままならない。
さて、今更だが私はイッセーを戦いには巻き込みたくない。
よって少し悪役を演じることとした。
ミッテルトとやらは丁度いい。すでに屈服している戦意のない敵だ。
(おい、最後のチャンスだ。大げさに命乞いしろ、助かるかもしれんぞ?死ぬ気でやれ)
ミッテルトに私はささやく。
「神器はどうした?もう抜き取ったのか?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「まあ、アーシアにとってはその方が案外良かったのかも知れんな」
「てめえ!」
「今なら悪魔の駒で生き返るだろう。私が蘇生をしても生き返るかもしれん。
ただの人間、ただの悪魔としてな。
呪われた才などよりずっといい。違うか?」
「ちょ、ちょっと待て!蘇生、できるのか?」
「知らなかったのか?」
「あ、ああ……じゃあ急がないと!」
「こいつらはどうする?逃がせばまたアーシアやお前を狙うぞ?
殺すか、生かすか今選べ。生かすなら悪魔の駒で悪魔にでもするか、捕虜にでもしてもらえ。あのリアスに頼めば可能だろう。
お前が殺せないと言うならば、私が殺そう」
私はフリードから奪い取った拳銃をミッテルトに向ける。
単純なシナリオだ。イッセーに捕虜を生かすか殺すか選ばせる。
イッセーは戦意の無い敵を殺せるほどまだ非情には徹し切れないだろう。
だがそれでいい。「殺せなかった」あるいは「不殺」という楔をイッセーに打ち込む。
殺さなかったという選択がイッセーの枷になる。
人でなしの人間と、人間らしい人間とを分ける最後の一線になる。
「助けてください!命だけは許して、ゆるしてください!なんでもします!
どんな事でもします!お願いします!お願いします!
うあああ……死にたくない、死にたくない、お慈悲を、お慈悲を……」
「やめろ!殺せ!誰か薄汚い人間共や悪魔に跪くか!」
どうやらこの男は殺しておいたほうがいい。反抗的な敵を生かしておくとそれだけイッセーは殺しても構わないと思うだろうから。
ちょっとした演出のために私は床に溢れかえっているフリードの血をすくい、それでドーナシークの額にバツ印を描いた。
そしてそれにめがけて銃を撃つ。
「そうか、ならばお前は死ね」
銃声。ドーナシークは脳をぶちまけて死んだ。
そしておもむろにミッテルトにもバツ印を描く。
「あああ、うわあああああー!あー!あー!ああー!!」
ミッテルトはもはや演技など関係なく、本気で死を確信し壊れたように泣き叫んでいる。
まるで赤子のような声だ。
「さあどうする!兵頭一誠!戦意をなくした敵をお前は殺すか?それとも救うか?」
私は喜悦さえにじんだ声でイッセーに殺気を向ける。
これでいい、これでイッセーは殺しに対し抵抗を覚えるだろう。
「このサイコ野郎!いい加減にしやがれ!」
イッセーは神器のついた手で私の胸倉を掴む。
「だが、お前は先ほどまでこいつらを殺そうとしていたのだろう?
殺すとは、戦うとはこういうことだ。私のようになると言うことだ。
殺人者というものはそういうものだ」
「ああわかったよ!言ってやる!殺させねえ!
俺が頭を下げてこいつが助かるならいくらでも下げてやる!だから殺すな!」
「いいだろう、お前の決断を尊重しよう」
私は拳銃を下げ、魔法を唱えた。
「安心しろ、ただ眠らせるだけの魔法だ。ドルミナー」
「それよりアーシアを早くなんとかしてくれよ!」
「ああ、解った」
私達は蹴破られた床を下り、儀式場へと入る。
「イッセー!大丈夫だったのね。堕天使たちは?」
「ドーナシークはこいつが殺しました。ミッテルトはすいません……
俺はあんなになった奴を殺せねえ」
「イッセー?一体、何を見たの?カミウチ、その血……一体何をしたの!」
「フリードは始末し、ドーナシークは射殺した。それだけだ。
過程や手段はこの際置いておけ。結果は変らん」
「カミウチ、貴方って人は……!」
「ところで、このアーシアだが私が蘇生しても構わないか?」
「待ちなさい、あなたは何を言っているの!」
「一応お前の許可が必要かと思ってな。おそらく蘇生できるが、できなければ悪魔の駒とやらで生き返らせてやれ。
お前はできるのだろう?」
「え、ええ……そうね、まずはあなたがやってみて頂戴」
「なかなか賭けに出るな、リアス・グレモリー。だがその姿勢悪くない」
そして私は呪文を唱える。
「サマリカーム!」
光が恩寵のように降り注ぎ、アーシアは薄く眼を開ける。
それと同時におそらく神器であろう緑色の光がアーシアの胸に吸い込まれた。
「あれ?イッセーさん……」
怪訝そうにたずねるアーシアをイッセーは抱きしめていた。
「帰ろう、アーシア」
美しい光景だ。だが私はいくつか言うべきことがある。
「イッセー、お前はリアス・グレモリーに言うべき事があるな?」
「ああ……部長、すみません。あの時俺がアーシアを助けに行く時、部長が手を貸してくれないからってすごく失礼なことばかり言って……
でも部長は裏でいろいろ動いててくれて……アーシアが助かった。ありがとうございます」
「いいのよ。神器を持つあなたにはこれからもっと沢山の試練があるでしょうから、強くなりなさいイッセー。
あなたには学ぶべきことが沢山あるわ。もちろん、見返りにこき使ってあげるから覚悟しなさい」
「はい」
「……まだもう一つあるな?」
「えっと、その、働くって言ったそばからさらに借りをつくる事になるんですけど……
ミッテルトを殺さないでやってください。俺にはあんな奴を殺せない」
「……カミウチ?」
「ああ、必死に命乞いしていたからな。もう心は折れているだろう。
今助けてやればおそらくよく働くぞ?捕虜にでも悪魔にでもしてやればいい。
あるのだろう?捕まえた捕虜を服従させる術や道具の一つや二つ」
「ええ、あるわよ。でもあなた、一体何をしたの?」
「見ての通りだ」
私は血まみれになった私の服を見せた。
「少しショッキングだったのかもしれんな」
「そう、それがあなたのやり方なのね。カミウチ」
「人間らしいだろう?」
「ええ、そうね。そうかもしれないわ」
リアスは嫌悪の表情で俺を見る。ああ、それだ。
その眼だ。悪魔から畏怖されるその眼。それが私に充足を与える。
「イッセー、カミウチ、貸し一つよ」
「ありがとうございます!」
「まあ、そうだろうな。恩に切る」
リアスがため息を一つつき、深呼吸をすると場の雰囲気を変えるかのように明るい声で言った。
「さあ、帰りましょう!いつまでもこんなくさくさした場所にはいられないわ!」
「はい!」
皆が帰っていく中、私はあえて気配を消してその場に残っていた。
イッセーがこちらを見て静かにだが熱くつぶやく。
「……カミウチ、俺はお前みたいにはならねえ」
「ああ、お前はそれでいい」
俺のようにはなるな。
イッセーは外の光へと出て行く。
私は暗がりの中にいる。