『千利休』
57.切り札
学年から2人の人間が消え、158人となった1年生。重苦しい空気の下位クラスとは対照的に、上位2クラスは平常通りの空気が流れている。Bクラスとしては坂柳に消えて欲しかったのだろうが、そう思い通りにいかせてなるものか。不安要素はだいぶ残っているけれども、坂柳は一応片付いたと見ている。
これからは切り札の1つとして役に立ってくれることだろう。元々知性はずば抜けて高い。それを使って貢献してもらうとしよう。クラスメイトは内心不満もありそうな顔だが、彼女が無能でないことは理解している。それ故に一応理解は示してくれているようだ。
さて、そんな数日前まで苦渋の決断を迫られていた存在もいる中、無情にも学年末特別試験の連絡はやって来るのであった。
「――――では、これより1年度の最終試験の発表を行うが、その前に1つ連絡だ。冬休みに行われた絵画コンクールにおいて、我が校美術部より優秀成績者が出たので表彰状が来ている。文部科学大臣特別賞、1年Aクラス、神室真澄。おめでとう」
拍手の中、顔を真っ赤にした真澄さんが表彰状と盾みたいなものを受け取っている。これは大変誇らしい事だ。流石私の部下。非常に優秀である。明らかに照れているのがまるわかりな表情で、あわただしく拍手に応えて礼をし、席に戻って行った。
この前の誕生日で希望の進路をきいている身としては、これが第一歩になってくれればいいと切に願うばかりである。最近は部活にもしっかり顔を出しているようで、美術部の顧問からも謎にお礼を言われてしまった。当然ながら何の工作もしていない。是は完全に彼女自身の力である。
「なお、これは大変素晴らしい事である為、Aクラスにクラスポイントと彼女にプライベートポイントが学校側から授与される。部活動で優秀な成績をおさめた生徒には褒賞が出る。皆も励むように」
先生は軽く拍手をしてから、特別試験の話をする態勢に入った。しかし、坂柳が400も持って行ってしまったクラスポイントだが、真澄さんが少しでも回復してくれたのはありがたい。坂柳が奪ったものを取り返したという事で彼女の人望も上がるだろう。
さて、肝心の特別試験だが、今回は坂柳が停学期間中なので参加できない。その為、こちらのカードが1つ消えてしまっている状態だった。これは非常に迷惑な話である。後、月城が坂柳の停学前に彼女に接触していたことが分かった。
接触といってもメールでだったようだが、私とホワイトルームとの繋がりも暴露されている。面倒なことをしてくれた。坂柳が暴走したのには、その辺の理由もあるのだと見当がついている。月城め……と思う私をよそに、先生は説明をする。
「1年間を締めくくる最後の特別試験は、これまで学んできた集大成を見せてもらう事になる。知力、体力、連携、或いは運。いずれにせよ、お前たちの持つ様々なポテンシャルを発揮する必要があるだろう。今回の試験は『選抜種目試験』。ルールに従って対決クラスを決めて行われることになっている」
ペーパーシャッフルの時と同じような形だと想像がついた。DクラスはBを指名する契約になっている。BもおそらくだがDを指名するはずだ。龍園は退学しなかったが、それでもトップにはいない。ならば最も倒しやすい相手であるからだ。
「分かりやすくするため、これらの白いカードと黄色のカードを用いて説明していく」
先生は10枚の白いカード、停学の坂柳を除いた分の黄色いカードを黒板へ貼っていく。トランプのようにカードは並べられていた。ただし、黄色いカードは1枚少ない。坂柳の分を引いても、38枚しかなかった。
「まずは白い方からだ。ここには、お前たちが話し合いをし、好きに決めた『種目』を全部で10個書き込んでいく。この種目は、あまりにマイナーであったりしない限りは極論何でもいい。スポーツ、テスト、ゲーム……いろいろだ。ただし、マイナー過ぎる或いは長時間かかる、設備が大掛かり過ぎるなどの種目は却下される。また、絵や音楽のように審査員を必要とするものも却下だ。あくまでもはっきり結果が出るものに限定される。また、勝敗のつけ方やルールなども決めて構わない。しかしながら引き分けは許可されない。必ず白黒つけられるようなルールが求められる」
クッソマイナーな中国の遊戯とかはダメみたいだ。まぁ仕方ない。この試験では、クラスの面子の能力を把握し、かつ適切に配置しないといけない。ただこの1年見てきた私に言わせればこの程度さしたることでは無い。得意不得意は把握しているつもりだ。
黒板には3つの日付が書かれていく。今後の予定だろう。
3/8 特別試験発表日。同日対決クラスの決定。
3/15 10種目の確定。対決クラスの10種目及びルールの発表。
3/22 試験当日
「そして決めてもらう種目は10種類だが、3月22日の試験当日にその内の5種目を『本命』として提出してもらう。つまり、相手のクラスの5つと自クラスの5つ、合わせて10種目で勝負をしに行くという事だ」
残りの5つはブラフ。情報戦であり、相手の思考を読むことも必要な訳か。そしてこの10個の中から学校側が抽選で7つを選び出し、それで戦うという事であった。
「7種目の内、途中で勝敗がついたとしても最後の1種目まで争われる。クラスポイントの変動にかかわってくるからだ。つまり、勝敗が確定しようとも競い合わねばならない。10種目の受け付けは14日いっぱいが最終受付になる。これを過ぎると学校側が適当に作ったものを割り当てることになる。尤も、そんな失敗をする事は無いと思うが……念のためだ」
これはサッサと決めてしまえるだろう。ルールの理解に苦しむ生徒がいない以上、この説明が終われば次の作業に移れる。明日くらいまでには決めてしまいたい。そうすれば特訓が必要ならば伸ばせるはずだ。
「また、同一クラス内では種目が同じものは2つ登録できない。例えるならば2点先取のサッカーを種目にしていれば、PKルールのサッカーは登録できない、という事になる。そして1度決めた種目は取り消せない。慎重に選ぶことが要求されるだろう。更に言うのであれば、原則1人1種目にしか出場できない」
突出した個が無双するのを防ぎに来た、という訳か。その姿勢自体は良いモノだと思う。
「そしてお前達には種目以外にも『司令塔』という役割を1人用意しなければならない。司令塔は種目に直接参加できないが、大人数を束ね臨機応変な対応が求められる重要な役割だ。解けない問題を解いたりなどが出来る。その介入方法もルール内で定めて貰う事になるだろう。これになるメリットは勝利時にポイントがもらえること。デメリットはもし万が一7種目において全敗した場合のみ、退学してもらう事になる」
<学年末特別試験・要綱>
・各クラスは10種目を選び出す。その際、マイナー過ぎるもの、勝敗のつかないもの、時間や設備が大掛かりなものは不可。
・選んだ10種類の内、本命は5種目。残りの5種目はブラフとなる。これは3月22日に提出する。
・途中で勝敗がはっきりしても、試験は最後まで続行。
・同一クラス内で同じ種目は2つ登録できない。
・原則1人1種目まで。
・司令塔が存在し、臨機応変に対応できる。この介入方法もルール内として定められる。
・司令塔は勝てればポイントを得るが、敗北すると退学となる。
・種目、司令塔、いずれも選べなかった場合は学校側がランダムに指名する。
「司令塔になった生徒には今日の放課後、多目的室に集まってもらい、くじ引きで選ばれた1人にクラスを選んでもらうことになる。くじに勝った時にどのクラスを選ぶのか、クラス全員でよく相談して決めておくように。なお、肝心のクラスポイントの変動に関してであるが、1種目につき30ポイントが勝ったクラスに移動する。そして最終成績で勝利したクラスに学校側から100ポイントが与えられる」
現在のクラスポイントに関しては、
A……1417
B……889
C……568
D……326
となっている。全敗しても落ちるという事は無いと思われるが、油断はできない。勝てるに越した事は無いだろう。配られた細かいルール表にざっと目を通す。
・マイナー過ぎる種目や複雑すぎる種目、及びそのようなルール設定の制限
極めて細かなジャンルなどは不許可の可能性がある
筆記問題などを種目にする場合、学校側が問題を作成し公平性を保つ
基本ルールを逸脱し改変する行為は禁止
演奏や絵画など、美的感覚の問われる試験は公平性を確保できないので禁止
・使用できる施設に関して
試験当日は多目的室にて司令塔が種目進行を行う。学校内の施設は体育館、グラウンド、音楽室や理科室などは使えるが、例外はある。(他クラス・他学年の教室など)
・種目制限、時間制限に関して
同じ内容と判断される種目は各クラス1つまでしか採用できない。また、種目の消化にかかる時間が長すぎる場合や、時間制限の無い種目は採用が見送られる可能性がある
・出場人数
種目に参加する人数は交代要員を除き申請する10種目で全て違っていなければならない。最大人数は20人(交代要員を含む)で最少は1人。
必要参加人数が10人以上の種目は2つまでしか登録できない。また、種目の人数が同じものは設定できない。
・参加条件に関して
各生徒が出場できる種目は原則1つまでだが、クラス全員が種目に参加した場合は2回目以降の参加を許可する。
・司令塔の役割
司令塔は7種目全てに関与する権限を持つ。どのように関与するかは種目を決めるクラスが定め、学校側が承認して初めて採用される。
参加人数が1人から20人と幅広い。20人必要な種目などそうそうないが、もし作れれば精鋭を二周目に持ってこれるという事か。とは言えいろんな条件も考えるとそう簡単にはいかないだろう。
司令塔だが、退学の危険性がある以上、私がやるのが無難だと思われる。全敗は無いと踏んでいるが、プロテクトポイントがある利点を生かさない手は無い。やっと私らしいことができる試験がやって来たという事だろう。指揮官をやるのは日本に来て以来なので久しぶりであるが、腕が落ちたつもりはない。元より私は指揮官だ。将校として禄を食んでいる身なので、無論指揮という一点において他に劣っているつもりはない。
一通りの説明を終えて、先生は教室を後にした。入れ替わるように私が壇上に立つ。
「試験について疑問のある方は?……いらっしゃいませんね。分かりました。それでは司令塔ですが……どなたか希望者は?」
手を挙げる生徒はいない。どんな少ないリスクでも回避できるならそれに越した事は無い。そう言ったところだろう。私がやる方が確実だと多くが思っている証拠だった。それに、万が一が起こっても退学のリスクは無い。
「いないようですので、私が引き受けさせて頂きます。そのうえで選ぶ種目についてですが、我がクラスのアドバンテージを活用していく戦法を考えています」
「具体的には?」
「ご説明します」
葛城の質問に答えるように、私は携帯内に保存してある1つの表を提示する。
「これはこれまでの学力試験におけるこのクラスの平均と皆さんの得点です。データを見ればわかりますが、我がクラスは圧倒的に学力において秀でている。アベレージも非常に高い。ですのでこれを活かし、本命の種目はすべて学力系で攻めたいと思います。明日、正式決定をしますので、何の教科のどんな試験なら自分が勝てそうか考えてきて下さい。それが今日の課題です」
指示を出しておけば考えてくるだろう。ダミー選択肢は運動系、しかも大人数でやる系を出しておく。そうすれば、相手は一気に人数を使って二周目を出そうとしているのかもしれないと警戒してくる可能性がある。それに加え、練習を強いることも出来るかもしれないのだ。相手の選択肢を考えて動く。それが戦略の基本である。
そして選べる選択肢を考えた後、望む方向へ誘導するために思考を誘導していく。それが本来の戦場での戦いだ。錯綜する情報の中で、正解を引っ張り出す、非常に難しい選択が司令官の務めである。
高度な柔軟性を持って臨機応変に。これはかなり悪名高いセリフだが、戦場とは実際にはこういうものだ。そう考えると、これが出来るのは綾小路や龍園の方だろう。堀北や一ノ瀬はこの手の行動は苦手なタイプと見ている。決められたことならば完璧にこなせるのだろうが。
放課後の多目的室。ここには普段用事などないので来ないが、どうも今回の舞台はここらしい。教室内には既に3名がいた。Bは一ノ瀬、Cは堀北、そしてDは金田だ。龍園はどうやらまだ重い腰を上げていないようである。もしかしたらそれも策略なのかもしれないが。
そして向かい合わせのパソコンと共通の大きなモニター。
「各クラスの司令塔が集まったようだな。それでは対決するクラスを決めたいと思う。このくじを1枚ずつ引いてもらう。赤い丸がついてる生徒に選択権が与えられる」
くじ引きというかなり古典的なものだ。だが問題は無い。合理的に考えて、Bはまず間違いなくDを狙う。何故ならば、今のBクラスは確実に勝ちたいからだ。確実に勝って、Aクラスを追い抜きたい。そういう思いがあるはずである。一ノ瀬は特別試験に関して私に苦手意識を持っている。それも加味すれば、ますますAクラスを避けるだろう。それに、Cはおそらく綾小路が何かを仕掛けているはずだ。
でなければ、先ほど送られてきた綾小路からのメールに合点がいかない。綾小路からは果し合いを望む旨が送られてきている。狙いは何か。そう考えたときに堀北かと感づいた。綾小路は堀北に経験値を積ませようとしている。私は体のいい教科書なのだろう。負けたとしてもそれを糧にさせるために堀北を敢えて私にぶつけようとしている。あの男もなかなかあくどいことを考えるものだ。
「では、Aクラスから引きなさい」
お言葉に甘えて、そのままくじを引く。運のいいことに、最初に私が引き当てた。これで選択権は私が保持することになる。BクラスはDクラスにどうにかしてもらう。それはすでに既定路線である。そうなるように色々してきたが、杞憂に終わってよかったと思うべきだろう。
「Cクラスでお願いします」
「Cクラスで構わないな?」
「はい。間違いありません」
堀北がスカートの端をぎゅっと掴む。その顔には僅かな緊張が浮かんでいた。堀北はともかく、これでBとDの対戦が確定した。一ノ瀬は私と戦わずに済んだことに安堵しているように見える。その安心がいつまで続くかは分からないが。
「では、特別試験当日に向けてシステムの説明を行う。この多目的室では、このようにパソコンを2台使用して行う。どの種目に誰を置くのか。それをリアルタイムで選んでいくのだ」
図上演習みたいだとふと思った。実力勝負なのは演習とは違う事だ。なにせ、演習だと運も絡んでくるのだから。
「マウスを操作し、選ぶ生徒の顔写真をドラッグし、種目の枠へドロップする。間違いや変更の際は枠外にドロップしなおせば再度選択可能だ。或いは指先タップも出来る」
「なんかテレビゲームみたいですね」
「ほんとよねー」
一ノ瀬と星之宮先生は楽しそうに会話をしている。
「各種目ごとの生徒選択には時間制限がある。それは今カウントされている数字だ。種目に必要な人数が多いほど、選択の時間はある。1人につき大体30秒だ。選びきれないと、残りの生徒からランダムで選出されてしまうので注意が必要だ。そして試合が始まると大型モニターにはその様子が映し出される」
観戦武官みたいな気分になってくる。司令塔の介入は、画面に表示されているボタンを押せば使えるようだ。また、テスト系では最後に時間を設けることができるらしい。
「司令塔からの指示方法は通話ではなく、チャットの文章を機械が自動で読み上げる仕組みを採用している。文字を押し、エンターキーを押せば出場者のインカムに受診される」
これは不正を防ぐためだろう。囲碁や将棋、チェスなどであれば会話を使うとずっとそのまま勝負を代われる可能性もあるのだから妥当だ。尤も、文章で暗号電文を使われた場合はどうにもできないかもしれないが。
「インカムは1つの種目につき、1人しか身につけられない。どんなに大人数でもだ。誰につけるかは司令塔が決める。指示はルールに沿った範囲ならいつでも可能だ」
パソコンの機能は色々あるようだ。できることは多い。複数の情報を同時に処理するマルチタスキングも求められているのかもしれない。
「以上が概要だ。何か質問は?」
真島先生は全員に視線を送るが、誰も質問はしない。分からない事などないのだろう。
「では、本日はこれで終了とする。操作方法の再確認がしたい場合は、試験一週間前までなら職員立会いのもと、多目的室にて行える。以上だ」
こうして説明は終わり、我々に解散が命じられた。
自室で考える。果たしてどうすれば勝てるのか。相手の、つまり堀北の切れる最強のカードはまず間違いなく綾小路だ。綾小路をどう使うか。これがやはり一番怖い。高円寺は動かないと読んでいる。彼が動くのは彼自身が司令塔になった時か、或いは私が兵卒であり、相対することになったときくらいだろう。平田は廃人だと言うし、やはり綾小路だ。これをどうにかして無力化しないといけない。
ホワイトルームは多くを詰め込んだ。だが、弱点だってある。一般的な知識しか入れてない彼は、ニッチな問題は解けないと思われる。歴史科目などは重要視してないというのが盗み出してきた内部データから読み解ける。総じて文系よりも理系を重んじているようだ。
それ自体を否定はしないが、やや短絡的な思考だ。文系知は直に結果が出ない。代わりに数十年のスパンで結果を出していく。文理何れも軽んじるべきではないのだ。ともあれ、ホワイトルームの弱点は見えてきた。運動系には使わないと見ている。Cクラスはそこそこできる生徒がいるからだ。最強のカードはやはり他を切れない場所で使いたいもの。
「何かひらめいた?」
「糸口は見えた」
「ふ~ん。相手は堀北でしょ。大丈夫?」
「Cクラスはああ見えて能力の高い生徒も多い。堀北だけならまだしも、他がな」
「バスケは絶対入れてくるでしょうね」
「それは無論だろう。捨てる選択肢など存在しないし、それが出来るほど余裕があるとも思えない」
真澄さんの読みは正しい。須藤も運動面では堀北の持つ大きなカードだ。最大限活かせるバスケで使うのはどう考えても自明の理だろう。
堀北のカードは綾小路、須藤、小野寺、櫛田、平田(現状は廃人だが、綾小路が放置するわけもない)、幸村あたりか。対するこちらのカードは大きいのが4枚。真澄さん、葛城、橋本、坂柳。ただし、坂柳は参加できない。これが使えればチェスを入れられたんだが。
残った3枚の内、何でもそつなくこなすのは葛城だろう。彼は万能性という意味では非常にありがたい。橋本も運動面ではかなり強い。真澄さんもそれは同じだが、彼女を運動面で使ってしまうのは惜しい気がする。何処か、もっといい種目は無いものか。
そこでピンと糸が繋がる。もしかしたら、攻略の糸口を見つけたかもしれない。多くが使えず、そしてホワイトルームの知識も役立つか微妙な種目を。これが採用されれば、まず間違いなく堀北は綾小路を投入する。何でもできる綾小路だからこそ、使わざるを得ない。何故ならば他にできる生徒がいないだろうから。
「見つけた」
「何を……?」
「攻略法だよ」
怪訝そうな顔の真澄さんを見つめながら、私は思いついたアイデアを最大限活かす計略を考え始めた。
「随分と出揃いましたね」
放課後の教室。教卓を囲む人物が数人。まずは私。そして真澄さん。更には葛城。この3人が現在のクラスの運営者なのは一目瞭然だ。それゆえに、ここで出す10種目の最終決定を行うのである。既にクラスメイト達からアイデアは募っている。そしてそれをこの3人で決める承諾も貰っていた。
出てきたアイデアは実現可能そうなものに絞ると25ほどある。他クラスに聞かれてもばれないように、それぞれに番号を振って直接的な会話を避けつつも相談するというなかなか難しいことをしていた。
出たのは色々ある。歴史(なぜか第二次世界大戦限定)テスト、現代文テスト、英語テスト、数学テスト、地理テスト、物理テスト、歴史(なぜか中世~近世ヨーロッパ限定)テスト等々である。面白いものだとアニメや漫画、ゲームのテストなどもあった。料理、電気機械、車の車種、競馬など完全にその生徒の趣味が見え隠れしているものもある。
「テスト形式の種目は司令塔の介入は少なくていいと思うのですが、どうでしょうか」
「俺は良いと思う。Aクラスの皆ならば、やってくれるだろう。ダミーはどうする」
「既に腹案が。真澄さんには話しましたので、少しお耳を拝借」
「…………なるほど。それならば相手に対策を強いることも出来るな。微妙にルールを知らなそうなものを入れていくのも悪くない選択だろう」
「だとしますと……本命テストは1番、6番、17番が良いでしょうかね。ダミーテストで22番と24番も入れておきましょう」
1番は数学、6番は現代文、17番は英語である。22番は社会で24番はスポーツ史だった。流石にジャンルが細かいのは出来るのが1人とかしかいないので今回は見送りである。後、知識源がゲームなのも不安要素が残る。それに、あまりに狭いと却下される可能性があった。
「俺としては25番なら活躍できるかもしれないが」
25番はフラッシュ暗算である。
「経験、あるんですか?」
「あぁ。中学生時代にやったことがある。それ相応に自信があるつもりだ」
「なるほど、では採用してもいいかもしれませんね」
「諸葛の方は大丈夫か?」
「目はいいのでご安心を」
「こっち系は一切なし?」
「ええ。真澄さんの言う通り、なしです。向こうが出して来たらそれに応える感じで良いでしょう。全てダミーとします」
こっち系とは、運動系のことである。その後も細々と細部のルールを詰め、とりあえず9個は出来上がった。
<本命>
1『フラッシュ暗算』必要人数2人 時間30分
ルール:珠算式暗算を使って正確性と速さを競い、1位を取った生徒のクラスの勝利となる。
司令塔:任意の1問を答えることができる。
2『現代文テスト』必要人数4人 時間50分
ルール:現代文の問題を解き、合計点を競う。なお、問題は完全初見文章&設問とする。採点の都合上、記述式は無し。全てマークシートとなる。
司令塔:1問だけ代わりに答えることができる。
3『英語テスト』必要人数8人 時間50分
ルール:英語の問題を解き、合計点を競う。なお、問題は完全初見文章&設問とする。また、リスニングや筆記試験は無し。全てマークシートのリーディングのみとなる。
司令塔:1問だけ代わりに答えることができる。
4『数学テスト』必要人数7人 時間50分
ルール:1学年の学習範囲内で数学の問題を解き、合計点を競う。なお、問題は完全初見とする。また、記述式は無し。全てマークシートのみとなる。
司令塔:1問だけ代わりに答えることができる。
<ダミー>
5『囲碁』必要人数3人 持ち時間1時間(切れ負け)
ルール:1対1を3局同時進行。ルールは通常の囲碁に準ずる。
司令塔:任意タイミングから持ち時間を使い最大15分だけ指示を出すことができる。
6『社会テスト』必要人数7人 時間50分
ルール:社会科の問題を解き、合計点を競う。なお、問題は完全初見とする。地理、歴史、政治経済、倫理等の範囲は問わない。また、記述式は無し。全てマークシートのみとなる。
司令塔:1問だけ代わりに答えることができる。
7『リレー』必要人数19人 時間15分
ルール:リレーを行い、早くゴールしたクラスの勝利。
司令塔:1人だけ同じ生徒を走らせられる。
8『大縄跳び』必要人数20人 時間30分
ルール:2回のチャレンジで、より多く回数を飛べたクラスの勝利。
司令塔:1度だけ相手の並び順を入れ替えられる。
9『スポーツ史テスト』必要人数2人 時間50分
ルール:スポーツに関する歴史にまつわる問題を解き、合計点を競う。記述式は無し。全てマークシートのみとなる。同点だった場合は全員の解答時間の早かったクラスが勝利となる。
司令塔:1問だけ代わりに答えることができる。
とここまでは決まった。そして私はまだ最後の1つを取っておいてある。これが私の本命。私の
そして、堀北はここに綾小路を持ってくるしかない。おそらくこれは通常の知識では突破できないと彼女は判断するだろう。そうして自身の最強を切ってくる。ただし、これが選ばれるかは完全に運次第。だが、運を引き寄せられなくては指揮官たることは出来ない。戦場とはち密な計算をしようとも、どこかでぼろが出るもの。そんなとき、予想外の事態に際して必要なのは天運だ。それを持っているかも指揮官のとってはとても重要な事。
だからこそ人事を尽くして天命を待つのだ。そして私は信じている。今までの人生不幸は数多あれど、肝心な時に運命が微笑まなかった事は無い。クーデターも、交渉も、任務も、すべて成功させてきた。必ずこれは選ばれる。そして、勝つのは私たちだ。
私は10個目の種目を書く。葛城は少し驚いていたが、それでも私を信じると言って承認した。これが選ばれれば絶対に戦場に立たないといけない真澄さんは少しだけ不安そうな顔になったものの、すぐに首を縦に振った。
<本命、5個目>
10『美術史テスト』必要人数1人 時間50分
ルール:古今東西の美術に関する歴史にまつわる問題を解き、その点数を競う。なお、記述式は無し。全てマークシートのみとなる。
司令塔:1問だけ代わりに答えることができる。
これが私の選んだ答えだ。私の部下は決して負けない。これは勝負だ。私の教育と、ホワイトルームの教育。果たしてどちらが上なのかの一端を示すための。全てを捨てさせ詰め込んでも、そこに意味はない。それは真の意味での教育ではない。私の信じる教育は、最終的に生徒の伸ばしたいところ、伸ばせるところをとことん伸ばすことにある。
彼女は負けない。何故ならば、非常に曖昧かつ科学的根拠に乏しいけれど、私が彼女を信じているから。理由など、それで十分なのだ。