ようこそ孔明のいる教室へ 旧バージョン   作:tanuu

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自分になりなさい。他の人はすでに他の人がなっているのだから

『オスカー・ワイルド』


2-1章・人の名声は、それを得るために用いられた手段によって評価されるべきである
61.1番人気


<暗幕の中で>

 

 

「とどのつまり、友軍と呼べるのは2名と」

「はっ!その通りであります」

 

 モニターの前で長髪の男が深々とため息を吐く。外の春爛漫とは対照的に、部屋は暗く閉ざされていた。普段此処にいることの多い少女も、今日はその姿が無い。画面の向こうでは、隻眼の軍人が話していた。

 

「七瀬は結局ねじ込めたのだな?」

「はい。護衛と共にねじ込めました。坂柳理事長が身を隠し、混乱している最中でしたので割と容易に」

「なるほど。配属クラスは?」

「そこまでは。本人に聞いていただければと思います。監視役も配置しておりますので、行動に関してはご安心ください」

「外では複数人いたはずだ。誰を入れた」

「陸瑞季です」

「……アイツか。う~ん、アイツか……」

「生意気なところもありますが、体術はぴか一です。それは閣下もご存じのはず」

「やる気にムラがあるのが問題なのだ。それ以外は優秀なのだがな。ウチはこんなのばかりだ」

「今回ばかりはしっかりとやるでしょう。日本名の読みは(くが)瑞季(みずき)です」

「そうでなくては困る。呼び名は承知した。向こうにも徹底させているな?」

「無論です」

 

 男はもう一度ため息を吐いた。七瀬翼。去年色々あって保護した少女である。ホワイトルームへの武器になる可能性を秘めた存在の1人である。また、松雄栄一郎を手駒にしておくためにも必要な存在だった。それゆえに、厳重に保護しないといけない。外にいるよりもここに送ってしまった方が接触を減らせる。

 

 また、七瀬本人の強い希望によってこの高度育成高等学校へ送る事が決定していた。護衛役をねじ込むかは揉めたが、最終的には男――諸葛孔明の従妹の存在が決定打となり、ねじ込むこととなった。

 

「皆、つつがないか」

「はっ!壮健に過ごしております。ただ……」

「ただ、なんだ」

「その……党内に民国政府を攻撃すると息巻いている連中が多くなってきまして……」

「え、それは困る。軍は?」

「猛反対しています」

「だろうな。ウチの派閥はまず間違いなくやりたがらないし、他も同様だろう。現状ほぼ勝ち筋が無い。台湾に滅ばれる訳にはいかないんだ」

「強硬派の懐柔・粛清を進めている最中です」

「ならばいい。そちらに細かいところは任せる。引き続き励んでくれ」

「承知!」

 

 敬礼をして通信は切れる。諸葛孔明はしばしの沈黙の後に呟いた。

 

「晩飯作らないと」

 

 彼の精神は今、諸々の問題を抱えつつも安寧の中にあった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 年が明け、新学期が始まる。春休みの間に学校は大改装をしていた。黒板はホワイトボードに代わり、デジタル化できるようになっている。教科書も全てタブレットとなった。電子書籍の普及が目覚ましい今日、タブレットになっているのである。これは一長一短あるので必ずしも良いこととは言えない。とは言え、革新しようと努力しているのは伺えた。

 

 タブレットは生徒に1台与えられており、教室後方には高速充電可能な機器も新たに備え付けられた。万一授業中にバッテリー切れにならないよう、モバイルバッテリーまであった。持ち帰りは原則禁止だが、データは移動させられる。じゃないと持ち帰って復習できないので当然ではあるが。

 

 ポイントを使った席替えも出来るといわれたが、ウチはくじ引きで移動することを提案。それが通り、今度やる事になっている。坂柳の隣は飽きた。

 

 始業式が終了し、この後は授業が2時間分入っているがガイダンス的なものらしい。多分特別試験だ。それはさておき新学期がスタートしたわけだが、まずやる事がある。それは無論戻ってきた坂柳の処遇に関してである。教壇に立って、パンパンと軽く手を叩いた。それまでの私語は無くなり、全ての視線が私に集中する。

 

「さて、今後2年生が始まる訳ですが、我がクラスはその前にやるべき事が1つあります。入って来なさい」

 

 しょんぼりした顔で坂柳はオドオドしつつ入室してくる。途端にクラスの空気がドンと重くなった。苦々しい顔の者、露骨に蔑んだ顔をする者、他にもいい感情を浮かべてる人などいない。真澄さんも半ば呆れた顔をしていた。

 

「ほら、突っ立ってるな。やる事をやれ」

「うぅ……。この度は、私のせいでクラスポイントを大きく損ない、挙句の果てには皆様に不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありませんでした」

 

 深々と頭を下げた。しかし、それで溜飲が下がれば苦労しない。ごめんですんだら警察はいらないのだ。当たり前であるが、生徒は険しい顔のままである。

 

「謝ったから許せ、というつもりは毛頭ありません。被害者には許さない権利というものが存在しています。当然、彼女を今後も許す必要はないのです。とは言え、戦力として使えるのは事実。最低限ケジメはつけるようにとこうして場を設けました」

 

 今後、彼女はかなりおとなしく過ごすことを余儀なくされる。監視するのは学校だけでなくこのクラスの全員、主に女子全員である。女性同士の監視は恐ろしいものがある。変なことをしようものなら、一発で注進が飛んでくるだろう。そうなればもうアイツはおしまいだ。それくらいは分かっているはずである。

 

「先の特別試験。敗戦してしまいましたが、彼女なりに反省の証として私の命に従って堀北さんの思考を誘導、混乱させていました。事実、堀北さんの思考を誘導するのには成功しています。これで罪が帳消しになる訳ではありませんが、反省の色を示しているという事で、一旦溜飲を下げていただき今後も知的労働でこき使っていくことを提案します」

 

 まぁ仕方ないか、という雰囲気に少しずつなっていく。彼らも分かっている。これ以上坂柳をつるし上げても自分が惨めになるだけなのだと。もう何もない少女を踏みつけても、自分が哀れにすらなることを知っている。そう言う風に彼らが思っていることを坂柳も自覚している。だからこそ、さらに惨めになったようで縮こまっていた。

 

 過去は変わらない。であればこの哀れな生き物を精々自分たちの役に立つように使うか。そういう風になってくれている。ありがたいことだ。理知的な人間の集まりというのはこういう時に大変助かる。

 

「今後、もう一度彼女が故意に損害を与えた場合は、問答無用で退学させます。それを条件に、最後の機会を与えたいと思います。どうでしょうか。反対の方は?」

 

 苦い顔の生徒もいるが、有用性も理解しているようで反対者はいない。それを見て私は軽く頷き、俯いている坂柳へデコピンをかました。

 

「あうっ!」

「なに下を向いている。寛大なクラスメイトが受け入れてくれたんだぞ。感謝の1つや2つ、したらどうなんだ」

「あ、ありがとうございます……。精一杯頑張ります……」

 

 ペコペコと頭を下げ、彼女はしょぼくれたまま席に座った。明らかに精神的に疲弊している。これまで本気で謝罪などしてこなかったのだろう。誰かに謝り、蔑まれ、哀れまれるだけでも相当なストレスを感じているのは確かだった。とは言えこれは罪の清算。頑張って欲しいものだ。もしかしたらそのうち、許される日が来るのかもしれない。

 

 今後私が積極的にこき使う事で彼女の地位が高まらないようにしつつ、溜飲を下げてもらうこととしよう。戦力としては実際有能ではあるのだ。綾小路が絡まない限りは裏切ることももうしばらくは無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 坂柳の謝罪会見が終わったすぐ後に先生が入ってくる。その顔は真剣であった。

 

「全員揃っているな?これより皆に作業をしてもらう。全員、携帯を取り出し、机の上に置くように。忘れた生徒はいないな?いるとすればすぐに取りに帰ってもらうが……流石にいないか」

 

 携帯はすっかり必需品である。最早この学校では手放せないだろう。

 

「ではまず、各々学校のHPにアクセスし、新しいアプリケーションをインストールしてもらう。ちょうどこの時間からダウンロード可能だ。アプリの正式名称はOver All Abilityであるが、インストール後は『OAA』とだけ表示される。分からない者がいれば挙手を。終わったら再び机の上に携帯を戻すように」

 

 IT化の進んだ現代、アプリのインストールなど誰でもできるだろう。すんなりとインストールは終わった。

 

「このアプリは全校生徒が一斉にインストールしている。今後、高度育成高等学校で過ごす際に様々な恩恵を与えてくれるだろう。立ち上げてみなさい。学生証をカメラで読み取れば自動で初期セットアップが完了する仕組みだ」

 

 指示に従えば、カメラが学生証を認識。顔写真や学籍番号などが読み取られログインが進んだ。学生証の顔写真、もう少し良いのがあったのではないだろうかと改めて見返すと思った。

 

「このアプリは各生徒1つずつアカウントがある。今後はログインは必要なく、携帯と紐づけだ。一層取り扱いには注意しなさい。この中には全学年の個人データが入っている。2年Aクラスを押せば、自分たちの名前が五十音順に表示されるだろう。まずは自分のものを確認することを勧める」

 

 言われたとおりに押せば、確かに2年Aクラスの名前が五十音順になっている。諸葛は最後のほうなので下にスライドすれば、存在した。名前をタップするとゲームのステータスのようなものが現れた。

 

「そこに表示されているデータは1年生の終了時までの成績を基に学校が作ったお前たちの個人成績だ。自分たちのクラスだけではないぞ。他クラスは無論、全学年のものを閲覧できる。尤も、1年生は中学時代の資料を参考に、という事になるが。今後の教育に必要と判断し、採用された」

 

 多分南雲の差し金だろう。だが、これに関しては評価しても良いと思う。一見するとデータ管理化のようで嫌な人もいるかもしれないが、これは自分の弱点を客観的に見直して修正することができるチャンスだ。自分の成績が分かれば、どこを直せばいいのか、どこが優れていると見られているのか、ライバルは誰か等がわかる。

 

 個人主義的なところもあるが、メリットも大きい。称賛するべき点も多かった。

 

 画面の左上には『?』マークがある。大体こういうのは説明だと思い、そこを押せば項目ごとの詳しい説明が出てきた。

 

・学力……主に年間を通じて行われる筆記試験の点数から算出。外部試験資格検定などの成績もここに反映される。

 

・身体能力……体育の授業での評価、部活動での活躍、特別試験等から算出。ただし一概に運動神経ではなく、音楽や芸術などの能力もここに反映される。その際は大会や部活動などの結果をやはり参照する。

 

・機転思考力……友人の多さ、その立ち位置を始めとしたコミュニケーション能力、機転応用が利くかどうかなど、社会への適応力を求められ算出される。グループワークやプレゼンなどもここで評価する。部活動での交流などもここに反映される。

 

・社会貢献性……授業態度、遅刻欠席を始め、問題行動の有無、生徒会所属による学校への貢献、学校外での行動など様々な要素から算出される。

 

・総合力……上記4つの数字から導きだされる生徒の能力だが、社会貢献性は半分にして算出される。具体的には、(学力+身体能力+機転思考力+社会貢献性×0.5)÷350×100の四捨五入で計算。

 

 となっている。

 

「このOAAの数値は最大で100だが、100は存在しないようになっている。というのも、100というのは限界、つまりはその生徒にもう成長の余地はないという意味になってしまう。それは生徒の限界をこちらが勝手に測定しているという事だ。これは生徒に対しても失礼であるという理由で、事実上の最大値は99となっている」

 

 今の話を概算して、自分の数値を改めて見直した。

 

2-A 諸葛 孔明(もろくず よしあき)

 

1年次成績

学力    A+(98)

身体能力  A(94)

機転思考力 A(90)

社会貢献性 A−(88)

総合力   A(93)

 

 う~ん、正直物申したい部分はあるが、それでも概ね大体こんな感じであろうとは思われる。学力A+は現状学年で私しかいない。そもそも何らかの数値にA+がついているのは、ポチポチ触ってみた感じであると学年だと須藤の身体能力A+(96)と一之瀬の社会貢献性A+(96)しかない。各パラメータでAを貰っている生徒もそう多くはない。そう考えればかなり高評価を貰っていると見て良いのだろう。

 

 南雲には機転思考力と社会貢献性で一歩及ばないが、これは友人の多さだろう。向こうは学年全体だからな。生徒会長というのも社会貢献性に影響しているはずだ。総合値ではほぼ互角。それで我慢することにしよう。

 

「今は1年生の最後の成績のみが表示されているが、2年生になった今日からは現在進行形で評価が変動する。一挙手一投足が評価されていると思った方が良いだろう。更新は各月の初めだ。当然下がることもあり得るので数値の高かった生徒も気を抜かないように」

 

 これは大きい。今まで交流の無かった上級生やこれから入ってくる下級生の成績も分かる。また、教える上でも学力がどの程度伸びれば評価につながるのかを考えることも出来るので助かる。情報収集はしやすくなったが、同時にこちらの情報も丸裸だ。1年生の成績は中学3年生の際のものらしい。つまりは、あまり当てにならない数値もある。機転思考力なんかは人間関係が変われば大きく変化することもあるからだ。

 

 ただの便利なツールで終わらせる気は毛頭ないだろうし、今後これを活かした何かがあるはずなのは間違いない。また無人島かなぁ……。それはそうと、真澄さんだ。私の成績よりも彼女の方が重要である。

 

2ーA 神室 真澄(かむろ ますみ)

 

1年次成績

学力    A-(82)

身体能力  A(88)

機転思考力 B(69)

社会貢献性 B-(64)

総合力   B+(77)

 

 という感じになっていた。学力は最後のテストの結果が学年10位以内だったので当然と言えよう。他の上位10名以内もA-以上の評価を受けているのでここは不自然ではない。身体能力は元々運動神経は良いし、体育祭や林間学校でも活躍していた。加えて賞を獲った絵の才能もある。妥当だ。友達は学年の終わりのころにはかなり多くなっていたし、私の代わりに無人島では働いていたりもするので、そこが評価されたのだと推測できる。社会貢献性もやや低いが、最近ではしっかりしている。総合力もかなり高い。優等生と言って差し支えない成績になっている。流石、Aクラス女子のとりまとめ役だ。

 

「それから、坂柳に関してだが例外的措置として彼女の身体能力評価は学年最下位と同様の数値になっている」

 

 先生から説明がなされる。運動したくないのでしないのではなく、出来ない以上はこうするしかないのだろう。まさか0にするわけにもいかないだろうし、苦肉の策がうかがえた。話に出た坂柳など、他の主だった自クラス生徒を見てみると……

 

2-A 葛城 康平(かつらぎ こうへい)

 

1年次成績

学力    A(93)

身体能力  B(68)

機転思考力 A-(83)

社会貢献性 A(94)

総合力   A-(83)

 

 

2-A 坂柳 有栖(さかやなぎ ありす)

 

1年次成績

学力    A(94)

身体能力  D-(25)

機転思考力 C-(40)

社会貢献性 E+(16)

総合力   C(48)

 

 坂柳が哀れな事になっている。なんだよ社会貢献性16って。龍園の18より低いぞ。まぁでも考えてみれば龍園は色々やらかしているしどう考えても社会貢献性は無いが停学などは食らっていない。そう言う意味では坂柳は龍園以下の素行、という風にみられている、という事になる。酷いものだ。学力だけが異様に高いのも哀れさを誘っている。戸塚が吹き出しそうになっていたのはこのことに気付いたからかもしれない。アイツ、坂柳をいじる時だけは目ざといな。

 

 坂柳は机に突っ伏している。魂は抜けたようだ。

 

 葛城はこれまた優等生という数値だ。学力もかなり高い。身体能力や機転思考力もある。人望の高さは後者に加算されているのだろう。社会貢献性は生徒会で働いているのでかなり高い。私がいなければ彼がリーダーだろう。

 

 しかし、同点が多かった私と坂柳の学力に差があるのは何なのだろうか。もしかしたら、試験が中心とだけしか書いていないので試験以外の部分でも評価されている可能性がある。その分が差をつけたのか。ともすれば、授業をしたことや、真澄さんの成績を上げたのが私という面が学力に反映されたのかもしれない。真相は謎だが、仮説は立てられた。

 

「このアプリは成績に対する意識改革、学年に関係ない交流を促進する有効なツールとなるだろう。しかし、無論それだけでない可能性もある。総合力が一定数の数値に達してない人間に対し、ペナルティが課せられることもありえる。最悪では退学もあり得るかもしれない。これはこちらにも分からないので脅しのようになってしまうが、無い話ではないだろう。とは言え、我がクラスには総合力でE判定やD判定の生徒はいない。そこまで焦る事は無いかもしれないがな」 

 

 危ないのは坂柳である。運動神経はほぼほぼ変えられない以上、残りを何とかしないと危ない。普通に今の総合力は戸塚より下だった。

 

「お前たちの中には数値と自己評価に乖離を感じる者もいるかもしれないが、これが現状の学校からの評価だ。会社の人事評価同様、これは不服を持った場合成果で示すしかない。学校も万能ではない。成果で示せば、変わるだろう」

 

 自分の力で査定を変えられるのならばと努力する生徒も出るだろう。これまで通りでは上位陣も落ちる可能性がある。安穏とはしていられないが、個人的には目指すべき短期目標が出来たり足らない部分を補えるように行動出来たりと利点が多い。我がクラスの生徒が学校からどう捉えられているかも分かった。私の個人的評価とすり合わせ、指導の参考にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 OAA導入の話題冷めやらぬ中、2時間目に突入した。休み時間にはお互いの評価について話す姿が散見される。誰もが新しいものに興味津々であった。まぁ一部は死んでいたが。ともあれ、話してばかりもいられない。生徒の読みはすぐに的中した。

 

「では、特別試験の概要を説明する」

 

 まぁそうなるよね、という空気だ。これを予想するのは誰でもできる。

 

「これは今までの試験とは一線を画した試験となっている。それこそアプリのようにな。肝心のその内容は、新入生、つまりは1年生と2年生とがパートナーを組む筆記試験となっている。今回の試験では筆記試験とコミュニケーション能力が大きく問われる。欧米では飛び級は普通の制度だ。もしかしたら将来、この学校でも小学生のような世代が同じ教室で学ぶかもしれない。学年を超えての行動に違和感を持った生徒は、これを機会に認識を是正することを推奨する」

 

 一応日本にも文科省によれば飛び級に近い制度は存在している。大学への飛び入学であれば、高等学校に2年以上在学した者かつ大学が定める分野で特に優れた資質を有する者が、大学院への飛び入学であれば、大学に3年以上在学した者で、大学院が定める単位を優秀な成績で修得した者が飛び入学できる。とは言え、我が祖国よりは制度として確立していないのが現状かもしれない。

 

 とは言え、飛び級させることが必ずしも良いとは限らない。欧米に追い付け追い越せなのは明治維新以来の日本の悪しき風習かもしれない。まぁ我らが中国はそれすらできず清朝崩壊に至ったわけだが。

 

「今後は他学年と競う、或いは協力することも増えるだろう。今回は後者だ。イメージとしては昨年のペーパーシャッフルをイメージすれば分かりやすいだろう。今回は誰と組むかは完全に自由だ。試験期間は約2週間後の月末。それまでの期間はパートナー選別と自身の勉強に使うといい」

 

 そこで出番なのがOAAなのだろう。これを使用すれば相手の成績を確認することができる。

 

「テストは試験当日にまとめて行われる。今回は普段の5教科10科目ではなく、5教科5科目で通常2つに分けている範囲が混ざっている試験となる。例えば、国語ならば現代文と古典が一緒のテストとなっている。それで1科目100点で合計500点となる」

 

 

<特別試験・ルール>

 

1、学年別におけるクラスの勝敗

 

クラス全員の点数とパートナーの点数から導き出す平均点を競う。平均点が高い順で50、30、10、0のクラスポイントを得る。

 

 

2、個人の勝敗

 

パートナーと合わせた合計1000点で計算される。上位5組のペアに各10万pp、上位3割のペアに対して各1万ppが支給される。合計点数が500点以下の場合、2年生は退学、1年生は保持しているクラスポイントに関係なくppが3か月間振り込まれない。

 

また、意図的に問題を間違えるなどをして点数を操作、下げたと判断された生徒は学年を問わず退学とする。第三者がこれを強要した場合、強要した者のみを退学とする。

 

 

3、パートナー決定の際のルール

 

OAAを使い、希望の生徒に1日1度だけ申請をすることが可能(受諾されなかった場合、申請は24時でリセットされる)。相手が了承した場合はパートナーが決定し、以後は解除不可。なお、大病や退学などのやむを得ない事情は除くものとする。

 

パートナーが確定した両名は、その翌日の朝8時に一斉にOAA上で情報が更新され、新たな申請はできなくなる。なお、相手が誰かは明記されない。

 

ペアを決定できなかった場合、当日の朝8時にランダムで選ばれる。ただし、時間切れによって誕生したペアは総合点から5%分の点数をペナルティとして課すこととなる。なお、2年生は118名であるのに対し1年生は120名で2名余る為、余った生徒は点数を2倍にして対応する。ただし、5%のペナルティは負うものとする。

 

 

 

 OAAによって評価はまるわかり。学力判定が低ければ低いほどパートナー探しは難航するだろう。ただし、それは下位クラスの話であり、Aクラスに学力判定がCの生徒は存在しない。どんなに低くてもB-だ。これで売れ残るというのはあまり考えられる事態ではないように思う。

 

 頭のいい生徒は上を目指し、そうでない生徒も同様に保身のため、生き残るために頭のいい生徒を求める。その結果溢れてしまった生徒学力下位の生徒には厳しい現実が待っていることになるだろう。1年生はまだ人間関係も稀薄で友情なども無い。クラスメイトを助けることを考えない可能性は大だろう。我々と同じようにクラス分けをされているならば、下位クラスにも学力上位の存在はいるだろうから、そう言った生徒は自分の利益を優先することが予想できた。

 

 ルールのおかげで大量に申請が来る事は無くなったが、こちらも慎重を期さないといけない。相手と交渉の末、パートナーとなる必要が出てきた。綾小路辺りは誰がホワイトルームの生徒なのか分からず苦労しているのだろう。向こうから要請があればウチの人員を貸すことも出来る。

 

「さて、ここまで説明すれば察しがついていると思うので敢えて言わせてもらえば、この試験は学力の数値が高いほど早く売れていく。2年生で最も人気なのが誰なのかは……言うまでもないかもしれんな」

 

 先生は明らかにこちらを見ながら言った。まぁこれは自明の理だろう。学力A+と組めるとあれば1年生も多く寄ってくる可能性があった。

 

「1番人気、オッズは1倍台……」

 

 競馬やってるやつがボソッと呟いた。彼はこの前の試験でも競馬関連のテストなら勝てると言っていた。もしかしたら綾小路にも勝てたかもしれないと思えてくる。何でも擬人化?のゲームで鍛えたそうだが私にはよくわからん。先生は苦笑しつつ、彼の発言に頷いた。

 

「試験の難易度は包み隠さず言えば非常に難しい。これは去年のテストいずれと比較しても最難関だろう。とは言え、学力判定がE付近の生徒でも予習なしで150点は取れるようになっているはずだ。あくまで目安だが……」

 

学力E   150~200点

学力D   200~250点

学力C   250~300点

学力B   300~350点

学力A-  350~400点

学力A~A+ 400~450点前後

 

 真嶋先生は黒板に学力別の想定得点数値を書く。きちんと予習をすればこれくらいはとれる、という事だろう。しかし無論慢心すればこれ以下になることだってあり得る。

 

「見ての通り、学力最上位の生徒でも満点は難しくなるように作っている。この試験で90点を超えられた生徒は、何の教科であれ相当な実力を持っていると思って差し支えない。では、気を引き締めて臨むように。質問があれば別途受け付ける。以上だ」

 

 先生の表はある程度は当てにできるだろう。我がクラスは大体400点前後までを目指して頑張って欲しいものだ。真澄さんは……取り敢えず英語は90点未満くらい、それ以外は80前後をとれれば上出来かなと思う。ただ、春休みに相当タイトな復習をしているのでもう少し行けるかもしれない。先生が去ったのを確認し、私は壇上へと赴く。

 

「……うちのクラス大人気じゃないですかね、これ」

 

 私の軽く言った発言にどっと笑いがわく。事実、うちのクラスは学力B-以上で全員が占められている唯一のクラスだ。これは全学年を通して我がクラスだけである。南雲の3年Aクラスですらそこまででは無い。1年生からすれば、特に学力の低い生徒からすれば女神の集まりみたいな集団に見えるだろう。

 

「とはいえ、待ちの姿勢でいるのはよろしくないでしょう。まず軽挙妄動は慎むことをお願いします。特に上位学力……我がクラスに言えばA-以上の生徒は即答しないように。ただ、相手の学力がB以上であれば即答していただいても構いません。また、今後部活動等で接する方もいるでしょう。そこでも勧誘等をして頂ければと思います。私たちは誰かを救うためとか、誰かをカバーするためなどに動く必要はほぼないと言っていいでしょう。だからこそ、勝利を狙いに行けるのです。今回の試験、貰いに行きますよ」

「「「おおー!」」」

「先ほども言ったようにご自分で学力B以上の生徒を確保できたのであればその時点でペアを組んでいただいて結構です。報告は後でしてくださると助かります。条件を出してきた場合は別途対応を考えますので相談してください。とは言え、対話は苦手、という方もいるでしょうからそういう方も相談に来てください。こちらである程度確保しておき、対応します。ともあれ、全員がペアを組めるようにフォローはしますので、ご安心を。では解散!」

 

 こちらもテキスト作成とか色々しないといけない事は多い。それを考えるとなかなか骨が折れそうだ。真澄さんように1学期のテキストを春休み期間に作っておいてよかった。去年真澄さんに使ったテキストは1年生にも応用できるだろうから、最悪地獄の特訓で学力を上げてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み。食堂でご飯を食べ終わったタイミングで真澄さんが話を切り出す。

 

「さっきアンタが言ってた学力B以上の1年生調べたわよ」

「お、優秀。何人いた?」

「Aに17人、Bに13人、Cに13人、Dに11人。合計で54人。全体の45%くらいね」

「意外といるな……」

「何か考えてる?」

「1年生を引き込めるようにするつもりだ。一之瀬も同じことをするかもしれないが、葛城を使う。生徒会役員は便利だな」

「人でも集めるの?」

「その通り。もし一之瀬が先んじるならばそれに乗っかればいい」

「でも、そう言うのって自信のある奴は来ないんじゃない?」

「通常ならそうだろうな。だが、私を名を出す。その上で煽り文句も入れておいた。ほら、来たぞ」

 

 ピンポンパンポンとチャイムが鳴り、連絡が入る。

 

『1年生の皆さんにお知らせします。繰り返します、1年生の皆さんにお知らせします。本日の放課後、4時から5時まで、体育館にて2年生との交流会を行います。主催者は2年Bクラス、一之瀬帆波が行います。また、同時刻に同じく体育館で2年Aクラス諸葛孔明による、学力相談会を行います。学力に自信のある方も是非ご参加ください。ここで行う30分のテストを受け、90点以上を獲得できた方には、プライベートポイント10万を進呈します。奮ってご参加ください』

 

 時刻の指定や場所の指定はしないで葛城に任せたが、重ねることを彼自身が選んで選択したようだ。ナイス判断である。場所を分散させると1年生の集まりが悪いだろうことが予想される。また、一之瀬と被せることで牽制球にもなるだろう。彼女の客を分捕る事が出来るかもしれない。こちらがより踏み込んだ内容にし、そして学力の高い生徒を釣るためのエサも撒いておいた。

 

「大丈夫なの?10万とか」

「問題ない。坂柳に解かせて80行かなかったテストだ。90以上をとれたら喜んで10万を渡して今後のつながりを作るべき人材だろう」

「それなら確かにそうね」

 

 お昼休みに悪だくみしているは昔を思い出す。丁度1年前もこんな感じだったか。

 

「ちょっと、昔に戻った感じがするわね。時が1年が巡って同じようなところに戻ってきたというか……そんな感じ」

「あの頃はもう少しギスギスしていたがな」

「仕方ないでしょ。そうならざるを得ない事情があったんだから」

「ま、そうだな」

「……ねぇ、1年生に」

 

 真澄さんが何かを言いかけた時である。

 

「あッ!あぁぁ!」

 

 近くで素っ頓狂な声がする。2人してそちらに顔を向ければ、金色がかった亜麻色の髪をした少女。私を見て感激したような顔をしている。その顔に顔写真だけではあるが見覚えがあった私はギョッとする。そんな私を真澄さんがキッときつい目で見ていた。少女はトレーを近くの机に置き、私のもとにやって来てスライディング土下座をかましてきた。

 

「命の恩人!ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

 脈絡のない言葉で頭を地面に打ち付け始めた少女を周りは奇異の目で見ている。ついでに私もいたいけな少女に土下座をさせているヤバイ奴に見られ始めた。

 

「ちょ、ちょっと」

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

「いや、話を聞いて、というか顔を上げて下さい。お願いですから!」

 

 遠くの方で護衛役という事で入学した私の部下がやれやれと言った顔をしている。止めるのがお前の役割だと思いながら、周囲の冷たい目線に刺され、絶対零度の怒気を放っている真澄さんを直視しないようにして少女――七瀬翼の奇行を止めさせるのだった。

 

 高度育成高等学校の2年目。始まったばかりにして前途多難である。




南雲氏は調べたところによると学力・身体能力がA、機転思考力と社会貢献性はA+らしいです。つまり最低値でも総合力は90代になりますね。多分95とかなんじゃないかと予想。怖ッ!優秀だなぁ。でも堀北兄もそれくらいはありそうですね。やはり生徒会長なだけはありますわ。

坂柳の社会貢献性が終わってるのは停学してるからです。龍園はしてないですからね。学校からすれば龍園よりダメと思われてます。機転思考力が低いのは1年生最後の針の筵状態を反映したのと、そもそも機転思考力のある奴は誹謗中傷した挙句断罪されないだろうという学校の心情を反映しています。

真澄さんの運動神経が高いのは普通に鍛えてるからという要素も大きいです。体育で活躍しているのです。描写はあんまりないですがお腹もちょっと割れてたり。真澄さんのパーソナルデータがほぼないのですが、身長とかどれくらいなんですかね。勝手に割と高身長な165cmくらいをイメージしてるんですが。
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